東京商工リサーチは2026年10月、2026年1月から9月に倒産した病院・クリニック・歯科医院が59件で、過去最多になったと発表しました。前年の同じ期間より28.2%増えています。医療機関は人が減っても必要とされる仕事なので、倒産が増えると聞いて意外に感じる方も多いと思います。
私も最初は、診療所は経営が安定しているはずだと思っていました。厚生労働省の調査を開いて確かめると、診療所の平均は黒字のままで、数字が噛み合いません。この記事では、東京商工リサーチの倒産集計、厚生労働省の診療報酬と経営調査、東京都の手続き案内を並べ、何が起きているのかを整理します。数字は2026年10月時点で公開されている資料から確認しました。
- 2026年1-9月の医療機関の倒産は59件で、2009年の53件を上回った
- 内訳はクリニック29件、歯科医院22件、病院8件で、身近な医院に集中している
- 後継者難の倒産は14件で、前年同期の5件から約3倍に増えた
- 診療所の平均は黒字でも、倒産は平均では説明できない
医療機関の倒産59件は何が過去最多なのか
クリニックと歯科医院で倒産の大半を占める
東京商工リサーチの集計では、2026年1-9月の医療機関の倒産は59件でした。内訳は、20床以上の入院設備がある病院が8件(前年同期9件)、クリニックが29件(同18件)、歯科医院が22件(同19件)です。病院は前年より1件減りましたが、クリニックと歯科医院は前年を上回っています。
| 業態 | 2026年1-9月 | 前年同期 |
|---|---|---|
| 病院 | 8件 | 9件 |
| クリニック | 29件 | 18件 |
| 歯科医院 | 22件 | 19件 |
| 医療機関の合計 | 59件 | 46件 |
| ※東京商工リサーチ「1-9月『医療機関』倒産」(2026年10月)。負債1,000万円以上の倒産を集計 | ||
クリニックと歯科医院を足すと29+22=51件です。59件のうち51件は、51÷59≒86.4%にあたります。
同じ資料は、歯科医院が過去最多だった2024年と同じ件数で、クリニックは2009年の22件を上回って過去最多になったと伝えています。病院ではなく、住んでいる地域で通う医院で倒産が増えているのが、今回の数字の特徴です。
2020年のあとで倒産が増えた経緯
同じ資料は、新型コロナの影響があった2020年の1-9月は資金繰り支援策に支えられて16件に減り、2021年の同じ期間も19件にとどまったと書いています。その後、2024年の同じ期間は49件、2025年は46件と高い水準が続き、2026年は前年を13件上回りました。
9か月で59件なので、同じペースが続くと12か月で59÷9×12≒78.7件になります。東京商工リサーチは、年間70件を超える見込みで、2025年の67件を上回って年間最多を更新する可能性があると書いています。
診療報酬は医療機関が自分で決められない価格
診療報酬は国が決め、点数で価格を表す
診療報酬とは、病院や診療所などの保険医療機関が、保険診療に対して保険者から受け取る報酬です。厚生労働省の資料によると、厚生労働大臣が中央社会保険医療協議会(中医協)の議論を踏まえて決め、告示で定めます。診療報酬点数表では、個々の技術やサービスを点数にして評価していて、1点は10円です。薬は薬価基準で別に価格が決まります。
この仕組みは、患者が窓口で払う金額と、保険者が払う金額を合わせて医療機関の収入にするものです。保険のしくみ全体は、健康保険の仕組みの記事で保険料と給付の流れを整理しています。
ここで押さえたいのは、医療機関が人件費や光熱費の上昇を、診療の値段にすぐ載せられるわけではないという点です。保険診療の値段は国が決めた点数で、医院ごとに変えられません。
令和8年度の改定は本体プラス3.09%
厚生労働大臣の会見によると、令和8年度の診療報酬改定は、診療報酬がプラス3.09%、薬価等がマイナス0.87%です。詳しくは、令和8年度の改定率がプラス2.41%、令和9年度がプラス3.77%とされています。内訳には、賃上げ分のプラス1.70%と、物価対応等のプラス0.76%があります。
改定は診療報酬を引き上げる内容ですが、この記事の倒産件数と結びつけて語ることはできません。2026年1-9月の倒産が、改定の前に決まっていた経営の悪化なのか、改定後の動きなのかは、東京商工リサーチの資料からは分かりません。引き上げが経営にどう効くかは、今後の統計で確かめる必要があります。
ふだん通っている病院や歯科医院を、変えたことはありますか?
- 引っ越し以外で変えたことがある
- 引っ越しで変えた
- ずっと同じ医院に通っている
- あまり通院しない
診療所の平均は黒字なのに倒産が増える理由
ここが、私が一番引っかかった点です。厚生労働省の第25回医療経済実態調査では、診療所の損益差額率は黒字でした。損益差額率とは、収入から費用を引いた差額が収入に占める割合です。
令和6年度の損益差額率は黒字、病院は赤字
令和6年度の一般診療所は、個人が28.8%、医療法人が4.8%の黒字です。歯科診療所は、個人が27.6%、医療法人が5.5%の黒字でした。一般病院はマイナス7.3%で、令和5年度から0.2ポイント改善したものの赤字です。
一般診療所では個人と医療法人の差が28.8−4.8=24.0ポイントあります。
個人と医療法人で数字が大きく離れる理由は、私が開いた資料には説明がなく、ここでは断定しません。調査では、医療法人の一般診療所の院長の平均年収は無床で2,872万円、有床で3,232万円と示されています。
平均の黒字は、倒産した医院の経営とは別の数字
平均は、黒字の医院も赤字の医院も混ぜた数字です。平均が黒字であることと、赤字が続いて資金が尽きる医院が出ることは、同時に起こります。東京商工リサーチの上半期の集計では、倒産の原因で最も多かったのは「販売不振」の22件(構成比57.8%)で、「既往のシワ寄せ」が8件(同21.0%)で続き、この2つで約8割(78.9%)でした。
この「販売不振」は、診療所でいえば患者数や診療収入の不振にあたる分類ですが、具体的な内訳は資料に書かれていません。調査が示す平均の姿と、倒産が起きる現場のあいだには、数字の見方の違いがあります。
後継者難の倒産が約3倍になった
2026年1-9月は14件で前年同期は5件
東京商工リサーチは、医療機関の倒産では「後継者難」の多さが際立つと書いています。2025年1-9月は5件でしたが、2026年1-9月は最多の14件と、約3倍になりました。内訳は、病院2件(前年同期1件)、クリニック7件(同1件)、歯科医院5件(同3件)で、すべての業態で前年を上回っています。人手不足の倒産も7件(同4件)ありました。
14÷59≒23.7%で、医療機関の倒産の約4件に1件が後継者難です。前年は5件だったので、14÷5=2.8倍と計算できます。
2026年上半期の集計では、後継者難の倒産は11件で医療機関の倒産の28.9%を占め、全業種の倒産に占める後継者難の割合は4.9%でした。医療機関では、後継者の問題が全体の平均より重くなっています。
個人の診療所は、引き継ぐと新規の開設になる
東京都の保健所の案内には、新規開設の手続きが必要になる場合として、開設者が変わるとき、例として個人開設における事業継承の場合が挙げられています。個人が開設している診療所は、院長が代わると、前の開設者が廃止し、後を継ぐ医師が新たに開設する流れになります。診療所を廃止または休止したときは、10日以内に届け出る必要があります。
後継者がいない会社が事業を第三者へ引き継ぐ方法としては、M&Aの仕組みがあります。医院に当てはまる条件や費用は、この記事の資料では確かめていないので、個別には書きません。
倒産の大半は破産で、立て直しは難しい
57件が破産、再建型は少ない
倒産の形態では、会社や医院がなくなる「消滅型」の破産が57件で、前年同期の29.5%増でした。全体の96.6%を占めます。東京商工リサーチは、医療機関といえども再建は容易ではなく、倒産は患者の受診機会の喪失につながるとしています。
57÷59≒96.6%で、59件のうち残りは2件です。
光熱費や備品の高騰と人口減も背景に挙がる
同じ資料は、後継者難とスタッフ不足に加えて、光熱費や各種備品の高騰で採算が悪化していると書いています。人口減による患者数の減少や医療設備の老朽化も、課題として挙げられています。倒産が増えている業種は医療機関だけではありません。同じ東京商工リサーチの集計を使った鳶工事業の倒産が過去最多ペースなのはなぜかの記事では、業界の二極化を取り上げています。
通っている医院が閉まるときに確認したいこと
身近な医院の倒産が増えると聞くと、通院先が突然なくなったらどうしようと考える方もいると思います。ここでは、資料で確かめられた手続きを手がかりに、読者の側でできることを3つだけ書きます。
通院先の確認は、診療内容を自分でも控えておく
診療所の廃止や休止は、開設者が保健所に届け出る手続きです。患者のほうに通知が届くことは、私が開いた資料には書かれていませんでした。薬の名前や診断名は、手元のメモやお薬手帳に控えておくと、別の医院に移るときに説明しやすくなります。
近くに別の通院先の候補を持っておく
倒産の多くは、クリニックと歯科医院で起きています。長く通う医院の近くに、診療科が同じ別の医院を知っておくだけで、閉院の知らせがあったときの慌てかたが違います。
治療の途中なら、続きの引き継ぎ先を医院に聞く
通院が途中のときは、閉院する前に今後の通院先について医院に聞いておけます。引き継ぎの方法は医院ごとに違うので、この記事の資料では一般的な手順を確かめていません。
この記事の数字を読むときの注意点
東京商工リサーチの集計は、日本標準産業分類の「病院」「一般診療所」「歯科診療所」のうち、負債1,000万円以上の倒産を数えたものです。負債1,000万円に満たない閉院や、倒産の手続きを取らずに閉じる休廃業は、この59件に入っていません。
件数は医院の数で、患者の人数でも、閉院で影響を受けた地域の数でもありません。また、診療報酬の引き上げ幅と倒産件数の関係を、この記事は因果として説明していません。診療報酬の改定がどう働くかは、今後の厚生労働省の調査で確かめる話です。
ニュースの医療機関倒産の数字を判断する基準
医療機関の倒産に関する数字を読むときは、次の3点を確かめると、見出しの印象に引っ張られにくくなります。
倒産か、休廃業か
倒産は、負債を抱えて手続きに入ったものです。休廃業は、負債を抱えずに自分で閉じるものを含みます。同じ「閉院」でも、集計の対象が違います。
件数か、割合か
59件は件数で、診療所全体のうち倒産した割合ではありません。割合で比べるときは、分母にあたる医院の総数が必要になりますが、この記事はそこまでは確かめていません。
平均か、個別の経営状況か
損益差額率は平均です。平均が黒字でも、個々の医院が赤字になることは起こります。経営の厳しさを判断するなら、平均だけでなく、倒産の原因の内訳も見る必要があります。
よくある誤解
診療所は儲かっているから倒産しないのでしょうか
厚生労働省の調査では、令和6年度の一般診療所の平均損益差額率は個人が28.8%、医療法人が4.8%の黒字です。それでも、2026年1-9月にクリニックは29件倒産しました。平均が黒字であることと、倒産が起きないことは別です。
診療報酬が上がれば、倒産は止まるのでしょうか
令和8年度の診療報酬は、本体がプラス3.09%です。ただし、後継者難は14件、人手不足は7件と、倒産の理由には報酬の水準だけでは説明できないものが含まれます。引き上げが経営にどう効くかは、今後の統計で確認する必要があります。
倒産が増えているのは大きな病院でしょうか
2026年1-9月の倒産は、病院が8件、クリニックが29件、歯科医院が22件で、クリニックと歯科医院が大半です。病院は前年同期の9件より1件減っています。
まとめ:医療機関の倒産は平均では分からない
2026年1-9月の医療機関の倒産は59件で、2009年の53件を上回りました。件数が多いのはクリニックの29件と歯科医院の22件で、後継者難の倒産は14件と約3倍に増えています。診療所の平均損益差額率は黒字でも、平均は倒産した医院の経営を映しません。
診療報酬は国が決める価格で、令和8年度はプラス3.09%の改定です。倒産の原因が報酬にあるのか、後継者や人手の問題にあるのかは、1つの数字では決まりません。通院先については、近くの別の医院を知っておくことと、治療の途中なら医院に引き継ぎを聞くことが現実的な準備です。最新の数字は東京商工リサーチと厚生労働省の公式資料で確認してください。
この記事の内容、読む前から知っていましたか?
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📚 参考文献・出典
- ・東京商工リサーチ「1-9月『医療機関』倒産 過去最多の59件」(2026年10月) https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1203341_1527.html
- ・東京商工リサーチ「2026年上半期『医療機関』倒産 増勢続く」(2026年7月26日) https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1203080_1527.html
- ・厚生労働省「診療報酬制度について」 https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/iryouhoken01/dl/01b.pdf
- ・厚生労働省 大臣会見(令和8年度診療報酬・薬価等改定) https://www.mhlw.go.jp/stf/kaiken/daijin/0000194708_00885.html
- ・中央社会保険医療協議会 資料「第25回医療経済実態調査の結果に対する見解」(健康保険組合連合会・令和7年12月3日) https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001603473.pdf
- ・東京都保健医療局 南多摩保健所「診療所等の開設者の届出(個人)」案内 https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/annai_kojin_202604-pdf
- ・新潟県 柏崎地域振興局「病院・診療所 開設・変更等の手続き」 https://www.pref.niigata.lg.jp/sec/kashiwazaki_kenkou/1347310868884.html
📖 この記事について 本記事は、医療機関の倒産と診療報酬の“仕組み”を知っていただくための読み物で、受診先の判断や経営の助言を行うものではありません。通院先や手続きについては、各医療機関、保健所、厚生労働省などの最新情報をご確認ください。









































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