
今回は、海外アニメの金字塔『アドベンチャー・タイム』の魅力についてご紹介したいと思います。一見するとただのポップでカラフルなファンタジー作品に見えるこのアニメですが、実は驚くほど深い世界観と魅力が詰まっているんです。
表層と深層が織りなす魅力的な世界観
『アドベンチャー・タイム』の舞台となるのは、「ウー大陸」と呼ばれる不思議な世界。この世界では、キャンディでできた人々が暮らすお菓子の王国があったり、氷の魔法を使う王様がいたりと、一見すると典型的なファンタジー世界のように見えます。
しかし実は、この世界には驚くべき設定が隠されているんです。なんとウー大陸は、核戦争(作中では”マッシュルーム戦争”と呼ばれる)によって文明が崩壊した後の地球なのです。作者のペンデルトン・ウォード氏は元々純粋な魔法の世界として設定していましたが、「燃えるビジネスマン」というエピソードを境に、埋もれた車や崩れた建物など、終末後の世界だと分かるシーンが描かれるようになりました。
実はこの設定の元になったのは1979年の映画『マッドマックス』なんです。また、ウー大陸は大陸と呼ばれていますが、実際はオーストラリアとほぼ同じサイズの島国という設定です。
魅力的なキャラクターたち
フィン

主人公のフィンは、このウー大陸に残された唯一の人間。彼の名前の由来は、アイルランド語で「金髪」を意味する「フオン」から来ています。これは、ケルト神話の英雄フィン・マックールと同じ語源なんです。
実は、パイロット版では「ペン」という名前だったんです。これは作者のペンデルトン・ウォード氏の名前から取られていました。
物語が進むにつれて12歳から17歳まで成長していくフィンの姿は、まさに少年から英雄への成長物語を体現しています。この設定には面白い裏話があって、実は声優のジェレミー・シャダ氏が途中で声変わりをしたことがきっかけだったんです。作者は声優を変更する代わりに、フィンを徐々に成長させ、番組のテーマも少年が英雄に成長していく物語へと発展させました。
また、フィンは色覚異常を抱えており、赤と緑の判別が難しいという設定もあります。これは母親からの遺伝によるものです。
ジェイク

フィンの相棒である魔法の犬、ジェイクは、一見するとかわいらしい犬ですが、実は30〜40代のおっさんという設定です。作者のペンデルトン・ウォード氏は、フィンとジェイクの関係性を「ダンジョンズ&ドラゴンズをプレイしているかのように」書いたと述べています。
ジェイクのキャラクターの元ネタは、映画『ミートボール』に登場するトリッパーという人物なんです。一見何も着ていないように見えますが、実は雲の糸でできた透明なズボンを履いているという設定も。
初期シーズンでは細身でシンプルに描かれていましたが、リアリティを持たせるためにふっくらした姿に変わっていきました。彼の変身能力は質量保存の法則に従うという設定で、これは物理法則をしっかりと考えて作られているということですね。
実は、ジェイクの本当の親はシェイプシフターというエイリアンなんです。彼が自由自在に形を変えられる理由は、犬とシェイプシフターのハーフだからなんです。エピソードが進むにつれて、彼の能力は進化し、翼を生やして空を飛べるようになったり、黄色い犬の姿から青いエイリアンの姿に自由に切り替えられるようになったりしました。
プリンセス・バブルガム
キャンディ王国を統治するプリンセス・バブルガムは、マザーガムという巨大な風船ガムから誕生したという設定です。そのため、体の一部を自由に調整することができます。
見た目は10代後半に見えますが、ゲーム版では実際の年齢が827歳だと明かされています!面白いエピソードとして、シーズン2の終盤でバラバラになってしまい、医者に組み立てて直された時は全てのパーツが揃っていなかったため、13歳に若返るという出来事もありました。
実は、バブルガムは元々ベティという名前だったのですが、作者のペンデルトン・ウォードの母親と同じ名前だったため変更されたという裏話も。
彼女の統治するキャンディ王国の住民は全て自分で作ったため、全員が従順な存在という設定になっています。
ビーモ

フィンたちと同居しているゲーム機のビーモは、ビーモアの略称です。デザインはマッキントッシュとゲームボーイカラーのボタンを組み合わせたようなデザインになっています。
起動音もマッキントッシュと同じで、OSはWindowsとMacのハイブリッドのようなものを使用しているという設定です。また、コントローラーはアタリ2600のコントローラーに似たものになっています。
ビーモの声は元々合成音声にする予定でしたが、作者の提案により人の声に調整を加えたものに変更されました。作者のペンデルトン・ウォード氏はインタビューでビーモが1番お気に入りのキャラクターだと語っています。
ビーモの内部には金色の心臓が入っており、このデザインは『オズの魔法使い』のオマージュだとされています。
アイスキング
アイスキングの右のお尻には「ペンディン」というタトゥーが掘られているという面白い設定があります。彼の精神が不安定な描写は、アルツハイマーや認知症のメタファーだとされています。
フィンとアイスキングは、それぞれ作者のペンデルトン・ウォード氏の明るい面と暗い面を表したキャラクターなんです。
アイスキングの友人のガンターは実はペンギンではなく、オルガローグという世界を滅ぼそうとした存在が姿を変えたものという驚きの設定もあります。
マーセリン

マーセリンは悪魔と人間のハーフで、マーセリンという名前は作者のペンデルトン・ウォードの幼馴染みであるマリーという女性のミドルネームに由来しています。
彼女の服がエピソードごとに違うのは、作者曰く「女の子は1つの服しか持ってないわけじゃないから」という理由からです。
マーセリンはヴァンパイアですが、生きるために血を飲む必要はなく、代わりに赤い色を吸っています。また、両利きであり、ベースを左右両方の手で引くことができます。
その他のキャラクター
ランピー・スペース・プリンセスは英語で「コブ」を意味する「ランプ」が名前の由来です。原語版でランピーの声を担当しているのは作者のペンデルトン・ウォード氏本人で、南カリフォルニアの若い女性バレーガールの話し方を参考にしたそうです。
オープニングの秘密
アドベンチャー・タイムのオープニングテーマは、フィンとジェイク本人が歌っているように聞こえますが、実は原語版では作者のペンデルトン・ウォード氏が歌っています。
興味深いことに、このテーマ曲を逆再生すると英語で「全てのエピソードでカタツムリを探せ」と聞こえるんです!オープニングの冒頭で音楽が盛り上がりながら景色が動くシーンは『ザ・シンプソンズ』のオープニングから影響を受けています。
隠れキャラクター「カタツムリ」の秘密
アドベンチャー・タイムのほぼ全てのエピソードには手を振るカタツムリのキャラクターが隠れています。これは当初単なるギャグとして登場し、本編とは関係がないイースターエッグのような扱いでしたが、フィンやプリンセス・バブルガムなど、カタツムリの存在に気づいたり接触したキャラクターもいます。
さらに、「愛は勝つ」というエピソードではリッチキングに取り憑かれ封印を解く手助けをするという重要な役割を果たしました。このエピソードでリッチキングが倒された後も意識はカタツムリの体内に留まっていたため、以降のエピソードでは乗っ取られた状態で登場し、よく見ると目は緑色で表情は邪悪になっているという細かい設定まであるんです。
制作への並々ならぬこだわり
本作の制作期間は、なんと1話あたり9ヶ月!これは一般的なアニメの制作期間と比べると異常に長いものです。通常アニメを作る時は脚本、つまり物語のストーリー全体を制作し、その後シーンのイメージをストーリーボードに起こし制作するのですが、アドベンチャー・タイムには脚本がありません。
代わりに、ストーリーボード主導で物語を制作するという特殊な手法を取っています。脚本家同士で話し合い、考えが煮詰まると思いついたことをなんでも出してアイデアを進めていくんです。
まとめ
『アドベンチャー・タイム』の魅力は、表層的な可愛らしさや面白さだけでなく、その奥に隠された深い世界観や哲学的なテーマ性、そして細部にまでこだわった設定の数々にもあります。子供から大人まで、見る人の年齢や理解度によって異なる楽しみ方ができる、まさに多層的な傑作と言えるでしょう。
*本記事は『アドベンチャー・タイム』の公式情報および各種資料を参考に作成しています。