固定電話はなぜ声が届くのか|電話線・交換機・VoIPの仕組みを図解で解説【2026年版】









「固定電話って、スマホみたいに電波を使っているの?」子どもに聞かれると、多くの大人が答えに詰まります。自分でも使っているのに、声がどうやって相手に届いているのか、じつはよく知らない。

そこに少し不安を感じるのは自然なことです。電話は生活インフラであり、緊急時の最終手段でもある。その仕組みがブラックボックスのまま、というのは頭の片隅に引っかかります。

結論から言えば、固定電話の基本原理は驚くほどシンプルです。声→電気信号→ケーブル→電気信号→声という変換の連鎖。1876年にグラハム・ベルが発明したときから、この核心部分は変わっていません。ただし2026年現在、その「ケーブル」の中身は劇的に進化しています。

  • 声が電気信号に変わる仕組み(マイクとスピーカーの物理)
  • 交換機が電話をつなぐ仕組み(アナログからデジタルへ)
  • 光電話・VoIPで何が変わったか
  • 停電時でも固定電話が使える本当の理由
  • NTTアナログ回線終了(2025年)後の2026年の実状

「もしもし」が届くまで、0.1秒以下で起きていること

受話器に向かって話すと、あなたの声はまず空気の振動(音波)として広がります。受話器のマイク部分がその振動を受け取り、電気信号(電流の強弱)に変換して電話線に流す。電話線は電話局まで続いており、電話局の中の交換機が「どの電話につなぐか」を判断して回線を接続します。接続先の受話器側では、電気信号がスピーカーで再び空気振動に戻り、相手の耳に「声」として届く。

この全プロセスが片道でおよそ数十ミリ秒、往復でも100ミリ秒(0.1秒)以下の世界で完結します。ITU-T G.114規格では、VoIP通話の遅延許容値は150ms以下と定められており、これを超えると会話のぎこちなさを感じ始めることが分かっています。

STEP 1: 声→電気信号

マイクの振動板が空気振動を受け取り、電磁誘導または圧電効果で電流の強弱に変換する

STEP 2: 電話局で交換

交換機が発信番号・着信番号を照合して、2本の回線を物理的(または論理的)につなぐ

STEP 3: 電気信号→声

スピーカーの磁石とコイルが電流の強弱を振動に戻し、空気を動かして音として再現する

固定電話の仕組みを3層で整理(アナログ→デジタル→IP)

固定電話の仕組みを3層で整理
Photo by Quino Al on Unsplash

固定電話の歴史と技術は、大きく3つの世代に分けて理解すると整理しやすくなります。現代の「光電話」はこの3世代の技術が折り重なった存在です。

第1世代:アナログ電話(1876年〜)

グラハム・ベルが1876年に発明した電話は、声の振動をそのまま連続した電流の波(アナログ信号)として流す仕組みでした。音の強弱がそのまま電流の強弱に対応する、直感的で単純な方式です。アナログ電話が使う音声帯域は300〜3,400Hz。人間の声の主成分がこの範囲に収まっているため、会話として成立するのに十分な品質が確保できます。

この方式の弱点は長距離での信号減衰でした。電流は距離が伸びるほど弱くなる。そこで長距離回線には増幅器(リピーター)を一定間隔で置いて信号を補強していました。

第2世代:デジタル電話(1970年代〜)

アナログ信号の弱点を克服するために登場したのがデジタル化です。声の波形を一定間隔でサンプリング(標本化)し、数値に変換して送る。言いかえれば、声をドット絵にする技術です。粒(サンプル)が細かいほど元の声に近い音質になります。

電話で使われる標準規格「ITU-T G.711」では、サンプリング周波数8kHz(1秒間に8,000回)×8bitの組み合わせで、データ量は64kbps。数値化されたデータは電気ノイズに強く、増幅しても劣化しないため、長距離伝送の品質が飛躍的に改善されました。

第3世代:IP電話・VoIP(2000年代〜現在)

インターネットが普及すると、電話の音声もIPパケットとして送れるようになりました。これがVoIP(Voice over IP)です。より正確には、音声をデジタル化したデータをさらに細かく「パケット」に分割し、インターネット回線(IPネットワーク)に流す技術、と説明できます。パケットはばらばらに送られ、受け取った側で再組み立てされます。電話版のメール配送と考えると分かりやすい。

世代 方式 主な媒体 特徴
第1世代 アナログ 銅線ペア シンプル・長距離で劣化
第2世代 デジタル(PCM) 光ファイバー・銅線 64kbps・高品質
第3世代 VoIP 光ファイバー(IP網) 低コスト・遅延管理が課題
※現在の光電話はVoIPが主流

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音声が電気信号になる仕組み(マイクとスピーカーの物理)

受話器を分解すると、マイク(送話器)とスピーカー(受話器)の2つのパーツが入っています。この2つの動作原理を知ると、「電話とは何か」がすっきり見えます。

マイクの原理:電磁誘導で声を電流に変える

一般的な固定電話の送話器はダイナミックマイク(動電型)もしくはエレクトレットコンデンサマイクを使います。ダイナミックマイクでは、振動板(ダイアフラム)の前面に声の空気振動が当たると、振動板が動きます。振動板に取り付けられたコイルが磁石の中で動くことで、電磁誘導により電流が発生する。この電流の強弱のパターンが声の波形をそのまま表しています。

グラハム・ベルが1876年に使った仕組みも、磁石とコイルによる電磁誘導でした。150年たった現在も、この物理原理の本質は変わっていません。

スピーカーの原理:電流を振動に戻す

受話側では逆のプロセスが起きます。電話線から届いた電流をスピーカーのコイルに流すと、磁石の磁場との間に力が働き(フレミングの左手の法則)、コイルが振動します。このコイルに取り付けられた振動板が空気を動かし、音波として耳に届く。送話側とまったく逆の変換です。

電話局(交換機)の役割

世界中の電話がお互いに通話できるのは、交換機(スイッチング・エクスチェンジ)のネットワークのおかげです。交換機とは、電話のルーターです。より正確には、どの回線とどの回線を物理的あるいは論理的につなぐかを判断する制御装置、と定義できます。

アナログ時代の「回線交換」

かつての交換機は、物理的なスイッチを切り替えて2本の銅線を直接つなぐ「回線交換方式」でした。通話中はその2本の回線が専用で占有される。これが「回線が混んでいてつながらない」という現象の原因です。多くの人が同時に電話すると、物理的な回線数に限界が来ます。

アナログ時代の日本では、NTTが全国に電話局を網の目のように配置し、それぞれに交換機を置いて階層的なネットワークを構成していました。

デジタル時代の「パケット交換」

VoIPでは考え方が変わります。音声データを小分けしたパケットは、既存のIPネットワーク上を他のデータと共有して流れます。回線を独占しないため、効率が良い。ただし遅延やパケットロスが起きやすく、通話品質の管理が技術的な課題となります。ITU-T G.114が定める片道遅延150ms以下の基準を守るために、VoIP機器はQoS(Quality of Service)という優先制御を行っています。

デジタル電話とVoIP(光電話)の仕組み

デジタル電話とVoIPの仕組み
Photo by Albert Stoynov on Unsplash

「光電話」とはNTT東日本・西日本のフレッツ光を使ったVoIPサービスです。音声の流れは次のようになります。

光電話の音声経路

受話器→VoIP対応機器(ホームゲートウェイ)→音声をデジタル化(G.711コーデック:8kHz×8bit=64kbps)→IPパケット化→光ファイバー→NTTのIP網→相手のホームゲートウェイ→受話器。途中の光ファイバー区間は、電気信号をさらに光のパルスに変換して送る二重の変換が入っています(光ファイバーの仕組みについては光回線の仕組みで詳しく解説しています)。

スマートフォンのeSIMやVoLTE通話も同じVoIPの仲間で、音声をIPパケットとして送る点は共通しています(eSIMの仕組みも参照)。

コーデックとは何か

VoIPでは音声を圧縮・伸張する「コーデック」が品質を左右します。固定電話の標準コーデック「G.711」は圧縮なしで高品質ですが64kbpsを消費します。スマホのVoLTEで使われる「AMR-WB(G.722.2)」はより広帯域で音質が高く、「HD音声」と呼ばれます。IP回線の帯域が十分にある現代では、コーデックの選択で音質と帯域消費のバランスを取ります。

停電時でも使える理由(電力給電の仕組み)

固定電話の意外な特徴のひとつが、停電中でも使えることです。スマホは充電が切れれば使えなくなりますが、従来型の固定電話は停電中でも通話できます。この理由を知っている人は少ない。

答えは電力の給源にあります。固定電話はコンセントから電力を取っていません。電話線そのものを通じて、電話局から直流48Vの電力が常時供給されています。電話局側には大容量のバッテリーと自家発電設備があるため、一般家庭が停電していても電話局からの給電は続く。これが「停電でもつながる」理由です。

ただし注意点があります。近年普及したVoIPタイプの光電話や、電源アダプター式のコードレス電話は停電すると使えません。緊急時の最終手段として固定電話を残している家庭は、電池なしで動くシンプルな有線電話機(ポット式)を一台確保しておくことが推奨されます。

デメリット・注意点

固定電話の仕組みを正確に理解するには、弱点も把握しておく必要があります。

月額コストと維持費

NTTの固定電話(加入電話)は、基本料金に加え電話機レンタル・加入権費用などが発生します。2026年現在、NTT東西の固定電話の加入数は約1,500万回線(NTT東西合計)まで減少しており、加入者1人あたりの網維持コストが相対的に上がる問題も指摘されています。

VoIPの遅延とパケットロス

インターネット回線の混雑時は、音声パケットが遅延・欠落するリスクがあります。ITU-T G.114が定める片道150ms以下を超えると、話し始めと聞こえ始めにずれが生じ、会話がかみ合わなくなります。また停電時にVoIP電話が使えない問題は上述の通り。緊急通報(110・119)をVoIPで行う場合、位置情報の精度も有線アナログ電話に劣る場合があります。

番号ポータビリティの制限

固定電話の番号は原則として地域と市外局番に紐づいています。引っ越しで市外局番が変わると電話番号も変わるのが基本であり、スマートフォンのMNP(番号持ち運び)のような完全な自由度はありません。

よくある誤解(固定電話は時代遅れ?)

「固定電話はもう不要」という意見と「まだ必要」という意見が混在しています。誤解が多いポイントを整理します。

誤解①「固定電話は近いうちに完全に消える」

技術インフラとしての固定電話(電話番号+公衆交換網)は完全に消えるわけではありません。NTTが2025年1月に「アナログ交換機」を廃止したことは事実ですが、固定電話の番号体系やサービスはIP網(光電話)に引き継がれて継続しています。アナログ回線からIP回線に移行しただけで、固定電話というサービス自体は続いています。

誤解②「固定電話は音質が悪い」

アナログ固定電話の音声帯域は300〜3,400Hzで、たしかにスマートフォンの「HD音声(50〜7,000Hz以上)」より狭い。しかし光電話に移行した現在、HD音声コーデックを使うIP電話は固定電話の音質を大幅に超えることができます。一概に「固定電話=音質が悪い」とは言えない状況です。

誤解③「固定電話はコンセントから電気を取っている」

先述の通り、アナログ固定電話の電力は電話局からの給電です。ただし光電話の場合、ホームゲートウェイにはコンセント電源が必要なため、この誤解を適用できるのは従来型アナログ回線の電話機のみという点には注意が必要です。

【2026年最新】PSTN終了後の移行状況

日本の固定電話インフラを支えてきたPSTN(公衆交換電話網)のアナログ交換機は、NTTが2025年1月に移行を完了しました。現在の日本の固定電話ネットワークは実質的にIP網(NGN:次世代ネットワーク)で動いています。

移行で何が変わったか

利用者の体感では、ほとんど変化がありません。電話番号も変わらず、通話料金の体系もほぼ同じ。変わったのはバックエンドの交換機がアナログ回路からソフトウェアベースのIP交換に切り替わったことです。設備の維持管理がソフトウェアで行えるようになり、NTTの運用コストが削減されます。

光電話への乗り換えメリット

すでに光回線(フレッツ光・コラボ光)を使っているなら、同じ回線で光電話を追加することで月額基本料を安くできるケースが多い。加えて、国際電話や遠距離通話の料金が一般的に安い。デメリットは停電時不使用の問題と、ナンバーディスプレイ等のオプション再加入が必要になる場合があることです。

総務省のデータによれば、2026年時点でフレッツ光やコラボ光の契約数は全国で3,000万超に達しており、光電話への移行は家庭・法人ともに加速しています。

まとめ:150年変わらない原理、進化し続けるインフラ

固定電話の仕組みを振り返ると、次の3点が核心です。

  • 本質は「変換の連鎖」:声(空気振動)→電気信号→ケーブル→電気信号→声。1876年から変わっていない原理
  • デジタル化で品質が飛躍:8kHz×8bit=64kbps(G.711)という標準が、アナログの劣化問題を解決した
  • VoIPでインフラが共有化:電話専用網からIPネットワーク共有へ。光電話はインターネットと同じ土管の上に乗っている

2025年にアナログ交換機が廃止され、日本の固定電話は完全にIP時代へ移行しました。しかし「声を電気信号に変え、離れた場所の人に届ける」という人類の発明の核心は、AI全盛の2026年においても変わっていません。これほど長命な技術原理は珍しい。固定電話を「古いもの」として片づけず、その上に積み重なってきた工夫の歴史を知ると、スマートフォンを手に取る感覚も少し変わります。

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