カーラジオに乗ってドライブをしているとき、FM放送はトンネルに入った瞬間にプツッと途切れます。ところがAM放送は、なんとなくノイズが増えながらも途切れずに聞こえ続けることがあります。ふだん当たり前に使っている「AM」と「FM」ですが、この違いがどこから来るのか、説明できますか?
ラジオを聴く人の多くは「FMの方が音がいい」「AMは遠くまで届く」という感覚を持っていますが、なぜそうなのかを正確に説明できる人は意外に少ないものです。そして、2028年以降にAM局の多くがFMに転換するという動きが本格化していることも、あまり知られていません。
AM(振幅変調)とFM(周波数変調)の違いを、電波の性質から丁寧に解きほぐします。
- AMとFMで「電波の何を変えているか」の本質的な違い
- 音質の差が生まれる理由(周波数帯域とノイズ耐性)
- AMが遠くまで届き、FMが音のいい理由
- 夜間にだけ海外のラジオが聞こえる「スキップ現象」の正体
「AM」「FM」は電波の”何を変えているか”の違い
AM(Amplitude Modulation:振幅変調)とFM(Frequency Modulation:周波数変調)という名前は、音の情報を電波に乗せる方法(変調方式)の違いを示しています。電波は「波」ですが、その波には2つの特性があります。振幅(amplitude)=波の「高さ(強さ)」と、周波数(frequency)=波の「速さ(1秒間の繰り返し回数)」です。AMはこの「振幅」を音に合わせて変化させます。FMは「周波数」を音に合わせて変化させます。
AMは波の「高さ」を変える(振幅変調)
AMは波の「大きさ」で音を表現します。音が大きいと電波の波も大きく、音が小さいと電波の波も小さくなります。シンプルな方式ですが、波の「高さ」は電気的なノイズ(雷・蛍光灯・モーター)でも変化してしまうため、ノイズが音に混じりやすいという弱点があります。
FMは波の「密度」を変える(周波数変調)
FMは音の情報を波の「詰まり具合」(周波数の高低)で表現します。音が高いと波が密に、音が低いと波が疎になります。言いかえれば、電気的ノイズは波の「高さ」には影響しますが、「密度(周波数)」にはほとんど影響しません。FMの音がきれいな根本的な理由はここにあります。
| 項目 | AM放送(中波) | FM放送(超短波) |
|---|---|---|
| 変調方式 | 振幅変調(波の高さを変える) | 周波数変調(波の密度を変える) |
| 周波数帯 | 526.5〜1606.5kHz(中波) | 76.1〜98.9MHz(超短波) |
| 音声帯域 | 100〜7,500Hz | 50〜15,000Hz(ステレオ対応) |
| 電波到達距離 | 昼間 数百km・夜間 数千km | 数十〜100km程度 |
| ノイズ耐性 | 弱い(電気ノイズに影響される) | 強い(電気ノイズに影響されにくい) |
| ※日本の放送規格。2026年時点の情報をもとに作成。総務省資料を参照。 | ||
音質の違い──なぜFMの方が音がいいのか
対応できる音の高さ(周波数帯域)が違う
AM放送が再現できる音の帯域は100〜7,500Hzです。一方、FMは50〜15,000Hzまで対応できます。人間が聴き取れる音域の上限は約20,000Hzですが、音楽の「きれいさ」を感じる成分は8,000〜15,000Hzの高音域に多く含まれます。この帯域が欠けるAMは、どうしても「こもった」「ラジオっぽい」音になります。FMがクラシック音楽の放送や音質を重視したラジオ番組に多く使われてきた理由がここにあります。
ノイズに強い仕組み──電気的雑音が入りにくい理由
AM放送は波の「高さ」で情報を伝えるため、稲妻や電化製品が出す電磁波ノイズが直接「音」に混じります。雷雨のときにAMラジオが「バリバリ」とノイズで聴きにくくなるのはそのためです。FMは波の「密度(周波数)」で情報を伝えるため、電磁波ノイズが振幅を変えても周波数は変わらず、音への影響が少ない。都市部の電気的ノイズが多い環境でも比較的クリアに聴こえるのはこのためです。テレビの電波との関係を理解したい方は、テレビアンテナの仕組みも参考になります。
普段のラジオ視聴はどちらのことが多いですか?
- AMを主に聴く
- FMを主に聴く
- radikoで聴く
- ほとんどラジオを聴かない
電波の飛び方──なぜAMは遠くまで届くのか
AM中波の地表波伝搬──地面に沿って遠くへ
AMの中波(526.5〜1606.5kHz)は波長が200〜600メートルと長く、地面や建物を回り込む「回折」が起きやすい電波です。地表を伝わる「地表波」として、昼間でも数百kmに届きます。山間部でも電波が回り込みやすく、山陰に入っても聴こえ続けることがあります。
FM超短波の直進性──障害物に弱い理由
FMの超短波(76〜98.9MHz)は波長が3〜4メートルと短く、光に近い直進性を持ちます。山や高層ビルで遮られると影が生じ、その「陰」の部分には電波が届きにくくなります。これがトンネルや山間部でFMが途切れやすい理由です。あなたがトンネルでFMが切れた経験があるなら、それはまさにこの直進性が原因です。
💡 意外な切り口──夜間だけ海外のラジオが聞こえる「スキップ現象」
AMラジオには夜、昼には聴こえない遠方の放送が混信してくることがあります。北朝鮮・中国・ロシアの放送が深夜に聴こえた経験のある方もいるかもしれません。これは「電離層スキップ(スカイウェーブ)」という現象です。
地球の大気の上部(約60〜400km)には電離層という電気を帯びた層があります。昼間は太陽の紫外線で電離層が強く電離し、AMの中波を吸収してしまいます。ところが夜間は電離層の一部(F層)が残り、AMの電波を遠くへ反射させる「鏡」として機能します。この反射で電波が数百〜数千km先まで届くのが夜間スキップです。日本のAM局が夜間に出力を下げたり、送信アンテナの方向を変えたりするのは、このスキップによる「混信」を管理するためでもあります。衛星放送との比較は衛星放送(BS・CS)の仕組みをご覧ください。
受信環境の違い──トンネル・建物の中でどちらが届くか
都市部では鉄筋コンクリートの建物が多く、FMが「建物の外から中に入ると聴けなくなる」ことがあります。AMは波長が長いため、建物をある程度回り込むことができますが、鉄筋コンクリートの遮蔽効果は大きく、こちらも完全ではありません。総務省の資料では、鉄筋コンクリートの建物内でFMの方が受信品質が高くなる場合もあることが示されています。これはFMが普及したことで多くの中継局が設置され、市街地では見通しの確保がしやすいためです。「AMは遠くまで届く」というイメージは郊外・農村部では正確ですが、都市のマンション室内では逆転することもあります。
📅 2026年以降──AM局がFMに転換する動きとradiko
日本のAM放送は2028年以降、民間AM局の多くがFMに転換する動きが本格化しています。「ワイドFM」(FM補完放送)として、TBS・文化放送・ニッポン放送・MBSなどがすでにFMでも送信中です(2026年8月時点)。転換の主な理由は2つ。①AM送信設備の老朽化と維持費の高騰(大型アンテナが1本数億円かかる)②若い世代がラジオをほとんど聴かなくなり、AMの聴衆が急減していること。
radikoは2010年に試験サービスを開始し、2020年のコロナ禍でユーザー数が急増。2026年現在の月間ユーザーは推定2,000万人以上とされており、AM/FMの電波の違いをほぼ消したのが、皮肉にもインターネットという「別の回線」でした。
よくある誤解──AM・FMにまつわる間違いやすい3つのこと
❌「AMは古い技術でFMは新しい技術」という誤解
実はAMもFMも、どちらも20世紀前半に確立された技術です。AM放送は1920年代(米国初の商業AMは1920年KDKA)、FM放送は1930年代(エドウィン・アームストロングが1933年に特許)。「FM=新しい」という印象は、日本でFMが普及し始めた1970〜80年代に形成されたものです。技術の歴史としてはどちらも100年近い歴史を持ちます。
❌「ラジコはFMだけ」という誤解
radikoはAMもFMもどちらも配信しています。しかも配信音質はFM放送と同等(サンプリングレート44.1kHz・ビットレート48kbps以上)のため、radikoで聴くAMは地上波AMより音がよいという逆転現象が起きています。radikoの普及で「AM放送は音が悪い」という印象が薄れつつあります。
❌「電波が強ければAMもFMもノイズはない」という誤解
AMはノイズが波の「高さ」に混じるため、電波が強くてもノイズの影響を受けます。FMは電波が強ければノイズをほぼ完全に除去できます(リミッター効果)。これはAMとFMの変調方式の根本的な違いで、電波の強弱で解決できる問題ではありません。
まとめ──電波の「何を変えるか」が100年分の放送の違いを生んだ
AM放送とFM放送の違いをまとめます。
- AMは電波の「振幅(波の高さ)」を変えて音を伝える→シンプルだがノイズに弱い
- FMは電波の「周波数(波の密度)」を変えて音を伝える→ノイズに強く音質が高い
- AMの中波(波長200〜600m)は地面を伝わり遠くへ届く・夜間は電離層で数千km先まで
- FMの超短波(波長3〜4m)は直進性が高く、障害物の陰に届きにくいが音質が良い
- AMは音声帯域100〜7,500Hz・FMは50〜15,000Hz(ステレオ対応)で音質差がある
- 日本では2028年以降、老朽化・コスト高・聴取者減少でAM局がFMに転換中
- radikoでAM・FMをデジタル配信することで、電波形式の差は実質的に消えつつある
AMとFMの差は「古い・新しい」や「遠い・近い」だけではありません。電波の波の「どの部分に情報を乗せるか」という根本的な設計思想の違いから来ています。毎朝のニュースや深夜の音楽を届けてきた電波の仕組みを、少し意識しながら聴いてみると、ラジオが違って見えてきます。
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📚 参考文献・出典
- ・総務省「AM放送とFM放送の技術的特徴比較資料」 https://www.soumu.go.jp/main_content/001041354.pdf
- ・オーディオテクニカ「FMとAMの違いとは?音質・仕組み・周波数からわかる、ラジオ放送の基本」 https://www.audio-technica.co.jp/always-listening/articles/difference-fm-am/
- ・ラジオ関西トピックス「AM・FMの違い AM放送がなくなるって本当!? 専門家が解説」 https://jocr.jp/raditopi/2023/04/11/495156/










































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