ねじはなぜ振動で緩むのか|自己ロックが外れる仕組みと大型車の車輪脱落120件

ねじは、締めたら締めっぱなしで動かないものだと思っていました。ところが調べてみると、ねじは放っておくと緩む前提で設計されていて、緩み方も1種類ではありませんでした。私は長いあいだ、緩みの原因は「振動でナットが回ること」だけだと考えていました。

この記事では、ねじがなぜ止まっているのか、なぜ振動で外れるのか、回らなくても力が抜けるのはなぜか、を順に整理します。実例として、国土交通省がまとめた大型車の車輪脱落事故(令和6年度は120件)を読みます。2026年10月時点で確かめられた数字だけを使い、資料に書かれていないことは書きません。

  • ねじが止まっているのは、ねじ山の摩擦で戻れないから(自己ロック)
  • 締付けトルクのほとんどは摩擦に消え、締結力になるのは1割に届かない
  • 緩みは、ナットが回る「戻り回転」と、回らず力が抜ける「戻り回転によらない緩み」の2種類
  • 大型車の車輪脱落は、タイヤ脱着後1か月以内に約45%が起きている
目次

ねじは摩擦で戻れないから止まっている

ねじは摩擦で戻れないから止まっている
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ねじ山は、ぐるぐる巻いた坂道

ボルトのねじ山は、軸のまわりに巻き付いた緩やかな坂道です。ナットを締めるのは、坂道を登る動きにあたります。締めた後にナットが勝手に下ってこないのは、坂の途中で摩擦が引き止めているからです。ねじを回す力を抜いても戻らないこの性質を、一般に自己ロックと呼びます。

MONOistの連載(技術士の高橋良一さん・RTデザインラボ)は、M10のボルトを例に、ねじ山の傾きを計算しています。ピッチは1.5mm、有効径は9.026mmで、傾きβはおよそ0.05ラジアンと書かれています。

自分でも計算してみました。ねじ山の傾き(リード角)は、1.5÷(π×9.026)の逆正接で約3.0度です。摩擦係数0.25のときの摩擦角は、0.25の逆正接で約14度になります。坂の傾き3度に対して、摩擦が支えられる傾きは約14度。摩擦のほうがずっと大きいので、ナットは自分では戻れません。

止まっている理由が「摩擦」だけなのが弱点

ここで私は考えを改めました。ねじを止めているのは、接着剤でも噛み合いの形でもなく、摩擦という「滑りにくさ」だけです。摩擦は、面が滑った瞬間に働きを失います。ねじの緩みとは、この摩擦が部分的に破れることだと言えます。

締めたトルクの7%しか締結力にならない

トルクの大半は摩擦に消える

ナットやボルトを締めるとき、加えたトルクはそのまま締結力になるわけではありません。ねじ山の摩擦と、ボルトの頭が被締結体に触れる面(座面)の摩擦に使われ、残りが締結力、つまり軸力になります。

MONOistの連載には、M10の六角穴付きボルトの計算例があります。ねじ山の摩擦係数と座面の摩擦係数をどちらも0.25とすると、22.3Nmのトルクで締め付けたときの軸力は約6900Nで、有限要素法のシミュレーションとの差は1.18%と書かれています。

トルクの行き先 式(軸力1Nあたりのmm) 値 割合
軸力になる分 1.5÷(2×π) 0.239 約7%
ねじ山の摩擦 0.25×9.026÷(2×0.866) 1.303 約40%
座面の摩擦 0.25×13.5÷2 1.688 約52%
合計 0.239+1.303+1.688 3.229 100%
※連載で導かれているJIS B 1083の形のトルクと軸力の関係式を、私が連載の条件(ピッチ1.5mm・有効径9.026mm・頭の径16mm・穴径11mm)で計算し直したものです。座面の直径は(16+11)÷2=13.5mmとしました。

この合計3.229で22.3Nm(22,300N・mm)を割ると約6,906Nとなり、連載の「約6900N」と一致しました。トルクの約93%は摩擦に消え、軸力を生んでいるのは約7%です。

「強く締めた」と「強く締まっている」は別

式の中に摩擦係数が入っているので、同じトルクでも摩擦係数が違えば軸力は変わります。トルクレンチで規定値に合わせても、軸力は摩擦の状態次第です。軸力を高めて、その摩擦力を保ち続けることが緩み対策の第一歩だと、連載も述べています。

自宅や自転車のねじが、いつの間にか緩んでいた経験はありますか?

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📊 これまでの読者投票の結果(当サイト調べ・9票)

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ほとんどない:33%
何度もある:11%
たまにある:11%

振動でナットが戻り回転する仕組み

横に滑った瞬間に、摩擦が破れる

緩みの1つめは「戻り回転による緩み」です。連載によると、そのメカニズムは解明されていて、ボルトの軸と直角の向きに振動や荷重がかかり、ボルトの頭やナットと被締結体のあいだで滑りが生じると、ボルトやナットが回って緩みます。

大事なのは、軸方向に引っ張る力ではなく、軸と直角の向きの力が引き金だという点です。2005年には、ナットと被締結体の相対変位がなくても、ほんの少しだけ緩むことが有限要素法で示されました。連載は、構成要素に滑りが生じると緩みが発生すると考えておいたほうがよい、とまとめています。

世界で最も厳しいと呼ばれるユンカー試験

この現象を再現する試験があります。1969年、ドイツの工学博士ゲルハルト・H・ユンカーが、ボルト締結体がせん断方向の振動を受けたときに起きる戻り回転のメカニズムについて論文を発表しました。ドイツ自動車エンジニア協会がこれを認定し、DIN 65151という規格になりました。論文の試験方法と装置を使った試験が、ユンカー振動試験です。

この試験は、ボルト締結体にとって最悪と言える状況で行うため、世界で最も厳しい振動試験と呼ばれることもあります。もう1つの代表的な試験は、米国航空規格に基づくNAS式の衝撃加振試験です。ねじの緩みは、規格が2つ生まれるほど研究されてきた問題だということです。

緩んだボルトは疲労破壊しやすくなる、とも連載は書いています。繰り返しの荷重で金属が折れる仕組みは、金属疲労とは何かを整理した記事で読めます。

回らなくても軸力が抜ける緩み

戻り回転によらない5つの原因

緩みの2つめは「戻り回転によらない緩み」で、ボルトもナットも回らないのに軸力だけが下がります。連載はこれを5つに分けています。

  • 初期緩み:接触面の小さな凹凸がつぶれ、伸ばされていたボルトが少し縮む(「へたり」)
  • 陥没緩み:接触面の圧力が高すぎて、樹脂や高温の金属の被締結体が時間とともにへこむ
  • 過大外力による緩み:降伏応力を超える力でボルトが塑性変形する
  • 熱的要因による緩み:ボルトと被締結体の材質が違い、温度変化での膨張量が合わない
  • 被締結物のクリープ変形による緩み:ガスケットや樹脂、塗装膜、挟み込んだゴミが時間とともにへたる

私はこの一覧を読むまで、緩みは「回るかどうか」しか考えていませんでした。回らない緩みがあること、しかもその対策では多くの緩み止め製品が無力になると書かれていることに、少し驚きました。

初期緩みは、1日後の増し締めで測れる

初期緩みと陥没緩みには、設計時に軸力から余裕分を差し引く方法があります。連載は、2割くらいではないかと書いています。材質にもよるため、一度締め付けて1日後に増し締めし、そのときのトルクが初日よりどれだけ減っていたかを測れば、初期緩みによる軸力低下がわかるそうです。

先ほどの約6,900Nの締結に20%の余裕を見るなら、6,900×0.2=1,380Nが抜けても足りなくならないよう、最初から余裕をもって設計することになります。

緩み止めは「どの緩み」に効くかで選ぶ

回り止めは、戻り回転にだけ効く

戻り回転による緩みなら、ボルトやナットの回転を強引に止めればよい、と連載は述べています。いちばん簡単なのは割りピンで、ほかにも接着剤で固める方法やUナットなどの製品があります。一方で、回らないタイプの緩みでは、多くの緩み止め製品が無力だとされています。

ばね座金と皿ばね座金は大きく違う

回らない緩みの対策として、ばね座金がよく使われます。連載は設計者CAEで、少し緩んだときにばね座金がどれだけ軸力を保つかを調べています。条件は、M10・摩擦係数0.1・締付けトルク24.5Nmで、締結時の軸力が1万7079Nです。

座金の種類 少し緩んだときの反力 締結時からの減り方
ばね座金 424N 約40分の1に減少
皿ばね座金(1種重荷重用) 1万4204N 2割弱の減少(14,204÷17,079≒0.83)
※出典:MONOist「ボルトの緩み対策:設計者向けCAEを使ったボルト締結部の設計(9)」の計算結果

ばね座金は、少しでも緩むと軸力が約40分の1に落ちるため、回らない緩みの対策にはならないように思える、と連載は書いています。皿ばね座金なら減少は2割弱にとどまり、この減少分を設計の余裕として見ておけば、かなり期待できるとされています。名前が似ていても、働き方は別物です。

大型車の車輪脱落が教えること

大型車の車輪脱落が教えること
Photo by cody reed on Unsplash

令和6年度は120件、10年で約3倍

ねじの緩みが人の命に近づく例として、国土交通省物流・自動車局の資料があります。車両総重量8トン以上などの大型車で、ホイール・ボルトの折損またはホイール・ナットの脱落により車輪が外れた事故は、令和6年度に120件でした。前年度の142件より22件減りましたが、そのうち3件は人身事故でした。ほとんどが大型トラックで、大型バスは2件です。

車輪そのものの強さがどう作られるかは、鋳造と鍛造の違いを扱った記事で触れています。

年度ごとの件数は、平成27年度の41件から令和5年度の142件まで増えました。令和6年度の120件でも、41件の約2.9倍(120÷41)にあたります。

冬と、タイヤ交換の直後に集まっている

資料では、令和6年度の事故のうち約56%が12月から2月に発生し、約45%が車輪の脱着作業から1か月以内に起きています。事故車両を調べた98台では、脱着時の点検・清掃や潤滑剤の塗布、劣化部品の交換がされていない車両や、脱着後の増し締めをしていない車両が散見されたと報告されています。脱落した車輪は、左後輪が92%でした。

この「脱着後すぐ」という時期は、ここまで見てきた初期緩み(へたり)が出る時期と重なります。ただし資料は、そこまで因果を断定していません。私が重ねて読んだ範囲では、という前置きつきですが、締め直しをしないまま走る期間に事故が集まっていることは確かです。

身近なねじに今日からできること

タイヤ交換後は50〜100km走ってから増し締め

冬タイヤへの履き替えが近づく季節です。タイヤメーカーのコンチネンタルは、タイヤ交換後に50〜100kmを目安に走行してから、ホイールナットの増し締めをするよう案内しています。交換時の締付けトルクが適切でなかったり、初期走行の環境変化があったりすると、走行距離がのびたときにまれにナットが緩むことがあるからです。

自転車の小さなねじにも同じ理屈が使える

私はクロスバイクに乗るので、サドルの固定ボルトのような小さなねじには、組み直した数日後にもう一度触るようにしています。これは出典のある手順ではなく、「初期緩みは最初に出る」という連載の整理を、自分の道具に当てはめた習慣です。効果の根拠にはしません。

緩み止めの限界と注意点

緩み止めを足せば安心とは限らない

割りピンや接着剤は、回るタイプの緩みには効いても、へたりで軸力が抜けるタイプには効きません。緩みの原因が違えば、効く対策も違います。原因を見ないまま緩み止めを足すと、安心しただけで軸力は抜けたまま、ということが起こりえます。

軸力が狙いどおりに出ているかが前提

設計の余裕分(2割や2割弱)は、軸力が狙いどおりに出ている前提の数字です。式のとおり摩擦係数が変わると、同じトルクでも軸力は変わります。トルクの管理と、締結面の清掃・潤滑の管理はセットで考える必要があります。

緩み方から対策を選ぶ判断表

何が起きているかで、効く手を決める

起きていること 効く対策(連載の整理)
ナットが回って戻る 割りピン、接着剤、Uナットなどで回転を止める
へたり・へこみで軸力が抜ける 皿ばね座金、設計時の余裕、1日後の増し締め
熱で膨張量が合わない 連載は詳細を割愛。まず材質の組み合わせを疑う

自分のねじがどのタイプで緩んでいるのかを先に見る、という順番が大切です。回って戻っているのか、回らずに力が抜けているのかで、選ぶ手が変わります。

ねじの緩みでよくある誤解

強く締めれば緩まない?

強く締めても、摩擦係数で軸力は変わります。軸力を高めることは対策の第一歩ですが、締めすぎてボルトに降伏応力以上の力がかかると、塑性変形して軸力が下がる緩み(過大外力による緩み)になります。

緩みはナットが回ることだけ?

いいえ。ナットが回らずに軸力だけが抜ける「戻り回転によらない緩み」もあります。初期緩み・陥没緩み・熱的要因などが挙げられます。

ばね座金を入れれば大丈夫?

連載の計算では、ばね座金は少し緩むと軸力が約40分の1に減りました。皿ばね座金は減少が2割弱で、座金の種類によって働きが大きく違います。

まとめ:ねじの緩みは2種類に分けて考える

ねじは、ねじ山の摩擦で戻れないから止まっています。その摩擦が、軸と直角の振動で滑ると、ナットが回って戻ります。回らなくても、へたりやへこみで軸力が抜けます。緩み止めは、どちらの緩みに効くかで選ぶ必要があります。

私が今回いちばん意外だったのは、締めたトルクの約93%(1-0.239÷3.229で計算)が摩擦に消える、という自分の計算結果でした。「しっかり締めた」という実感と、締結力として残っているものとの差は、思った以上に大きいのです。最新の事故件数や規定トルクは、国土交通省や各メーカーの公式案内で確認してください。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。