金属疲労とは何か|S-N曲線・疲労限度・新幹線台車の亀裂まで一気にわかる

金属は、一度では折れない力でも、何度もかけ続けると折れます。私は長いあいだ「金属疲労」という言葉を、古くなった金属がくたびれていく現象だと思っていました。資料を読み直してみると、効いているのは年数よりも「荷重を繰り返した回数」でした。

この記事では、金属疲労がなぜ起きるのかを、S-N曲線・き裂の進み方・疲労限度の3つで整理します。身近な実例として、平成29年12月に東海道新幹線の「のぞみ34号」で起きた台車の亀裂を、運輸安全委員会の報告書から読みます。2026年10月時点で確かめられた数字だけを使い、資料に書かれていないことは書きません。

  • 金属疲労は、1回で折れる力よりずっと小さい力でも、繰り返すうちにき裂が育って折れる現象
  • S-N曲線は、応力の大きさと「何回まで耐えるか」を結んだグラフ
  • 鋼には疲労限度があり、アルミ合金やSUS304にはないとされる
  • 新幹線の台車の亀裂では、肉盛溶接による残留応力と板厚不足が関わったと推定された
目次

金属は力の大きさより「回数」で折れる

一度で折れない力でも折れる

ものを引っ張って折るときは、その金属の引張強さを超える力が要ります。ところが力を加えたり抜いたりを繰り返すと、もっと小さい力でも折れることがあります。技術士の高橋良一さん(RTデザインラボ)がMONOistの連載で挙げているのは、スプーンの例です。スプーンを曲げて永久変形させれば、数回の変形で折れます。ところが、永久変形が起きないくらいの変形、つまりばねの伸び縮みのような変形でも、100万回くらい繰り返すとスプーンは折れてしまう。これが金属疲労だと説明しています。

つまり金属疲労は、壊れる瞬間の力の大きさではなく、「どれだけ繰り返したか」で決まる壊れ方です。使い古した部品がくたびれて折れる、というイメージとは少し違います。新品でも、荷重を繰り返し受ける場所なら起こります。

荷重を繰り返し受ける場所はどこにでもある

車が通るたびにたわむ橋、走るたびに揺れる車体、回り続ける軸。荷重が何度もかかる場所は、身の回りにたくさんあります。橋が荷重をどう受け止めているかは橋はなぜ落ちないのかを図解した記事で触れました。そこに「何回かかるか」という時間の軸を足すと、疲労の話になります。

S-N曲線は「何回まで耐えるか」を示す地図

S-N曲線は「何回まで耐えるか」を示す地図
Photo by Marcel Strauß on Unsplash

荷重1回なら引張強さ、100回なら少し下がる

同じ連載の別回によると、荷重回数が1回のときにギリギリ折れない応力は引張強さです。荷重回数が100回になると、ギリギリ折れない応力振幅は引張強さよりも小さくなります。回数をいろいろ変えて、ギリギリ折れない応力振幅を測ってグラフにしたものが「S-N曲線」(stress-number of cycles curve)です。横軸が繰り返し回数、縦軸が応力振幅です。

S-N曲線は、回数が増えるほど耐えられる力が下がっていく右下がりの線になります。ここで言う応力振幅は、力が上下に振れる幅のことです。ずっと一定の力を受け続けるのと、強弱を繰り返し受けるのとでは、金属にとって別の負担になります。

SS400の疲労限度は220MPaほど、引張強さの半分あまり

鉄鋼材料のSS400では、疲労限度が220MPaくらいと記事に書かれています。同じ記事は、鉄鋼材料では引張強さと疲労限度がおおむね比例し、引張強さが700MPaを超えたあたりから疲労限度の上昇が頭打ちになり、ばらつきも大きくなるとも述べています。

SS400の引張強さを400MPaとすると、220÷400=0.55です。疲労限度は引張強さの約55%にあたります。筆者が設計で使う目安は引張強さの0.35倍で、400×0.35=140MPaです。安全率を大きめにとるときは0.5倍で、400×0.5=200MPaになります。

私が驚いたのは、材料の強さを表す引張強さの半分ほどの力でも、繰り返せば折れる可能性があるという点です。「折れない」と言い切れる線は、強さの数字よりかなり低いところにあります。

金属の道具や部品が、使っているうちに折れた経験はありますか?

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き裂はどう進み、なぜ疲労だと分かるのか

開いて閉じるたびに、き裂は少しずつ進む

疲労の主役は、表面に生まれる小さなき裂です。同じ連載では、疲労破断は材料表面に現れた小さなき裂が進行して破断に至る、と説明されています。き裂は荷重のかかるたびに開口と閉口を繰り返し、1回の繰り返しでΔLだけ進みます。

き裂の先端は、開くときに引き伸ばされ、閉じるときに行き場のなくなった表面がシワを1本つくります。ただし筆者自身が「プロセスゾーンの中で何が起こっているのかはよく分かっていません」と書いています。仕組みの全部が分かっているわけではない、という点は押さえておきたいところです。

破面のしま模様が「疲労の証拠」になる

折れた断面を電子顕微鏡で見ると、波打ったような模様があります。これが「ストライエーション」で、破断の原因が疲労かどうかは、この模様の有無で判断するそうです。筆者は、荷重1回で1本できるシワが、ストライエーションの1本の線になると解釈しています。

もう少し大きなスケールでは「ビーチマーク」と呼ばれる貝殻のような模様が出ます。新幹線台車の報告書にも、側ばりの破面にビーチマーク状の模様が見られ、上方に行くほど凹凸の高さと間隔が大きくなっていたと書かれています。き裂が進むほど、1回の進み方が大きくなっていたということです。

鋼にだけ疲労限度がある理由

酸化物がき裂の先端を埋めると、き裂が止まる

S-N曲線には、鋼では途中から水平になる線と、アルミ合金やオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)では下がり続ける線があります。水平になる応力振幅が「疲労限度」で、その応力なら何回繰り返しても折れません。

なぜ鋼だけなのかについて、MONOistの連載の筆者は次のように解釈しています。き裂の中に酸化物ができると、き裂の先端が埋まって、開口と閉口の繰り返しが先端に届かなくなります。この状態を「停留き裂」といい、繰り返し数がいくら増えても折れなくなる、つまり疲労限度が現れるという考え方です。酸化物ができるのは鉄鋼材料で、オーステナイト系ステンレス鋼とアルミ合金にはできない、というのが筆者の整理です。これは筆者の解釈と明記されていますので、定説として覚える必要はありません。

アルミは「10の7乗回」で代用して使う

疲労限度が現れない材料では、10の7乗回の繰り返しに耐える応力振幅で代用します。これを時間強度と呼びます。NIMS(物質・材料研究機構)の疲労データシートでは、アルミ合金A2017の試験で、多くの試験片が10の7乗回を超えて破壊し、従来の疲労限度は確認できなかったと報告されています。10の9乗回を超える破壊は非常にまれで、疲労限度はギガサイクル領域にあることが示唆されたとのことです。

鋼のように「ここから下は無限に大丈夫」という線を引きにくい材料があること。これが、アルミ製の部品の寿命を考えるときに回数の見積もりが欠かせない理由です。

10の7乗回は日常でどのくらいの時間か

1日に数回しか荷重を受けない部品の場合

「10の7乗回」と言われても、感覚がつかみにくい数字です。計算してみます。

10の7乗回は1,000万回です。1日に100回荷重がかかる部品なら、1,000万÷100=10万日で、10万÷365≒274年です。1日100回程度の使い方なら、10の7乗回に届くまでに人間の一生をはるかに超えます。

高速で回る軸の場合

一方、回転する軸は事情が違います。回転するたびに同じ場所が荷重を受けるなら、回数はすぐ積み上がります。

毎分3,000回転する軸が1回転ごとに1回の繰り返し荷重を受けるとすると、1,000万÷3,000=3,333分で、約55.6時間です。2日ちょっとで10の7乗回に届きます。

同じ回数でも、日常の使い方で届くまでの時間が桁違いになります。部品の寿命を考えるときは、強さだけでなく「1日に何回、荷重を受けるか」を見る必要がある、と私は理解しました。

新幹線の台車亀裂では何が寿命を縮めたのか

新幹線の台車亀裂では何が寿命を縮めたのか
Photo by Ryuno on Unsplash

平成29年12月11日に何が起きたか

運輸安全委員会の報告書(平成31年3月)によると、平成29年12月11日、博多駅発東京駅行きの「のぞみ34号」(N700系、16両編成)で、走行中に車内で異臭や異音が認められましたが、運行は継続されました。名古屋駅に到着した際、車両保守担当の社員が異音を確認して点検したところ、13号車の前台車に油の付着などが見つかりました。乗客は約1,000名、死傷者はいませんでした。

台車は、車体を支えて車輪とつなぐ骨組みです。この台車の「側ばり」と呼ばれる部分に、疲労亀裂が見つかりました。台車の製造は平成19年4月で、累積走行距離は約622.2万kmでした。

台車の製造は平成19年4月、事案の発生は平成29年12月で、使用期間は約10年8か月です。

残留応力と薄い板が重なった

報告書は、亀裂が発生した要因を次の2つと推定しています。1つ目は、焼鈍後に軸ばね座の下面へ肉盛溶接をしたことで、スロット溶接部の近くに残留応力が生じていたこと。2つ目は、側ばり下板に軸ばね座を取り付けるときに下面を過度に研削し、板厚が設計上の基準値以下になっていたことです。側ばり下板の最薄部は4.7mmで、側板の板厚は7〜8mmでした。

側ばり下板の最薄部4.7mmを側板の7〜8mmと比べると、4.7÷7≒0.67、4.7÷8≒0.59で、側板の約6〜7割の厚さです。

板が薄くなっていたことは、き裂の進む速さにも関わりました。報告書は、側ばり下面が過度に研削されて板厚が薄くなったことが、き裂の進展速度を速め、車両寿命(台車使用期間)より短い期間で亀裂が進んだと推定しています。

試験でも、肉盛溶接と薄さは寿命を縮めた

報告書には、試験体を使った疲労試験の結果も載っています。焼鈍後に肉盛溶接を再現した試験体は、正常な試験体に比べて、明らかに少ない繰り返し数でき裂が発生する傾向がありました。板厚が足りない試験体も、やや少ない繰り返し数でき裂が発生する傾向でした。き裂の進み方を調べる解析では、下板の板厚が7.0mmの場合と4.3mmの場合が比較されています。

S-N曲線の話に戻すと、どちらも「その部分にかかる応力を実質的に大きくする」要因です。残留応力は目に見えない応力を足し、薄い板は同じ荷重でも応力を上げます。疲労は、材料の強さだけでなく、作り方で決まる面があります。

作り方で、同じ金属でも疲労に強くも弱くもなる

削り過ぎの上限が周知されていなかった

報告書によると、溶接ビードの止端部をグラインダーで仕上げるときの削り込み深さは0.5mmを限度とする社内基準がありましたが、組立作業者への教育では特に周知されていませんでした。組立作業者に削り込み量の限度の認識はなく、現場管理者も、先輩から受けた教育で0.5mmまで削ってよいと認識していたとされています。

製造の現場で起きた小さな判断の積み重ねが、約10年後のき裂につながった形です。個人の注意に頼るのではなく、数字の限度を全員が知っている仕組みが要る、という読み方もできます。

鋳造や鍛造でも、作り方が強さを決める

同じ金属でも、作り方で強さが変わる話は鋳造と鍛造の違いを比べた記事でも扱いました。台車を含む新幹線全体の安全の仕組みは、新幹線の仕組みの記事にまとめています。疲労は「材料選び」と「作り方」と「点検」の三つがそろって初めて抑えられる、と私は考えています。

金属疲労を見るときの判断基準

確かめたい3つのポイント

この記事の資料から、身の回りの部品や機械を見るときに役立つ見方を3つにまとめます。

  • 荷重が繰り返しかかるか。一度きりの力ではなく、強弱を何度も受ける場所は要注意です
  • 材料は鋼か、アルミ合金やSUS304か。疲労限度が現れる材料かどうかで、回数の考え方が変わります
  • 表面の傷や削り跡、溶接の跡がないか。き裂は表面から始まるので、傷は起点になりえます

家庭の道具であれば、繰り返し曲げ伸ばしする部分に細いひびを見つけたら、そのまま使い続けず、メーカーや販売店に相談するのが無難です。機械の設計や点検の仕事をしている方は、製品ごとの規格や社内基準に従ってください。

設計では引張強さではなく疲労強度を見る

設計の立場では、引張強さではなく疲労強度で部品の大きさを決めます。MONOistの連載は、疲労限度は実験でしか求められないと書いています。数字をネットで探すだけでなく、材料の履歴(圧延や熱処理)に注意する必要があるという趣旨の指摘もあります。

疲労限度の数字を鵜呑みにしにくい理由

同じ材料名でもばらつく

SS400は、JISで化学成分の量が規定されていません。鋼板は圧延工程と熱処理で強度が出るため、ネットに載っている疲労限度の値が、これから使う材料の値と一致するとは限りません。同じ記事は、引張強さと疲労限度のプロットが上下にばらつくことも示しています。

鋼でも、高い強度が疲労限度に直結するわけではない

引張強さが700MPaを超えると、疲労限度の上昇が頭打ちになります。強い鋼を選べば疲労に強くなる、と単純には言えません。表面の傷や溶接部の状態のほうが効く場面があります。

この記事で書けなかったこと

応力集中や表面処理、腐食の影響など、疲労に関わる要素はほかにもあります。今回確かめられなかったため、この記事では扱っていません。気になる方は、日本機械学会などの資料で確認してください。

金属疲労のよくある誤解

古くなるほど疲労が進むのですか

年数そのものではなく、荷重を繰り返した回数が効きます。荷重がかからなければ、疲労は進みません。逆に、新品でも荷重を何度も受ければき裂は進みます。

強い金属なら折れないのですか

引張強さが高くても、疲労限度は引張強さの半分あまりです(SS400の例)。700MPaを超えると疲労限度の上昇も頭打ちになります。強さの数字だけで、疲労に強いかどうかは決まりません。

どの金属にも疲労限度があるのですか

鋼には疲労限度が現れますが、アルミ合金やSUS304には現れないとされます。その場合は10の7乗回の応力振幅で代用します。「この力以下なら永久に安全」と言える金属ばかりではありません。

金属疲労の仕組みのまとめ:回数と表面と作り方を見る

金属疲労は、1回で折れる力よりずっと小さい力でも、繰り返すうちに表面のき裂が育って折れる現象です。S-N曲線は、その「何回まで耐えるか」を応力ごとに示した地図でした。鋼には疲労限度があり、アルミ合金やSUS304では10の7乗回で代用する、という違いもあります。

新幹線の台車の例では、肉盛溶接による残留応力と、研削で薄くなった板厚が重なって、き裂が寿命より早く進んだと推定されました。疲労は、材料の強さの数字だけでなく、作り方や削り方まで含めた結果です。

この記事は2026年10月時点で確認できる資料に基づいています。最新の規格や設計基準は、各機関の公式資料で確認してください。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。