2026年10月9日のニュース一覧に、「国家公務員給与、5年連続増 人事院勧告の実施決定」という見出しが出ていました。「5年連続」という言葉の勢いに比べて、中身の数字は意外と地味です。人事院が国会と内閣に出した勧告書を読むと、月給の引き上げは平均1万5,056円(3.51%)、ボーナスは0.05月分で、どちらも民間と比べた結果として出てきた数字でした。
では、その民間との比較は誰が、どうやって行っているのでしょうか。この記事では、人事院が公表した勧告書と、時事通信などの報道で確かめた範囲で、国家公務員の給与が毎年どう決まるのかを、数字を追いながら整理します。
- 人事院勧告は、国家公務員の労働基本権が制約されていることの代わりに、給与の水準を民間と合わせるための制度
- 2026年は月給が平均1万5,056円(3.51%)、ボーナスが年4.65月から4.70月に上がる勧告
- 比べる相手は、企業規模100人以上・事業所規模50人以上の約10,100事業所
- 3.51%は全員の上がり率ではなく、行政職俸給表(一)の平均は3.3%
5年連続増と言われる数字の中身
月給とボーナスの勧告額
人事院は2026年8月7日付で、衆議院議長・参議院議長・内閣総理大臣あてに勧告書を出しました。勧告書によると、国家公務員の月例給は民間給与を1人当たり平均15,056円(3.51%)下回っていました。この差を埋める引き上げが勧告の中心です。
ボーナス(特別給)は、期末手当と勤勉手当を合わせた年間の平均支給月数を0.05月分引き上げ、4.65月から4.70月にします。時事通信は、月給・ボーナスともプラス改定は5年連続で、34年ぶりに3%を超えた前年度に続く高い水準だと報じています。
私は見出しを見たとき、「5年連続で上がるのだから、毎年少しずつ慣れた上げ方なのだろう」と思っていました。ところが昨年は3.62%で、今年の3.51%はそれより低い率です。連続という言葉は、金額の大きさではなく、プラスが続いたことしか伝えていませんでした。
初任給の勧告額
初任給は、一般職試験と総合職試験のどちらも9,500円引き上げる勧告です。勧告書の数字では、一般職(高卒者)が209,800円(+4.7%)、一般職(大卒程度)が241,500円(+4.1%)、総合職(大卒程度)が251,500円(+3.9%)になります。
毎年変わる賃金の目安としては、最低賃金もあります。こちらの決め方は別の記事でまとめているので、公務員の給与と見比べたい方は読んでみてください。
公務員の給与は誰が決めるのか
労働基本権の制約と人事院勧告
民間の会社員は、労働組合と会社が話し合って賃金を決めます。ところが国家公務員は、その地位の特殊性と職務の公共性から、憲法で保障された労働基本権が制約されています。勧告書は、人事院の給与勧告はこの制約の「代償措置」として、社会一般の情勢に適応した適正な給与を確保するためのものだと説明しています。
つまり、人事院勧告は「公務員に甘い制度」でも「公務員を抑える制度」でもなく、交渉で決められない代わりに第三者が民間の水準を測って示す仕組みです。
決めるのは国会、人事院は勧告する
私は長いこと、公務員の給料は人事院が決めているのだと思っていました。勧告書を読んで、それが違うと分かりました。国家公務員法第28条は、国家公務員の給与について、国会が社会一般の情勢に適応するように随時変更できるとしています。人事院に課されているのは、その変更について勧告を怠らないことと、毎年少なくとも1回、俸給表が適当かどうかを国会と内閣に報告することです。
決める側は国会、測って示す側は人事院、という分業です。勧告の宛先が内閣と国会の両方になっているのは、この分業の表れです。
公務員の給与は誰が決めていると思っていましたか?
- 人事院
- 内閣
- 国会
- 考えたことがなかった
民間給与をどう調べるのか
約10,100事業所を抽出する調査
民間の比較対象は、人事院が毎年実施する「職種別民間給与実態調査」です。令和8年の調査は、企業規模100人以上、かつ事業所規模50人以上の全国の民間事業所約50,400(母集団)から、層化無作為抽出法で約10,100事業所を選んで行われました。
調査の対象は、公務の行政職俸給表(一)と似ていると認められる事務・技術関係22職種の約42万人と、研究員・医師など54職種の約5万人です。調査完了率は82.5%で、勧告書は「広く民間事業所の給与の状況を反映したもの」としています。
比べるのは4月分の給与と直近1年のボーナス
月給の比較は、令和8年4月分として個々の従業員に実際に支払われた給与額で行います。同じ役職段階、学歴、年齢の人どうしを比べるので、国家公務員の平均と民間の平均を単純に並べるわけではありません。ボーナスは、令和7年8月から令和8年7月までの直近1年の支給実績を調べます。
調査では、民間の状況もわかります。新規学卒者を採用した事業所のうち、初任給を増額した事業所は大学卒で74.7%、高校卒で78.4%でした。一般の従業員にベースアップを実施した事業所の割合は66.2%、定期昇給を実施した事業所の割合は91.1%です。勧告書は、業績や人材確保上の必要性を踏まえて相応の賃金水準を確保しようとする動きが、民間に見られると整理しています。
官民較差15,056円はこう出る
比較に使われる平均給与月額
勧告書によると、民間との比較を行っている行政職俸給表(一)適用職員の平均給与月額は428,451円(139,564人、平均年齢41.7歳)です。令和7年4月と比べて13,971円増えており、これは令和7年の勧告で俸給表の引き上げなどを行ったためと書かれています。
較差を平均給与月額で割ると、15,056円÷428,451円≒3.51%です。公表されている3.51%と一致します(自分で計算した値)。
昨年より金額は大きいのに、率は低い
昨年の勧告の較差は15,014円(3.62%)でした。今年は15,056円なので、金額では今年のほうが大きいのに、率では昨年を下回っています。
差額は15,056円−15,014円=42円です。昨年4月の平均給与月額は、428,451円−13,971円=414,480円と置けます。15,014円÷414,480円≒3.62%になり、昨年の公表値と合います(自分で計算した値)。
42円。数字を並べて、思わず声が出ました。金額はほぼ同じなのに、土台の給与が1万4千円近く上がっているので、率だけが下がります。見出しの「3.51%」と「3.62%」を見比べて、今年は上げ幅が縮んだと読むと、少し違います。
民間の賃金と物価の関係は、実質賃金が8カ月連続でプラスになったというニュースの記事でも整理しています。勧告書も、消費者物価指数が令和8年1月以降は1%台半ばで推移し、実質賃金も同月に前年同月比でプラスに転じたと、背景として挙げています。
ボーナス4.70月分の決まり方
民間4.72月と公務員4.65月の差
ボーナスの決め方は、月給よりも単純です。民間事業所が令和7年8月からの1年間に支払った特別給は、所定内給与月額の4.72月分でした。国家公務員の期末手当と勤勉手当の年間平均は4.65月なので、差は0.07月分です。
0.05月単位で改定する
特別給は、0.05月単位で改定する取り決めです。0.07月分の差に対して0.05月分を引き上げるので、4.65月が4.70月になります。引き上げ分は期末手当と勤勉手当に均等に配分され、令和8年度は12月期の支給月数を引き上げます。
民間の賞与(ボーナス)の仕組みとの違いは、公務員のボーナスが「民間の1年間の実績に合わせて、次の年度に反映される」点です。会社ごとの業績で決まる民間と違い、基準が公表されている分だけ、見通しは立てやすいと言えます。
勧告が実際の給与になるまで
4月にさかのぼって実施する
月例給の改定は、令和8年4月時点の比較に基づいているため、同月にさかのぼって実施する必要があると勧告書に書かれています。勧告の時点(8月)で、すでに4月分から差額が生まれていることになります。
閣議決定と法律の改正
勧告は、出しただけでは給与になりません。昨年(2025年)は、8月7日の勧告のとおりに改定を行うことが11月11日に閣議決定され、給与法の改正案は臨時国会に提出して成立を目指す、と解説記事(解決J)に書かれています。月例給は平均3.62%、ボーナスは4.60月から4.65月への引き上げでした。
今年も、10月9日のニュース一覧には勧告の実施が決まったという見出しが出ていました。ただ、ここで書いた数字は、私が勧告書で確かめたものだけです。給与法の改正案が国会を通る時期や詳細は、確かめられていません。最新の状況は、人事院や政府の発表を見てください。
この数字を読むときの注意点
3.51%は全員の上がり率ではない
3.51%は、民間との差を平均で測った率です。勧告書では、行政職俸給表(一)の平均改定率は3.3%とされています。さらに級ごとに見ると、1級が4.0%、2級が3.6%、3級が3.4%、4級が3.1%、5級から10級までは3.0%です。下の級ほど率が大きく、上の級ほど小さくなっています。
比べる相手は100人以上の企業に限られる
比較の対象は、企業規模100人以上、事業所規模50人以上です。日本の民間企業全体の平均ではありません。民間の賃上げ率として別の統計を見るときは、対象が違うことに注意が必要です。
月給の平均には管理職手当なども含まれる
平均給与月額には、俸給、地域手当、管理職手当、扶養手当、住居手当などが含まれ、残業代や通勤手当は含まれません。自分の給与明細の「総支給額」とは、そのまま比べられない数字です。
ニュースの数字を判断するコツ
勧告のニュースで出てくる数字は、何の数字なのかで読み方が変わります。勧告書の数字で整理すると、次のとおりです。
| 見出しの数字 | 何の数字か | 読むときの注意 |
|---|---|---|
| 1万5,056円(3.51%) | 民間との月給の差(官民較差) | 全員の引き上げ額ではなく、平均 |
| 3.3% | 行政職俸給表(一)の平均改定率 | 俸給表の改定の率。較差の率とは別 |
| 4.70月分 | ボーナスの年間平均支給月数 | 0.05月分の引き上げ。民間は4.72月 |
| 5年連続 | プラス改定が続いた年数 | 金額や率の大きさは別に見る |
| ※人事院「令和8年人事院勧告」の報告・勧告書、時事通信の報道より | ||
自分が知りたいのが「自分の会社でも上がるのか」なら、見るべきは別の統計です。この記事の数字は、国家公務員の給与を民間と合わせるための数字であって、民間の賃上げを予測する数字ではありません。
国家公務員給与に関するよくある誤解
誤解1:公務員の給料は人事院が決めている
決めるのは国会です。国家公務員法第28条が、国会が給与を変更できるとしていて、人事院はその変更について勧告し、毎年少なくとも1回報告する役割です。
誤解2:3.51%は公務員全員の昇給率
3.51%は民間との月給の差です。行政職俸給表(一)の平均改定率は3.3%で、級によって3.0%から4.0%まで幅があります。
誤解3:景気がよいと自動的に上がる
仕組みの上では、民間の給与を調べ、その差を埋める形で決まります。景気の数字を直接見るのではなく、4月分の民間給与と直近1年のボーナスの実績を見ています。
まとめ:国家公務員給与が5年連続で増える仕組み
国家公務員の給与は、労働基本権が制約されている代わりに、人事院が民間と比べて水準を示す仕組みです。2026年は、約10,100の民間事業所を調べた結果、月給が15,056円(3.51%)下回っていたため、その差を埋める引き上げが勧告されました。ボーナスは民間4.72月と公務員4.65月の差から、0.05月分を上げて4.70月分です。
見出しの「5年連続」は、プラスが続いたという事実を示しているだけで、上げ幅の大きさや、自分の給料への影響までは教えてくれません。数字を見るときは、何と何を比べた数字なのかを確かめると、ニュースの印象が変わります。2026年10月時点の公表資料にもとづいています。最新の情報は人事院など公的機関の発表で確認してください。
この記事の内容、読む前から知っていましたか?
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📚 参考文献・出典
- ・人事院「令和8年 人事院勧告・報告(勧告書)」(2026年8月7日) https://www.jinji.go.jp/content/000017811.pdf
- ・人事院「令和8年 人事院勧告・報告の概要」 https://www.jinji.go.jp/content/000017810.pdf
- ・人事院「令和8年職種別民間給与実態調査の実施について」 https://www.jinji.go.jp/kouho_houdo/kisya/2604/minchouR8.html
- ・人事院 公務員白書「給与勧告の仕組み」 https://www.jinji.go.jp/kouho_houdo/koumuinhakusyo/hakusho/R4/1-3-03-1-1.html
- ・時事通信「公務員月給、3.51%増 ボーナス含め5年連続プラス―人事院勧告」 https://www.jiji.com/jc/article?k=2026080700647&g=pol
- ・解決J「国家公務員の給与 4年連続で引き上げへ 人事院勧告のとおりに実施することを閣議決定」 https://www.kaiketsu-j.com/evaluation/19142/
📖 この記事について 本記事は、公務員の給与制度の“仕組み”を知っていただくための読み物です。特定の政策や立場への賛否を示すものではありません。制度の詳細や最新の状況は、人事院など公的機関の発表をご確認ください。2026年10月時点の公表資料にもとづいています。









































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