火葬場の受け入れが逼迫する恐れがある政令指定都市は、読売新聞の調査で全20市のうち9市にのぼりました(2026年10月9日配信)。この見出しを見て、「亡くなる人が急に増えて、炉が足りなくなる」と読んだ方は多いと思います。私もそう受け取りました。ところが公表資料を開いていくと、火葬場の能力は炉の数だけでは決まらず、開いている日、受け付ける時間、そして誰が建てるのかという制度の組み合わせで決まっていました。
この記事では、読売新聞の報道、東京都と横浜市の資料、指定都市市長会の要請文、厚生労働省の人口動態統計で確かめた範囲で、火葬場の逼迫がどんな仕組みで起きるのかを整理します。
- 逼迫の恐れがあるのは政令市20市のうち9市で、すでに受け入れ可能件数を上回っているのは横浜市と広島市の2市
- 火葬場の能力は炉の数に加えて、休場日・受付時間・待合室などの運営条件でも決まる
- 横浜市の火葬待ち日数は2017年度の4.28日から2021年度の5.49日に延びた
- 火葬場の整備には国の財政支援制度がなく、自治体が事実上の担い手になっている
- 2025年の死亡数は前年より減ったが、全国の死亡数のピークは2040年と試算されている
逼迫するのは20市のうち9市で、時期はそれぞれ違う
読売新聞の調査が示した市ごとの時期
読売新聞は、公営の火葬場を持つ政令市全20市に、年間の火葬件数が受け入れ可能件数(今年6月時点)を超える恐れがあるかどうか、あるならいつ頃かを尋ねました。「すでに上回っている」と答えたのは横浜市と広島市です。2030年代までに上回るとしたのは、さいたま市(30年頃)、千葉市(33年頃)、川崎市(36年頃)、相模原市(35〜36年頃)、堺市(35年頃)の5市でした。2040年までに上回るとしたのは、岡山市(40年頃)と福岡市(35〜40年頃)の2市です。
2市+5市+2市=9市で、9市÷20市=45%です(自分で計算した値)。見出しの「4割超」と合います。
千葉市では、亡くなる人が増える冬に、7〜10日程度の「火葬待ち」が生じているそうです。横浜市は今年度末に5か所目となる市営火葬場を動かし、火葬炉を現在の44基から60基に増やします。整備費は約260億円で、市債の発行が必要になりました。岡山市を除く19市が、火葬場の新設、再整備、増炉を予定しています。
見出しの「4割超で逼迫」は数字のとおりです。ただ、9市のうち7市は「これから」の話で、いま超えているのは2市だけです。大変だと言う前に、時期の欄を見てほしいと私は思います。
団塊世代の高齢化が背景にある
読売新聞は背景として、団塊世代の高齢化で多死社会が本格的に来ることと、施設の更新費が財政を圧迫していることを挙げています。高齢化の影響が出る場面は火葬場だけではありません。介護費用が12兆2208億円で過去最大になった理由は、別の記事で整理しています。
火葬場の能力は炉の数だけでは決まらない
死亡後24時間と休場日が日程を縛る
東京都の火葬に関する検討会の資料には、「火葬能力は、火葬炉の基数に加え、待合室、収骨室、動線、人員といった施設全体の運営条件に起因」すると書かれています。炉が増えても、収骨室や人員が追いつかなければ、1日に回せる件数は増えません。
日程を縛るルールもあります。横浜市の公式ページによると、火葬は死亡後24時間以上経過しなければ行えません(墓地、埋葬等に関する法律第3条)。ただし、一類感染症等の感染者などは24時間以内でも火葬できます。休場日は、1月1日・2日、友引日(機器点検のため。一部の斎場は開場)、秋分の日・春分の日(久保山斎場と南部斎場のみ)です。利用時間は、横浜市の2022年の資料で、既存の市営斎場が9時から17時と示されています。
稼働率が高いと、空いている炉があっても待つ
東京都の調査(令和6年度)では、都内の公営火葬場の稼働率が89.4%、民営が57.8%でした。稼働率は、各火葬場が定める受け入れ可能数に対する火葬件数の割合です。1つの炉が1日に火葬する件数(回転数)は、公営が2.1、民営が3.6でした。
私は、炉が空いていれば待たずに済むと思っていました。ところが同じ資料に、稼働率が100%に届いていなくても待ちが出る理由として、昼間の時間帯に希望が集中することや日程調整の都合が挙げられています。炉の数を足し算するだけでは、待ち日数は読めないということです。
住んでいる地域の火葬場がどこにあるか、知っていますか?
- 知っている
- なんとなく知っている
- 知らない
- 考えたことがなかった
横浜市の火葬待ち日数は4年で1.21日延びた
横浜市は2023年の説明会資料で、市内の死亡者数、市営斎場の火葬件数、火葬待ち日数を公表しています。待ち日数は、法律の規定で死亡後24時間以内は火葬できないため、死亡日の翌日から数えた日数です。
| 年度 | 市内の死亡者数 | 市営斎場の火葬件数 | 火葬待ち日数(4斎場平均) |
|---|---|---|---|
| 2017年度 | 32,998人 | 30,258件 | 4.28日 |
| 2018年度 | 33,164人 | 30,806件 | 4.46日 |
| 2019年度 | 33,778人 | 31,471件 | 4.49日 |
| 2020年度 | 34,337人 | 31,095件 | 4.56日 |
| 2021年度 | 37,555人 | 32,868件 | 5.49日 |
| 出典:横浜市「横浜市東部方面斎場(仮称)の整備について」(2023年) | |||
待ち日数は5.49日−4.28日=1.21日延びました。死亡者数が最も増えた2021年度は、37,555人−34,337人=3,218人の増加で、増加率は3,218÷34,337≒9.4%です。待ち日数の伸びは、5.49−4.56=0.93日、0.93÷4.56≒20%でした(自分で計算した値)。
死亡者の増え方は約9.4%なのに、待ち日数は約20%延びています。5.49日。約5日半です。需要が1割増えただけで待ちが2割延びるのは、前の節の稼働率の話と合います。供給が変わらないところに需要が乗ると、待ちは需要の増え方以上に伸びやすいようです。
この資料の推計では、横浜市の死亡者数は2065年に50,004人となり、5万人を超える見込みです。推計は平成27年国勢調査の人口を基準にしています。人口の数え方そのものは、国勢調査の仕組みで決まっています。
市営4斎場の炉数は、2023年1月の資料で久保山12炉・南部10炉・北部16炉・戸塚6炉です。12+10+16+6=44炉で、読売新聞の「現在の44基」と一致します。新しい東部方面斎場は16炉(うち予備1炉)で、44+16=60炉です(自分で計算した値)。
火葬場はなぜ国の補助がないまま自治体が担うのか
法律に整備の義務はなく、事実上自治体が担う
指定都市市長会が2025年11月に採択した要請文には、火葬場の制度上の事情が書かれています。火葬場の整備には、耐久性や専門性の高い設備と多額の費用が必要です。ところが、一般廃棄物処理施設(焼却施設)や終末処理場とは違い、国による財政支援制度がありません。
要請文によると、国は財政支援について、法令上規定されていないことや火葬場が全国的に不足している認識はないことなどを理由に、否定的な見解を示しています。一方で国は、原則として自治体が火葬場の経営主体になること、永続性と非営利性を確保することを求めています。そのため、法令上の規定はないものの、事実上、自治体が整備と運営を担わざるを得ない状況だと市長会は述べています。
同じ公衆衛生の施設でも、ごみの焼却施設の仕組みは国の支援の枠の中にあります。火葬場だけが枠の外にあることが、更新費が自治体の財政を圧迫する理由です。
自治体が求めていること
市長会は、補助制度を創設するなど必要な財政措置を早急に講じること、国と自治体の役割分担や財政支援を関係法令で明文化することを求めています。千葉市は、指定都市市長会を代表して市長が2025年12月23日に厚生労働省へ要請を行うと発表しています。読売新聞は、政令市長会が火葬場整備への財政支援を国への要望事項に初めて盛り込んだと伝えています。
横浜市の東部方面斎場の整備費は、2023年1月の説明会資料で約221億円でした。読売新聞の記事では約260億円です。
260億円−221億円=39億円の差です(自分で計算した値)。要請文は、近年の建設費用の高騰を整備費の負担が重い理由に挙げていますが、この差の内訳は公表資料からは分かりません。
民営の火葬場が多い東京では、料金に差が出る
全国の火葬場は1,349施設で、そのうち97%は市町村または一部事務組合が経営しています(令和6年度衛生行政報告例。東京都の資料より)。民間の火葬場は13施設で、そのうち8施設が東京都内にあります。区部の火葬実績の8割は民営の火葬場、市町村では7割が公営の火葬場で行われています。
東京都の調査では、公営火葬場で設置自治体の住民に対する料金が無料または2万円未満の施設が9割でした。民営は8万円以上の施設が約7割です。公営は住民とそれ以外の住民で料金を分けて設定しています。
民営の稼働率は57.8%で、公営より余裕があります。余力が民営にあっても、料金の差が選び方に響く可能性があります。東京都は特別区長会と共同で、2025年11月25日に、料金の設定に関する定めが墓埋法にないことを理由に、民間火葬場の経営管理の責務や監督官庁の指導権限を法に明確にするよう国へ要望しました。墓埋法の運用は、昭和43年の国の通知で、非営利性と永続性の観点から火葬場は原則として市町村などの地方公共団体が経営するものとされてきました。
死亡数は2025年に減ったのに、なぜ足りなくなるのか
多死社会という言葉から、私は死亡数が毎年右肩上がりに増えていると思っていました。厚生労働省の人口動態統計(概数)では、2025年の死亡数は158万9489人で、前年の160万5378人より1万5889人減り、5年ぶりに減少しています。2024年の160万5378人は過去最多でした。
国立社会保障・人口問題研究所の2023年の試算では、年間の死亡者数は2040年にピークを迎え、現在の約159万人より約6万人多い約165万人になります。読売新聞は、2025年の死者数は試算より約7万人上振れしているとも伝えています。全国の合計が一時的に減っても、逼迫の判断は全国合計では行われません。火葬場は地域ごとに能力が決まっていて、死亡が増える冬に集中するからです。
東京都の資料では、都全体の死亡者数は現在の約14万人から2065年頃には約20万人になる見通しで、現状のままでは2035年頃に火葬需要の増加への対応が困難になると試算されています。ここでも、足りなくなる時期は全国の死亡数のピークとは別に決まっています。
火葬までの日程は何で決まるのか
身近な人が亡くなったとき、火葬の日程は次の条件が重なって決まります。
- 死亡後24時間が過ぎていること
- 火葬場が開いている日であること(友引日などの休場日を除く)
- 希望が集中しやすい昼間の枠に空きがあること
- 亡くなった方の住所地の火葬場か、その他の火葬場か(住民以外は料金が別に設定される場合がある)
東京都の資料によると、待ち日数は死亡者数の多い冬が相対的に長くなる傾向があります。公営火葬場は稼働率がすでに高く、住民以外を受け入れる余力は限定的だとされています。そのため、遠方の火葬場を使う前提で段取りを考えるより、住んでいる市区町村の公式ページで、火葬場の空き状況と予約の方法、休場日を確かめておくのが現実的です。火葬日が決まるまで数日かかることがあると、遠方の親族にあらかじめ伝えておくだけでも、日程の調整は楽になります。
数字を読むときに気をつけたいこと
1つ目は、読売新聞の調査が各市の回答にもとづいていることです。受け入れ可能件数の数え方が市ごとに同じかどうかは、記事からは分かりません。市の間で単純に順位をつけるのは避けたほうがよさそうです。
2つ目は、待ち日数の数え方が資料ごとに違うことです。横浜市は死亡日の翌日から数えます。東京都の調査は、火葬場に申込があった日から火葬が行われた日までを数えます。同じ「5日」でも、起点が違えば長さが違います。
3つ目は、推計が前提しだいで動くことです。横浜市の死亡者数推計は平成27年国勢調査の人口が基準でした。実績が試算より上振れしたという読売新聞の報道からも、推計を固定した数字として受け取らないほうが安全です。
火葬場の逼迫についてのよくある誤解
誤解1:火葬場は全国どこでも不足している
国は財政支援に否定的な理由として、火葬場が全国的に不足している認識はないことを挙げています。逼迫の恐れが指摘されているのは都市部が中心で、読売新聞が調べたのも政令市20市です。地域によって状況は大きく違います。
誤解2:炉を増やせばすぐに解決する
火葬能力は、炉の基数に加えて、待合室、収骨室、動線、人員といった運営条件で決まります。炉を増やす計画があっても、整備には費用と年数がかかります。横浜市の東部方面斎場は、2022年7月の資料では完成予定が令和7年度末でしたが、横浜市の現在のページは令和8年度の供用開始としています。
誤解3:友引の日は火葬ができない
横浜市の公式ページは、友引日を機器点検のための休場日としていて、一部の斎場は開場しています。休場かどうかは、自治体や斎場ごとに違います。東京都の資料は、公営火葬場が今後の需要増に、友引日の運営や時間帯の拡大で対応する考えを持つと記しています。
まとめ:火葬場の逼迫が起きる仕組み
火葬場の逼迫は、亡くなる人の数が増えることに、炉の数、開場日、受付時間、運営の人員という供給側の条件が追いつかないことで起きます。読売新聞の調査では、政令市20市のうち9市が受け入れの逼迫を見込み、いまの時点で超えているのは横浜市と広島市の2市です。
制度の面では、火葬場の整備に国の財政支援制度がなく、自治体が事実上の担い手になっています。指定都市市長会は、補助制度の創設と法令での役割分担の明文化を国に求めています。国の側は、全国的に不足している認識はないとしており、この溝はまだ埋まっていません。
読者の方に覚えておいてほしいのは、2つです。火葬までの日数は、地域・季節・休場日で大きく変わります。ニュースの「逼迫」は、いまの話か将来の話かを時期の欄で見分けると、数字の意味が変わります。2026年10月時点の公表資料にもとづいています。最新の状況は、お住まいの自治体の公式ページでご確認ください。
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📚 参考文献・出典
- ・読売新聞オンライン「火葬場の受け入れ、政令市4割超で逼迫の恐れ」(2026年10月9日、Yahoo!ニュース配信) https://news.yahoo.co.jp/articles/1c201abd882d4439b89e7a1df16f6fddc79433a4
- ・東京都保健医療局「東京の火葬の現状と将来需給」(火葬に関する検討会 資料2) https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/kasokentokai1_d2
- ・横浜市「横浜市東部方面斎場(仮称)の整備について」(2023年説明会資料) https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/sumai-kurashi/saijo/to-saijou-seibi.files/20230202shiryou.pdf
- ・横浜市「東部方面斎場(仮称)整備事業について」(2022年7月資料) https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/sumai-kurashi/saijo/to-saijou-seibi.files/0041_20220715.pdf
- ・横浜市「市営斎場のご案内」 https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/sumai-kurashi/saijo/saijo/saijou.html
- ・指定都市市長会「火葬場の整備等に対する支援に関する指定都市市長会要請」 https://www.city.kumamoto.jp/kiji00367628/3_67628_478965_up_d6msgusq.pdf
- ・千葉市「厚生労働省への要請活動について」(2025年12月17日記者発表資料) https://www.city.chiba.jp/sogoseisaku/shichokoshitsu/hisho/hodo/documents/251217-1-1.pdf
- ・厚生労働省「令和7年(2025)人口動態統計月報年計(概数)の概況」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai25/dl/gaikyouR7.pdf
📖 この記事について 本記事は、社会の制度や法律の“仕組み”を知る面白さをお届けし、世の中のルールに興味を持っていただくための読み物です。個別の法的判断を示すものではなく、制度は改正されることもあります。具体的なケースは専門家や公的機関にご確認ください。2026年10月時点の公表資料にもとづいています。










































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