半導体の「歩留まり」は、1枚のウエハーから取れたチップのうち、検査に通った良品の割合のことです。今日の見出しには、半導体株安と、TSMCの決算発表前の利益確定売りという言葉が並んでいました。決算の話題になると、歩留まりという言葉が必ず出てきます。私は意味をなんとなくでしか説明できなかったので、資料を読み直して数字で追ってみました。
結論から書くと、歩留まりを決める大きな要素の1つは、工場の腕前ではなくチップの大きさです。同じ工場でも、100平方mmのチップなら40%の良品が取れるのに、400平方mmになると10%まで落ちます。この記事では、300mmウエハー1枚から何個の良品が取れるのかを、式とあわせて計算します。2026年10月時点で確かめられた資料だけを使い、古い数字には年代を添えます。
- 歩留まりは、ウエハー上の全チップに対する良品の割合(歩留まり率)で表す
- 100平方mmのチップを欠陥密度1.0個/平方cmの工程で作ると、良品は40%
- チップの面積が4倍になると、1枚のウエハーから取れる良品は約17分の1になる(計算は本文)
- 連載の数字は2005〜2007年のもの。最先端の現在値ではなく、考え方をつかむための目安
歩留まりは「ウエハー1枚から取れる良品の割合」
300mmウエハー1枚に載るチップは650個前後
半導体チップは、ウエハーと呼ぶシリコンの薄い円盤の上に、まとめて作り込まれます。大きな円盤で一度に多数のチップを作るほうが単価を下げられるため、ウエハーの寸法は時代とともに大きくなりました。最先端の半導体工場では、直径300mmのものが使われています。
300mmウエハーの面積は約700平方cmです。1平方cm(10mm角)のチップなら、単純計算で700個が載ります。ただし円盤の縁ではチップが欠けるので、完全な形で取れるのは600〜650個とされています。
良品の個数が歩留まり、その割合が歩留まり率
載せたチップが全部動けば話は簡単です。実際には微細なゴミや特性のばらつきで、動かないチップが混ざります。ウエハー上に作られた良品チップの個数を歩留まり、全チップに対する良品の比率を歩留まり率と呼びます。
ニュースや決算で「歩留まりが改善した」と出てくるときは、この割合が上がったという意味です。チップの設計や、その工場の製造プロセスへの習熟度によって変わるため、一概に「何%が普通」とは言えません。半導体そのものの成り立ちは、半導体の仕組みをまとめた記事で扱っています。
ウエハー1枚から良品が出るまで(100平方mmのチップの例)
面積 約700平方cm
約650個
歩留まり率40%
欠陥が1個でも入ったチップは売り物になりません
微細なゴミ1粒で、回路は動かなくなる
チップの中の回路は、原子レベルの精度で作られています。そこに異物や傷が1つ入ると、回路が切れたり、つながってはいけない場所がつながったりします。その1チップは不良品として扱われ、隣のチップが無事でも関係ありません。
数百の工程のどこかで、欠陥は必ず出る
EE Times Japanに掲載されたMerckのKai Beckmann氏の寄稿は、工場でウエハーからハイエンドチップを作るには、数カ月間にわたって数百もの工程を実行すると書いています。各工程に原子レベルの精度が求められ、欠陥はどこかで必ず発生する。だから歩留まりは、ウエハー上の欠陥の数と程度を示す重要な物差しになる、という説明です。
私は工程が数百と聞いて、少し言葉を失いました。1工程あたりの失敗がごくわずかでも、数百回かけ合わせれば無視できない量になります。歩留まりが100%に張りつかないのは、工場がさぼっているからではなく、構造上そうなるからです。
スマホやPCの中のチップの「歩留まり」という言葉を、聞いたことはありますか?
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歩留まり率を式で計算する
国際半導体技術ロードマップが使う式
歩留まり率は、感覚ではなく式で見積もれます。連載「コンピュータアーキテクチャ」は、国際半導体技術ロードマップ(ITRS)が使うモデルとして、次の形を紹介しています。
歩留まり率 Y = Ys × (1 + A×D0 ÷ α)の(−α)乗
Ysはシステマチック歩留まりで、マイクロプロセサでは90%と見られています。Aはチップの有効面積、D0は単位面積あたりの電気的動作に影響する欠陥の個数です。A×D0は、チップ1個の中に平均で何個の欠陥が入るかを表します。αはクラスタ係数で、欠陥は完全にランダムではなく、ある程度かたまって存在する効果を表し、ITRSでは2.0を使っています。
100平方mmのチップは40%、欠陥を半分にしても57.6%
この式に、欠陥密度D0が1.0個/平方cm、チップが100平方mm(1平方cm)という条件を入れると、A×D0は1.0です。歩留まり率は40%になります。プロセスをきれいにしてゴミ粒子を減らし、D0を0.5に半減すると57.6%に上がります。実用上の最高とされるD0=0.2まで下げても、74.4%です。
私は最初、欠陥を半分にすれば歩留まりも半分近く改善するだろうと考えていました。実際は40%から57.6%で、57.6÷40=1.44倍の伸びにとどまります。欠陥を減らす努力は報われますが、効き方は思ったほど直線的ではありません。
連載の数字を、チップの面積ごとに広げた表が次です。式はそのままで、面積とD0を変えただけです。
| チップの面積 | D0=1.0 | D0=0.5 | D0=0.2 |
|---|---|---|---|
| 25平方mm | 71.1% | 79.7% | 85.7% |
| 50平方mm | 57.6% | 71.1% | 81.6% |
| 100平方mm | 40.0% | 57.6% | 74.4% |
| 200平方mm | 22.5% | 40.0% | 62.5% |
| 400平方mm | 10.0% | 22.5% | 45.9% |
| ※Ys=0.9、α=2.0で、本文の式から編集部が計算。D0の単位は個/平方cm。実際の工場の歩留まりを示すものではありません | |||
表の対角線を見ると、面積が2倍になる分、欠陥密度を半分にしてようやく同じ歩留まりに戻ります。たとえば100平方mmでD0=1.0の40.0%は、200平方mmならD0=0.5で同じ40.0%です。大きなチップを作るということは、それだけ工程をきれいに保つ必要があるということです。
チップが4倍大きいと、良品は1桁以上減る
400平方mmのチップは、1枚に150個しか載らない
サーバー用のような巨大なチップを考えます。連載によれば、400平方mmのチップをD0=1.0の工程で作ると、歩留まり率は10%です。しかも面積が大きいので、1枚のウエハーに載る個数も150個程度に減ります。
量産されているプロセッサの歩留まり率は、おおむね10%から75%の間だろう、というのが連載の見立てです。巨大なサーバー用チップは10%に近く、デスクトップ用では70%以上という噂があるとも書かれています。噂と断っているので、私もここでは参考程度にとどめます。
良品は260個から15個へ
100平方mmのチップは、650個×40%=260個の良品が取れます。400平方mmのチップは、150個×10%=15個です。260÷15は約17.3なので、面積が4倍になるだけで、1枚のウエハーから取れる良品は約17分の1になります。
260個が15個。1枚のウエハーから、たった15個です。面積は4倍にしかなっていないのに、良品の数は桁を1つ以上落とします。計算してみて、私はこの落ち方がいちばん意外でした。個数が減る分と、歩留まり率が下がる分が、掛け算で効いてくるためです。
1個あたりの原価で見ると、歩留まりの重さがわかる
ウエハー1枚100万円なら、100平方mmのチップは4000円弱
連載は、300mmウエハーを使う最先端工場の建設費を2000億円程度、ウエハー1枚の原価を約40万円と見積もり、本社費用や開発費を含めた1枚の価値を約100万円としています。2005〜2007年の連載に出てくる推定であり、現在の値ではありません。
この100万円という前提で、良品260個を割ると1個あたり4000円弱です。チップの試験とパッケージのコストを足すと、製造コストは5000円から7000円になります。400平方mmの巨大チップは、15個で割るので1個あたり約7万円。試験もパッケージも高くなり、8万円から10万円の製造コストになる、と連載は試算しています。
歩留まり10%でも、売値が高ければ成り立つ
製造原価率は50%程度が採算ラインです。20万円で売られるハイエンドのサーバー用プロセッサなら、400平方mmで8万円のコストでも許されます。一方、5000円で売られるローエンドのPC用なら、3500円のコストでも高すぎる、というのが連載の整理です。
歩留まり10%は、見るからに悪い数字です。それでも売値が高い製品なら成立します。安いチップは、できるだけ小さく作ってウエハーに載る個数を増やし、設計と製造の両面で歩留まりを上げるしかありません。歩留まりの数字は、その製品の売値とセットで読まないと意味が変わります。
半導体のニュースで歩留まりを見かけたときの判断基準
見出しの熱と、歩留まりの数字との距離
半導体株が売られた、決算を前に利益確定が出た、というニュースは、見出しの温度が高くなりがちです。ただ、ここまで見てきた歩留まりは、株価とは別の時間軸で動きます。数百の工程を数カ月かけて通る話なので、今日の工程の改善が、今日の決算に出るわけではありません。私は見出しの熱を一度脇に置いて、チップの大きさと欠陥密度のどちらが動いた話なのかを確かめるようにします。
株価指数の計算方法については、日経平均の除数と値がさ株の仕組みの記事で解説しています。
決算で歩留まりという言葉が出たら、2つを確かめる
決算や報道で「歩留まりが改善した」と出てきたら、次の2点を見ます。1つは、どのチップの話か(大きいチップか小さいチップか)。もう1つは、数字が割合なのか個数なのかです。同じ「改善」でも、小さなチップなら元の歩留まりが高く、伸びしろは小さくなります。
なお、今回調べた範囲では、最先端プロセスの歩留まり率を、公式資料で確かめることはできませんでした。確かめられた数字だけを、この記事には使っています。
連載の数字を使うときの注意点
2005〜2007年の連載であり、現在の工場の数字ではない
この記事の中心にある数字は、マイナビニュースが再掲載している連載「コンピュータアーキテクチャ」第24回のものです。初掲載の2005年9月から第72回の2007年3月までの原稿の再掲とされており、最先端の工場の現在の歩留まりを示すものではありません。ウエハー1枚の原価も、建設費2000億円という前提も、当時の推定です。
式は目安であり、実際の工場は条件が違う
式のYsを90%、αを2.0とおくのは、ITRSが使っていたモデルの仮定です。欠陥密度D0は工場や時期で変わります。表の数字は、考え方を確かめるための練習問題と読んでください。製品の採算を判断する材料にはなりません。
検査で不良を後工程に流さない工夫がある
MONOistの連載「いまさら聞けない 半導体後工程」は、ウエハーをチップに切り分けるダイシングの後に、チッピング、クラック、切断位置のずれ、切り残し、異物付着などを確認すると説明しています。ここで不良を見逃すと、良品にならないチップへ接合材料や加工時間を投入することになり、後工程へ進むほど損失が大きくなる、という理由です。歩留まりは前半の工程だけでなく、検査の置き場所でも変わります。
よくある誤解
歩留まりが低いのは、工場の腕が悪いから?
工場の習熟度は確かに影響します。ただ、連載はチップの設計にも依存すると書いています。さらに、チップが大きくなれば欠陥を含む確率が増えるので、同じ工場、同じ設計水準でも歩留まりは低下します。先の表では、同じD0でも面積が違うだけで、40.0%と10.0%に分かれました。
欠陥のあるチップは、すべて捨てられる?
動かないチップは捨てられますが、EE Times Japanの記事は、同じアーキテクチャで欠陥率の高いチップが、格付けの低い用途に使われるケースがあると述べています。ハイエンドチップではいかなる欠陥もほとんど許容されないものの、すべてが一律に廃棄されるわけではありません。
ウエハーを大きくすれば、歩留まりが上がる?
300mmウエハーのねらいは、一度に多数のチップを作って単価を下げることです。連載の説明は、歩留まり率を上げる話ではなく、1枚あたりに載る個数を増やす話として書かれています。本文の式にも、ウエハーの大きさを表す項目はありません。式に入るのは欠陥密度とチップの面積です。
まとめ:半導体の歩留まりは、欠陥密度とチップの大きさで決まる
歩留まりは、ウエハー上の全チップに対する良品の割合です。欠陥密度D0が下がれば上がり、チップの面積が大きくなれば下がります。100平方mmのチップなら40%、400平方mmなら10%という連載の数字が、それを端的に示しています。
面積が4倍になると、1枚から取れる良品は260個から15個へ、260÷15で約17分の1になります。歩留まりが低くても、売値が高い製品なら成り立ちます。安いチップほど、小さく作ることが採算に直結します。
決算や報道で歩留まりという言葉を見かけたら、どのチップの話か、割合なのか個数なのかを確かめてください。この記事の数字は2005〜2007年の連載にもとづく目安で、最新の公式資料や企業の発表で確認してください。
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📚 参考文献・出典
- ・マイナビニュース「コンピュータアーキテクチャ 第24回 マイクロプロセサの実装コスト – チップの値段はどのようにして決まるのか」(2005〜2007年連載の再掲) https://news.mynavi.jp/techplus/article/computer_architecture-24/
- ・EE Times Japan Kai Beckmann(Merck)「3D統合では正確な半導体検査が必須に:歩留まりにも直結(3/3ページ)」(2024年11月19日) https://eetimes.itmedia.co.jp/ee/articles/2411/19/news145_3.html
- ・MONOist 森内眞「『ダイシング』を知らずに後工程は語れない:いまさら聞けない 半導体後工程(2)(3/3ページ)」(2026年9月16日) https://monoist.itmedia.co.jp/mn/spv/2609/16/news008_3.html










































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