源泉かけ流しとは何か|加水・加温・循環ろ過の違いと宿の掲示の読み方

「源泉かけ流し」と書かれた宿に泊まれば、お湯には何も手が加わっていない。私は長い間そう思っていました。ところが調べてみると、この言葉は温泉法という法律の条文には出てこず、日本温泉協会が用語解説で定義している言葉でした。同じ「かけ流し」でも、加水や加温が許される言葉と許されない言葉が、協会の解説の中で分けられています。

この記事では、環境省・都道府県・日本温泉協会・厚生労働省の資料を開いて、源泉かけ流しと循環ろ過の違い、宿の脱衣所に貼られている掲示の読み方を整理します。2026年10月時点で公開されている資料だけを使い、資料に書かれていないことは書きません。阪急交通社が2021年12月に554人へ行ったアンケートでは、「源泉かけ流し」の意味を理解していると答えた人は38.4%、「温泉かけ流し」は21.7%でした。意味を取り違えやすい言葉だということは、数字にも出ています。

  • 温泉法が決めているのは「温泉の条件」(25℃以上、または19種類の物質のどれか)で、「かけ流し」の定義は載っていない
  • 日本温泉協会は、浴槽に新湯を入れ続けてあふれさせ、その湯を戻して再利用しない状態を「かけ流し」と説明している
  • 「源泉かけ流し」は加水できない、「源泉100%かけ流し」は加水も加温もできないと、協会の用語解説は書き分けている
  • 湯があふれていても循環ろ過をしている浴槽はあり、見分ける材料は脱衣所の掲示にある
目次

源泉かけ流しは、温泉法の言葉ではなく日本温泉協会の用語

温泉法が決めているのは「温泉であるための条件」まで

温泉法第2条は、温泉を「地中からゆう出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く。)で、別表に掲げる温度又は物質を有するもの」と定めています。別表の条件は、温泉源から採取されるときの温度が摂氏25度以上であること、または物質の表のうち1つ以上が基準を満たすことです。物質は19種類あり、たとえば溶存物質(ガス性のものを除く)は1kg中に1,000mg以上、遊離炭酸は250mg以上が基準になっています(埼玉県の解説ページに別表が載っています)。

この条文と別表に、「かけ流し」という言葉は出てきません。温泉法が決めているのは、そのお湯が温泉と呼べるかどうかです。浴槽にどう注ぐかは、温泉の定義とは別の話になります。

日本温泉協会の定義は「新湯を入れ続け、あふれた湯を戻さない」

日本温泉協会の用語解説(2015年12月公開)は、「源泉かけ流し(源泉完全放流式)」を次のように説明しています。浴槽に常時新湯を注入して溢流(オーバーフロー)させ、溢流した温泉を再び浴槽に戻して再利用しない状態で、注入する新湯は温泉でなければなりません。

ここで押さえたいのは、条件が「あふれていること」だけではない点です。あふれた湯を戻して使うかどうかが、かけ流しと循環式を分けています。

私が勘違いしていたのは「かけ流し=何も加えていない」

最初に書いたとおり、私は「源泉かけ流し」を、お湯に何も手を加えていない状態の言葉だと理解していました。協会の解説では、加水の有無と加温の扱いが言葉ごとに違います。次の章から、その違いを順番に見ていきます。

加水・加温・循環ろ過は、お湯に何をしているのか

加水・加温・循環ろ過は、お湯に何をしているのか
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加水と加温は、湧き出した温泉に手を加えること

協会の用語解説では、加水は「源泉から湧出する温泉に事業者が水道水・井戸水・湧水・河川水・湖沼水・海水等を加えて浴槽に注湯する」ことと説明されています。目的は冷却、加温、増量、希釈などです。加温は、湧出した温泉に熱を加えて、湧出温度以上に温めて浴槽に注ぐことです。

湯温が高すぎる源泉には水を足し、低い源泉には熱を足すことになります。どちらも、実施している場合は状況と理由の明示が義務とされています。水道水と井戸水の違いは水道水と井戸水の水源・処理方法の違いの記事にまとめています。

循環ろ過は、浴槽の湯を取り出してきれいにし、また戻す方式

循環式・循環ろ過式は、浴槽に新湯を常時注ぐのではなく、浴槽内の湯を吸引して浴槽の外に出し、ろ過などをして再び浴槽に戻して再利用する方式です。ろ過器を使うかどうかで区別されます。

同じ湯を使い続けるので、衛生管理が必要になります。水道水が塩素で消毒される仕組みと同じ考え方で、浴槽の湯にも塩素系の消毒が使われます。基準は、のちの章で数字を確かめます。

放流と循環を併用する浴槽は、あふれていても循環している

協会の用語解説には「放流・循環併用式(放流一部循環濾過方式)」という区分もあります。浴槽に常時新湯を注入して溢流させていますが、溢流した湯や浴槽内の湯をろ過器に通して、再び浴槽に戻して再利用する方法です。

この方式では、湯があふれていても、その一部は循環しています。「浴槽からお湯があふれている」という見た目だけでは、かけ流しかどうか決められません。

浴槽のお湯の行き先で分かれる3つの方式

かけ流し
あふれた湯は戻さない
放流・循環併用
あふれるが、一部をろ過して戻す
循環ろ過
新湯を常時は注がず、湯を戻して使う

出典:日本温泉協会「温泉用語解説」の説明をもとに編集部が図にしたもの

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「かけ流し」の言葉ごとに、加水と加温の扱いが違う

温泉かけ流し・源泉かけ流し・源泉100%かけ流しの違い

日本温泉協会の用語解説で、かけ流しに関する3つの言葉を並べると、加水と加温の扱いは次のとおりです。

言葉 加水 加温 共通する条件
温泉かけ流し(温泉完全放流式) 可。実施していれば状況と理由を明示 可。実施していれば状況と理由を明示 新湯を常時注いであふれさせ、戻して再利用しない。新湯は温泉
源泉かけ流し(源泉完全放流式) 不可 協会の解説は、公正取引委員会が可という見解を示していると紹介。実施していれば明示 同上
源泉100%かけ流し(源泉100%完全放流式) 不可 不可 同上
※出典:日本温泉協会「温泉用語解説」(2015年12月11日公開)。法律の条文ではなく協会による用語の説明です。

加温の扱いだけが、源泉かけ流しと源泉100%かけ流しを分ける

表の2行目と3行目の差は、加温の扱いだけです。協会の解説は、源泉かけ流しの加温について、成分の変化が少ないという観点から公正取引委員会が可能という見解を示していると書いています。一方、源泉100%かけ流しは、加水・加温のどちらも認められていません。

調べていて意外だったのは、「源泉」という言葉が付いていても、加温したお湯は源泉かけ流しの範囲に入ることです。温泉の温度を知りたいときは、言葉より先に脱衣所の掲示を見るほうが確実です。

協会の説明は法律ではなく、宿ごとの表示の仕方は一定とは限らない

ここまでの区分は、日本温泉協会が用語として整理したものです。宿や温泉地が別の基準で「かけ流し」を使っている場合もあります。表記だけで判断せず、掲示とあわせて確かめる流れが現実的です。

湯があふれていても、かけ流しとは限らない

湯があふれていても、かけ流しとは限らない
Photo by Yuika Takamura on Unsplash

新湯の量が浴槽を何分で入れ替えるかを計算する

かけ流しの湯が新鮮かどうかは、あふれているかよりも、新湯がどれだけ入っているかで決まります。浴槽に入るお湯の量が少なければ、あふれていても、湯が入れ替わるまでに時間がかかります。

資料に浴槽の大きさや新湯の量の標準値は載っていないため、ここでは仮の数字で計算します。浴槽の容量を2,000リットル、新湯の量を毎分20リットルと仮定すると、2,000÷20=100分で、浴槽の水量と同じ量の新湯が入ります。毎分5リットルなら、2,000÷5=400分で、約6時間40分です。

400分と聞いて、私は意外に感じました。毎分5リットルという少ない量でも、半日かからずに浴槽の水量と同じだけの新湯が入ります。1日(1,440分)に換算すると、毎分5リットルで5×1,440=7,200リットル、浴槽3.6杯分です。あふれてさえいればよい、という単純な話ではなく、新湯の量が分かれば見え方が変わります。

見分ける手がかりは、注ぎ口・排水・掲示の3つ

浴槽の湯が循環ろ過かどうかは、見た目だけでは決まりません。手がかりは3つあります。

  • 注ぎ口から新しい湯が出ているか(出ていても併用式の可能性は残る)
  • 浴槽の縁やオーバーフロー部分からあふれた湯が、浴槽の外に流れていくか
  • 脱衣所の掲示に「循環させない」「加水しない」とあるか

最後の掲示は、温泉法に基づいて貼ることが求められているため、3つの中でいちばん確かな情報です。次の章で、何が書かれているのかを見ます。

脱衣所の掲示は、温泉法で決まった13項目を読めば分かる

神戸市の様式に並ぶ13項目のうち、5つが「手を加えたか」

温泉法第18条第1項に基づく掲示として、神戸市の資料は次の項目を載せています。源泉名、温泉の泉質、源泉および温泉を公共の浴用または飲用に供する場所における温泉の温度、温泉の成分、成分の分析年月日、登録分析機関の名称および登録番号、浴用または飲用の禁忌症、浴用または飲用の方法および注意、そして次の5項目です。

  • 加水する場合は、その旨およびその理由
  • 加温する場合は、その旨およびその理由
  • 循環(または循環ろ過)利用する場合は、その旨およびその理由
  • 入浴剤を加える場合は、入浴剤の名称およびその理由
  • 消毒して利用する場合は、消毒方法およびその理由

掲示の一覧は①から⑬まで並び、13項目あります。そのうち加水・加温・循環・入浴剤・消毒の5項目が、お湯に手を加えたかどうかを示します。

環境省の資料も、加水、加温、循環(ろ過)、消毒、入浴剤添加については、温泉法施行規則第10条に基づき、公共の浴用に供する場合はその旨と理由を掲示する必要があると書いています。

10年ごとの再分析と、30日以内の掲示変更

神戸市の資料には、成分分析は10年ごとに再分析を行い、その結果に基づき30日以内に掲示内容を変更しなければならないとも書かれています。分析年月日を見れば、掲示が古すぎないかを確かめられます。

様式には、加水は「する」か「しない」か、循環は「させる」「循環ろ過させる」「させない」かを選ぶ欄があります。「しない」「させない」にチェックがある浴槽が、かけ流しの条件に近いお湯です。

循環ろ過は悪者ではなく、衛生管理の基準で成り立っている

循環ろ過は、基準を守って運転される方式

厚生労働省のサイトに掲載された奈良県中和保健所の資料「温泉施設におけるレジオネラ症発生予防対策について」には、管理項目と指針基準の対比表があります。指針基準の欄には、浴槽水の水質検査は年1回以上で循環ろ過は年2回以上、浴槽水の交換は毎日完全換水が原則で、ろ過循環は1回/7日以上、遊離残留塩素濃度は0.2〜0.4mg/Lと書かれています。

この資料は、基準を守っている施設でも、運転や換水の仕方を見直したことが書かれた事例の報告です。循環ろ過は、湯を使い回す以上、検査と換水と消毒が前提になります。基準が数字で決まっていること自体が、この方式の管理の重さを示しています。

どちらにも弱点がある

かけ流しの弱点は、新湯の量に左右されることです。先の計算のように、新湯が毎分5リットルなら浴槽の入れ替えに約6時間40分かかります。加水の目的に冷却や増量があることは、協会の用語解説にも書かれています。

循環ろ過の弱点は、衛生管理の手間と、湯の使い回しが前提になることです。どちらが優れているかは、何を重視するかで変わります。お湯の新しさを重視する人にはかけ流し、手間をかけて衛生基準を守る運転を許容する人には循環ろ過が、それぞれ判断の材料になります。

宿を選ぶときの判断基準:何を重視するかで見る表示が変わる

重視する点ごとに、確かめる場所を決める

温泉宿の選び方は、何を大事にするかで変わります。次の表は、重視する点と、確かめる場所の対応です。

重視する点 確かめる場所 見る言葉
お湯に手を加えていないこと 宿の公式サイトと脱衣所の掲示 源泉100%かけ流し、加水しない、加温しない
湯が新しいこと 掲示の循環の欄 循環させない
泉質や温度 掲示の泉質・温度・成分・分析年月日 泉質名、分析年月日
施設の設備や食事も含めて選ぶ 宿の種類 ホテルと旅館の違いも参考に

予約の前に宿へ聞けること、現地で見ること

公式サイトの表記が分かりにくいときは、予約の前に宿へ尋ねる方法があります。聞く内容は3つです。浴槽ごとの加水・加温・循環の有無、新湯が1分間にどれくらい入っているか、掲示の分析年月日です。現地では、脱衣所の掲示を最初に見ます。

私は、最近は日帰り入浴の施設でも、入る前に掲示を探すようになりました。掲示の項目は神戸市のように様式を公開している自治体もあるほど決まった形なので、読み慣れると短い時間で確認できます。2026年10月時点でこれから温泉に行く人も、同じ手順で確かめられます。

よくある誤解

「あふれていれば、かけ流し」は誤解

協会の用語解説には、あふれさせながら一部を循環ろ過する「放流・循環併用式」があります。あふれている状態は、かけ流しの条件の一部にすぎません。

「源泉かけ流しなら、お湯にまったく手を加えていない」は誤解

協会の解説では、源泉かけ流しは加水できませんが、加温については公正取引委員会が可能という見解を示していると紹介されています。何も手を加えていないことを示す言葉は、「源泉100%かけ流し」です。

「循環ろ過は偽物の温泉」は誤解

温泉かどうかは、温泉法第2条の別表で、25℃以上か、19種類の物質のどれかを満たすかで決まります。浴槽でどう使うかは、温泉であるかどうかとは別です。循環ろ過の浴槽も、温泉を使っていて、その旨と理由を掲示する形になります。

まとめ:源泉かけ流しとは何かを、掲示で確かめる

「源泉かけ流し」は、温泉法の用語ではなく、日本温泉協会が説明している言葉です。新湯を常時注いであふれさせ、その湯を戻して再利用しない状態を指します。加水はできず、加温の扱いは協会の解説と公正取引委員会の見解で整理されています。

お湯に手を加えたかどうかは、掲示の5項目(加水・加温・循環・入浴剤・消毒)で分かります。浴槽があふれているかどうかや、宿の表記だけでは決まりません。判断の手順は、言葉の意味を知り、掲示を読み、必要なら宿へ聞く、の順です。

循環ろ過は、湯を使い回す方式で、検査・換水・消毒の基準が数字で決められています。どちらを選ぶかは、お湯の新しさを重視するか、設備や食事も含めて選ぶかで変わります。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。