製油所への攻撃でなぜ軽油が足りなくなるのか|原油を蒸留して燃料を分ける仕組み

ニュースで「ロシアの製油所への攻撃で、ディーゼル燃料が足りなくなっている」と聞いて、少し引っかかった人もいると思います。足りなくなるのは原油ではなく、なぜ燃料なのか。しかも、ガソリンではなく軽油なのはなぜなのか。私も最初は、原油さえあれば燃料は作れるものだと思っていました。

この記事では、製油所の中で原油がどう分けられ、なぜ特定の燃料だけが足りなくなりうるのかを、公的資料と報道で確かめられた範囲で整理します。2026年10月時点の内容です。

  • 原油はそのままでは使えず、製油所の蒸留装置で温度ごとに分けて初めて燃料になる
  • ガソリン・灯油・軽油は一緒にできる連産品で、軽油だけを自由に増やすことはできない
  • 製油所が止まると、原油があっても燃料は出てこない
  • ロシアは世界第2位のディーゼル輸出国で、供給減は世界の値段に響く
  • 日本の軽油がどうなるかは、この記事の資料だけでは判断できない
目次

軽油が足りなくなるのは、原油ではなく製油所が止まるから

報道で確かめられていること

CNNの報道によると、トランプ米大統領は2026年9月13日、ウクライナのゼレンスキー大統領に対し、ロシアのディーゼル燃料(軽油)を標的にするのをやめるよう求めました。ウクライナは長距離ドローンでロシアの燃料インフラを狙い、大規模な処理施設への攻撃で石油精製能力を大きく下げている、とも伝えられています。

ここで押さえたいのは、攻撃の是非ではありません。報じられているのは、原油の産地や油田ではなく、精製する施設が標的になっているという点です。この記事は、どちらの側が正しいかは扱わず、燃料ができる仕組みだけを説明します。

原油と燃料は、別のものです

原油は、地下から汲み上げたままの黒っぽい液体です。そのままエンジンに入れても動きません。製油所で分けて、性質をそろえて、初めてガソリンや軽油になります。

日本は、この原油の9割以上を中東から輸入しています(資源エネルギー庁の資料)。原油の調達が止まりかねない話は、ホルムズ海峡が世界で重要視される理由の記事で整理しています。今回のニュースはそれとは別の場所、つまり原油を燃料に変える工程で起きている話です。

原油はどうやって燃料に分けられるのか

原油を蒸留して燃料に分ける製油所の蒸留塔と配管
Photo by Christian Harb on Unsplash

温度の違いを使って分ける

製油所の中心にあるのが、常圧蒸留装置です。大気圧のもとで原油を加熱し、沸騰する温度の違いで成分を分けます。ガソリン、灯油、軽油、重油といった石油製品は、この装置から出てくる留分が元になります。

経済産業省の資料では、主な石油類の沸点が次のように示されています。

製品 沸点の目安 位置づけ
ガソリン 40〜120℃ 軽い成分。蒸発しやすい
灯油 185〜285℃ 中くらいの成分
軽油 190〜350℃ 灯油より重い側まで広がる
※経済産業省「主な石油類の物性値」より。沸点は製品の範囲を示す目安です。

表のとおり、ガソリンは低い温度で蒸発し、軽油はもっと高い温度まで液体のまま残る成分です。この温度差が、装置で分けるときの手がかりになります。

この装置は、製油所でいちばんエネルギーを使います

意外なことに、原油を沸騰させて分ける常圧蒸留装置は、製油所の中でエネルギー使用量がいちばん多い装置だと、ENEOSの技術誌が説明しています。製油所の心臓部は、巨大な「お湯を沸かす装置」でもあるわけです。

製油所の規模も、この常圧蒸留装置の処理能力で表されます。ENEOSの場合、原油処理能力は1日あたり142.5万バレルで、200リットルのドラム缶に換算すると約113万本分です(2016年の記載)。日本全体の原油処理量の36%にあたるとされています。

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ガソリンも軽油も、一緒にできてしまう「連産品」

軽油だけを増やしたくても、そうはいきません

資源エネルギー庁の調査報告は、製油所では原油を精製することで、ガソリン、ナフサ、灯油、ジェット燃料、軽油、重油などが、ある一定の比率で同時にできると説明しています。こうした製品を「連産品」と呼びます。

牛を一頭さばくとき、ステーキ用の部位だけを増やすことはできません。製油所の事情はそれに似ています。ある原油を蒸留すれば、軽油にあたる成分は、その原油が持っている分だけ出てきます。需要が増えたからといって、軽油だけを倍にはできません。

資源エネルギー庁も、調達する原油を工夫したり、残油を処理する装置の能力を増やしたりして、特定の製品の取れる割合を変えることはあると述べています。ただし、それは「ある程度変える」にとどまります。

原油が違えば、取れる割合も違います

製品ごとの生産比率は「得率」と呼ばれます。OANDAの解説では、米国のWTI原油ではガソリンの得率が約55%にもなるとされています。原油によって、軽い成分が多いか重い成分が多いかが違うためです。

ガソリン・灯油・軽油は無色透明に近いため「白油」、重油などは黒いため「黒油」と呼ばれ、灯油・軽油・A重油は総称して「中間三品」と呼ばれます。軽油は、その中間三品のひとつです。

ナフサも同じ蒸留から出てきます

蒸留で出てくる留分のひとつ、ナフサは、燃料だけでなくプラスチックなどの原料にもなります。この流れは石油がプラスチックになる製造の仕組みの記事で詳しく説明しています。製油所が止まると、燃料だけでなく、こうした原料の供給にも影響しうる点は覚えておいてよいと思います。

原油が燃料になるまでの流れ

原油
タンカーなどで輸入
→
常圧蒸留装置
沸点の違いで分ける
→
ガソリン・灯油・軽油など
連産品として同時にできる
→
残った重い油
分解装置で軽い油へ

重い油を軽い油に変える装置があります

蒸留だけでは、重い油が余ります

原油には、蒸留しても軽い製品にならない重い成分も含まれます。これを「残油」と呼びます。資源エネルギー庁の調査報告では、残油を処理して、輸送用燃料などの白油を作る装置群を「残油処理装置」と呼び、その装備率(残油処理装置群の能力÷常圧蒸留装置の能力)が製油所の高度さを表す指標のひとつになっています。

高度な製油所ほど、同じ原油から多くの燃料が取れます

ENEOSの技術誌には、重質油を原料とする溶剤脱れき装置を鹿島製油所に導入し、そこで得られる脱れき油を既存の流動接触分解装置の原料とすることで、安い重質油からガソリンや軽油を効率よく作れるようになったとの記載があります。重い油を、価値の高い軽い油に変える工程です。

つまり、製油所の能力は蒸留塔1本の大きさだけでは決まりません。蒸留した後に続く複数の装置がそろって、はじめて軽油が増えます。攻撃を受けて止まる設備が1つ増えるごとに、その先の製品も止まります。

ロシアの製油所のニュースで、何が起きていると報じられているか

製油所が止まると足りなくなるディーゼル燃料の給油機
Photo by Studio Pizza on Unsplash

世界第2位のディーゼル輸出国です

CNNは、海運情報会社ケプラーの情報として、ロシアは米国に次ぐ世界第2位のディーゼル輸出国だと伝えています。自国だけでなく、輸出向けの軽油も作っている国の製油所が止まれば、世界の売り手が減ります。

値段に表れた数字

同じ報道では、世界の原油価格が一時1バレル108ドルに上昇し、米国のディーゼル価格が9月11日に初めて1ガロン6ドルを超えたとされています。イランとの戦争が続く中でエネルギー価格が上がっていた局面で、軽油の不足感が加わった形です。

トランプ大統領は「これは中東が原因ではない。ロシアとウクライナで起きていることが原因だ」と発言したと報じられています。ここでは発言を紹介するにとどめます。値上がりの要因が複数あることは、報道からも読み取れます。

どうしてガソリンより軽油なのか

この点については、手元の資料では「ロシアの製油所で軽油の比率が特に高いから」といった裏付けは確認できませんでした。分かっているのは、報道で大規模な処理施設が標的とされていること、ロシアが軽油の大きな輸出国であることまでです。その先は推測になるので、書かないでおきます。

日本の製油所は足りているのか

処理能力は、2000年度から減ってきました

資源エネルギー庁の2014年の調査報告によると、日本の原油処理能力(常圧蒸留装置の能力)は、国内石油需要がピークだった2000年度の535万バレル/日から、2014年度には395万バレル/日へ減りました。2000年度比で26.3%減です。割り算で確かめると、395÷535≒0.74、つまり約74%に縮んだことになります。

需要も減っています。同じ報告では、2013年度の国内石油需要は2000年度比で20.4%減の1億9352万klで、油種別では軽油が18.4%減、灯油が40.2%減、A重油が54.5%減とされています。ガソリン、ナフサ、ジェット燃料、軽油の割合が増え、重油の割合が縮む「白油化」が進んだ、というのが報告の見立てです。

この数字は2014年のものです。現在の処理能力や需給は別に確かめる必要があり、ここでは「製油所の数や規模は、需要に合わせて動いてきた」という流れの確認にとどめます。

製油所があるかどうかで、影響の受け方が変わります

経済産業省の2026年の資料には、アジア各国の石油備蓄と輸入状況が載っています。フィリピンはガソリン・ディーゼルの約7割を、ベトナムは約3割を輸入していると記されています。一方、タイや韓国は、日本と同じように製油所が充実し、原油輸入が中心だとされています。

製品を輸入に頼る国は、世界のディーゼル市況の変化がそのまま入ってきます。製油所を持つ国は、原油さえ入れば自分で作れる反面、原油の調達先と製油所の両方に気を配る必要があります。

日本の軽油への影響は、この記事では判断していません

日本が今後、軽油の価格や供給でどう影響を受けるかは、国内の備蓄、輸入先、為替など多くの要素で決まります。手元の資料からは言い切れないため、最新の価格はガソリン価格が決まる仕組みの考え方とあわせて、資源エネルギー庁などの公表で確認してください。

この仕組みの弱点と、分からないこと

製油所は、1か所止まると代わりが利きにくい

製油所は、蒸留装置から分解装置まで続く大きな設備の集まりです。1か所が止まったとき、ほかの製油所が同じ種類の製品をすぐ埋められるとは限りません。ほかの製油所に余力が少ないほど、影響は大きくなると考えられます。これは資料の数字ではなく、仕組みからの私の見立てです。

数字で確かめられていない点

攻撃を受けた施設の数や、止まっている処理能力の正確な値は、報道によってばらつきがあります。この記事では、報道で複数の確認が取れなかった数字は載せていません。「どれだけ減ったか」は、公的な発表や信頼できる報道で更新を追ってください。

製油所のニュースを読むときの判断基準

見るべき3つのポイント

製油所のニュースに出会ったら、次の3点を見ると状況が読みやすくなります。

  • 止まったのは原油の産地か、製油所か(原油の問題か、精製の問題か)
  • 止まった製品は何か(ガソリンか、軽油か、ナフサか)
  • その国は製品の輸出国か、輸入国か(世界の市況に響くか、国内で完結するか)

家計で気にする人と、仕入れる側で気にする人

自家用車でガソリンを入れる人は、軽油の不足がすぐ家計に響くわけではありません。私自身は車を持っていないので、軽油を入れる機会はありません。それでも、運ぶ荷物の値段や、ディーゼルエンジンを使う仕事の経費には、間接的に表れうると考えています。

運送や建設など、軽油を大量に使う仕事に関わる人は、仕入れ値の動きを毎週確認するのが現実的です。数字は日ごとに変わるので、資源エネルギー庁の石油製品価格調査などの公表と照らして判断してください。

よくある誤解

原油があれば、燃料はいくらでも作れるのでは?

作れません。原油を燃料にするには、製油所の蒸留装置と、その先の処理装置が必要です。原油があっても、製油所が止まれば燃料は出てきません。

軽油だけ足りなければ、軽油だけ増産すればよいのでは?

ガソリン・灯油・軽油は連産品で、一緒にできます。原油の種類や装置の組み合わせで割合をある程度変えられますが、軽油だけを自由に増やすことはできません。

日本は原油を輸入しているから、ロシアの製油所は無関係では?

直接の関係は小さくても、軽油は世界で取引される商品です。ロシアが世界第2位の輸出国という点から、世界の市況を通じて価格に影響が及ぶ可能性はあります。ただし、日本の軽油にどの程度響くかは、この記事では確認できていません。

まとめ:製油所のニュースは、原油と燃料の間を読む

軽油が足りなくなるのは、原油がなくなったからではなく、原油を燃料に変える製油所が止まるからです。原油は蒸留で温度ごとに分かれ、ガソリン・灯油・軽油は連産品として同時にできるため、1つの製品だけを簡単には増やせません。

ロシアは世界第2位のディーゼル輸出国と報じられており、製油所の稼働が下がると、世界の価格にも響きます。日本の軽油への影響は、確認できる範囲では判断できません。最新の状況は、資源エネルギー庁や各報道の更新で確認してください。

私は、ニュースで「製油所」という言葉を見たら、原油の話か、精製の話かをまず分けて考えることにしました。次にガソリンスタンドの価格表示を見るときは、その向こうにある蒸留塔のことも思い出すと思います。

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📚 参考文献・出典

📖 この記事について 本記事は、エネルギーや暮らしの“仕組み”を知るための読み物です。投資や事業の判断を示すものではなく、国際情勢の是非を論じるものでもありません。2026年10月時点の公表資料と報道にもとづいており、価格や供給の状況は日々変わります。最新の情報は資源エネルギー庁などの公表でご確認ください。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。