満席のはずの飛行機で「座席が足りないので、次の便に変更してくれる方はいませんか」と呼びかけられることがあります。ホテルでも、予約したのに「お部屋が用意できません」と言われる話を耳にします。どちらも、予約を受けすぎるミスではありません。来ない人が一定の割合でいることを見込んで、意図的に定員より多く売っています。これがオーバーブッキング(過剰予約)です。
2026年9月6日には、航空会社の過剰予約で搭乗できなかった旅客数の集計を、国土交通省がやめていたと報じられました。この記事では、なぜ定員より多く売るのか、何枚まで売れば得なのかを、ANAの公式発表とモデル宿泊約款で確かめた事実と、私が自分で計算した数字で整理します。2026年10月時点の情報です。
- 航空会社もホテルも、予約しても来ない人を見込んで定員より多く売っている
- ANAは2001年の発表で、予約しながら来ない人が年間約200万人、20人に1人と説明している
- 100席に5%が来ない前提で計算すると、103枚売ると空席の期待値は5.0席から2.3席に減り、席があふれる確率は10.6%になる
- ホテルはモデル宿泊約款の第14条で、客室を提供できないときの扱いを決めている
オーバーブッキングは売りすぎではなく空席を減らす設計です
私は飛行機に乗るのが年に1回あるかどうかで、座席が足りなくなる場面は、事務のミスで起きるものだと思っていました。航空会社の発表を読むと、順番が逆でした。足りなくなる可能性を承知のうえで、あえて多めに売っています。
来ない人が年間約200万人いる
ANAは2001年5月の発表で、予約をしながら空港に来ない客が年間約200万人いると説明しています。実際の搭乗者数と比べると、20人に1人です。この席は、売らなければそのまま空席で飛びます。
そこでANAは、一部の便で座席数より多い予約を受け付けることがある、と書いています。目的は、実際に乗りたい人に座席を回すことです。
席が足りなくなるのは2万人に1人
同じ発表には、座席管理には細心の注意を払っているが、2万人に1人のお客様には次便などへの変更をお願いしている、とあります。20人に1人が来ないのに、実際に困るのは2万人に1人です。この差は、見込みの精度から生まれています。
運賃が日ごとに変わる理由も、同じ収益管理の考え方でつながっています。航空券の価格が毎日変わる仕組みの記事で書いたブッキングクラスは「どの席を、いくらで、何枚売るか」を決める仕組みで、過剰予約は「全体で何枚売るか」を決める部分にあたります。
協力金で自分から降りる人を募る
席があふれたとき、ANAが最初にするのは指名ではなく募集です。次便などに自主的に協力する客を、出発空港で募ります。協力した客には、振替日が当日なら10,000円、翌日以降なら20,000円の協力金と、代替の交通手段が提供されます。翌日以降になる場合は宿泊なども付きます。会員が事前に登録していれば、協力金の代わりに7,500マイル(翌日以降は15,000マイル)を選べます。
100席に何枚まで売るかを計算する
では、何枚まで売れば得なのでしょうか。2001年のANAの数字だけでは分からないので、自分で計算しました。置いた前提は2つです。席は100、予約した人はそれぞれ独立に5%の確率で来ない(ANAの「20人に1人」を使いました)。
| 売る枚数 | 席があふれる確率 | 空席の期待値 | 次便をお願いされる割合 |
|---|---|---|---|
| 100枚 | 0% | 5.0席 | 0人 |
| 101枚 | 0.6% | 4.1席 | 約17,000人に1人 |
| 102枚 | 3.4% | 3.1席 | 約2,500人に1人 |
| 103枚 | 10.6% | 2.3席 | 約680人に1人 |
| 104枚 | 23.1% | 1.6席 | 約270人に1人 |
| 105枚 | 39.2% | 1.0席 | 約130人に1人 |
| ※100席・各予約者が独立に5%の確率で来ないと仮定した、二項分布による筆者の計算。席があふれる確率は「その便で1人以上が席を超える確率」、次便をお願いされる割合は「あふれる人数の期待値÷実際に来る人数の期待値」で計算しています。 | |||
ANAの「2万人に1人」は、1枚上乗せした程度に近い
表を見ると、101枚売ったときに次便をお願いされる割合は約17,000人に1人です。ANAが書いている2万人に1人は、この計算ではほぼ「1枚だけ上乗せ」に相当します。5%も来ないのに、売り増しはごく控えめということになります。
正直、これは意外でした。「20人に1人が来ない」という数字だけを見ると、5枚くらい余分に売っても平気そうに見えます。実際は105枚売ると、100席の便で39.2%の確率で誰かが席を超えます。来ない人の数にはぶれがあるので、見込みどおりの人数しか欠けない日のほうが少ないのです。
運賃を仮に1万円とすると、損得はどうなるか
運賃を仮に1万円として、103枚売った場合を比べます。空席の期待値は5.0席から2.3席に減り、埋まる席が2.71席増えるので、増収の期待値は2.71×10,000円=27,100円です。一方、席があふれる人数の期待値は0.144人で、当日の協力金10,000円を全員に払うとしても0.144×10,000円=約1,440円です。代替便の座席や翌日振替の宿泊費は含めていませんが、桁が違うので、売り増しが成り立つことは分かります。
ただし、これは平均の話です。あふれた日は、協力者が見つからなければ、航空会社が追加の補償や対応を迫られます。平均で得でも、1回あたりのトラブルは大きい。だから「何枚まで」は、収益の計算に加えて、あふれたときの手間と評判まで含めて決めることになります。
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ホテルは約款で予約超過の逃げ道を決めている
ホテルの客室も、当日売れ残ればその晩の売上は戻りません。仕組みは飛行機と同じです。ただし、ホテルの直前キャンセルや無断不泊の割合は、公的な数字を確かめられませんでした。そのため、飛行機の5%を当てはめた計算は、ホテルについてはしていません。
確かめられたのは、観光庁が示すモデル宿泊約款の条文です。ホテルや旅館が個別に定める約款の雛形で、最終改正は令和5年12月13日です。実際の約款は施設ごとに違うので、予約するときは自分が泊まる宿の約款を見る必要があります。
客室を提供できないときは、他の宿を探す約束になっている
第14条は、契約した客室を提供できないときの取扱いを決めています。ホテルは宿泊客の了解を得て、できる限り同一の条件による他の宿泊施設をあっ旋します。他の宿泊施設のあっ旋もできないときは、違約金相当額の補償料を宿泊客に払います。ただし、客室が提供できないことについてホテルの責めに帰すべき事由がないときは、補償料は払いません。
ここで大事なのは、「他の宿を探す」が最初の約束で、金銭補償はその次だという順番です。飛行機は先に協力者を募って金額を提示しますが、ホテルは代わりの宿を用意することから始まります。
申込金は来ない人を減らすための仕組み
第3条は、宿泊契約が成立したときに、宿泊期間(3日を超えるときは3日間)の基本宿泊料を限度に、ホテルが定める申込金を払うことを定めています。申込金は、最終的に払う宿泊料金に充てられ、キャンセルのときは違約金に先に充てられます。
払ったお金があれば、人は行く可能性が高くなります。来ない人を減らすことは、予約超過の事故を減らすことにつながっています。
連絡なしで到着しないと、契約が解除されたとみなされる
第6条の第3項は、宿泊客が連絡をしないで宿泊日当日の所定の時刻になっても到着しないとき、その宿泊契約は宿泊客により解除されたものとみなして処理することがある、と定めています。到着が遅れるときに電話一本入れる、という行儀の話に見えて、実は部屋の再販売に直結するルールです。
ホテルと旅館の施設としての違いを知りたい方は、ホテルと旅館の違いの記事も参考になります。
飛行機とホテルの予約超過を並べて比べる
| 項目 | 飛行機(ANA国内線) | ホテル(モデル宿泊約款) |
|---|---|---|
| あふれたときの最初の対応 | 空港で次便などに協力する人を募る | 了解を得て同一条件の他の宿をあっ旋する |
| 金銭の扱い | 協力金10,000円(翌日以降は20,000円) | あっ旋できないときは違約金相当額の補償料 |
| 補償が出ない場合 | 天候や震災などによるときは制度の対象外 | ホテルの責めに帰すべき事由がないとき |
| 来ない客への備え | 来ない客が年間約200万人(20人に1人)と見込む | 申込金・連絡なしの不着はみなし解除 |
| ※ANAの数字は2001年の発表、ホテルは観光庁のモデル宿泊約款。実際の取扱いは各社・各施設の約款で異なります。 | ||
飛行機は金額がはっきり決まっていて、ホテルは「代わりの宿」が先に来ます。どちらも、客が自分で選ぶ余地は小さくありません。ただしホテルの補償料は「違約金相当額」と書かれているだけで、具体的な金額は個々の約款の別表で決まります。ここは数字を確かめられませんでした。
国交省が集計をやめたことで見えなくなるもの
先に書いた2026年9月6日の報道に戻ります。秋田魁新報の記事によると、オーバーブッキングで搭乗できなかった旅客数の集計を、国交省がやめていたことが分かりました。この集計は、望まない便の振り替えが過度に増えないよう見張る制度だった、と説明されています。
国交省の説明と専門家の指摘
国交省の航空事業課は「これまで過剰予約により利用者の利便性を損なう事例は確認できなかった」と説明しています。航空経営研究所の橋本安男主席研究員は、「顧客にとってどの航空会社で過剰予約が多いかは知っておいて損はない情報だ」と指摘し、情報公開は制度自体のPRにもなると、集計の必要性を訴えています。
どちらの意見にも理があります。ただ、私は見出しを読んで、まず数字を確かめたくなりました。集計されていた人数そのものを、確かめられる範囲の公開資料から見つけることはできませんでした。見張る数字がなくなったので、これからは航空会社の運用を外から確かめにくくなります。
私たちが確かめられる数字はどこにあるか
読者が自分で確かめられる情報は、航空会社の運送約款と、各社が公表している協力金の額、そして空港での呼びかけの条件に限られます。ANAの2001年の発表のように、実際の人数や割合を公式に書いている資料は、あまり見つかりませんでした。数字が見えない状態で、「うちの便は大丈夫か」を事前に判断する方法はありません。
予約超過のデメリットと注意点
席が足りなくなった日は、振替で時間を失う
平均では得な仕組みでも、あふれた日の被害は、振替をお願いされた個人に集中します。当日の振替なら数時間、翌日以降なら半日から1日を失います。ANAの協力金は、その時間への対価です。翌日以降の振替で10,000円と20,000円の差があるのは、失う時間が大きくなるからでしょう。
協力は義務ではないが、条件がある
ANAの発表には、事前に登録していても出発当日に空港で協力する義務は発生しない、と書かれています。協力できるのは、当該便の予約を持っていること、出発時刻の20分前までに航空券を購入していること、出発時刻の15分前までに搭乗手続きを求めていること、の3つを満たす客に限ります。遅れて空港に着いた人は、この制度の対象になりません。
この計算が現実と違うところ
先の表は、全員が独立に5%の確率で来ないという単純な前提です。実際は、家族やグループで予約した人は、まとめて来なくなります。曜日、季節、路線によっても来ない割合は変わります。5%という数字そのものも、2001年の発表の値です。表は仕組みを理解するための練習で、今の各社の実際の運用を示すものではありません。
協力するか断るかを決める判断の目安
飛行機で呼びかけられたとき
まず、自分の予定を見ます。振替先の便が当日か翌日以降か、目的地での予定は動かせるか、が分かれ目です。当日の振替で10,000円なら、乗り継ぎや待ち合わせの予定がない日帰り出張や帰省の客は、悪くない条件に見えます。逆に、結婚式や試験のように遅れられない予定があるときは、断って構いません。協力は義務ではないからです。
ANAの2001年のアンケート(回答数約12,000名)では、時間に余裕があれば協力してもよいという回答が70%、協力金の額によっては協力してもよいという回答が21%でした。合わせて9割以上が、場合により協力する意思を示しています。
ホテルで部屋がないと言われたとき
モデル宿泊約款の第14条に沿うなら、ホテルは了解を得て同一の条件の他の宿を探します。確認したいのは、代わりの宿の場所と、送迎や移動費をどちらが持つのか、です。宿に着いてから動く余裕はないので、予約したホテルには、到着が遅れるときに先に連絡しておくほうが安全です。第6条の第3項にあるように、連絡のない不着は解除として扱われることがあります。
オーバーブッキングのよくある誤解
オーバーブッキングは予約ミスで起きるのですか?
いいえ。ANAの2001年の発表は、来ない客の席を実際に利用したい人に回すため、一部の便で座席数より多い予約を受け付けることがある、と説明しています。ミスではなく、意図した売り方です。
予約超過になったら、必ず次の便に回されるのですか?
いいえ。ANAの制度は、自主的に協力する客を募る方式です。協力は義務ではなく、出発当日に空港で応じるかどうかは客が決めます。2001年の発表では、次便などへの変更をお願いする客は2万人に1人でした。
ホテルが満室なら、宿泊は断られて終わりですか?
いいえ。モデル宿泊約款の第14条は、契約した客室を提供できないとき、ホテルが了解を得て、できる限り同一の条件による他の宿泊施設をあっ旋すると定めています。あっ旋できないときは、違約金相当額の補償料が払われます。ただし、各ホテルの約款が優先します。
まとめ:予約超過の仕組みを知って旅の予定を組む
オーバーブッキングは、来ない人を見込んで、定員より少し多く売る仕組みです。ANAの発表では、来ない客は20人に1人で、席が足りなくなる客は2万人に1人でした。私の計算では、100席に101枚売るくらいの控えめな売り増しです。
ホテルは、モデル宿泊約款の第14条で、客室を提供できないときの扱いを決めています。まず他の宿のあっ旋、それが無理なら補償料という順番です。飛行機とホテルのどちらも、自分の予約の約款を一度読んでおくと、慌てずにすみます。
国交省は搭乗できなかった旅客数の集計をやめましたが、数字が見えなくなっても、仕組みは変わりません。予定に余裕のある日は協力して対価をもらい、動かせない予定のある日は断る。その判断を自分でできることが、この仕組みを知る一番の利点だと思います。最新の取扱いは、各航空会社・宿泊施設の公式案内でご確認ください。
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📚 参考文献・出典
- ・ANA「『フレックストラベラー制度』を6/1より国内線に導入!!」(2001年5月9日・第01-028号) https://www.ana.co.jp/pr/01-0406/01-028.html
- ・秋田魁新報「航空過剰予約、国交省が集計廃止 客に『支障なし』、透明性課題に」(2026年9月6日) https://www.sakigake.jp/news/article/20260906CO0042/
- ・観光庁「モデル宿泊約款」(最終改正 令和5年12月13日) https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001747987.pdf
📖 この記事について 本記事は、予約超過の仕組みを知るための読み物です。補償の可否や金額を保証するものではありません。2026年10月時点の公開資料にもとづいています。実際の取扱いは各航空会社・宿泊施設の約款と公式案内でご確認ください。










































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