忘却曲線は本当に1日で7割忘れると言っているのか|エビングハウスの実験と復習間隔の仕組み

エビングハウスの忘却曲線を調べると、「人は1日たつと7割近くを忘れる」という説明がよく見つかります。私もそう理解していました。ところが論文の表を開くと、あのグラフの縦軸は「忘れた割合」ではなく、「覚え直すときに手間がどれだけ減ったか」を表す数字でした。

この記事では、2015年に実験をやり直した論文(PLOS ONE)、復習の間隔を1,354人で調べた論文(Psychological Science、2008年)、読み直しと思い出すテストを比べた論文(同2006年)の3本を原典として読みます。2026年10月時点で誰でも開ける公開資料です。当サイトの短期記憶と長期記憶の違いを整理した記事でも1日後に約7割を忘れるという説明を紹介しました。ここでは同じ話を、原典の数字で確かめ直します。

  • 忘却曲線の縦軸は「節約率」で、忘れた割合そのものではない
  • エビングハウスの実験は、無意味な音節の列を使った本人1人の記録
  • 2015年の再現実験でも曲線は再現されたが、24時間後に上向く点が見つかった
  • 復習に最適な間隔は、試験までの期間によって変わる
  • 1週間後には、読み直しより思い出すテストのほうが多く残った
目次

「1日で7割忘れる」は節約率の読み替え

グラフが測っているのは「節約率」

1885年にエビングハウスが発表した実験では、覚えた内容をあとで「覚え直す」ときの手間を測っています。2015年の再現論文は、この指標を節約率と呼び、「2回目の学習で、前に学んだ分だけ節約できた手間の割合」と定義しています。論文の例はこうです。最初に25回の繰り返しで覚えたリストを、1日後には5回少ない繰り返しで覚え直せたとします。5回ぶんの手間が省けたので、節約率は5÷25=0.2です。

節約率の計算例(再現論文の説明にもとづく)

最初の学習
25回で覚える
→
1日後に再学習
5回ぶん少なく済む
→
節約率
5÷25=0.2

節約率が1なら覚え直しの手間がゼロで済んだ状態、0なら最初と同じだけの手間がかかった状態です。「どれだけ忘れたか」を直接数えた数字ではないことが、ここで分かります。

節約率を裏返して読むと、忘れた割合のように見える

エビングハウス本人の1日後の節約率は0.337でした。これを「残った割合」と見なして裏返すと、1−0.337=0.663で、およそ3分の2が消えたことになります。同じ読み方を20分後と1時間後に当てはめると、1−0.582=0.418と1−0.442=0.558です。解説記事でよく見る「20分で4割、1時間で5割台後半を忘れる」という数字と一致します。「1日で7割近くを忘れる」という言い方も、この裏返しを丸めたものと考えられます。ただ、論文はその読み方を勧めていません。節約率が0.337というのは、覚え直しの手間が3分の1ほど減ったという意味です。

見出しの印象は強いのに、元の表はずいぶん地味でした。私は「脳の記憶がごっそり消える」図を想像していたので、少し拍子抜けしました。

エビングハウスの実験は、無意味な音節を使った1人の記録

13音節の列を、2回続けて言えるまで覚える

再現論文によると、エビングハウスの基本の材料は、意味のない音節を13音節ぶん並べた「列」でした。列を覚えるとは、正しい順序で2回続けて言えるようになるまで繰り返すことです。意味のある単語や詩を使うと、頭の中で意味や連想が生まれて測定がぶれます。そこで彼は、意味を持たない音節を使いました。

被験者は本人ひとりだけ

同じ論文は、エビングハウスが報告した実験のすべてで、被験者は自分自身だけだったと書いています。記憶の研究には1人を深く調べる設計もありますが、私は大学のゼミ(社会調査法)で「n=1の結果は一般化しない」と教わった側の人間です。人数だけで見ると、この曲線を全員の話として読むのは慎重でありたいところです。

実験の結果は、次の表のとおりです。再現論文の表に載っている、エビングハウスの節約率です。

覚えてからの時間 節約率 棒グラフ(1=手間ゼロ)
20分 0.582
1時間 0.442
9時間 0.358
1日 0.337
2日 0.278
6日 0.254
31日 0.211
※出典:Murre & Dros(2015)Table 3のエビングハウスの値(9時間は論文の注で補足されている間隔)。棒グラフの長さは節約率に合わせて描いたもの。

この表で目につくのは、下がり方の偏りです。最初の1時間で、20分後の0.582から0.442へ0.582−0.442=0.140下がります。1日後の0.337から31日後の0.211までは、30日かけて0.337−0.211=0.126しか下がりません。急に落ちてから、ゆるやかに長く残る形です。「忘却曲線」と聞いて思い浮かべる、急降下したあと横ばいになる曲線は、この偏りを描いたものです。

復習のとき、いちばん多いやり方はどれですか?

  1. 教科書やノートを読み返す
  2. 問題を解く
  3. 白紙に書き出す
  4. あまり復習しない

📊 これまでの読者投票の結果(当サイト調べ・17票)

問題を解く:29%
教科書やノートを読み返す:24%
白紙に書き出す:24%
あまり復習しない:24%

2015年の再現実験で、24時間後に曲線が上向いた

被験者1人、70時間をかけた追試

2015年、MurreとDrosがこの実験をやり直しました。論文の要約によれば、被験者は1人(22歳の男性で、共著者のDros)で、合計70時間を使ってリストを覚え、20分、1時間、9時間、1日、2日、31日後に覚え直しました。1つのリストは104個の音節で、13音節の列が8行並んだものです。結果は、エビングハウスの元のデータと似た形になりました。2015−1885=130年たっても、再現できたわけです。

9時間後より、1日後のほうが高い

Drosの節約率は、20分後が0.472、1時間後が0.373、9時間後が0.276でした。ここまでは下がる一方です。ところが1日後は0.317で、9時間後より0.317−0.276=0.041高くなり、2日後に0.230へ下がります。論文は、曲線は完全になめらかではなく、おそらく24時間の地点から上向きの「ジャンプ」を示すと結論しています。

私は、時間がたつほど単調に下がる線だと思い込んでいました。実験では、1日後のところで少し持ち直しています。同じ論文は、この上向きを睡眠の効果とする研究者がいると紹介したうえで、睡眠そのものが原因だとまでは結論できないとも書いています。眠ると記憶が整理される、という話はよく聞きますが、この実験だけでは言えない、という慎重な書き方です。

似ているのは形で、数字まで同じではありません。31日後の節約率は、エビングハウスが0.211、Drosが0.041でした。差は0.211−0.041=0.170です。1人の記録を1人が再現した結果なので、この差が個人差なのか、学習の方法の違いなのかは、論文を読んでも決められません。

復習はいつするべきか|1,354人の実験から

間隔は、空けるほど良いわけではない

では、いつ復習すればよいのでしょうか。2008年に発表されたCepedaらの論文は、1,354人にインターネット上で雑学的な事実を教え、最長3.5か月の間隔をあけて復習させ、最後に最長1年後のテストを行いました。結果は、復習までの間隔を空けると最初は成績が上がり、そのあと少しずつ下がっていくというものでした。空けすぎると、逆効果になります。

最適な間隔は、テストまでの期間の割合で決まる

最適な間隔は、最後のテストまでの期間が長いほど長くなります。ただし、期間に対する割合で見ると小さくなります。論文によれば、最適な間隔はテストが1週間後なら期間の約20〜40%、1年後なら約5〜10%でした。日数に直すと、次のとおりです。

最後のテストまで 最適な間隔の割合 日数に直すと(自分で計算)
1週間 約20〜40% 7×0.2=1.4日から、7×0.4=2.8日
1年 約5〜10% 365×0.05=約18日から、365×0.1=約37日
※出典:Cepeda et al.(2008)の要約。日数は割合に日数をかけた概算。

「復習は翌日に」「3日後、1週間後に」といった決まった日付の説明を見かけますが、この論文が示したのは日付ではなく割合です。1週間後に試験があるなら、最初の学習から1.4〜2.8日あけて復習するのが最もよく残りました。1年後なら、約18〜37日です。

読み直すより、思い出す練習のほうが1週間後に残った

読み直すより、思い出す練習のほうが1週間後に残った|机に向かってノートに書く学生
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5分後と1週間後で、順位が入れ替わる

もう1つ、復習の中身を比べた実験があります。Roediger & Karpickeが2006年に発表した論文です。学生に文章を覚えさせ、4回の学習時間をどう使うかで3つのグループに分けました。4回とも読み直すグループ(SSSS)、3回読んで1回テストを受けるグループ(SSST)、1回読んで3回テストを受けるグループ(STTT)です。テストは、覚えたことを白紙に書き出す形式でした。

5分後のテストでは、繰り返し読み直したグループのほうが成績は上でした。ところが1週間後は逆転し、STTTが61%、SSSTが56%、読み直しだけのSSSSは40%でした。差は61−40=21ポイントです。

読んだ回数は4分の1なのに

文章を読んだ回数は、SSSSのグループで平均14.2回、STTTのグループは3.4回でした。14.2÷3.4=約4.2で、読んだ回数は4分の1ほどです。それでも1週間後に残っていたのは、テストを受けたグループでした。論文は、テストを受けることが長期の記憶に強く働くと述べています。

私も大学時代は、試験前に教科書を読み返すほうの人間でした。読み返すと分かった気がするのですが、あの感覚は、1週間後の成績とは別物なのかもしれません。

明日からの復習は、試験日から逆算して組む

明日からの復習は、試験日から逆算して組む|ノートに手で書き出す様子
Photo by Kelly Sikkema on Unsplash

最初に決めるのは、最後のテストの日

Cepedaらの結果は、試験までの距離が先に決まらないと、復習の間隔も決まらないことを示しています。秋のいま、年明けの大学入学共通テストに向けて勉強を始めた人なら、試験までは数か月あります。論文が直接示したのは1週間と1年の2点だけなので、数か月先の最適な間隔について、論文に載った数字はありません。1週間後の20〜40%と1年後の5〜10%のあいだで、期間が長いほど割合が小さくなる、という傾向が目安になります。

2回目の復習は「読む」より先に「思い出す」

復習のたびに、まず教科書やノートを閉じて、覚えたことを白紙に書き出してみます。書けなかった部分だけを開いて確認します。Roediger らの実験でテストを受けたグループは、まさにこの手順でした。読み直しは、書き出したあとで足りない部分を確かめるために使います。

覚え直すときは、ゼロからではなく残りを使う

節約率が0.2でも、覚え直しの手間は減ります。一度やったことは、完全には消えていません。「忘れてしまったからやり直し」と考えるより、「前より少ない手間で戻せる」と考えるほうが、実験の数字には合っています。

忘却曲線についてのよくある誤解

「1日で7割忘れる」と実験が示したのですか?

いいえ。エビングハウスの表にあるのは節約率で、1日後は0.337です。節約率は、覚え直しの手間がどれだけ減ったかを表す数字であり、忘れた割合を直接測ったものではありません。

「復習すれば100%に戻る」のですか?

3本の論文には、そのような結論は書かれていません。再現論文が測ったのは覚え直しに必要な手間で、復習後の記憶量が元に戻るかどうかではありません。

「24時間以内の復習が最適」ですか?

Cepedaらの結果では、最適な間隔は最後のテストまでの期間で変わり、1週間後のテストなら約1.4〜2.8日でした。24時間という日数は、この論文の結論にはありません。

この結果が当てはまらないところ

人数と材料の限界

エビングハウスの実験も2015年の再現も、被験者は1人です。材料も意味のない音節の列でした。教科書の内容や英単語や公式のように、意味を持つ材料で同じ曲線になるとは、これらの論文からは言えません。

実験の題材は、学校の勉強とは違う

Cepedaらが使ったのは、本人たちの言葉でいう「あまり知られていないが本当の事実」でした。Roedigerらの材料は文章です。どちらも実験室で整えた題材で、何か月もかけて数式や読解を身につける勉強とは性格が違います。数字は目安として使い、自分の理解度を見ながら調整するのが現実的です。

数字は割合であって、日付の保証ではない

「約20〜40%」は幅のある値です。1.4日と2.8日で、どちらが自分に合うかは、人や内容で変わります。迷ったら、短い間隔で1回試して、書き出せたかどうかを見て、次の間隔を決めます。

自分に合う復習間隔の判断基準

状況 考え方 根拠
テストが1週間後 学習から1.4〜2.8日後に、白紙に書き出す Cepeda 2008
テストが1年後 学習から約18〜37日後に、1回目の復習 Cepeda 2008
テストが数か月後 論文に直接の値はない。1週間と1年の間と考え、短めの間隔から試す 筆者の判断
読み直しが中心になっている 復習の1回を、閉じて書き出すテストにする Roediger 2006
「忘れた」と感じた ゼロからではなく、覚え直しとして続ける Murre 2015

どの行も、数字は「出発点」にすぎません。同じ1週間後でも、範囲が広い試験と狭い試験では、書き出せる量が違います。1回目の復習で書き出せた割合を見て、2回目を早めるか遅らせるかを決めるのが、実際の使い方になります。

まとめ:忘却曲線と復習間隔について分かったこと

エビングハウスの忘却曲線は、忘れた割合ではなく、覚え直しの手間がどれだけ減ったかを表すグラフです。1日後の節約率は0.337で、「1日で7割近く忘れる」という言い方は、その数字を裏返して読んだものです。実験は無意味な音節を使った本人1人の記録で、2015年の再現実験でも似た曲線が得られましたが、24時間後には上向く動きも見つかっています。

復習の間隔は、試験までの期間で決まります。1週間後なら学習から1.4〜2.8日、1年後なら約18〜37日が、1,354人の実験で最もよく残った間隔でした。復習の中身は、読み直すより、閉じて思い出すほうが1週間後の成績が良くなりました。

この記事の数字は、実験室の題材から得られたものです。自分の勉強に当てはめるときは、試験の日から逆算して最初の間隔を決め、書き出せた量で次を調整してください。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。