夜空を見上げると、無数の星がきらめいています。ところが太陽系の惑星は、まるで「集団行動」をしているかのように、ほぼ同じ“平らな面”に沿って、同じ方向に回っているのです。宇宙には上下や左右の概念がないのに、どうしてこんなにきれいに並んでいるのでしょうか?
実は、その理由を知るには太陽系誕生のドラマにさかのぼる必要があります。
1. 太陽系の惑星は本当に“平面”に並んでいる?

軌道傾斜角(きどうけいしゃかく)と軌道離心率(きどうりしんりつ)
- 軌道傾斜角:基準となる面(公道面と呼ばれ、地球の軌道面が基準)に対して、どれだけ軌道が傾いているかを数値化したもの。
- 軌道離心率:軌道がどれくらい丸いか(円に近いか)を表す値。0に近いほど円に近く、1に近づくほど細長い楕円になります。
たとえば、水星の軌道傾斜角は約7度とやや大きめですが、金星や地球は数度以下。軌道離心率も0に近い値で、どの惑星も「ほぼ円形に近い軌道」を描いています。つまり、数値で見ると「大きく傾いている」わけでも「極端に楕円形」でもないため、結果的に“ほとんど同じ平面”で回っていることがわかるのです。
2. 「公道面」とは何か?

「こうどうめん」とは、本来は地球の天空上での太陽の通り道(行道・王道とも書きます)を指し、昔の人々が“地球を中心”に見たときの名残でつけた名称です。現代では太陽が動いているのではなく、地球が太陽のまわりを公転していることがわかっています。
- 地球の軌道面を基準にしたものが「公道面」と定義されており、その基準面に対して他の惑星が何度くらい傾いているかを測るのが“軌道傾斜角”です。
- 地球自身は公道面とほぼ0度なので、ほかの惑星の傾きの大きさがわかりやすい指標になるわけです。
3. 太陽系の“内側”と“外側”で惑星は違う?

太陽系の惑星を眺めると、太陽に近い順に、水星・金星・地球・火星といった“岩石(がんせき)型”の惑星が並び、その外側に木星・土星・天王星・海王星といった“大きなガス惑星”が位置しています。これは、太陽系が誕生するときに中心の太陽が放った強烈なエネルギーで、軽いガスが外側へ吹き飛ばされた結果だと考えられています。
- 岩石惑星は内側で、それほど大きく育たなかったものの、固い地殻を持つ天体になりました。
- ガス惑星は外側で大量のガスを取り込み、巨大なサイズに成長したのです。
もっと外側を見れば、“冥王星”などの純惑星(準惑星)や小惑星帯なども存在し、これらもおおむね平らな面に分布しています。
4. なぜ同じ方向でほぼ平らな軌道になるのか?

(1) ガスとちりが一か所に集まり回転開始
今からおよそ50億年前、宇宙にはガスやちりが漂っていました。超新星爆発の衝撃など、何らかのきっかけで少し大きな塊(かたまり)ができ、その塊が重力の影響でどんどんガスやちりを集めはじめます。
塊には回転があるため、やがてピザ生地やパンケーキのように押し広げられて平らな円盤になっていきます。この段階で回転方向はほぼ一定だったので、そこから生まれる惑星たちも自然と同じ向きに回ることになりました。
(2) 中心に原始太陽、まわりは円盤
巨大な重力で中心部分が収縮を続け、高密度になると核融合(かくゆうごう)が始まります。こうして誕生したのが「原始太陽(げんしたいよう)」。その周囲には平たい円盤(原始惑星系円盤)が残り、ここでガスやちりがくっついたり衝突したりしながら惑星へと成長していきました。
(3) 衝突と弾き飛ばしの果てに安定
塵や小惑星同士が衝突・合体を繰り返すうち、軌道が不安定な天体は外へ飛び出したり、他の天体に吸収されたりして姿を消します。「Nice(ニース)モデル」という学説によれば、木星や土星のような巨大惑星が内側や外側に動くことで、周辺の小天体を大きく弾き飛ばしたとも考えられています。壮絶な“生き残り競争”の末、ぶつかりにくい配置ができあがっていったのです。
結果として、現在のように“平ら”で“同じ方向”に回る惑星群が残った、とみられています。何億年もの歳月をかけて安定した現状こそが、太陽系の“いま”なのです。
5. 実は例外もある?
純惑星に分類された冥王星
かつては9番目の惑星とされていた冥王星ですが、他の惑星よりも軌道の傾きや大きさが際立っていたため、現在は「純惑星(準惑星)」に再分類されました。軌道が大きく傾いた天体は、太陽系の外れにいくつも見つかっています。
太陽系外惑星には逆向きの天体も
さらに視野を広げると、ほかの恒星を回る「系外惑星」の中には、中心の星の自転方向と逆向きに公転する「ホットジュピター」も確認されています。これは大きな惑星同士の重力のからみや、連星(れんせい)系の影響で軌道がひっくり返った結果と考えられます。
宇宙全体を見渡せば、「同じ平面&同じ向きで仲良く回る」のは、むしろ“かなり恵まれたケース”なのかもしれません。
6. 生まれたての星系を観測すると…

太陽系が“円盤状に誕生”したというシナリオは、近年の高性能望遠鏡によって、ますます裏付けが強まっています。
- 2014年には、南米チリの高地にあるアルマ望遠鏡が「HLタウ」という若い星を撮影し、そのまわりにくっきり円盤状のガスやちりが広がっている画像をとらえました。星の中心部と円盤のすじ(隙間)は、まさに惑星が誕生しつつある証拠だといわれています。
- また、「うみへび座TW星(TW Hya)」のような若い星系にも似たような円盤構造が見られ、太陽系と同じような“誕生の舞台”が銀河のあちこちにあることがわかってきました。
こうした星々は誕生から100万年〜数千万年程度しか経っていないため、ちょうど太陽系の「赤ちゃん時代」のようすを間接的に見ているとも言えます。
7. おわりに
私たちが住む太陽系は、最初にできた円盤の回転という“角運動量”を受けついで、ほぼ同じ平面を同じ向きに回っています。長い年月のうちに何度も衝突が起こり、不安定だった天体は姿を消し、生き残った惑星だけが今の安定した軌道に落ち着いたのです。
一方、宇宙全体では軌道が大きく傾いたり、恒星と逆向きに回る惑星も少なくありません。太陽系のような“整然とした集団行動”は、さまざまな偶然と壮大な時間が生み出した奇跡的なバランスなのかもしれません。
今後はさらに高性能なジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡や次世代の電波望遠鏡が活躍し、生まれたての惑星系の詳細な様子が次々と明らかになるでしょう。太陽系を含む惑星形成の謎が解き明かされる日も、そう遠くないかもしれません。長い宇宙の歴史を思えば、私たちはまだ“途中のページ”をめくっている段階。これから先、どんな新発見が待っているのか、楽しみは尽きません。
参考情報
※本記事は複数の各種文献等をもとに要約・編集したものです。具体的な数値や年代には諸説あるため、最新の研究結果とあわせてご参照ください。