核のごみはなぜ地下300mより深く埋めるのか|常陸大宮市の文献調査と地層処分の仕組み

常陸大宮市が核のごみの文献調査を受け入れるかどうか、9月30日に市長が可否を表明すると報じられています。この記事を書いている時点では、結果を確認できていません。ただ、どちらの結果になっても、見出しを読むだけでは分からないことがあります。核のごみは、なぜ地下300mより深く埋めるのでしょうか。そして「文献調査」とは、いったい何をする調査なのでしょうか。

私は最初、核のごみを深く埋めるのは、放射能が強いから地上から遠ざけたいという単純な理由だと思っていました。調べてみると、理由は深さだけではありませんでした。この記事は、2026年9月時点の報道と、原子力発電環境整備機構(NUMO)などの公開資料をもとに、地層処分の仕組みと調査の進み方を整理します。受け入れへの賛否は書きません。

この記事のポイント

  • 核のごみは、使用済み燃料の再処理後に出る廃液をガラスで固めたもの
  • 法律は地下300m以上の深さでの埋設を定めている
  • 調査は文献調査・概要調査・精密調査の3段階で、合計約20年
  • 文献調査の間は、放射性廃棄物を調査地に持ち込まない

核のごみとは何か:使用済み燃料からガラス固化体まで

ニュースで「核のごみ」と呼ばれるのは、高レベル放射性廃棄物のことです。東京電力は、原子力発電所で使い終わった燃料の約95%は、もう一度燃料として利用できると説明しています。再利用できない残りの約5%をガラスと溶かし合わせて固めたものが、ガラス固化体です。

NUMOの説明資料によると、使用済み燃料は再処理工場でプルトニウムなどを回収し、残った放射性廃液をガラスに溶かし込んでガラス固化体にします。すでに約27,000本のガラス固化体に相当する高レベル放射性廃棄物が存在しています。国の計画は、ガラス固化体を40,000本以上埋設する施設を全国で1か所つくるというものです。

27,000本を40,000本で割ると0.675です。処分施設の最低ラインである40,000本に対して、すでに約7割弱の量がある計算になります(27,000÷40,000)。

発電の仕組みそのものは、原子力発電の仕組みの記事にまとめています。ここでは、発電のあとに残るものの行き先に話を絞ります。

全国に1か所だけ必要な理由

原子力発電で出る廃棄物のうち、地層処分の対象になるのはガラス固化体です。本数で数えられる点が、他のごみと大きく違います。40,000本以上を1か所に埋めるという計画は、裏返せば、全国のどこかに1か所だけ必要になるということです。国が10か所程度の調査地点から最終的に1か所に絞り込みたい考えだと報じられているのは、この構造によります。

なぜ地下300mより深く埋めるのか

最終処分法(特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律)の第2条は、最終処分を「地下三百メートル以上の政令で定める深さ」の地層に埋設することと定めています。NUMOも、地下300メートルより深い安定した地層に埋設する方法を地層処分と呼んでいます。深さは、まず法律で決まっています。

NUMOは、放射能が低くなるまで数万年以上にわたって人間の生活環境から隔離する必要があると説明しています。数万年という時間では、人間の管理を続けられる保証がありません。そこで、地下深くに埋めて人間による直接の管理を必要としない地層処分が、国際社会で現時点で最も安全で実現可能な方法とされている、というのがNUMOの説明です。

放射能が減る速さは物質ごとに違う

NUMOによると、製造初期に特に強い放射線を出すセシウム137やストロンチウム90の半減期は30年程度で、最初の1,000年でこれらの放射能はほとんどなくなります。

1,000年を30年で割ると約33回です。半減期を33回くり返すと、放射能は2の33乗分の1、つまり約86億分の1になります(1,000÷30≒33、2の33乗≒86億)。

ただし、ウランなど半減期が長い放射性物質も含まれています。1,000年で終わる話ではないので、数万年という時間が出てきます。

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動かない地下水が閉じ込める:バリアの考え方

動かない地下水が閉じ込める:バリアの考え方(岩盤トンネルのイメージ)
Photo by Yosuke Ota on Unsplash(岩盤を掘ったトンネルのイメージで、処分場そのものではありません)

私は「深いほど安全」だと思い込んでいました。ところがNUMOの説明を読むと、深さそのものより、地下では水がほとんど動かないことが鍵でした。

NUMOは、地下深部では岩盤自体が水を通しにくく、水を流そうとする力も小さいので、地下水は年間数mm程度しか動かないと説明しています。300mを移動するのに数万年かかると想定されるそうです。

300mは300,000mmです。地下水が年間3mmずつ進むと仮定すると、300,000÷3で10万年かかります。年間10mmと大きく見積もっても、300,000÷10で3万年です。

年に数ミリです。300,000ミリを、数ミリずつ。数万年という数字は、この割り算から出てきます。

ガラス固化体を守る金属の容器

NUMOの資料では、オーバーパック(金属の容器)の候補材料は炭素鋼とされています。国によっては銅を検討しているところもあり、どの材料にするかは、地下水の化学環境への適用性などを見て決めるとしています。北海道の幌延深地層研究センターの地下水や人工海水を使った実験では、低酸素環境なら塩分濃度が高くても腐食はほとんど進まないことを確認したそうです。

調査は3段階で約20年:文献調査では何を見るのか

調査は3段階で約20年:地層を調べるイメージ
Photo by Bernd Dittrich on Unsplash(地層のイメージで、調査地ではありません)

処分地は、文献調査・概要調査・精密調査の3段階で選びます。報道によると、文献調査に約2年、概要調査に約4年、精密調査に約14年かかります。

2年+4年+14年で、合計約20年です。

処分地選定の3段階

文献調査
約2年
資料を調べる
→
概要調査
約4年
ボーリングで掘る
→
精密調査
約14年
地下施設をつくる

文献調査:資料から活断層や火山の記録を調べる

NUMOは、文献調査では火山や活断層の活動記録などを文献・資料から調べ、明らかに適性の低い場所を把握するよう努めると説明しています。地面は掘りません。活断層が何かは地震のメカニズムの記事に、火山の活動は火山の噴火の仕組みの記事にまとめています。

概要調査と精密調査:掘って確かめる

概要調査は地表からのボーリングなどで地下の地質や地下水の流れ方を調べます。精密調査は地下に調査施設を設けて、岩盤の性質や地下水の成分を調べ、地層処分の安全性が確保できる場所かを確認します。

常陸大宮市で起きていること

報道によると、経済産業省は8月31日、文献調査の実施を茨城県常陸大宮市に申し入れました。実施されれば全国5例目です。これまでの文献調査は、北海道の寿都町と神恵内村、佐賀県玄海町、東京都小笠原村の南鳥島で行われています。国が主体的に申し入れたのは、小笠原村に次いで2例目です。

9月1日の市議会で、鈴木定幸市長は「前向きに検討したい」と述べました。9月9日には市議の意見を聞く非公開の会合があり、2人が賛成、2人が反対を表明しました。全体の意見集約は終わらず、16日に再度会合を開くと報じられています。

見出しは「可否表明」という言葉で熱くなります。私は、その熱と、文献調査の中身の落差が気になりました。文献調査は約2年かけて資料を調べる段階で、掘る作業を含みません。

交付金と「持ち込まない」約束

調査を受け入れた自治体には、文献調査で最大20億円、次の概要調査で70億円が交付されると報じられています。

20億円+70億円で、2段階の合計は最大90億円です。

NUMOは、調査期間中に放射性廃棄物を持ち込むことは一切ないと説明しています。概要調査に進もうとする場合は、改めて都道府県知事と市町村長の意見を聞き、その意見に反して先に進むことはないとしています。

地層処分に残る課題と注意点

ここまでは仕組みの説明でした。弱点も同じ資料から読み取れます。

数万年は実験で直接確かめられない

NUMOは、将来の安全性の評価にはシミュレーションを活用すると説明しています。数万年という時間を、人間が実験で直接確かめることはできません。調査によって地質環境が把握され、設計が詳細になれば、より信頼性の高い評価ができるようになる、というのが説明です。

取り出せるのは閉鎖するまで

NUMOは、今後より良い処分方法が実用化された場合に将来世代が選べるよう、処分施設を閉鎖するまでの間、廃棄物を回収できる可能性(回収可能性)を担保するとしています。閉鎖したあとは別の話になります。

青森県には最終処分地にしない確約がある

ガラス固化体の一時貯蔵を受け入れるにあたって、国と青森県の間には、青森県を最終処分地にしないという確約があります。だから、いま貯蔵されている場所に、そのまま埋めることはできません。

ニュースを読むときの判断のものさし

私は、核のごみの記事を読むとき、次の3点を見ることにしました。

いま何段階目の話か

文献調査なのか、概要調査なのかで、できることが違います。文献調査は資料の調査で、放射性廃棄物の持ち込みはありません。

数字は最大額か確定額か

「20億円」「70億円」は、報道では最大額です。自治体が実際に受け取る額は別に確認が必要です。

賛否の理由が調査の中身に向いているか

活断層や火山の記録、地下水、交付金、風評。どれも論点ですが、どの段階の何に対する賛否なのかを分けると、議論が見えやすくなります。

よくある誤解

調査を受け入れると、処分場に決まる?

決まりません。NUMOは、文献調査は次の段階に進むかどうかを判断する材料を提供するものだと説明しています。概要調査に進むには、知事と市町村長の意見を改めて聞くとされています。

ガラス固化体は爆発する?

NUMOは、ガラス固化体にはプルトニウムなどがほとんど含まれていないと説明しています。爆発するものではないというのが説明の趣旨です。

埋めたら二度と取り出せない?

施設を閉鎖するまでの間は、回収可能性を担保するとNUMOは説明しています。閉鎖後については、この記事では確かめられていません。

まとめ:地層処分の仕組みと調査の進み方

核のごみは、再処理後の廃液をガラスで固めたガラス固化体で、約27,000本分がすでにあります。法律は地下300m以上に埋めると定め、地下水が年に数mmしか動かない岩盤と、金属容器を組み合わせて閉じ込める考え方です。

調査は文献調査、概要調査、精密調査の順で約20年かかります。常陸大宮市の話は、その最初の約2年の段階です。見出しに「可否」の文字が出たら、いま何段階目の話かを確かめてから読むと、話の大きさを取り違えません。最新の状況は、NUMOや経済産業省の公表と報道で確認してください。

📖 この記事について 本記事は、社会の制度や法律の“仕組み”を知る面白さをお届けし、世の中のルールに興味を持っていただくための読み物です。特定の立場への賛否は示していません。最新の情報は公的機関の公表でご確認ください。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。