中国人観光客が6割減っても訪日客全体は1割減なのはなぜか|大阪・関空の数字で読むインバウンドの仕組み

日本政府観光局(JNTO)によると、2026年8月に日本を訪れた中国人は418,000人で、前年の同じ月より59.0%減りました。それでも、8月の訪日外客数の合計は309万8900人で、減少は9.6%にとどまっています。中国人が6割近く減ったのに、全体は1割弱しか減っていません。

私も最初は、中国人観光客が6割減ったなら、訪日客全体も同じくらい減っているはずだと思っていました。数字を並べると、そうはなっていません。この記事では、JNTOの統計、観光庁の消費動向調査、大阪観光局と関西空港の発表を並べて、なぜ人数の減り方が小さく見えるのか、それでも大阪や関空の数字が重く見える理由は何かを整理します。数字は2026年10月時点で公開されている資料から確認しました。

  • 2026年8月の中国からの訪日客は前年同月比59.0%減、訪日客全体は9.6%減
  • 韓国は28.7%増、台湾は7.3%増、香港は9.4%増で、中国の減少を人数の上では大きく埋めている
  • 関西空港の2026年7月の外国人旅客数は前年同月比15%減で、中国方面は63%減
  • 人数が埋まっても、一人当たりの旅行支出が違うので、金額まで同じように埋まるとは限らない

中国人観光客が6割減っても全体は1割減になる理由

2026年8月の数字を国・地域別に並べる

JNTOが2026年9月16日に発表した推計値で、2026年8月の主な国・地域を前年同月と比べると次のとおりです。

国・地域 2025年8月 2026年8月 前年同月比
総数 3,428,406人 3,098,900人 9.6%減
中国 1,018,747人 418,000人 59.0%減
韓国 660,917人 850,500人 28.7%増
台湾 620,753人 666,000人 7.3%増
香港 226,069人 247,300人 9.4%増
※日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2026年8月推計値)」。2026年は推計値

JNTOは中国の減少について、中国政府から日本への渡航を避けるよう注意喚起があったことに加え、航空便の減便の影響があったと説明しています。韓国は台風による航空便への影響があったものの、訪日旅行の人気とスクールホリデー、航空座席数の増加で、8月として過去最高を記録しました。

減った分と増えた分を引き算する

中国は1,018,747人から418,000人に減っているので、減少は418,000−1,018,747=−600,747人です。総数の減少は3,098,900−3,428,406=−329,506人です。差し引くと、中国以外の市場は合計で−329,506−(−600,747)=+271,241人増えた計算になります。

前年8月の訪日客に占める中国の割合は、1,018,747÷3,428,406≒29.7%でした。600,747÷3,428,406≒17.5%ぶんが中国で減り、271,241÷3,428,406≒7.9%ぶんが中国以外で増えたので、差し引きで約9.6%の減少になります。

中国の落ち込みが「59.0%」と大きく見えても、全体への影響は、もともとの構成比で薄まって「9.6%」になります。減少率ではなく、減った人数と増えた人数の差し引きで見ると、数字がつながります。

7月は差がさらに小さくなりました。JNTOの7月の推計では、中国は974,564人から428,200人に56.1%減りましたが、総数は3,437,118人から3,442,100人へと0.1%増えています。

関西空港と大阪の数字では、なぜ中国の減少が目立つのか

関空の外国人旅客が減った理由:搭乗口の窓から見える空港の旅客機
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関西空港の外国人旅客は7月に15%減

全国の合計が横ばいだった7月でも、関西空港の数字は違いました。関西国際空港などの7月の利用状況の発表をまとめた訪日ラボの記事によると、2026年7月の関空の外国人旅客数は約151万人で前年同月比15%減となり、8か月連続で前年を下回りました。韓国や香港・マカオなど多方面で前年を上回った一方、中国方面が63%減と大きく下回ったことが影響したと書かれています。空港全体の旅客数は約248万人で、前年同月比11%減です。

同じ7月で、全国の訪日外客数は0.1%増、関空の外国人旅客数は15%減です。大阪観光局の関西空港出口調査(2025年度)では、回答者に占める中国の割合は25.7%で、国籍別で最も多くなっています。国籍別の回答者数の偏りを補正した推定の構成比は、中国が29.7%でした。関空は、中国の客が多く出入りする空港の一つです。

大阪府の4月は5.5%減にとどまった

大阪観光局の発表では、2026年4月に大阪府を訪れた訪日客は164.7万人で、前年同月比5.5%減でした。1月から4月の累計は566.5万人で、前年同期比0.7%減です。理事長は、4月の訪日中国人数が前年同月比56.8%減になったことに触れたうえで、減少幅は思ったより少なかったと話し、理由として中国以外の国・地域からの訪日が好調だったことを挙げています。

「大阪離れ」という見出しだけを見ると、大阪全体が大きく落ち込んだように読めます。数字を確かめると、空港の中国方面は大きく減っている一方、大阪府の訪問者数の合計は、4月時点で1割に届かない減少でした。私は、見出しの印象より数字のほうがずっと控えめだったことに少し驚きました。

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人数が埋まっても、金額が同じとは限らない

人数が埋まっても金額が同じとは限らない:夜の大阪・新世界の商店街を歩く人々
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一人当たりの旅行支出は、国・地域でここまで違う

観光庁の訪日外国人消費動向調査(速報)によると、2025年の訪日外国人の旅行消費額は前年比16.4%増の9兆4559億円で、過去最高でした。一人当たりの旅行支出は22万9000円です。国・地域別の旅行消費額は、中国が2兆26億円(構成比21.2%)で最も多く、台湾が1兆2110億円(12.8%)、米国が1兆1241億円(11.9%)、韓国が9864億円(10.4%)、香港が5613億円(5.9%)と続きます。

一人当たりの旅行支出を見ると、中国は24万6154円(前年比11.0%減)、韓国は10万4606円(前年比4.1%減)です。

24万6154円÷10万4606円≒2.35なので、中国人観光客1人の旅行支出は、韓国人観光客1人の約2.4倍です。

人数では韓国が中国に近い規模に見えても、一人が日本で使う金額には大きな差があります。人数の増減だけで「埋まった」と判断できないのは、このためです。

支出の中身は宿泊費・買い物・飲食

同じ調査では、2025年の費目別の旅行消費額は、宿泊費が3兆4617億円(構成比36.6%)、買い物代が2兆5490億円(27.0%)、飲食費が2兆711億円(21.9%)でした。買い物代には、訪日客が日本で買い物をするときの免税制度の対象になる支出も含まれます。免税の仕組みが2026年にどう変わったかは、別の記事で整理しています。

宿泊費は最も大きな費目で、泊まる街によって宿泊に課される税も違います。大阪府を含む自治体ごとの違いは、宿泊税の記事にまとめています。

中国の減少分を韓国の増加分で埋められるのか試算する

8月の人数に2025年の一人当たり支出を掛ける

ここからは、私が公開資料の数字を組み合わせた試算です。実際の旅行消費額ではなく、考え方を示すための計算です。8月の人数の増減に、観光庁が公表した2025年の一人当たりの旅行支出(年間の平均値)をそのまま掛けます。

項目 人数の増減 一人当たり支出 掛け算の結果
中国の減少 −600,747人 246,154円 約−1,479億円
韓国の増加 +189,583人 104,606円 約+198億円
※人数はJNTOの8月推計値、一人当たり支出は観光庁の2025年の数字。月ごとの支出は季節で変わるため、あくまで目安

韓国の増加分は人数で見ると、189,583÷600,747≒31.6%の規模です。金額で見ると、198億円÷1,479億円≒13.4%にとどまります。

人数で3割ほど埋まっていても、金額では1割台です。台湾や香港など、ほかの市場の増加分も加わるので、全体の金額の差し引きはこの2行だけでは決まりません。それでも、人数の減少率が1割弱でも、金額の動きは別に確かめる必要がある、ということは読み取れます。

観光庁の2025年10〜12月の速報では、中国の旅行消費額は3534億円で首位のままですが、構成比は前年同期の18.7%から14.0%に下がっています。年間では21.2%を占めた市場が、四半期ごとの構成比では下がり始めていたことになります。

特定の国に頼る側の注意点

構成比が高いほど、減ったときの影響が大きい

2026年1〜8月の累計で見ると、中国は6,711,851人から2,904,600人に56.7%減りました。累計の総数は28,384,099人から27,626,300人に2.7%減です。同じ期間に韓国は6,123,081人から7,420,300人へ21.2%増えています。

2025年1〜8月に中国が占めた割合は6,711,851÷28,384,099≒23.6%、2026年1〜8月は2,904,600÷27,626,300≒10.5%です。約4人に1人だった中国の比重が、約10人に1人まで下がりました。

累計の中国の減少は2,904,600−6,711,851=−3,807,251人、総数の減少は27,626,300−28,384,099=−757,799人です。差し引いて、中国以外は−757,799−(−3,807,251)=+3,049,452人増えています。

特定の国・地域の客に売上が偏っていると、その国の事情で需要が急に減ったときに、ほかの市場の増加で埋めるまでに時間がかかります。JNTOが挙げた中国の減少の理由は、渡航の注意喚起と航空便の減便で、日本側の努力だけでは戻せない種類のものです。

数字だけでは分からないこと

ここまで見たのは、日本に入国した人数と、2025年の平均的な支出です。実際に大阪の店や宿でいくら減ったのかは、この資料からは分かりません。店や施設ごとの売上は、業種や立地、客層で変わります。

店や宿を営む人、旅行する人はどこを見ればよいか

事業者は国別の構成比と一人当たり単価を分けて見る

観光客を相手にする店や宿は、売上のうち国・地域別の割合と、客1人当たりの単価を別々に把握しておくと、今回のような動きを読みやすくなります。人数が同じでも、単価が高い国の客が減れば、売上は人数の減り方以上に下がるからです。

大阪観光局の定例会見を伝える訪日ラボの記事の見出しには、体験率1位はショッピングで、訴求を強める方針とあります。買い物で売上を立てている店は、中国以外の国・地域の客が何を買っているかを、自店の売上で確かめるところから始められます。

旅行する人、大阪に住む人にとっての見え方

全国では、韓国や台湾などからの訪日客が増えています。大阪に住む人が目にする「大阪離れ」の報道は、中国からの客の減少を指していて、大阪府全体の訪問者数は4月に5.5%減でした。報道の見出しと、合計の数字を並べて読むと、印象とのずれが分かります。

よくある誤解

中国人観光客が6割減ったので、訪日客全体も6割減った

全体は減っていますが、8月で9.6%減、7月は0.1%増です。中国の割合は前年8月で約3割だったので、中国の減少率がそのまま全体の減少率にはなりません。

人数が埋まれば、観光の収入も埋まる

人数が同じ規模で増えても、一人当たりの旅行支出が違えば、金額は同じに埋まりません。観光庁の2025年の数字では、中国の一人当たり支出は24万6154円、韓国は10万4606円でした。

大阪の訪問者数は大きく落ち込んでいる

大阪観光局の発表では、2026年4月の大阪府の訪日客は前年同月比5.5%減、1〜4月の累計は0.7%減でした。空港の中国方面は大きく減っていますが、大阪府全体の合計はそれより小さい減少です。これは訪問者の人数であり、売上や消費額とは別の数字です。

まとめ:中国人観光客の減少と訪日客全体の数字の読み方

中国人観光客が6割近く減っても、訪日客全体の減少が1割弱にとどまったのは、前年8月に中国が約3割を占めていたことと、ほかの市場が増えたことが重なったからです。人数の差し引きでは、中国の減少が600,747人、中国以外の増加が271,241人です。

大阪と関空の数字が重く見えるのは、関空を使う外国人に中国の客が多いためです。大阪府の訪問者数の合計は、4月時点で5.5%減でした。

金額で見ると、中国人観光客の一人当たり旅行支出は韓国の約2.4倍です。人数が埋まっても、金額が同じに埋まるとは限りません。人数、構成比、一人当たり支出を分けて見ると、「大阪離れ」のような見出しの数字を、自分で読み直せます。最新の数字は、JNTOや観光庁、大阪観光局の公式発表で確認してください。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。