なぜ本は売れ残っても返品できるのか|返品率33.2%と委託販売・再販制度の仕組み

書店に並んでいる本は、売れ残ったら出版社に送り返せます。日本の書籍・雑誌流通では、これが当たり前の取引ルールです。経済産業省の資料によると、2024年の返品率は書籍で33.2%、雑誌で43.8%でした。

私は長いあいだ、書店は本を仕入れて買い取っているのだと思っていました。売れなければ店が損をする、ふつうの小売りと同じだと考えていたのです。実際には、新刊の売れ残りリスクを持つのは出版社でした。この記事では、経産省の2026年4月のとりまとめと2025年1月の資料、公正取引委員会の資料をもとに、委託販売と再販制度の関係、返品が減らない理由、減らすための取り組みを整理します。2026年10月時点の公開資料にもとづいています。

  • 新刊は「定められた期間内なら売れ残りを返品できる」委託販売で書店に並び、売れ残りリスクは出版社が持つ
  • 書籍・雑誌は再販制度の対象で、どの書店でも定価で売られる
  • 2024年の返品率は書籍33.2%、雑誌43.8%。返された本は最終的に廃棄される
  • 欧米は注文買い切りが主流で、委託販売は日本と韓国が中心という整理が国の資料にある
  • 返品を減らす試みは、事前発注・小ロット印刷・買切り・RFIDタグなどですでに始まっている
目次

売れ残った本を返せるのは、委託販売という取引だから

委託販売制度は、返品できる条件つきの売買

経産省の返品削減研究会のとりまとめは、委託販売制度を「新刊本について、定められた期間内であれば、売れ残った商品は返品できる制度」と説明しています。書店の仕入れリスクが下がり、積極的に店頭へ並べられる一方で、売れ残りリスクは出版社が持つ、という整理です。

書店から見れば、売れるかどうか分からない新刊を多めに並べても、期間内なら損をしません。出版社から見れば、店頭に多くの本が並ぶ代わりに、戻ってくる在庫を引き受けることになります。

再販制度とセットで動いている

もう一つの特徴が再販制度です。同じ資料は、出版社が本の価格を設定し、取次や書店は決められた定価で売る制度だと説明しています。定価販売によって、読者が出版物に接する機会が均等になり、多種多様な出版物を供給できる、というのが国の整理です。

公正取引委員会の資料では、独占禁止法第23条第4項で再販売価格維持行為が適用除外になる「著作物」は、書籍、雑誌、新聞、レコード盤、音楽用テープ、音楽用CDの6品目に限られています。この制度は昭和28年に導入され、当時あった定価販売の慣行を追認する趣旨だったとされています。

値引き競争ができない代わりに返品ができる、という二つの約束事が、日本の本の流通の土台になっています。

本は出版社から取次を通って書店に届く

本は出版社から取次を通って書店に届く|番号つきの棚に平積みされた書店の本
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取次が間に入る流れ

経産省の2025年1月の資料は、紙の本の流れを、企画・編集をする出版社から印刷会社、取次会社を経て小売に至る構図として描いています。日本では出版社、取次、書店という取次経路を使う委託販売が基本です。

電子書籍の場合は、印刷会社も紙の取次も間に入りません。電子専門の取次や電子書籍ストア、漫画アプリなどを通じて流通します。詳しくは電子書籍の仕組みの記事にまとめています。

新刊は、書店が頼む前に届くことがある

とりまとめには、現場の指摘として、委託配本の中で出版社起点の新刊配本や取次の見計らい配本が行われていることが書かれています。欲しい本が届かないので重複して注文し、さらに注文していない商品が届いて過剰な在庫になる、という悪循環の指摘もあります。

本が届く量を、書店が自分で決め切れていないわけです。書店は在庫リスクを負わないので、発注の精度を上げる動機も育ちにくくなります。ここが返品率の高さにつながっています。

本を買うとき、いちばん多いのはどこですか?

  1. 書店の店頭
  2. ネット書店(紙)
  3. 電子書籍
  4. 図書館など買わない

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返品率は書籍で33.2%、雑誌で43.8%

返品率は書籍で33.2%、雑誌で43.8%|箱に立てて積まれた本
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数字を実際の冊数に置き換える

経産省のとりまとめによると、2024年の返品率は書籍が33.2%、雑誌が43.8%です。2025年1月の資料の2023年の数字は書籍33.4%、雑誌47.3%でした。

書籍の返品率33.2%を冊数に直すと、100冊が書店に届いたとき、100×0.332=33.2冊、つまり3冊に1冊が戻ってくる計算です。雑誌は100×0.438=43.8冊で、半分近くが戻ります。

2023年から2024年への変化は、書籍が33.4−33.2=0.2ポイントの低下、雑誌が47.3−43.8=3.5ポイントの低下です。書籍はほとんど動いていません。

3冊に1冊が戻る数字は、意外でした。雑誌については、連載の仕組みを扱った漫画の連載の仕組みの記事も、あわせて読むと位置づけが分かりやすくなります。

返された本の行き先は廃棄

とりまとめは、過剰な送品によって生じた返品は書店から取次、出版社へ返され、最終的には廃棄されると書いています。収益につながらないコストを、出版産業全体が抱えている状態です。

コストの中身も整理されています。書店の返品作業、取次の仕分けと運賃、出版社の過剰な製造分などです。近年は輸送費や人件費が上がっているため、返品率を下げる必要性が増しています。

返品が減らないのは、需要と供給がずれるから

需要が読めない商品で、データも足りない

とりまとめは、事前に需要を予測しにくい商品の性質と、返品によって売上の確定や在庫の把握に時間がかかることを挙げています。そのため、需要と供給をリアルタイムでつかむハードルが高い構造だと整理しています。

高い返品率の要因として、出版社・取次の配本が書店のニーズに合わない場合があること、書店側が在庫リスクを負わないため、販売可能数を踏まえた発注力が不足していることも挙げています。

大ロットで刷ってきた事情

出版物はこれまで、一定のロット規模で製造されてきました。単価の効率が良いので、大ロット生産が中心だったからです。ところが、市場縮小や小ロット多品種化、人手不足、物流費の高騰などで、いまのビジネスモデルは需要の実態と合わなくなってきたと、とりまとめは述べています。

大ロットを前提にすると、必要なときに必要な量を作れず、売り損じが出ます。読者にとっての買い損じです。多く刷りすぎれば返品になり、少なすぎれば売り逃す。両方の損が同時に起きているのが現状です。

欧米は注文買い切りが主流という整理がある

国別の取引形態

経産省の2025年1月の資料には、日本と諸外国の流通の比較表があります。日本と韓国は取次経路を通る委託販売、フランス、イギリス、アメリカ、ドイツは注文買切が書店の主な取引形態です。

国 主な流通経路 書店の主な取引形態
日本 出版社-取次-書店 委託販売
韓国 出版社-取次-書店 委託販売
フランス 出版社運営の取次を経由 注文買切
イギリス・アメリカ・ドイツ 出版社-書店の直取引 注文買切
※経済産業省「国内外の書店の経営環境に関する調査」をもとにした2025年1月の資料より作成。欧米は注文買切(条件付きで返品を認める場合もある)が主流と整理されている。

日本が委託販売を続けてきた理由

国の資料は、委託販売には書店の仕入れリスクが下がり、積極的に店頭へ並べられる利点があると整理しています。返品削減の研究会でも、「一定の返品は新規性・多様性を担保するための側面もある」という認識が共有されました。

返品をゼロにすれば解決する、という話ではなさそうです。研究会の結論は、産業全体として可能な範囲での縮減を目指すのが適切、というものでした。

返品を減らす取り組みはすでに始まっている

事前発注システムで返品率が平均3.5%改善

とりまとめによると、取次は書店が事前に発注できるシステムを導入しています。導入前の2021年度と導入後の2024年度の返品率を比べると、平均で3.5%改善しました。書籍新刊のうち、このシステムで申し込みを受け付けた点数の割合は、2024年度は26%でしたが、2025年10月には50%に上がっています。

100部からの小ロット印刷と、短い納期

KADOKAWAは、書店に専用の発注システムとタブレットを提供し、事前発注には制限や調整をせず注文数を満数で確約していると書かれています。それを支えるのは、デジタル印刷機による100部からの小ロット印刷で、重版が7営業日未満で済む体制です。自社倉庫から書店への直送で、発注から24時間から72時間の短納期も実現しています。

書店が買い切って、粗利を上げる

ブックセラーズ&カンパニーは、紀伊國屋書店、カルチュア・コンビニエンス・クラブ、日本出版販売の共同出資で2023年10月に設立されました。書店と出版社が直接取引し、販売と返品にコミットしながら仕入数を決める仕組みを作っています。

買切りでは、物流コストも含めて書店が負担する一方、仕入掛け率が低く設定されるため、1冊あたりの粗利が高まります。書店が責任を持って売り切る運営になり、粗利率の向上と返品削減が両立できる、というのが資料の説明です。

RFIDタグで、売れ行きの見える化を進める

商品ごとにユニークIDを割り当てるRFIDタグの導入が、コミックスを中心に一部の文庫で始まっています。経産省が支援した、全国19書店での実証では、棚卸工数が平均92.8%減り、盗難被害数は平均78%減ったと報告されています。タグから得られるリアルタイムの売上や返品のデータで、適正な新刊配本や迅速な補充につなげる狙いです。

業界全体では、2026年1月20日に日本出版取次協会と電子出版制作・流通協議会が、デジタル印刷の活用を進める共同宣言を出しています。

市場が縮むなかで、書店の経営も厳しい

出版販売額と書店数の推移

とりまとめによると、2024年の出版販売額は1兆5716億円です。内訳は書籍5,937億円、雑誌4,119億円、電子5,660億円です。書籍の販売額は96年をピークに4割以上減り、雑誌は97年のピークから7割以上減っています。

電子の割合を計算すると、5,660÷15,716≒0.360で、販売額の約36.0%を電子が占めます。紙の書籍と雑誌の合計は、5,937+4,119=10,056億円です。

書店の総店舗数は、2014年の14,658店から2024年には10,417店に減りました。

減少数は14,658−10,417=4,241店。割合では、4,241÷14,658≒0.289で、10年間で約28.9%の書店が減った計算です。

販売額が減る一方で、出版点数は横ばいです。単価が物価上昇で上がっているため、多種多様な本を少量ずつ売る傾向が強まっています。1点あたりの販売数が減れば、需要予測も難しくなります。返品の問題は、市場の縮小とつながっています。

デメリット・注意点:返品削減にも副作用がある

書店が在庫リスクを負う

買切りを増やせば、売れ残りの在庫リスクは書店が負います。ブックセラーズ&カンパニーの例でも、物流コストを含めて書店が負担すると資料に書かれています。仕入れの判断力が育っていない書店にとっては、重い負担になりえます。

導入コストと手数料の負担

RFIDは、書店の機器導入費用や、特に中小出版社のタグ貼付単価が課題として指摘されています。キャッシュレス決済の手数料も、1%台後半から2%台半ばの手数料率が複数の事業者から提示されていて、小規模書店の経営の重荷になっているという声がある、と資料は書いています。

データが共有されていない

販売・在庫・返品のデータは、会社ごとに取得環境が異なり、十分に共有されていません。とりまとめは、相互に活用しやすい形でのデータ連携の在り方を検討すべきだと述べています。返品削減は、1社だけで進められる話ではありません。

選び方・判断:紙と電子で何が違うか

買い方による違い

ここまでの仕組みを、買う側の目線で整理します。

項目 紙の書籍 電子書籍
価格 再販制度で定価販売 再販制度は適用されず、値引きやクーポンがある
流通 印刷会社と取次を経て書店へ 電子書籍ストアや漫画アプリを通じて配信
売れ残り 委託なら返品、最終的に廃棄 印刷や取次が介在しない
※経済産業省の2025年1月の資料をもとに作成。電子に再販制度が適用されないため、需要に応じた柔軟な価格設定をするサービスがあると同資料は述べている。

どう選ぶか

定価がどの書店でも同じなのは、再販制度があるからです。電子書籍が割引になりやすいのは、その制度の対象外だからでもあります。値段だけで比べるなら電子、棚で偶然見つけた1冊に出会う楽しみなら書店、と使い分けるのが現実的です。紙と電子の読み心地や記憶の残り方まで比べたい場合は、紙の本と電子書籍の違いの記事で整理しています。

私なら、探している本が地元の書店に見当たらないときは、取り寄せを頼む側に回ります。ただし、ここは私の使い方であって、書店や出版社の公式な案内ではありません。取り寄せの方法や日数は、書店ごとに確認してください。

よくある誤解

書店は、仕入れた本をすべて買い取っているのですか?

新刊の委託販売では違います。定められた期間内であれば、売れ残った本を返品でき、売れ残りリスクは出版社が持つ仕組みです。買切り志向の取引モデルを導入する書店も、国内に出ています。

返品された本は、また別の店で売られるのですか?

経産省のとりまとめは、過剰な送品によって生じた返品は、書店から取次、出版社へ返され、最終的には廃棄されると書いています。すべてが廃棄されるとは書かれていませんが、収益につながらないコストになっているのは確かです。

返品率をゼロにすれば、出版業界の問題は解決しますか?

解決しません。研究会は、一定の返品は新規性や多様性を担保する側面もあるとして、産業全体として可能な範囲での縮減を目指すのが適切だとしています。

まとめ:返品は、本の多様性を支える仕組みの副産物

書籍が売れ残っても返品できるのは、新刊が委託販売で流通し、売れ残りのリスクを出版社が持つからです。再販制度による定価販売とセットで、書店が積極的に本を並べられる環境を支えてきました。

その代わり、2024年の返品率は書籍33.2%、雑誌43.8%と高く、返された本は最終的に廃棄され、出版産業全体のコストになっています。原因は、需要が読みにくい商品の性質と、配本と発注のずれです。

対策として、事前発注、小ロット印刷、買切り、RFIDタグなどがすでに動いています。ただし、書店の在庫リスクやデータの共有といった課題も残っています。返品の高さは、多様な本が書店に並ぶことと引き換えに生まれたコストです。書店で本を手に取るときの背景として知っておくと、見え方が少し変わると思います。

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📚 参考文献・出典

📖 この記事について 本記事は、出版流通の“仕組み”を知るための読み物です。特定の書店・出版社・サービスの評価や、購入・取引に関する助言を示すものではありません。2026年10月時点の公表資料にもとづいており、制度や取引条件は変わることがあります。最新の情報は経済産業省・公正取引委員会などの公表でご確認ください。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。