- トンネルが崩れない理由は「地山自体に支えてもらう」NATMの発想にある
- 山岳トンネルはNATM工法、都市部・海底はシールド工法と工法が使い分けられる
- 青函トンネルは全長53.85kmで世界最長の海底トンネル。海面から240m下を通る
- トンネル内の換気は安全の生命線。ジェットファンと縦流換気でCO2・排ガスを制御している
あの分厚い山の中を、なぜ掘り続けられるのか
高速道路や新幹線で山の中に入ると、真っ暗なトンネルが続く。岩盤が何十メートルも頭上に積み重なっているのに、なぜ崩れないのだろう。
「コンクリートで固めているから大丈夫」——そう思っている人は多い。しかし実際は違う。トンネルを支えているのは、コンクリートよりもむしろ「岩盤そのもの」だ。
この発想の転換が、現代のトンネル工事を可能にした。工事で穴を掘るたびに崩れるのではなく、岩盤の本来の強さを利用して安定させる。そうすれば、100メートルでも1000メートルでも、掘り続けることができる。
このページではトンネルの代表的な2工法(NATM・シールド工法)から、青函トンネルの驚くべき数字、換気の仕組みまで順番に解説する。
トンネルとは何か|種類と用途を整理する
一口に「トンネル」といっても、用途と環境によって種類が異なる。大きく分けると4種類だ。
トンネルの主な種類
山岳トンネル
山を貫く道路・鉄道。NATMが主流
都市トンネル
地下鉄・地下道。シールド工法が主流
海底トンネル
海峡を渡る。防水が最大の課題
導水トンネル
水道・発電用水路。ダムと組み合わせが多い
国土交通省の調べでは、日本の道路トンネルは2022年時点で約11,000本を超える。山が国土の約70%を占める日本では、トンネルがなければ交通網が成立しない。
山のトンネルを通るとき何を感じますか?
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山を貫く仕組み|NATM工法の原理
山岳トンネルで広く使われるのが「NATM(New Austrian Tunneling Method=新オーストリアトンネル工法)」だ。1980年代から日本に普及し、現在の標準工法となっている。
発破と掘削:削り方の工夫
山岳部では最初に「発破(ダイナマイトまたは電気爆薬)」もしくは「ブームジャンボ(ドリルジャンボ)」で岩盤を削る。このとき重要なのは「一度に削りすぎない」こと。一気に大きく掘ると岩盤が自分の重みで崩れてしまう。
少しずつ削っては固め、を繰り返すのがNATMの核心だ。
コンクリート吹付とロックボルト
掘削直後、剥き出しになった岩盤の表面にコンクリート(吹付コンクリート)を数cmの厚みで吹き付ける。これは岩盤を「保護する」ためではなく、岩盤と一体化することで岩盤そのものを構造体として機能させるためだ。
次に「ロックボルト」と呼ばれる鉄の棒を岩盤の奥深くに差し込んで固定する。表面の岩が剥離するのを内側から引き留めるアンカーの役割だ。これにより「岩盤+コンクリート+ロックボルト」の3体が一体となって天井を形成する。
言い換えれば、NATMとは「山に自分を支えてもらう」工法だ。コンクリートは補助に過ぎない。この発想が20世紀のトンネル工学を根本から変えた。
都市部・海底はどう掘る?|シールド工法の仕組み
都市部の地下鉄や海底トンネルには、NATMではなく「シールド工法」が使われることが多い。住宅地の真下や水中で発破はできないからだ。
シールド機(TBM)の仕組み
シールド工法では「シールド機(シールドトンネルボーリングマシン)」という巨大な掘削機が地中を進む。前面に取り付けられたカッターヘッドが回転して地盤を削り、掘削した土砂はコンベヤーまたはスラリー(泥水)で後方へ運ばれる。
東京の地下鉄工事では、直径約6〜10mのシールド機が1日に5〜10m前進する。高層ビルの地下を傷つけずに通過するため、振動・沈下を数mmオーダーで管理する精密な制御が行われている。
セグメントの役割
シールド機が前進するたびに、掘り終わった部分の内壁に「セグメント」という鉄筋コンクリートのブロックをリング状に組み立てる。これが永久構造物になる。
セグメント一つひとつは工場で製造されたプレキャスト製品であり、精密な寸法管理がされている。現場では「組み立てるだけ」の設計になっており、工期短縮と品質安定の両方を実現している。
| 工法 | 対象地盤 | 主な用途 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| NATM | 山岳・硬い岩盤 | 高速道路・新幹線・導水路 | 地山自体を構造体に利用。自由断面が可能 |
| シールド工法 | 軟弱地盤・砂・水中 | 地下鉄・下水・海底 | 掘削と覆工が同時進行。振動が少ない |
| 開削工法 | 地表近くの浅い部分 | 地下鉄の駅・地下道・地下街 | 地表から掘って覆う。コスト低いが交通支障あり |
| ※ 2026年7月時点。工法は地盤条件・環境・コストで選定される | |||
💡 意外な切り口|海底240mの世界と青函トンネルの驚き
「世界最長の海底トンネル」と言えば、青函トンネルだ(海底部分の長さで)。全長53.85km、うち海峡部分が23.3km。津軽海峡の海面から最大240mの深さを通る。
建設が始まったのは1964年。完成まで24年かかった。工事中に地下水が一気に流れ込む「出水(しゅっすい)」が繰り返し発生し、多くの作業員が犠牲になった。
なぜそこまでして作ったか。かつて青函航路(函館〜青森)は台風・荒天で欠航が多く、1954年の洞爺丸事故では乗客乗員1,155人が亡くなった。その教訓が、海の底を掘り続ける24年間の原動力だった。
現在は北海道新幹線が通るこのトンネル。設計速度は260km/hだが、架線の振動問題から当面は160km/hで運行されている——こういう制約が存在すること自体、トンネルが単なる「穴」ではなく高度なシステムだということを示している。
トンネルの換気は安全の生命線
自動車が通るトンネルには「換気」が不可欠だ。排気ガスのCOや微粒子が一定濃度を超えると危険になる。
縦流換気と横流換気
短いトンネル(500m以下)は「自然換気」または「縦流換気」だ。トンネル内にジェットファン(推進力を持つ大型ファン)を設置し、気流を一方向に押し流す。シンプルで設備コストが低い。
長いトンネルでは「横流換気(または半横流換気)」が使われる。天井部に給気ダクト・床部に排気ダクトを設け、常時新鮮な空気を供給しながら汚染空気を吸い出す。東名高速の東山トンネルや関越トンネルなどがこの方式だ。
火災時の換気制御
火災が発生したとき、換気方向を逆転させると炎と煙が逃げ場を失い危険になる。このため現在の長大トンネルには「避難誘導→上流側の換気を維持→下流側の人は逃げる」という制御シーケンスがある。2020年代以降、AIによるリアルタイム煙流制御の研究も進んでいる。
🎣 実用シーン|ドライバーが知っておくべきトンネルの豆知識
トンネルの仕組みを知ると、日常のドライブで「あ、これが理由か」と気づく場面が出てくる。
「出口が眩しく見える」——これは視覚の順応の問題ではなく、意図した設計だ。トンネルの出口付近は「照明を段階的に明るくする」設計になっており、目が急激な明暗変化でパニックを起こさないよう配慮されている。逆に入口付近は「徐々に暗くなる」設計だ(接続照明)。
「ラジオがきれいに聞こえる」——長大トンネルには同軸ケーブルによる「漏洩同軸ケーブル(LCX)」が敷設されており、地上の放送をトンネル内に再送信する設備がある。
「ナビが止まる」——GPSの電波は岩盤を通過できない。トンネル内は慣性航法(ジャイロ・車速センサー)で位置推算する。長いトンネルを抜けた直後、ナビが一瞬ズレることがあるのはこのためだ。
「速度感覚が失われる」——均質な壁面・天井が続くと視覚的な参照物がなくなり、実際より遅く感じる。トンネル内で速度超過する車が多い理由の一つだ。
📅 時事ネタ|2026年のトンネル工事の最前線
2026年現在、最も注目を集めるトンネルプロジェクトの一つが「リニア中央新幹線」だ。品川〜名古屋間286kmのうち約86%が地下(トンネル)区間になる予定で、南アルプスを貫く最長部は約25kmに及ぶ。
また、首都圏では「首都圏外郭放水路」(埼玉・国道16号地下)がゲリラ豪雨対策として活躍しており、直径10.6mの巨大トンネルが地下50mを走る。これはシールド工法で掘られた「調節池」で、洪水を地下に一時貯留して河川への流入を防ぐ役割を果たす。トンネルは交通だけでなく都市の水管理にも欠かせないインフラになっている。
よくある誤解
「トンネルはコンクリートが支えている」
一部の工法(開削・海底の沈埋工法)ではそうだが、山岳トンネルのNATMでは地山そのものが主な支持体だ。コンクリートは岩盤の剥落防止と補助的な補強を担う。コンクリートだけで支えようとすると、むしろ地山の本来の強さを殺してしまう。
「シールド機は再利用される」
基本的にしない。地中に埋め殺しにされることが多い。シールド機は掘り進む前方に機体があり、後からでは取り出せない設計になっている。回収するコストが高いため、プロジェクトごとに機体を設計・製造し、完成後は地中に残す。
「海底トンネルは海底に直接掘っている」
工法による。沈埋工法は「海底を掘って箱形の構造物を沈め、接続する」方式で、掘削(シールド)工法とは別物だ。青函トンネルはシールドと山岳工法を組み合わせ、海底の岩盤を直接掘り進んでいる。
まとめ|山の下には驚くほど精緻な世界がある
- NATMは「地山自体を構造体にする」発想で山岳トンネルを可能にした
- 都市部・地下鉄はシールド工法。機体が地中を前進しながら壁を組み立てる
- 青函トンネルは全長53.85km、海面から240m下の世界最長海底トンネル
- 換気はトンネルの安全の核心。縦流・横流の設計と火災時の制御シーケンスが命を守る
- 出口が明るく見える・ラジオが聞こえる・ナビがズレる——すべて意図した設計の結果だ
山の下をくぐり抜けるとき、「崩れないのが当たり前」と感じているはずだ。しかしその当たり前は、岩盤の力を借りる知恵・機体が地中を自走する技術・水圧と戦う24年間・煙を制御するAI——これだけの積み重ねの上に成立している。シンプルな「穴」であることが、実は人類の土木技術の集大成なのだ。
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📚 参考文献・出典
- ・国土交通省「トンネル工事の特性について」https://www.mlit.go.jp/tec/content/001891290.pdf
- ・JRTT 鉄道・運輸機構「鉄道建設技術 トンネル」https://www.jrtt.go.jp/construction/technology/tunnel.html
- ・京都市交通局「地下鉄のつくり方-山岳トンネル工法」https://www.city.kyoto.lg.jp/kotsu/page/0000006917.html
- ・国土交通省 道路局「道路トンネル維持管理便覧」(2026年7月時点。最新は国土交通省公式でご確認を)










































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