ラーメンの麺は、うどんやそうめんと同じ小麦粉の麺なのに、黄色くて、ゆでても伸びにくくて、あの独特のコシがあります。違いを生んでいるのは「かん水」(かんすい)という水溶液です。
私はずっと、麺が黄色いのは卵を練り込んでいるからだと思っていました。袋麺の裏を見て「かんすい」とあるのに、それが何なのかは調べたことがなかったのです。この記事では、製麺会社の解説、農研機構の研究報告、自治体の表示の資料をたどって、かん水が麺の色・コシ・ゆで汁にどう働くのかを順に整理します。2026年10月時点の公開資料にもとづいています。
- かん水は炭酸ナトリウムや炭酸カリウムを主成分とするアルカリ性の水溶液で、中華麺の色・コシ・風味をつくる
- コシは、アルカリに触れた小麦のたんぱく質(グルテン)が引き締まることで生まれる
- 黄色は卵ではなく、小麦粉に含まれるフラボノイド系の色素がアルカリで発色したもの
- 麺とゆで汁が弱アルカリ性になるため、麺が溶けにくくゆで時間も短くなる
- 袋麺の表示にある「かんすい」は、物質名の代わりに使える一括名のひとつ
中華麺が黄色くコシがあるのは、かん水を加えるから
かん水は何でできているのか
岐阜県の木曽路物産は、かんすいを「炭酸ナトリウムや炭酸カリウムなどを主成分としたアルカリ塩」と説明しています。ヤマトMFGの解説では、粉末のかん水は炭酸ナトリウムと一部の炭酸カリウムの混合物で、液体のかん水は溶けやすさの関係から炭酸カリウムが主成分になっています。
製麺会社の松岡製麺は、生の中華麺には小麦粉に対して約1%のかんすいが含まれると答えています。同社は中華麺の定義として「かんすいを加えること」が条件になっているとも書いています。ラーメンの麺は、かん水を使ってはじめて中華麺と呼ばれるわけです。
小麦粉500gの麺なら、1%は500×0.01=5gです。わずかこれだけの量が、麺の性格をほとんど決めています。
麺に起こる変化は、コシ・色・風味の三つ
松岡製麺はかんすいの働きを「中華麺特有の風味、コシ、色を与える」とまとめています。木曽路物産は、グルテンに作用して弾力と伸びがよくなること、小麦粉中のフラボノイド系色素が淡い黄色に発色することを挙げています。次の章から、この三つを一つずつ見ていきます。
コシの正体は、アルカリで引き締まったグルテン
グルテンが引き締まる
木曽路物産によると、グルテンは無機質やアルカリ性の物質に出会うと収斂する(引き締まる)性質があり、そのため中華麺は弾力が増し、滑らかさも出ます。小麦粉に水を加えてこねるとグルテンができる仕組みは、強力粉と薄力粉の違いを整理した記事で図解しています。かん水はそのグルテンに、アルカリの側から手を加えているのです。
めんつう(製麺会社)の解説も、かんすい使用の目的を「グルテンに対し収斂作用(引き締める力)をし、独特の食感をだす」と書いています。別の会社も同じ仕組みで説明しています。
炭酸カリウムは硬く、炭酸ナトリウムは柔らかく
ヤマトMFGは、炭酸カリウムはたんぱく質に作用して麺を硬くし、炭酸ナトリウムは麺を柔らかくすると説明しています。このため、ラーメンの種類や麺の太さによって、二つの配合は変えるそうです。
農研機構の報告には、研究者が使うかんすいの配合が載っています。炭酸カリウム4.5gと炭酸ナトリウム3.0gを蒸留水1Lに溶かしたものです。このときカリウムの割合は、4.5÷(4.5+3.0)=0.6で、溶けている塩のうち6割です。硬さを出すカリウム寄りの配合が、研究の標準として使われています。
ラーメンを頼むとき、麺の硬さはどうしますか?
- 硬め
- 普通
- 柔らかめ
- 決まっていない
黄色の正体は、小麦粉の色素がアルカリで発色したもの
卵ではなくフラボノイド
最初に書いたとおり、私は黄色の理由を卵だと思い込んでいました。木曽路物産、ヤマトMFG、めんつうの三社は、そろって小麦粉中のフラボノイド系の色素を理由に挙げています。ヤマトMFGは、小麦に含まれるフラボンやフラボノールが、かん水のアルカリ成分で着色されると説明しています。
黄色い色が、小麦粉の中に最初からあった色素の反応だったことになります。間違っていたのは麺のほうではなく、私の見方でした。
研究者は、かん水を混ぜて粉の色を測る
農研機構の報告で、意外に思った点があります。中華麺用の小麦粉の色を調べる研究では、粉をそのまま測るのではなく、かんすいでペースト状にしてから、分光色差計で色を測っていました。
小麦粉は白く見えても、かん水を混ぜないと麺になったときの色が分かりません。粉の色は、かん水と出会って初めて決まるということです。袋に入った粉の状態は、麺の色の予告編にしかなりません。
色素で色を足すこともある
めんつうは、黄色の色素としてビタミンB2やくちなし色素がよく使われると書いています。かん水だけで色を出す麺もあれば、色素で補う麺もあるということです。色素を使った場合は、食品添加物の表示ルールにより「着色料」などの用途名も表示されます(名古屋市の食品表示の資料による)。
ゆで汁が弱アルカリ性になると、麺が溶けにくくなる
ゆで上がりの歩留まりと時間
ヤマトMFGによると、かん水を使った麺と、そのゆで汁は弱アルカリ性(pH9~10)になります。この範囲では、麺がゆで汁に溶け出すことが比較的少なく、ゆで時間の短縮にもつながります。
同社はもう一つの働きとして、製麺中の熟成の工程を挙げています。生地を休ませている間に雑菌が増えると良い生地になりません。昔の人は、かん水を練り込んでpHを9以上に上げることで、この問題を乗り越えていたといいます。
スープに入ると中和される
松岡製麺は、かんすいはゆでると約70%が溶け出し、ラーメンのスープは酸性なので、残ったアルカリ性のかんすいも中和されると説明しています。ここから、麺に残る分を計算してみます。
約1%のうち約70%が溶け出すので、麺に残るのは1%×(1-0.7)=約0.3%です。小麦粉500gの麺なら、5g×0.3=1.5g前後になります。
ゆでる前の5gが、丼に入るころには1.5g前後まで減る計算です。ゆで汁に流れた分は、麺を溶かさないという仕事を終えたあとの残りと言えます。
かん水はいつ、いまの形になったのか
1957年、食品衛生法で基準が決まる
木曽路物産の解説によると、戦後の混乱期、小麦粉の統制が解除されてラーメン店が急増したとき、苛性ソーダなど食品にふさわしくない粗悪な代用品が出回りました。当時はかんすいに規制がなく、健康への深刻な被害が心配されたため、1957年(昭和32年)に食品衛生法で「かんすいは基準を満たす合成化学品に限る」と定められました。
それ以降、日本で使われるかんすいは工場でつくられたものになりました。同社の説明では、2005年に内モンゴルで採掘された天然の炭酸ナトリウムが、初めて日本でかんすいとして正式に認可されています。
1700年前の湖水がはじまり、という話
同じ木曽路物産のページには、麺のはじまりについての話も載っています。約1700年前、内モンゴルの塩分を含む湖(鹹湖)の水で小麦粉を練ると、弾力のある舌触りのいい麺ができることが発見され、それが中華麺や餃子の皮に使うかんすいのはじまりだという話です。これは同社が調べて行き着いたという伝承で、公的な史料で確かめたものではありません。ここでは、そう語られている、というところまでにとどめます。
袋麺の裏の「かんすい」は、何を指しているのか
物質名の代わりに使える一括名
食品添加物の表示では、複数の組み合わせで使われるなどの理由から、物質名の代わりに種類を示す「一括名」を使えるものが14種類あります。かんすいはそのうちの一つです(大阪府・名古屋市の食品表示の資料)。袋麺に「かんすい」とだけあれば、炭酸ナトリウムや炭酸カリウムなどの混合物を指しています。
着色料のように、用途名を併記する必要がある添加物は8種類です。かんすいは一括名なので、用途名なしでそのまま書かれます。添加物の種類と指定の仕組みは食品添加物の仕組みをまとめた記事で整理しています。
生麺をゆでるときに気をつけること
松岡製麺は、生麺はたっぷりのお湯をしっかり沸騰させてからゆでるよう案内しています。お湯が少ないと、麺を入れたときに温度が下がり、十分にゆであがらないためです。
ヤマトMFGは、うどんやそばは酸性寄りの食品なので、ラーメンと同じ鍋で一緒にゆでてはいけないと注意しています。ゆで汁がアルカリ性になるためです。朝晩が冷え込む10月は、家で生麺を使う機会が増える時期です。鍋を分けるひと手間は覚えておくとよさそうです。
デメリット・注意点:かん水は万能ではない
風味と量の問題
ヤマトMFGは、かん水が中華麺特有の苦味や臭いの原因にもなると書いています。コシと色が出る代わりに、においが出るのです。使いすぎれば、においは強くなります。
松岡製麺は、体への害について「一日に大量に食べない限りは問題はありません」と答えています。これは同社の説明であり、個人の体調や食べ方の判断を示すものではありません。気になる場合は、医師や管理栄養士など専門家に相談してください。
仕組みは、麺と汁の組み合わせで決まる
かん水の働きは、スープと合わせて完成します。ゆで汁にもスープにも、かんすいは溶け出し、酸性のスープで中和されます。麺だけを見て「アルカリの塊」と考えるのは、少し違います。
選び方・判断:麺の太さや硬さをどう考えるか
配合は麺の種類ごとに変わる
ヤマトMFGの解説どおり、ラーメンの種類や麺の大きさでかん水の配合は変わります。私が東京で週に1度ずつ新規開拓している背脂系のラーメンは、麺が太くてしっかりしています。あの太さの麺なら、硬さを出す炭酸カリウム寄りの配合が合うのだろうと想像しています。店ごとの配合は公開されていないので、あくまで想像です。
| 成分・条件 | 麺への働き | 出典 |
|---|---|---|
| 炭酸カリウム | たんぱく質に作用して麺を硬くする。液体かん水の主成分 | ヤマトMFG |
| 炭酸ナトリウム | 麺を柔らかくする。粉末かん水の主成分 | ヤマトMFG |
| ゆで汁がpH9~10 | 麺が溶け出しにくく、ゆで時間が短くなる | ヤマトMFG |
| 小麦粉に対して約1% | 生の中華麺に含まれる量の例 | 松岡製麺 |
| ※ヤマトMFG・松岡製麺の説明にもとづく整理です。配合は各社・各店で異なります。 | ||
袋麺・生麺を選ぶときの見方
原材料の表示に「かんすい」があれば、中華麺の作り方をしている麺です。色は、かん水の反応だけで出ている場合もあれば、色素で補っている場合もあります。「黄色いから卵入り」と判断せず、原材料を確認するのが確実です。
よくある誤解
黄色いのは卵が入っているからでは?
黄色の理由は、小麦粉中のフラボノイド系の色素が、かん水のアルカリで発色するためです。ビタミンB2やくちなし色素で補う場合もあります。卵を練り込んだ麺は別の種類として売られているので、原材料で確認してください。
かんすいは化学薬品だから、ラーメンだけの特殊な添加物では?
かんすいは炭酸ナトリウムや炭酸カリウムを主成分とするアルカリ塩です。1957年に食品衛生法で基準が決まり、基準を満たすものだけを使う決まりになりました。表示のうえでは、14種類ある一括名のひとつとして扱われます。
今のかんすいはすべて工場でつくられたもの?
1957年以降は合成化学品に限られていましたが、木曽路物産の説明では、2005年に内モンゴルで採掘された天然の炭酸ナトリウムが、初めてかんすいとして認可されました。いまは天然由来のものも選べるようになっています。
まとめ:中華麺の黄色とコシは、かん水が小麦粉に起こした反応
中華麺が黄色くてコシがあるのは、アルカリ性のかん水が、小麦粉の中のグルテンと色素に働くからです。グルテンは引き締まり、フラボノイド系の色素は淡い黄色に発色します。ゆで汁が弱アルカリ性になることで、麺は溶けにくく、ゆで時間も短くなります。
袋麺の「かんすい」は一括名で、炭酸ナトリウムや炭酸カリウムなどを指します。黄色い麺を見たら卵を疑うより、原材料の表示を確かめるほうが早いと思います。次にラーメンを食べるときは、麺を持ち上げて、あの黄色と弾力がかん水の反応でできていることを思い出してみてください。
この記事の内容、読む前から知っていましたか?
- 知っていた
- なんとなく知っていた
- 初めて知った
- 誤解していた
📚 参考文献・出典
- ・木曽路物産「ラーメン起源の伝説:蒙古王かんすいストーリー」 https://www.kisojibussan.co.jp/brand/kansui_story/
- ・ヤマトMFG「ラーメンの具-かん水など」 https://www.yamatomfg.com/info/ramen-noodle-ingredients-kansui-etc/
- ・松岡製麺「よくあるご質問」 https://matsuokaseimen.com/%E3%82%88%E3%81%8F%E3%81%82%E3%82%8B%E3%81%94%E8%B3%AA%E5%95%8F/
- ・めんつう「麺に関するQ&A」 https://www.mentuu.co.jp/qa/
- ・農研機構 東北農業研究センター「中華麺用粉の配合に関する研究報告」(PDF) https://www.naro.go.jp/org/tarc/to-noken/DB/DATA/061/061-043.pdf
- ・名古屋市「食品添加物の表示」 https://www.city.nagoya.jp/kenkofukushi/eisei/1014927/1014928/1014961/1014967.html
- ・大阪府「食品添加物の表示」 https://www.pref.osaka.lg.jp/o100110/shokuhin/prcessed_food/additives.html
📖 この記事について 本記事は、食べ物の“仕組み”を知る面白さをお届けするための読み物です。個別の健康・栄養に関する判断や、特定の商品の評価を示すものではありません。2026年10月時点の公表資料にもとづいており、製品の配合や表示は変わることがあります。最新の情報は各メーカー・消費者庁などの公表でご確認ください。










































コメントを残す