缶詰のふたはなぜ空気も菌も通さないのか|二重巻締の仕組みと密封を決める寸法

缶詰の缶は、ふたと胴が別々の部品でできています。私はずっと、そのふたは胴に溶接か接着でつけてあるのだと思っていました。調べてみると、どちらでもありません。ふたの縁と胴の縁を二重に折り重ねて、ロールで押しつぶしてつなぐ「二重巻締(にじゅうまきじめ)」という方法です。

この記事では、その継ぎ目で何が起きているのか、どの寸法が密封を左右するのか、工場ではどうやって確かめているのかを、業界団体・メーカー・厚生労働省の資料から整理します。缶詰全体の製造工程や栄養は缶詰の仕組みの記事に書いているので、ここでは「ふたの継ぎ目」だけに絞ります。(2026年10月時点の情報です)

  • 缶詰が常温で保存できるのは、二重巻締による密封と、その後の加熱殺菌が組になっているから
  • 二重巻締は、ふたの縁と胴の縁を二重に巻き込んで押しつぶし、間をゴム状の密封材で埋める方法
  • 密封性に特に影響する寸法として、巻締の厚さと、ふたと胴の縁の重なりが挙げられている
  • 工場では缶を切って断面を測り、目で確かめる検査をしている
目次

缶詰が腐らないのは、ふたの継ぎ目で外と中を遮っているから

日本缶詰びん詰レトルト食品協会は、現代の缶詰の製造の特徴を次のように説明しています。内容物を缶に詰め、脱気したあと、二重巻締で密封します。そのあと熱を加えて、缶の中に残っているかもしれない微生物を殺菌します。この「密封」と「加熱殺菌」という一連の工程が、常温で流通・保存できるという缶詰の最大の特徴を生んでいる、という説明です。

密封と殺菌は、どちらが欠けても成り立たない

二重巻締は、中身が漏れないだけでなく、外から微生物が入ることもない接合方法だと説明されています。殺菌で中の微生物を減らしても、継ぎ目から外の微生物が入れば意味がありません。逆に、密封しても殺菌をしなければ、中に残った微生物が増えるかもしれません。順番も大事で、詰めて、密封して、殺菌します。

継ぎ目は缶のふちの一周にある

ふたと胴が重なっているのは、缶のふちの一周です。東洋製罐は二重巻締を「缶詰の製造工程において最も重要な工程の1つ」と書いています。密封の要は、このふちの一周にあります。

二重巻締は、ふたと胴の縁を二重に折り重ねてつぶす方法

二重巻締のふちが並ぶ、棚に積まれた缶詰
Photo by Bernd Dittrich on Unsplash

厚生労働省の資料は、二重巻締法を次のように定義しています。缶蓋のカール部(折り曲げた周縁部分)を、缶胴のフランジ部分(周縁を外側に折り曲げた部分)に被せ、ロールによって巻き込むようにして圧着し、缶胴と缶蓋を接合する方法です。ふたの部分と胴の部分がそれぞれ二重になるので、二重巻締と呼ばれます。

胴の縁はフランジ、ふたの縁はカール

缶胴の縁は外側に折り曲げてあり、これがフランジです。ふたの縁も折り曲げてあり、こちらはカールと呼ばれます。巻締の前の段階では、ふたのカールを胴のフランジに被せた状態になっています。ここから先は、ロールで巻き込む作業です。

1回目で巻き込み、2回目で圧着する

日本包装学会誌の用語解説によると、巻締は2段階です。1回目(1st巻締め)で、ふたのカール部と胴のフランジを外側から抱き合わせるように巻き込みます。2回目(2nd巻締め)で圧着し、ふたと胴を一体にします。1回で仕上げず、巻き込む工程と、押しつぶす工程に分けているわけです。厚生労働省の資料にも、第1巻締ロールと第2巻締ロールを別々に調節する作業が並んでいます。

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隙間を埋めているのは、ふたの内側に塗られたゴム状の密封材

金属どうしを押しつけただけでは、わずかな隙間が残ります。そこを埋めているのが、ふたのカール部の内側に塗ってあるシーリングコンパウンドです。東洋製罐の説明では、ゴム状で弾性のある密封材料で、巻き締めることで巻締の内部の隙間に満たされ、密封が保たれます。日本包装学会誌も、2回目の圧着でこの密封材を圧縮して密封性を保たせる方法だと書いています。

密封材はふたに全周へ塗られている

東洋製罐の蓋の製造工程の説明では、プレスで加工したふた(シェル)に、ライナーでシーリングコンパウンドを全周に塗布します。そのあとスコア(切り込み)の加工とタブのかしめをして、イージーオープン蓋ができあがります。

金属の継ぎ目と、ゴム状の材料の両方で止めている。ここが、溶接や接着との大きな違いです。

巻締機は「ロール・チャック・リフター」の3つでできている

巻締に使う機械はシーマーと呼ばれます。日本包装学会誌によると、形は機械ごとに違っても、巻締の3要素と呼ばれるロール、チャック、リフターを必ず備えています。

缶を乗せ、挟んで固定し、ロールで巻く

リフターに缶を乗せ、チャックでふたと缶胴を挟み込んで固定します。そこへロールが当たって巻き込みます。厚生労働省の資料では、作業として「リフターの高さの調節」「チャックの高さの調節」「第1巻締ロールの調節」「第2巻締ロールの調節」が個別に挙がっています。調節の項目がこれだけ分かれているので、巻締の寸法はこれらの位置関係の組み合わせで決まると読めます。

密封を左右する寸法は何か

日本包装学会誌の用語解説は、巻締の断面を測る項目を7つ挙げています。

記号 名称 意味
TC Thickness of Cover 1回目の巻締の厚み
T Seam Thickness 2回目の巻締の厚み。密封性に大きく影響する
W Seam Width 2回目の巻締の幅
C Counter Sink チャックの縁の高さ。1回目のロールとチャックの隙間で決まる
BH Body Hook 缶胴のフランジ部の長さ
CH Cover Hook ふたのカール部の長さ
OL Over Lap BHとCHが重なり合う部分の長さ。密封性に大きく影響する
※出典:日本包装学会誌 Vol.23 No.6(2014)「二重巻締め法」

表の行を数えると7項目です。

巻締の厚さとふちの重なりが、密封に大きく影響する

7項目のうち、出典が「密封性に大きく影響する」と明記しているのは、2回目の巻締の厚み(T)と、胴のフランジとふたのカールが重なり合う長さ(OL)の2つです。前者は押しつぶし具合、後者は両方の縁がどれだけ噛み合っているかを表していると読めます。

この資料は、各巻締寸法を規格内で精度よく管理し、密封後に殺菌を行うことで、長期保存しても中身の変化がほとんどない缶詰ができる、と締めくくっています。規格の数値そのものは今回確認できた資料に載っていなかったので、この記事では書きません。

工場では缶を切って断面を測っている

寸法を測るといっても、巻締の内側は外から見えません。そこで工場では、缶を切って断面を見ます。

厚生労働省の資料に載っている検査

厚生労働省の資料には、巻締の作業に「巻締解体作業による計量検査および視覚検査」という項目があります。缶を解体して、寸法を計り、目で確かめる、という意味です。ほかに「巻締内部の検査作業」「漏洩試験作業」も並んでいます。

検査機器・測定工具の一覧には、ノギス、巻締用マイクロメータ、シーム・プロジェクタ、シーミング・スケール、ルーペ、ハイトゲージなどがあり、缶を切る専用工具として缶切断用糸鋸も挙がっています。

一覧に番号が振られている測定工具・検査機器を数えると14種類でした。

この数を数えたとき、驚きました。巻締めは「ふたを閉める」という一動作に見えます。それを、これだけの道具で寸法として確かめているわけです。

国の資料では「缶詰巻締」が一つの職種になっている

この資料は、技能実習の対象として「缶詰巻締職種(缶詰巻締作業)」を定義しています。缶詰または缶詰用の空缶に、缶蓋や缶底蓋を二重巻締法で接合する作業、という定義です。製缶・缶詰の工場で働くことや、技能実習の内容に関心がある方は、一度この資料を読むと、巻締の作業が実際にどう分かれているかが分かります。なお、資料には「SCHの設定(インサイドゲージの設計)作業」という項目もありますが、この記事ではその意味まで確かめられていません。

飲料缶も同じ二重巻締でできている

飲料缶も缶詰も、ふたは二重巻締で胴につながっている
Photo by Eric Prouzet on Unsplash

二重巻締は缶詰だけの方法ではありません。東洋製罐の缶の分類によると、缶は構造で3ピース缶と2ピース缶に分かれます。3ピース缶は底蓋・円筒の缶胴・上蓋の3つの部品、2ピース缶は底と胴が一体になった胴部と、飲み口のついた蓋の2つの部品でできています。どちらも、胴と蓋を接合するために二重巻締を使い、缶の外側と遮断して中身を守ります。

ふたの数が、巻締の箇所の数になる

蓋は缶胴に巻き締めて接合される部品で、2ピース缶では1つ、3ピース缶では2つ必要だと説明されています。

巻締の箇所はふたの数と同じなので、2ピース缶は1か所、3ピース缶は2か所になります。

3ピース缶の胴の継ぎ目は溶接

3ピース缶の胴は、切った鋼板を丸めて両端をつないでつくります。つなぎ方には半田づけと電気溶接があり、現在は半田缶はほとんど姿を消して、溶接缶が主流だと東洋製罐は説明しています。溶接部は素材の鉄が溶けて表面が酸化し、耐食性が下がるため、内側と外側の両方を塗料で補います。3ピースの食品缶には、胴の継ぎ目は溶接、ふたの継ぎ目は巻締、と継ぎ目の方式が2種類あります。ふたの素材になるアルミの作り方は、アルミニウムの製造工程の記事で解説しています。

缶切りの時代から、開けやすいふたへ

二重巻締で閉めた缶は、当然ながら簡単には開きません。日本缶詰びん詰レトルト食品協会の資料によると、1824年の缶詰には「ノミとオノで開けてください」という注意書きがついていたそうです。当時はまだ缶切りがなかったためです。

スコアとタブで開けるイージーオープン蓋が主流

東洋製罐の説明では、缶切りなどの器具を使っていた缶詰も、時代とともに缶切りを必要としない開け方が考案され、現在はスコア(切り込み)を入れ、タブを起こして開けるイージーオープン蓋が主流です。蓋の一部が開く「パーシャルオープン蓋」は主に飲料缶に、蓋の全周が開く「フルオープン蓋」は主に食品缶に使われます。

ふたの形が変わっても、胴との継ぎ目は二重巻締のままです。開けやすくなったのは、ふたへのスコア加工とタブの取りつけによるもので、継ぎ目の方式ではありません。

缶詰の原理は1804年、二重巻締は1896年に生まれた

密封と殺菌の考え方も、巻締の技術も、一度に生まれたわけではありません。

年 出来事
1804年 ニコラ・アペールが、食品を容器に詰めて密封し、熱を加える方法を発見する
1810年 英国のピーター・デュランが、容器にブリキを使うことを考え、特許を取る
1861年 パスツールが、食品の腐敗の原因は微生物だと発見する
1877年 明治政府が北海道の石狩に官営の缶詰工場を設け、商業生産を始める(10月10日)
1896年 チャールス・アムスらが「サニタリー缶」を考案する(二重巻締め法の始まり)
※出典:日本缶詰びん詰レトルト食品協会「缶詰誕生200年の歩み」、日本包装学会誌 Vol.23 No.6

最初は「空気が腐敗の原因」と考えられていた

アペールは、びんに調理した食品を詰めてコルク栓で密封し、湯せん鍋で100℃、30分から60分加熱する方法で食品保存の原理を確立し、フランス政府から12,000フランの賞金を得ました。ただし当時は、微生物が腐敗の原因だとは知られておらず、空気が原因と考えられていました。1861年にパスツールが微生物を発見してから、缶詰製造の原理は「微生物を殺菌する」ことに置かれるようになります。アペールの発明から57年後の話です。

1896年の「サニタリー缶」と、変わらない技術

日本包装学会誌は、二重巻締め法は1896年(明治29年)にチャールス・アムスとジュリアス・ブレンジンガーの2人が考案したサニタリー缶が始まりで、100年以上前の技術なのに、今とほとんど変わらず完成技術として確立されていた、と書いています。

2026年から1896年を引くと130年です。

10月10日は缶詰の日

1877年に石狩の官営缶詰工場が生産を始めた日が明治10年10月10日だったという記録から、缶詰業界は10月10日を「缶詰の日」に制定しています。つい先日、その日が過ぎたところです。

二重巻締のデメリットと限界

ここまで読むと完成された技術に見えますが、弱点もあります。出典から確認できる範囲で、3つ挙げます。

寸法管理が崩れると密封が崩れる

密封性に大きく影響する寸法が、リフター・チャック・ロールという複数の調節箇所で決まる以上、機械の調整がずれれば、密封も怪しくなります。巻締の内側は外から見えないので、検査は缶を切って行います。

溶接缶は継ぎ目の保護が別に必要

3ピース缶の胴は溶接部の耐食性が下がるため、内外面を塗料で補う必要があります。継ぎ目が二重巻締だけで完結しているわけではありません。

密封だけでは保存できない

密封のあとの加熱殺菌がなければ、常温保存は成り立ちません。缶の外観が整っていても、それだけで中身の安全が決まるわけではありません。ふくらみやへこみのある缶の扱いは、今回の資料では確認できていません。日本缶詰びん詰レトルト食品協会の案内などで確認してください。

缶詰とレトルト食品の選び方と判断の材料

密封と加熱殺菌の組み合わせは、レトルト食品にも受け継がれています。日本缶詰びん詰レトルト食品協会の資料によると、レトルト食品はアメリカ陸軍の研究機関が缶詰に代わる軍用食糧を研究したことが始まりで、日本で最初に発売されたのはボンカレーです。缶詰と同じく常温で流通・保存できます。

レトルトの特徴は重さと開け方、容器の扱い

同協会の資料は、レトルト食品の特徴として、かさばらず携帯に便利、缶切りを使わず手で開封できる、軽い、容器ごと加熱すれば短時間ですむ、容器の廃棄が簡単、の5つを挙げています。ただし、この資料は2004年のものです。缶詰もいまはイージーオープン蓋が主流なので、「缶切りがいるかどうか」では差がつきにくくなっています。レトルト食品の仕組みはレトルト食品の記事にまとめています。

判断の基準は中身と使う場面

出典が示しているのは、重さ・かさ・開け方・加熱のしかた・捨てやすさの違いです。容器そのものの優劣を決める材料は、今回の資料にありません。持ち歩くなら軽さ、食べたい中身がどちらの形で売られているかを先に見る、というのが私の整理です。

よくある誤解

空気を抜いているから、缶詰は腐らない?

脱気は缶詰の製造で行われますが、保存の決め手は殺菌です。アペールの時代は空気が腐敗の原因と考えられていましたが、1861年のパスツール以降は、微生物を殺菌することが缶詰製造の原理の中心になっています。

ふたは胴に溶接か接着でつけてある?

ふたと胴の接合は二重巻締で、金属の縁を折り重ねて押しつぶし、間をゴム状の密封材で埋めています。溶接が使われるのは、3ピース缶の胴の継ぎ目です。

二重巻締は新しい高度な技術?

始まりは1896年のサニタリー缶で、100年以上前の技術です。今とほとんど変わらない完成技術として確立されていたと、日本包装学会誌は書いています。

缶詰の二重巻締の仕組みを整理する

缶詰のふたは、溶接でも接着でもなく、二重巻締でつながっています。ふたのカール部を胴のフランジに被せ、1回目で巻き込み、2回目で圧着し、間をふたの内側のシーリングコンパウンドが埋めます。そのあとに加熱殺菌をすることで、常温で保存できる缶詰になります。

密封性に特に影響すると出典が挙げている寸法は、巻締の厚み(T)と、ふたと胴の縁の重なり(OL)です。巻締機のリフター、チャック、ロールの調整でこれが決まり、工場では缶を切って測り、目で確かめています。

缶詰を手に取ったら、ふちの一周を見てください。そこが、ふたと胴を二重に折り重ねて密封している場所です。継ぎ目の方式や中身の扱いの細かい基準は、メーカーや日本缶詰びん詰レトルト食品協会の最新の案内で確認してください。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。