ベーキングパウダーと重曹の違いはどこから来るのか|苦味・焼き色・使う量が変わる理由

ベーキングパウダーと重曹は、どちらもお菓子をふくらませる粉ですが、同じものではありません。重曹は炭酸水素ナトリウムそのものです。ベーキングパウダーは、その重曹に酸性剤とコーンスターチなどを加えて、苦味や黄ばみが出にくいように作られた膨張剤です。使う量も、共立食品の資料では重曹が粉に対して1~1.5%、ベーキングパウダーが2~2.5%と、はっきり違います。

私はこれまで、ベーキングパウダーは重曹より力の強い上位版だと思っていました。調べてみると逆で、重曹の扱いにくい部分を直した改良品でした。この記事では、メーカーの解説と学校・科学館の資料をもとに、成分、膨らみ方、焼き色、苦味、使う量の違いを整理します。2026年10月時点の公開資料にもとづいています。

  • 重曹は炭酸水素ナトリウム、ベーキングパウダーは重曹に酸性剤と遮断剤を加えたもの
  • 重曹は加熱するだけだと炭酸ナトリウムが残り、苦味と黄色い焼き色が出やすい
  • 目安の量は重曹が粉の1~1.5%、ベーキングパウダーが2~2.5%で、そのまま置き換えられない
  • 生地を寝かせるなら重曹、混ぜたらすぐ焼くならベーキングパウダーが向く
目次

ベーキングパウダーと重曹の違いは成分と膨らみ方にある

先に違いを表にまとめます。共立食品の「重曹(タンサン)とベーキングパウダー」の解説と、同社のベーキングパウダーの商品ページに書かれている内容です。

項目 重曹 ベーキングパウダー
成分 炭酸水素ナトリウム 酸性ピロリン酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、d-酒石酸水素カリウム、ステアリン酸カルシウム、コーンスターチ
膨らみ方 加熱して炭酸ガスを発生させる。横に膨らむ性質 水分で膨張し、加熱で再び反応する。縦に膨らむ性質
焼き色 やや黄色味がかる(焼き色が濃くなる) 焼き色に影響を与えない
味と香り 多く加えると特有の苦味。特有の香りと塩味がある 生地の風味を損なわない
使用量の目安 粉に対して1~1.5% 粉に対して2~2.5%
向くお菓子 どら焼き、甘食、利休饅頭など素朴なお菓子や和菓子 バターを使う洋菓子
※出典は共立食品の解説ページ(記事末尾の参考文献)。ガスが出る仕組みは次の章で説明します。

ベーキングパウダーは、重曹に酸性剤と遮断剤を足したもの

共立食品は、ベーキングパウダーを「炭酸水素ナトリウム(重曹)に酸性剤や分散剤(遮断剤)を加えたもの」と説明しています。同社の商品ページの成分重量%は、酸性ピロリン酸ナトリウム30.0%、炭酸水素ナトリウム25.0%、d-酒石酸水素カリウム10.0%、ステアリン酸カルシウム1.0%、コーンスターチ34.0%です。重曹にあたる炭酸水素ナトリウムは、全体の4分の1しかありません。

酸性剤にあたるのは酸性ピロリン酸ナトリウムとd-酒石酸水素カリウムで、30.0%+10.0%=40.0%です。残りのうち、コーンスターチ34.0%とステアリン酸カルシウム1.0%が、粉どうしを離しておく役目の部分です(商品ページの成分表から自分で足し算しました)。

縦に膨らむか、横に膨らむか

メーカーの表現では、重曹は「横に膨らむ性質」、ベーキングパウダーは「縦に膨らむ性質」です。ケーキの上がふっくら盛り上がるのはベーキングパウダーの得意分野で、どら焼きの皮のように平たく焼ける生地は重曹の得意分野ということになります。和菓子が好きな私には、どら焼きが重曹向きと書かれているのが、いちばん身近な違いでした。

重曹だけで焼くと、なぜ苦味と黄ばみが出るのか

加熱すると、ガスのほかに炭酸ナトリウムが残る

学校の理科の教材では、炭酸水素ナトリウムを加熱すると、炭酸ナトリウム、二酸化炭素、水の3種類に分かれるとされています。生地を膨らませるのは、このうちの二酸化炭素(炭酸ガス)です。一方で炭酸ナトリウムは、炭酸水素ナトリウムより強いアルカリ性を示す物質です。共立食品も、重曹だけで作ると、アルカリ性の炭酸ナトリウムの苦味が後味として残ることがあると書いています。

アルカリ性が小麦粉の色を変える話は、別の記事で詳しく書いています。かん水の主成分も炭酸ナトリウムや炭酸カリウムで、中華麺が黄色くコシがある理由は、小麦のたんぱく質と色素がアルカリで変わるためです。重曹の生地がやや黄色くなるのも、同じ方向の現象と考えるのが自然ですが、メーカーの資料はそこまでは説明していないので、断定はしません。

酸と組み合わせれば、ガスを出し切れる

科学館の資料によると、炭酸水素ナトリウムは、加熱したときのほかに、酸と反応したときにも二酸化炭素を発生します。共立食品のレシピ解説では、アルカリ性の重曹と酸性のヨーグルトを合わせると化学反応で炭酸ガスが出て、もちもちふっくらしたドーナツやパンケーキになる、とあります。酸性の食材を加えないと、生地に苦味を感じてしまうそうです。

酸性剤を最初から粉の中に混ぜておいたのが、ベーキングパウダーです。苦味の元になるものを残さないために、重曹の相手になる酸を、あらかじめ用意した製品と読めます。

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ベーキングパウダーの中身は、役割が分かれている

ベーキングパウダーの缶
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水分に触れたときと、熱が入ったときの2回膨らむ

共立食品は、ベーキングパウダーが「水分で膨張し、加熱により再び反応し膨らませます」と説明しています。膨らむ場面が、生地を混ぜて水分に触れたときと、オーブンやフライパンで熱が入ったときの2回あるということです。酸性剤が2種類入っている理由までは資料に書かれていないので、私が確かめられたのはここまでです。

パンの膨らみは、酵母の発酵と、化学反応のガスの2通りに分かれます。酵母が働く膨らみ方はパン製造の仕組みで説明しています。ベーキングパウダーや重曹は、酵母を待たずに粉と水分と熱だけで膨らませるので、ホットケーキやマフィンのように短時間で焼くお菓子に使われます。

遮断剤のコーンスターチは、保存中の反応を防ぐ

共立食品の商品ページの成分表では、コーンスターチが34.0%で最も多く入っています。メーカーは分散剤(遮断剤)と呼んでいます。粉の中で重曹と酸性剤を離しておく役目の材料と考えられます。商品ページには「開封後は吸湿・虫害・においがつくのを防ぐため、必ず密封してなるべく早くお使いください」とも書かれています。湿気が入ると、使う前に反応が進んでしまうからだと考えられます。

ガスの量を計算してみると、使用量の違いの意味が見える

メーカーの使用量の目安がなぜ違うのかを、化学反応式から計算してみました。計算の前提は、原子量を丸めた炭酸水素ナトリウム84、二酸化炭素44、室温(25℃)で気体1モルが約24.5リットルです。

場面 計算 出るガスの量
重曹1gを加熱だけ 2NaHCO3(168g)からCO2が1モル。1÷168×24.5リットル 約146mL
重曹1gを酸と反応 NaHCO3(84g)からCO2が1モル。1÷84×24.5リットル 約292mL
粉100gに重曹1~1.5g(加熱だけ) 146mL×1~1.5 約146~219mL
粉100gにベーキングパウダー2~2.5g 重曹分は25.0%で0.5~0.625g。×292mL 最大で約146~182mL
※反応が100%進み、酸性剤が十分にある理想的な場合の上限値です。実際の生地のガスの量を測ったものではありません。

加熱だけで炭酸ナトリウムが残る場合は、重曹1gから出るガスが、酸と反応させたときのちょうど半分です。同じ重さの重曹から出るガスが2倍違うので、重曹を加熱だけで使うと、重曹の半分ぶんのガスしか取り出せていないことになります。

計算しながら、少し驚きました。重曹の目安(粉の1~1.5%)とベーキングパウダーの目安(2~2.5%)は、重さでは2倍近く違うのに、出るガスの理論上の上限は、どちらも粉100gあたり150~200mL前後で近い値になります。メーカーがこの考え方で量を決めたとは資料に書かれていません。ただ、少なくとも「ベーキングパウダーは入れる量が多いから強い」とは言えない、とは言えそうです。

寝かせる生地とすぐ焼く生地で、使う粉が変わる

ボウルで生地を混ぜる手元
Photo by Ahmet Koç on Unsplash

生地を寝かせたいなら重曹、すぐ焼くならベーキングパウダー

共立食品の解説では、重曹は「生地を寝かせても炭酸ガスが発生しない」ので、寝かせた後でもしっかり膨らみます。反対にベーキングパウダーは、生地を寝かせている間にすでに炭酸ガスが出るので、混ぜた後はなるべく早く焼成します。

たとえば前日に生地を仕込んでおくなら、メーカーの説明どおりに考えると、寝かせても膨らみが保たれる重曹のほうが理屈に合います。

揚げる生地は、ベーキングパウダーと砂糖を省いてはいけない

共立食品は、ドーナツやアメリカンドッグのように水で練った生地を油で揚げる場合は、小麦粉100gに対してベーキングパウダーを3g以上と砂糖10g以上の両方を必ず入れるよう注意しています。小麦粉のグルテンは加熱されると水蒸気を発生します。砂糖とベーキングパウダーを加えずに揚げると、水蒸気が行き場を失って爆発する恐れがあるとのことです。

グルテンの性質は強力粉と薄力粉の違いでも触れています。ここで見てほしいのは数字です。焼き菓子の目安は2~2.5gですが、揚げるときは3g以上と、目安より多くなっています。商品ページによると小さじ1杯が約3gなので、小麦粉100gに小さじ1杯で足ります。

代用するときの注意点とデメリット

そのままの分量では置き換えられない

共立食品は、成分が異なり発生する炭酸ガスの量が違うため、そのままの分量では置き換えられないとしています。置き換えの目安は同社のページに載っていますが、この記事では数字を読み取れなかったので書きません。粉を替えるときは、同社のページで確認してください。

重曹のデメリットは苦味とにおい、ベーキングパウダーは湿気と塩分

重曹のデメリットは、使い方によって苦味、塩味、特有の香りが出ることです。ベーキングパウダーには、苦味の心配が少ない代わりに、混ぜてから焼くまでに時間を置けない扱いにくさがあります。

商品ページには、10gあたりの食塩相当量が3.3gと書かれています。小麦粉100gに2~2.5g使うと、3.3÷10×2~2.5=約0.66~0.83gの食塩相当量が入る計算です。塩分を控えている方は、材料の表示で確認できます。

ベーキングパウダーには「ミョウバン不使用」と書かれている商品もあります。共立食品の解説でも、ミョウバン(硫酸アルミニウム)を使っていない旨が書かれています。酸性剤の種類や量は、原材料の表示で確かめられます。

ベーキングパウダーと重曹の選び方

お菓子の種類と手順から、どちらを使うかを決める目安を表にしました。共立食品の解説をもとに、私が整理したものです。

こんなとき 向いている粉 理由(メーカーの説明)
バターを使う洋菓子 ベーキングパウダー 生地の風味を損なわない
どら焼き、甘食、利休饅頭 重曹 特有の香りと塩味があり、濃い色のお菓子に使われる
ココア・チョコの生地 重曹 茶色に深みが出る
生地を寝かせてから焼く 重曹 寝かせてもガスが出ないので、寝かせた後でも膨らむ
混ぜたらすぐ焼く ベーキングパウダー 焼き色に影響せず、混ぜた後はなるべく早く焼成する
ヨーグルトなど酸性の材料を使う 重曹(またはその併用) 酸と反応して炭酸ガスが出て、苦味も抑えられる

自宅でお菓子を焼く人は、まずベーキングパウダーが1缶あれば足ります。和菓子やココアの濃い色の生地を狙うなら、重曹を足すと選べる幅が広がります。製菓の仕事で大量に仕込む人は、生地を寝かせる時間があるかどうかで粉を決めると、作業の順番が組みやすくなります。

ベーキングパウダーと重曹でよくある誤解

ベーキングパウダーは重曹の別名ですか

別名ではありません。重曹は炭酸水素ナトリウムだけで、ベーキングパウダーは重曹に酸性剤とコーンスターチなどを加えた別の製品です。成分表では、炭酸水素ナトリウムは全体の25.0%です。

多く入れるほど、ふわふわになりますか

確かめられた範囲では、そうとは言えません。重曹は、多く加えると特有の苦味が出ると、メーカーが書いています。ベーキングパウダーの目安は粉に対して2~2.5%で、揚げ物だけ3g以上と、場面ごとに量が決まっています。

重曹を使ったのに苦かったのは、重曹が悪いのですか

重曹だけで作ると、加熱でできる炭酸ナトリウムの苦味が後味に残ることがあります。酸性の食材(ヨーグルトやレモンなど)を加えて中和すると、苦味を抑えられるとメーカーは説明しています。重曹が悪いのではなく、組み合わせる相手の問題です。

混ぜた生地は、しばらく置いてもかまいませんか

ベーキングパウダーの生地は、置いている間にガスが出てしまいます。メーカーは、生地を寝かせている間にすでに炭酸ガスが出るので、混ぜた後はなるべく早く焼くよう書いています。

まとめ:ベーキングパウダーと重曹の違いは苦味と時間の扱い方

ベーキングパウダーと重曹の違いは、成分に酸性剤と遮断剤が入っているかどうかです。その差が、苦味、焼き色、膨らみ方、生地を置いてよい時間、使う量の違いに出ます。

焼きたいお菓子で決めるなら、バターの洋菓子やすぐ焼く生地にはベーキングパウダー、どら焼きやココア生地、寝かせる生地には重曹です。レシピの粉を替えるときは、量が同じにならない点に気をつけてください。揚げ菓子では、ベーキングパウダー3g以上と砂糖10g以上を省かないことも覚えておくと安全です。

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📚 参考文献・出典

📖 この記事について 本記事は、膨張剤の仕組みを知る面白さをお届けする読み物です。食品の使用量や食材の扱いは、商品パッケージの表示と各メーカーの案内をご確認ください。食品アレルギーや塩分制限がある方は、原材料表示を確認し、必要に応じて医師・専門家にご相談ください。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。