新品の畳の香りはどこから来るのか|い草の泥染めと畳離れの数字から解説【2026年版】

新品の畳を入れたとき、部屋に広がるあの香りを「いい匂い」と感じる人もいれば、「くさい」と顔をしかめる人もいます。ニュース一覧にも、新品の畳が「くさい」と言われたという町の畳店の話が出ていました。私はその記事の中身までは確かめていないので、ここでは触れません。気になったのは、そもそもあの香りはどこから来るのか、ということです。

私は今回調べるまで、畳の香りは刈り取ったい草そのものの匂いだと思っていました。農林水産省のページを開くと、い草は刈り取ったあとに泥染めをする、その目的に「畳独特の色や香り、光沢を出すため」と書かれていました。香りの話は工程の話でもあったわけです。数字は2026年10月時点の公開資料で確認しています。

  • い草の香り成分には、フィトンチッドやαシペロンが含まれるとされている
  • 農林水産省は、泥染めを畳独特の色や香り、光沢を出す工程と説明している
  • 国内のい草農家は、平成27年の550戸から令和6年の266戸に減った
  • 畳は畳表と畳床でできていて、い草を使っているのは表面の畳表

新品の畳の香りは、い草のどこから来るのか

香り成分として挙がるのはフィトンチッドとαシペロン

賃貸情報サイトのCHINTAI情報局は、全日本畳事業協同組合への取材記事で、い草の香りには樹木が発する森林の香り「フィトンチッド」や、漢方薬やアロマオイルにも使われる香附子の主成分「αシペロン」などが含まれ、リラックス効果が高いと紹介しています。

見落としがちなポイントです。い草が使われているのは、畳の表面を覆う畳表の部分で、畳の中身ではありません。新品の畳の香りの話は、この表面の層の話になります。

農林水産省は泥染めを「香りを出す工程」と書いている

農林水産省の「いぐさ・畳表」のページによると、刈り取ったい草は、畳独特の色や香り、光沢を出すために天然染土で泥染めをします。泥染めにはい草の表面をコーティングし、均一に乾燥させる働きもあるとされています。

地理的表示(GI)の「くまもと県産い草」の特定農林水産物等明細書にも同じ趣旨の記載があります。泥染めの特性として、乾燥がムラなく均一になること、色調が整うこと、変色を防ぐこと、畳独特の香りを持つことが並んでいます。刈り取り直後のい草を、染土を水に溶かした液にまんべんなく浸すと書かれています。

香りの成分名と、香りが出る工程。この2つは別々の資料に載っていて、私が確かめられたのはここまでです。泥染めのどの段階でどの成分が増えるのかは、開いた資料に書かれていませんでした。

畳は何でできているのか

畳は何でできているのか:畳の織り目と縁に光が差す和室の入口
Photo by Fumiaki Hayashi on Unsplash

表面の畳表は、い草を横糸にして織ったもの

農林水産省のページでは、畳表を「いぐさを横糸に、糸を縦糸にして製織したござ状のもの」と説明しています。畳表は市場や産地問屋を経由して畳店が買い、畳職人が畳床に張って、縁を覆うヘリを縫い付けて、ようやく畳が完成します。

新品の畳を入れる日に畳店が行っているのは、この畳表を畳床に張る作業です。

中身の畳床にはいくつかの種類がある

CHINTAI情報局の記事は、畳の中身を畳床、畳表、ポリスチレンフォーム、インシュレーションボードでできていると説明しています。ポリスチレンフォームを挟んだものから、藁を圧縮して縫い上げた藁床まで、畳床のタイプはいろいろあるそうです。

畳と床の素材の違いを比べたいときは、フローリングと畳の違いの記事で、費用や手入れの面から並べています。

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い草が畳表になるまでに1年近くかかる

植え付けから刈り取りまで

農林水産省のページによると、い草の苗は畑の苗床から8月に掘り出して水田の苗床に植え付け、11月下旬にもう一度掘り出します。株分けや根切りの調整をして、11月下旬に本田へ植え付け、6月下旬から7月中旬にかけて刈り取ります。

11月下旬の植え付けから6月下旬の刈り取りまでは約7か月、7月中旬までなら約7か月半かかる計算です(11月下旬から翌年6月下旬まで7か月、7月中旬まで約7.5か月)。

刈り取りは、鮮度を保つために気温の低い早朝や夕方に行います。資料にある理由は、鮮度を保つためです。

泥染めから織り上げまで

刈り取ったい草は泥染めをして乾燥させ、長さごとに選別されます。そこから一年かけて、農家が畳表に織り上げます。織り上げた畳表は、一枚一枚、手作業で傷がないかを確認して仕上げるそうです。

畳の香りは、このように手間のかかる工程を通った畳表から出ています。畳が仕上がる直前まで人の手が入っていると知ると、香りの見え方が少し変わるのではないでしょうか。

国産い草の畳表は、数字で見るとどれくらい減ったのか

い草農家は9年で550戸から266戸に

い草農家の数について、農林水産省の「いぐさ(畳表)をめぐる事情」を引用したマイナビ農業の掲載記事は、平成27年に550戸だったい草農家が、令和6年には266戸まで半減したと伝えています。

減った戸数は550−266=284戸です。266÷550≒0.48なので、平成27年の約48%が残った計算になり、約52%が減ったことになります。

生産者数も作付面積もピーク時の約30分の1

熊本県八代市、氷川町、八代地域農業協同組合が令和7年11月に出した要望書は、畳表となるいぐさは熊本県八代地域の基幹作物で、約520年の栽培の歴史があり、作付面積は全国の9割以上を占める産地だと書いています。

同じ要望書は、生活様式の変化による畳需要の減少や、外国産畳表と工業畳表との競合による需要減少と価格低迷で、生産者数も作付面積も、ピーク時の平成元年の約30分の1にまで減ったと述べています。

30分の1を割合にすると、1÷30≒0.033で約3.3%です。ピーク時の3%台まで小さくなった計算になります。

令和7年8月の大雨で織機が冠水した

同じ要望書には、令和7年8月10日からの大雨で、生産者の織機をはじめとする多くの専用機械が冠水し、畳表の生産ができなくなっている生産者が出てきた、とも書かれています。災害をきっかけに生産を続けるのをやめる生産者もいるとしています。

あなたが畳店で見る畳表の産地は、こうした状況に置かれています。新品の畳の話題と一緒に押さえておきたい点です。

畳の効用と、デメリット・注意点

畳の効用と注意点:低い座卓と座布団が置かれた畳の和室
Photo by Se. Tsuchiya on Unsplash

調湿とシックハウスの原因物質の吸着が挙げられている

八代市などの要望書は、い草畳表の効用として、日本の気候に適した湿度調節機能、シックハウスの原因とされる化学物質を吸着して空気を浄化する作用、優しい香りで心を癒すリラックス効果を挙げています。

CHINTAI情報局の記事には、い草畳表と藁床の6畳間なら3リットルもの吸湿能力があるとあります。

6畳間は畳6枚と考えると、3リットル÷6枚で、1枚あたり0.5リットルの計算です(畳の枚数は6畳=6枚という前提)。

香りの感じ方には個人差がある

農林水産省のページは、い草の香りにリラックス効果や鎮静効果、睡眠の質を高める作用があるという研究結果を紹介しています。ただ、全員が心地よいと感じるとは書いていません。冒頭の「くさい」という声のように、同じ香りでも受け取り方は分かれると見ておくほうが現実的です。

手入れが必要で、時期の目安がある

CHINTAI情報局の記事では、畳表を裏返す「裏返し」は3〜5年、新しい畳表に替える「表替え」は6〜10年が目安とされています。入れて終わりではなく、何年かごとに手を入れる前提で付き合う素材です。

湿気を吸う素材なので、湿度が高い季節の過ごし方も気になるところです。湿度や温度でカビが増える仕組みは秋にカビが一斉に増える理由の記事で、除湿の方式は除湿器と加湿器の違いの記事で説明しています。

畳を選ぶときの判断基準

い草の国産品、外国産、工業畳表はどう違うか

八代市などの要望書は、国産のい草畳表が「外国産畳表」と「工業畳表」と競合していると書いています。日刊工業新聞のニュースイッチの記事(2017年)によると、最近の畳表には海外産のい草だけでなく、さまざまな色に加工できる合成繊維や和紙を使ったものがあります。洋室に敷ける半畳サイズや、薄くて縁のないタイプも出ています。

同じ記事は、畳店に教わったこととして、あの新鮮な香りは国産のい草にしかないと伝えています。これは畳店の話として載っていて、各素材の香りを測った数字は開いた資料にありません。

重視すること 見るところ 資料で確かめられた点
い草の香り 国産のい草畳表か 畳店の話として、香りは国産のい草にしかないと報じられている
色や柄の選択肢 和紙や合成繊維の畳表か さまざまな色に加工できると紹介されている
洋室に置く 半畳や縁なし、置き畳か 置き畳は一番薄いもので12mmとされている
産地を確かめる GI登録の「くまもと県産い草畳表」か 農林水産省のページにGI「くまもと県産い草畳表」が載っている
※農林水産省、CHINTAI情報局、ニュースイッチの記載をもとに作成。2026年10月時点

畳表を返して香りを2度楽しむ使い方

ニュースイッチの記事は、畳表を返して香りを2度楽しむような伝統的な使い方は廃れているのかもしれない、と書いています。畳表の裏返しは、CHINTAI情報局の記事では3〜5年の目安とされている作業でした。裏返しは汚れや傷みの手入れであると同時に、昔は香りを楽しみ直す機会でもあったことになります。

畳店に相談するとき、あなたが聞いておきたいこと

畳表の素材(国産のい草か、外国産か、和紙や合成繊維か)、畳床の種類、裏返しや表替えをいつ頃行うのがよいか。この3つを畳店に聞いておくと、入れたあとのイメージがつかみやすくなります。ここは私の整理で、資料に決まった質問票があるわけではありません。

新品の畳についてのよくある誤解

畳の香りは、刈り取ったい草そのままの香りですか

農林水産省は、刈り取ったい草に泥染めをする目的に、畳独特の色や香り、光沢を出すことを挙げています。刈り取ったままではなく、泥染めや乾燥を経たい草が畳表になります。

畳は全部い草でできているのですか

い草が使われるのは畳表です。畳の中身の畳床には、ポリスチレンフォームやインシュレーションボードを使うもの、藁を圧縮して縫い上げた藁床など、いくつかの種類があります。

畳表はすべて国産のい草ですか

国産のい草畳表は、外国産畳表や工業畳表と競合していると、産地の要望書に書かれています。国産だけでなく、海外産のい草や、和紙や合成繊維を使った畳表も流通しています。

まとめ:新品の畳の香りが教えてくれること

新品の畳の香りは、畳の表面にある畳表のい草から来ています。成分としてはフィトンチッドやαシペロンが挙げられ、農林水産省はい草の泥染めを、畳独特の色や香り、光沢を出す工程と説明しています。香りの好みは人によって違いますが、その香りは農家が一年かけて畳表を織り上げた手間の先にあります。

い草農家は平成27年から令和6年にかけて550戸から266戸に減りました。畳を選ぶときは、香りを重視するのか、色や置き方を重視するのかを決めて、畳店に素材と手入れの時期を聞くところから始めるのが、判断の入り口になります。畳表の素材や価格は店によって違うため、最新の情報は畳店や公式の案内で確認してください。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。