なぜ透析が必要な外国人の生活保護は権利ではないのか|1954年の通知と2026年9月の最高裁決定

外国籍の人が生活保護を受けられるかどうかは、ニュースのたびに「法律で決まっていること」として語られます。2026年9月には、人工透析を受けるガーナ国籍の男性が、千葉市に生活保護の申請を却下されたことをめぐる裁判で、最高裁が上告を退ける決定をしました。ニュース一覧でも、透析が必要な外国人が生活保護を断られた理由を問う見出しが多くのコメントを集めていました。ただ、この問題の中身は「受けられる・受けられない」の二択ではありません。生活保護法の条文、1954年の通知、自治体の要綱という三つの層が重なっています。

私は、外国人への保護も生活保護法に書いてあるものだと思い込んでいました。厚生労働省の資料と判決の要旨を開いて確かめると、条文は「国民」と書き、外国人への保護はその外側にある別の仕組みで動いていました。数字と制度は2026年10月時点の公開資料で確認しています。

  • 生活保護法は条文で「国民」を対象にしており、最高裁は外国人を含まないと読んでいる
  • 外国人への保護は1954年の厚生省社会局長通知にもとづく行政措置で、法律に準じて行われる
  • 世帯主が外国籍の受給世帯は2024年度で47,332世帯、全体の約2.9%にとどまる
  • 2026年9月の決定は、外国人を対象にしない条文が憲法に反するかどうかを判断しなかった
目次

なぜ外国人の生活保護は法律上の権利ではないのか

生活保護法の「国民」は日本国民を指す

生活保護法の第1条は、日本国憲法第25条の理念にもとづき、国が生活に困窮する「すべての国民」に必要な保護を行うと定めています。厚生労働省の資料も、憲法第25条が「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と書いていることから、生活保護法も日本国民のみを対象にしていると説明しています。制度の全体像は生活保護の仕組みの記事で整理しています。

この読み方を最高裁が示したのが、2014年7月18日の判決です。永住者の在留資格をもつ外国人が、大分市の福祉事務所長から申請を却下され、取り消しを求めた事件でした。判決は、生活保護法の第1条と第2条にいう「国民」は日本国民を意味し、外国人は含まれないと述べています。法律の対象を一部の外国人へ広げる改正も、準用を定める法令も、制定後に行われていないというのが理由です。

1954年の通知が、条文の外側で保護を支えている

では、なぜ外国籍の受給者がいるのでしょうか。根拠は、厚生省社会局長が1954年5月8日に出した通知(社発第382号)です。堺市の要綱は、外国人への保護の措置を、この通知にもとづき生活保護法の規定による保護に準じて実施すると定めています。厚生労働省は、これを人道上の観点から行う行政措置と説明しています。

2014年の判決も、この通知の位置づけを明確にしました。通知は、外国人に法律が適用されず、法律上の保護の対象にならないことを前提に、それとは別に事実上の保護を行う行政措置として、当分の間、日本国民の場合と同様の手続きで必要と認める保護を行うと定めたものだ、という読み方です。私は、通知は法律の細かい運用ルールだと考えていたので、法律とは別の入口だと知って意外でした。

通知で保護される外国人はどの範囲か

厚生労働省が挙げる三つのグループ

厚生労働省の資料は、生活保護法に準じた取り扱いの対象を、具体的には次の三つとしています。

  • 入管法の別表第2の在留資格をもつ人(永住者、定住者、永住者の配偶者等、日本人の配偶者等)
  • 特別永住者(在日韓国人、在日朝鮮人、在日台湾人など)
  • 入管法上の認定難民

資料には、入管法別表第1の5の特定活動の在留資格をもつ人のうち、日本国内での活動に制限を受けないものなど、上の三つ以外でも対象になるケースがあるとも書かれています。在留資格そのものの区分は、在留資格の仕組みの記事で解説しています。

この一覧に載っていない在留資格はどうなるか

共同通信は、ガーナ国籍の男性について「療養目的の在留資格で滞在する外国人」という言葉を、反対意見の説明で使っています。厚生労働省の資料にある対象の一覧には、この在留資格は出てきません。一覧に載っていない場合にどう扱われるかは、資料からは読み取れませんでした。個別の判断は自治体の福祉事務所が行うため、同じ在留資格でも結論が変わる可能性があります。

外国人への生活保護の扱いについて、これまでにどのくらい知っていましたか?

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準用の保護と、法律の保護は手続きのどこが違うのか

準用の保護と法律の保護は手続きのどこが違うのか:議会や行政が置かれる東京の庁舎の外観
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二つの入口の違い

日本国民
根拠:生活保護法
申請の手続き:法律のとおり
却下されたとき:不服申立ての教示がある
外国人
根拠:1954年の通知(行政措置)
申請の手続き:法律の様式を準用
却下されたとき:堺市の要綱では教示をしない

申請の様式や審査は、日本国民と同じ形をとる

堺市の要綱は、外国人への保護の手続きと申請書の様式について、生活保護法や関連する政令・規則、市の施行細則を準用すると定めています。つまり、窓口で出す書類の形は、日本国民の場合とほぼ同じです。違いは、書類の形ではなく、その保護が何にもとづいているかにあります。

却下されたときの不服申立てが、別の扱いになる

同じ要綱の第4条は、外国人保護措置を実施する場合、法にもとづき不服申立てができる旨の教示はしないと定めています。ただし、日本国民が同じ世帯にいて、その人に法律の保護を適用する場合は教示するとされています。要綱は自治体ごとに作られるため、他の市区町村で同じ扱いかどうかは、各自治体の要綱で確認する必要があります。

2014年の最高裁判決が、外国人は事実上の保護の対象になりうるにとどまり、法律にもとづく受給権はもたないと述べたことは、この教示の扱いの違いと同じ向きにあります。ただし、教示をしない理由が判決の中でどう説明されているかは、確認できた資料からは分かりませんでした。

2026年9月の最高裁決定で決まったことと、決まらなかったこと

透析を受ける男性が申請を却下されるまで

共同通信の報道によると、男性は2015年に来日し、兄が経営する会社で働いていました。その後、慢性腎不全を発症し、2021年に千葉市へ生活保護を申請して却下されました。男性は、外国人であることを理由にした却下は違法だとして、市に処分の取り消しなどを求めました。2024年1月の一審の千葉地裁は、生活保護法が対象とする「国民」に外国人は含まれないと判断し、二審も外国人に適用される根拠は見当たらないとしました。

多数意見は憲法判断をせず、反対意見は違憲と指摘した

最高裁第2小法廷は2026年9月9日付で、男性の上告を退ける決定をしました。一審と二審で請求が退けられた判決が確定した形です。4人の裁判官のうち3人の多数意見は、生活保護法が外国人を対象にしない点が憲法に違反するかどうかを判断しませんでした。

検察官出身の三浦守裁判長は、反対意見を付けています。男性のように療養目的の在留資格で滞在する外国人への必要な保護を否定するのは「著しく人道に反する」とし、少なくともこうした外国人を保護対象外とする法の規定は違憲で無効だと指摘しました。決定が確定させたのは、この男性の請求が認められないという結論です。外国人への保護を制度としてどうするかという問いは、法律の改正を含め、立法や行政の側に残っています。

外国籍世帯の受給は、数字で見るとどれくらいか

外国籍世帯の受給は数字で見るとどれくらいか:東京都庁舎の外観
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世帯主が外国籍の受給世帯は4万7千世帯前後で推移している

厚生労働省が出典を被保護者調査(各年度の月平均)として示した資料に、世帯主が日本国籍をもたない世帯の推移があります。2015年度、2020年度、2024年度を抜き出すと次のとおりです。

年度 被保護実世帯数 世帯主が外国籍の世帯 その世帯の人員 在留外国人員数 人員÷在留外国人
2015年度 1,629,743 46,891 72,995 2,232,189 3.27%
2020年度 1,636,959 46,968 67,729 2,887,116 2.35%
2024年度 1,650,674 47,332 64,993 3,768,977 1.72%
※出典:厚生労働省「生活保護における外国人の取扱いについて」(被保護者調査、在留外国人統計)。在留外国人員数は在留資格を問わない総数で、各年度12月末の値。

2024年度の世帯主が外国籍の世帯の割合は、47,332÷1,650,674で約2.87%です。2015年度は46,891÷1,629,743で約2.88%で、この9年間はほぼ同じ水準でした。世帯数の差は、47,332−46,891で441世帯です。

在留外国人が増えても、受給の人員は減っている

厚生労働省の資料は、在留外国人は増加傾向、保護の対象となる在留資格の外国人も増加傾向である一方、世帯主が外国籍の被保護人員数は減少傾向だと注記しています。表の数字でも、世帯主が外国籍の世帯の人員は72,995人から64,993人へ減りました。

在留外国人員数は、3,768,977÷2,232,189で約1.69倍になりました。同じ期間の人員は、64,993÷72,995−1で約11%の減少です。ただし、在留外国人員数には、保護の対象となる在留資格をもたない人も含まれます。表の右端の割合は、保護の対象になる人だけを分母にした数字ではない点に注意が必要です。

この数字を見て、私は「外国人が増えれば受給も増えるはず」という見立てが合わないことに驚きました。見出しだけを読むと大きな問題に見えますが、まず公表された数字を表に並べると、規模の見方が変わります。ニュース媒体のnippon.comも、2023年度の外国籍世帯の割合は2.9%であり、「生活保護世帯の3分の1は外国人」という内容は事実に基づかない虚偽情報だと伝えています。

準用の仕組みにあるデメリットと注意点

法律ではなく通知なので、変更も自治体の運用の差も出やすい

通知は、国会の議決を経る法律とは違い、行政が出して見直せる文書です。2014年の判決も、通知にもとづく行政措置が続いてきたことを理由に、法律の対象が外国人へ広がるとは解せないと述べています。通知の文言に「当分の間」とあることも、判決で確認できます。仕組みの安定性という点では、法律にもとづく保護と性格が違います。

却下されたときの救済の道筋が見えにくい

堺市の要綱のとおり、不服申立ての教示をしない自治体があります。2014年の大分の事件も、2026年9月の事件も、裁判所は外国人に法律にもとづく受給権はないという結論をとっています。却下を裁判で争っても結果が変わりにくいことは、判決と決定から確認できます。困ったときは、書類を出す前に、窓口で手続きの流れを確かめておくのが実際的です。

外国人本人だけでなく、同じ世帯の日本人にも関わる

厚生労働省の資料は、世帯主が外国籍の世帯の人員には、外国人の配偶者や子としての日本人が含まれる場合が考えられるが、その人数は把握していないと注記しています。堺市の要綱でも、日本国民が同じ世帯にいる場合は教示の扱いが変わります。世帯の中に日本人と外国人がいると、法律の保護と準用の保護が同じ世帯の中に混ざる場合があります。

困窮したとき、何を確認して誰に相談するか|判断の基準

最初に確認する三つのこと

外国籍の本人や家族、勤め先の関係者が、生活に困る場面に直面したときは、次の順番で確認すると状況を整理できます。

  • 在留カードの在留資格が、永住者・定住者・永住者の配偶者等・日本人の配偶者等、特別永住者、認定難民のどれにあたるか
  • 同じ世帯に日本国籍の人がいるか(いる場合は、その人が法律による保護の対象になる)
  • 住んでいる市区町村の福祉事務所が、外国人への保護について要綱や案内を出しているか

申請の様式は日本国民と同じ形をとります。在留資格が一覧に当てはまらない場合でも、自治体の判断で対象になるケースが資料に書かれているため、窓口で相談する価値はあります。

家族や職場として知っておくこと

一緒に暮らす家族や、外国籍の従業員を雇う側は、病気や失業で収入が途切れたときの窓口を先に調べておくと動きやすくなります。治療が続く病気の場合は、早めに自治体や医療機関の相談窓口へつなぐことが大切です。個別の支給の可否はこの記事では判断できません。窓口の案内を優先してください。

よくある誤解

「外国人は生活保護法で受けられると決まっている」は本当ですか

法律の条文は「国民」と書いており、最高裁は2014年の判決で、外国人は含まれないと述べています。外国人への保護は、1954年の通知にもとづく行政措置です。

「外国人には一切保護されない」は本当ですか

一切ではありません。厚生労働省は、永住者や定住者など一定の在留資格をもつ人と、特別永住者、認定難民を、生活保護法に準じた取り扱いの対象としています。2024年度には、世帯主が外国籍の世帯が月平均で47,332世帯ありました。

「受給世帯の多くは外国人」は本当ですか

2023年度に生活保護を受けた世帯のうち、外国籍世帯の割合は約2.9%で、全体の一部にとどまります。数字を見るときは、世帯主の国籍で数えた世帯の数か、人員の数かを区別してください。

まとめ:外国人の生活保護は、法律の外側にある通知で動いている

外国人の生活保護が法律上の権利ではないと言われるのは、生活保護法が条文で「国民」を対象にしていて、最高裁が2014年の判決でその国民に外国人を含まないと読んだからです。実際の保護は、1954年の厚生省通知にもとづく行政措置として、法律に準じて行われています。

2026年9月の決定は、この仕組みを前提に男性の請求を退けました。条文が憲法に合うかどうかは、多数意見が判断せず、反対意見が違憲と指摘したまま残っています。制度の今後は、法律や通知の改正を伝える公式発表で確認してください。

困ったときは、在留資格、同じ世帯の日本人の有無、自治体の要綱の三つを確かめてから、福祉事務所へ相談してください。最新の取り扱いは、厚生労働省と各自治体の公式ページで確認してください。

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📚 参考文献・出典

📖 この記事について 本記事は、制度の仕組みを知っていただくための読み物で、個別の申請の可否や法的判断を示すものではありません。具体的なご相談は、お住まいの自治体の福祉事務所や弁護士などの窓口、最新の公式案内に従ってください。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。