後期高齢者の窓口負担に金融所得を入れるのはなぜか|2029年8月から変わる判定の仕組み

後期高齢者の窓口負担や保険料に、株の配当などの金融所得を反映する仕組みを、厚生労働省が2029年8月に始める方針だと報じられました。読売新聞オンラインの記事はYahoo!ニュースで1465件のコメントがつくほど、関心を集めている話題です。私も最初は、「配当は証券会社が税金を引いて終わっているのだから、とっくに所得に数えられているはず」と思っていました。実際は逆で、確定申告をしなければ、市町村は配当の金額を知りません。

この記事では、窓口負担が1割・2割・3割に分かれる判定の仕組み、なぜ金融所得だけが抜け落ちていたのか、2029年8月からどう変わる予定なのかを、厚生労働省の資料と報道で確かめます。2026年10月時点で確認できたことだけを書き、まだ決まっていない部分は決まっていないと書きます。

  • 2028年分の法定調書は2029年8月から、2029年分は2030年8月から窓口負担と保険料に反映される方針
  • 窓口負担は課税所得と「年金収入+その他の合計所得金額」で1割・2割・3割に分かれる
  • いまは確定申告をしない配当が判定に入らず、申告した人との間に差が出ている
  • 非課税のNISAは対象外で、本人が新しい手続きをする必要はないと資料に書かれている
目次

2029年8月から窓口負担と保険料の判定に金融所得が入る

反映が始まる日程は2段階

読売新聞オンラインによると、厚生労働省は75歳以上の後期高齢者について、金融所得を窓口負担と保険料の算定に反映する新しい仕組みを2029年8月に始める方針を固め、2030年8月から完全実施します。10月16日の社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)の医療保険部会で示す予定と報じられました。5月に成立した改正健康保険法で仕組みが盛り込まれ、公布から5年以内に施行すると決まっていた制度です。

日程は2段階です。2029年1月末が提出期限となっている2028年分の法定調書の内容は、2029年8月から窓口負担や保険料に反映されます。2029年2月から2030年1月末に提出される2029年分は、2030年8月から反映されます。法定調書とは、金融機関などが税務署に提出する支払いの記録のことです。

変わるのは「判定に使う所得の範囲」

後期高齢者医療制度の全体像は、後期高齢者医療制度の仕組みを解説した記事にまとめています。今回の見直しで変わるのは、窓口負担や保険料を決めるときに使う所得に、確定申告をしていない金融所得も含める点です。75歳以上の窓口負担は原則1割で、所得が多いと2割や3割になるという大きな仕組みは、読売新聞の記事も同じように説明しています。

金融所得を入れる背景には、現役世代の負担がある

厚生労働省の資料に引用された政府文書は、年齢に関わらず負担能力に応じた負担を目指す観点から、現役世代から後期高齢者への支援金負担の軽減に配慮すると書いています。後期高齢者医療の費用の財源は、令和4年度予算案ベースで、公費が約5割の8.0兆円、現役世代などの保険料から出る後期高齢者支援金が約4割の6.9兆円、高齢者自身の保険料が約1割の1.5兆円です。数字は古い年度のものですが、高齢者の保険料の割合が1割ほどで、4割ほどを現役世代の保険料が支えている構造は、判定を見直す理由を考えるときの前提になります。

窓口負担の1割・2割・3割は何で決まっているのか

窓口負担の割合を決める判定基準を説明する医師と患者
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判定は課税所得と年金収入などの合計で行う

厚生労働省の資料(令和4年10月施行の区分)によると、判定基準は次のとおりです。

負担割合 判定基準
3割(現役並み所得) 課税所得145万円以上。年収は単身で約383万円以上、複数世帯で約520万円以上
2割(一定以上所得) 課税所得28万円以上で、年金収入+その他の合計所得金額が単身で約200万円以上、複数世帯で320万円以上
1割(一般) 課税所得28万円未満、または2割の基準に当てはまらない場合
※出典:厚生労働省「後期高齢者の窓口負担割合及び高額療養費自己負担限度額」。低所得者の区分は省略

ポイントは、2割かどうかが「課税所得」だけでなく「年金収入+その他の合計所得金額」という別の物差しでも見られていることです。どちらも市町村が把握している所得の情報から計算されるため、市町村が知らない所得は、どちらの物差しにも入りません。

2割・3割の人は約500万人で、全体の約27%

同じ資料には、令和2年7月時点の後期高齢者被保険者の所得状況等実態調査にもとづく人数が載っています。後期高齢者は計で約1815万人です。そのうち現役並み所得の3割負担が約130万人(約7%)、2割負担の対象が約370万人(約20%)です。

この2つを足すと130万人+370万人=約500万人です。約500万人÷約1815万人=約27.5%で、およそ4人に1人強が1割より高い負担になっている計算です(令和2年7月時点の人数をもとに、私が計算した値です)。

残りの約7割強は1割以下です。今回の見直しは、この境目に近い人の判定を変える可能性があります。

ご自身やご家族は、後期高齢者医療制度の対象(75歳以上)に当てはまりますか?

  1. 自分が当てはまる
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なぜ確定申告をしないと金融所得は判定に入らないのか

市町村が持っているのは課税所得の情報

窓口負担の判定に使う所得は、市町村が把握している課税所得の情報が土台です。

年金、給与所得、不動産所得などは市町村が把握できます。上場株式の配当等の金融所得は、確定申告をすれば把握できますが、源泉徴収だけで確定申告をしない場合は、市町村が所得を把握できません。金融所得の反映を説明した資料にも、同じ内容の図があります。

源泉徴収ありの特定口座は確定申告が不要

新日本法規出版のウェブサイトの解説によると、特定口座の源泉徴収ありを選んでいれば確定申告は不要です。このため、配当などの金融所得は課税所得に含まれず、保険料や窓口負担の算定でも勘案されません。配当そのものの仕組みは配当金の仕組みの記事に、確定申告の基本は確定申告の記事にあります。

申告した人のほうが不利になっていた

ここが今回の見直しの出発点です。同じ金額の配当を受け取っていても、確定申告をした人は窓口負担や保険料に反映され、しなかった人は反映されません。読売新聞は、この点が不公平だとの指摘が出ていたと書いています。厚生労働省の資料にも、「税制における確定申告の有無により負担等が変わる不公平な取扱いを是正する必要がある」という政府文書の引用があります。

同じ年金と配当でも、申告の有無で1割と2割に分かれる例

年金と配当の合計額を書類と電卓で計算する
Photo by Jakub Żerdzicki on Unsplash

資料に載っている夫婦の例

金融所得の反映を説明した資料に、次のような例があります。夫婦ともに後期高齢者で、被保険者本人は年金230万円と上場株式の配当等の金融所得50万円、配偶者は基礎年金83万円です。この条件で、確定申告をして金融所得が反映される場合は窓口負担が2割、保険料は年169,978円(月14,165円)です。申告しなかった場合は窓口負担が1割、保険料は年118,928円(月9,911円)と書かれています。

基準額の320万円に、金融所得が超えさせる

この例を、先ほどの判定基準に当てはめて、私が確かめてみました。複数世帯の2割の基準は、年金収入+その他の合計所得金額が320万円以上です。

本人の年金230万円+配偶者の基礎年金83万円=313万円で、基準の320万円まで7万円足りません。ここに配当等の金融所得50万円を足すと、313万円+50万円=363万円になり、320万円を超えます。

正直、7万円足りないところで1割に収まっているという数字を見て、基準の境目は思っていたより近いところにあると感じました。この例では、金融所得を入れるかどうかが、1割と2割を分ける唯一の差です。なお、2割になるには課税所得28万円以上という条件もあり、資料の例はこの条件も満たした結果として示されています。

保険料の差は年に約5万円

保険料は、年169,978円-年118,928円=年51,050円の差です。窓口負担は1割と2割で2倍違いますが、保険料のほうも毎年かかる固定の差として出ます。

保険料は、全員が負担する均等割と、所得に応じて負担する所得割で構成されると、厚生労働省の説明資料にあります。金融所得が所得として数えられれば、所得に応じた所得割も変わりえます。例の差の内訳までは資料に書かれていません。保険料には賦課限度額もあり、令和7年度は80万円です。

金融所得はどうやって把握されるのか

金融機関から広域連合へ、法定調書をオンラインで提出する

読売新聞によると、厚生労働省案では、2029年1月から金融機関に、配当支払いなどの法定調書を都道府県ごとの広域連合にオンラインで提出することを義務化します。法定調書には、株の売買に伴う納税手続きなどを金融機関が代理して行う特定口座の年間取引報告書もあります。

新日本法規出版の解説では、本人の確定申告の有無に関係なく、金融機関等に義務づけられた法定調書を、保険者である後期高齢者医療広域連合へオンラインで提出させる方法を取ります。この仕組みでは、本人が新しく書類を出す形にはなっていません。金融所得の反映を説明した資料にも、個人の事務負担等が増えることはありません、と書かれています。

マイナンバーの記載率は約9割、データベースも整備する

厚生労働省の資料では、現状の特定口座年間取引報告書へのマイナンバー記載率は約9割です。この番号を使って、個人ごとの金融所得を名寄せし、広域連合へ送る流れが描かれています。名寄せとは、複数の金融機関から届く記録を、同じ人のものとして1つにまとめる作業のことです。

読売新聞によると、厚生労働省は法定調書データベース(仮称)を構築して、税務署や自治体などの情報と連携します。来年度予算の概算要求には56億円を計上し、自治体や金融機関のシステム改修費も補助します。保険料の仕組みと現役世代の負担の関係は、子ども・子育て支援金の記事でも保険料の集め方を扱っています。

対象にならないものと、まだ分からないこと

非課税のNISAは対象外

金融所得の反映を説明した資料には、「非課税のNISAは対象外です」と書かれています。NISA口座の中で得た配当や売却益は、これまでどおり判定には入りません。対象になるのは、上場株式の配当などの課税される金融所得です。

確認できなかったこと

私が確認した資料では、金融所得のうち、どの種類を、どの金額から、どう合算して所得割や判定に使うのかという計算の細部は、書かれていませんでした。2割や3割の基準額(200万円・320万円・145万円など)が今回の見直しで変わるかどうかも、確認できていません。報道では「方針」「案」という言い方が使われているため、実際の運用は医療保険部会の議論や政令で変わる可能性があります。

自分に影響があるかを判断する手順

手元の書類で見る3つの数字

影響があるかどうかは、次の3つで見当がつきます。1つ目は、年金の収入額です。2つ目は、上場株式の配当などの金額で、特定口座の年間取引報告書などに載っています。3つ目は、同じ世帯の被保険者が何人いるかで、1人なら基準は約200万円、複数なら320万円です。

この3つを足したときの合計が基準額を上回りそうなら、金融所得が入ることで負担割合が変わる可能性があります。ただし、判定は課税所得28万円以上という条件も同時に見るため、自分で最終的な判断はできません。正式な判定は、お住まいの市区町村や広域連合に確認してください。

2割になっても、外来の月額上限は変わらない

厚生労働省の資料によると、外来のみの月単位の上限額(個人ごと)は、2割の一定以上所得も1割の一般も18,000円で、年間の上限は14.4万円です。つまり、外来の窓口負担が2割になっても、毎月の外来の支払いは18,000円で頭打ちになります。高額療養費の仕組みは高額療養費制度の記事で説明しています。

18,000円が上限になる医療費を計算すると、1割負担なら18,000円÷0.1=180,000円、2割負担なら18,000円÷0.2=90,000円です。外来の医療費が月9万円までなら、2割になると窓口の支払いが2倍に増えます。月9万円を超えると2割は18,000円で止まり、1割は医療費が18万円に届くまで増え続けます。月18万円を超える月は、1割でも2割でも18,000円で同じです。

たとえば月の医療費が3万円なら、1割で3,000円、2割で6,000円です。通院が多くない人ほど、負担割合の差が窓口の支払いにそのまま出ます。入院を含む世帯の上限額(2割で57,600円)は別にあります。

デメリットと注意点は、いつから・誰に影響するかが未確定なこと

負担が増える人と、増えない人がいる

今回の仕組みで負担が増える可能性があるのは、確定申告をしていない配当などの金融所得があり、それを加えると基準を超える人です。逆に、年金収入や課税所得が基準よりも大きく下回っている人は、金融所得が加わっても1割のままです。3割は最上位の区分なので、すでに3割の人の窓口負担がこれ以上上がることはありません。

反映までには時間差がある

新日本法規出版の解説は、施行後、実際の反映までに1年8か月程度を要する見込みと書いています。読売新聞の報道では、2028年分の内容が2029年8月から反映される流れです。つまり、2029年8月の判定に使われるのは、2028年分の法定調書に載る金融所得です。

よくある誤解

確定申告をしておけば、反映は避けられるのか

確定申告をした金融所得は、いまも判定に反映されています。見直し後は、確定申告の有無にかかわらず、法定調書で把握されます。申告で避けられるものではなく、反映の仕方がそろえられるのが今回の見直しです。

NISAの配当も反映されるのか

非課税のNISAは対象外です。金融所得の反映を説明した資料に、そのように書かれています。

75歳以上の全員の窓口負担が上がるのか

今回の見直しは、判定に使う所得の範囲を広げるものです。1割・2割・3割の区分や基準額を変える内容かどうかは、私が確認した資料には書かれていません。窓口負担が1割で変わらない人は、判定に使う金額が基準に届かない限り、1割のままです。

まとめ:2029年8月に向けて、判定に入る所得と基準額を確かめる

後期高齢者の窓口負担と保険料は、2029年8月から、確定申告をしていない金融所得も含めて判定される方針です。これまでは、申告した人だけが反映される状態でした。同じ年金と配当でも、申告の有無で窓口負担が1割と2割に、保険料が年約5万円違う例が、資料に載っています。

判断の材料は3つです。年金収入と配当などの金額を足して、基準額(単身約200万円・複数320万円)にどれだけ近いか。非課税のNISAは対象外であること。基準額の見直しや計算の細部は、2026年10月時点では確認できなかったことです。正式な判定は、お住まいの市区町村や広域連合に確認してください。最新の情報は、厚生労働省の発表で確かめてください。

私は、年末に長岡へ帰省したとき、両親の世代の話として、この見直しがあることを家族と話そうと思っています。

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📚 参考文献・出典

📖 この記事について 本記事は、社会の制度や法律の“仕組み”を知る面白さをお届けし、世の中のルールに興味を持っていただくための読み物です。個別の法的判断を示すものではなく、制度は改正されることもあります。具体的なケースは専門家や公的機関にご確認ください。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。