ゴルフカートの事故はなぜ下り坂のカーブで重くなるのか|労災事例と中部地区アンケートで確かめる

ゴルフカートの事故のうち重くなりやすいのは、下り坂のカーブでブレーキが間に合わず、カート道から飛び出す場面です。厚生労働省の労働災害事例にも、ゴルフ場の事故を報じたゴルフダイジェストの記事にも、勾配10度前後の下りカーブで横転したり木にぶつかったりした例が載っています。

「ゴルフカートにひかれ 女性重傷」という見出しを見かけました。この事故の詳しい状況は確かめられていないので、個別の原因には触れません。この記事では、ゴルフカートの事故が起こりやすい条件を、厚生労働省の労働災害事例、大学ゴルフ授業研究会の中部地区アンケート、ゴルフダイジェストが報じた2010年の2件の事故から確かめます。資料にあるのは乗っている人が投げ出される事故や衝突が中心で、歩いている人をひく事故の件数は確認できませんでした。2026年11月時点の情報です。

  • 中部地区のアンケートでは、カートによる事故が外科的事故169件のうち51件で、打球事故62件、転倒・滑落56件と並ぶ規模でした
  • 厚生労働省の事例とゴルフダイジェストの事例は、どちらも勾配10度前後の下りカーブで起きています
  • 自動走行式のカートでも、設定速度を大きく超えて油圧ブレーキが作動せず横転した例があります
  • 資料にある対策は、使用開始前のフットブレーキ点検、速度を出さないこと、クラブを持って運転しないことです
目次

ゴルフ場の事故のなかで、カートの事故はどれくらい起きているのでしょうか

ゴルフ場の事故を数えた調査は多くありません。ここでは、大学でゴルフを教える研究者が書いた「ゴルフ教育研究」の論文を使います。2013年5月から2014年4月までの1年間について、中部地区のゴルフ場325か所にアンケートを郵送し、77か所から回答がありました。回収率は23.7%です。

カート、打球、転倒は、同じくらいの規模でした

プレーヤーの外科的な事故は、次の3種類で数えられています。

事故の種類 「あった」と答えたゴルフ場 割合 総事故件数
カートによる事故 28か所 36.4% 51件
ボールやクラブによる事故 29か所 37.7% 62件
転倒や滑落による事故 32か所 41.6% 56件
※出典:宮澤太機ほか「ゴルフ場における事故の実態と予防対策(中部地区について)」ゴルフ教育研究 第3巻(2017年)。回答した77か所の集計です。

論文は、この3種類を合わせた外科的事故の総件数を169件としています。

カートによる51件は、169件のうち51÷169≒30.2%にあたります。「あった」と答えた28か所で51件なので、1か所あたり51÷28≒1.8件です。

カートの事故は、打球よりわずかに少なく、転倒・滑落よりわずかに少ない件数でした。3つのうちカートだけが飛び抜けて多いわけではありません。

救急車を呼んだ理由では、カート転倒は1件でした

ゴルフ場の事故といえば、カートの暴走がいちばん多いと私は思っていました。ところが同じ論文で救急車の出動理由を見ると、外科的な理由71件のうち、打球が38件、骨折が16件、打撲が11件、転倒が4件で、「カート転倒」は1件だけです。

この表だけでは、カートの事故の多くが救急車を呼ぶほどではなかったのか、骨折や打撲として数えられたのかは分かりません。論文もそこまでは書いていません。件数が多いことと、重い事故が多いことは別の話なので、次の章では重い事故がどんな場所で起きたかを見ます。

重い事故は、勾配10度前後の下りカーブに集まっています

重い事故は、勾配10度前後の下りカーブに集まっています:丘のコースを下るゴルフカート
Photo by Kenan Kitchen on Unsplash

手元の資料で、人が大きなけがをしたカート事故は、いずれも下りのカーブで起きています。厚生労働省の労働災害事例では、大きく右折する下り坂で勾配は10度から12度でした。ゴルフダイジェストが報じた2010年の死亡事故は、下り坂の最大勾配が11度のS字カーブです。

10度前後の傾きは、どれくらいの坂でしょうか

角度で言われても坂の感覚がつかみにくいので、計算してみます。

11度の坂は、水平に100m進む間に100×tan11°≒19.4m下る傾きです。ゴルフダイジェストの事故現場は、飛び出した地点まで約30メートルの急坂とされていて、30×sin11°≒5.7mの高低差になります。

ブレーキを緩めると、重力がカートを前へ押します

坂の上でカートが受ける力のうち、坂に沿って下へ引く成分は、重力加速度に傾きの角度の正弦をかけた大きさです。

9.8×sin11°≒1.87m/s²です。10度なら約1.7、12度なら約2.0m/s²になります。1.87m/s²は、毎秒1.87×3.6≒6.7km/hずつ速くなる向きの力です。転がり抵抗や空気抵抗、モーターの制御は入れていないので、実際の速度ではなく、傾きの大きさをつかむための計算です。

数字を並べてみて、私は少し驚きました。平らな場所でゆっくり走るカートの感覚のまま下り坂に入ると、アクセルを離しただけでは速度が落ちるとは限りません。下り坂では、止まるための力はブレーキに頼ることになります。

ゴルフ場でカートに乗ったことはありますか?

  1. よく乗る
  2. たまに乗る
  3. 乗ったことはあるが運転はしない
  4. 乗ったことがない

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自動走行式のカートでも、ブレーキが働かず横転しました

厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」には、ゴルフ場で新しく導入した電磁誘導型の自動走行式ゴルフカートが、訓練中に横転した事例が載っています。電磁誘導とは、カート道に敷いた電磁誘導線に通電し、カートがセンサーで検知しながら設定速度で走る方式です。

設定速度を大きく超えても、油圧ブレーキは作動しませんでした

災害の当日、支配人が口頭で数分間、緊急時のフットブレーキ操作と、他の操作はすべて自動であることを説明しました。その後、キャディは6台のカートに分乗して、実際にプレーをしながら訓練しました。

訓練がほぼ終わり、キャディ4名が乗った3台目のカートが、最終ホールからクラブハウスへ戻る途中の、大きく右折する下り坂(勾配10度から12度)にさしかかりました。速度が、ブレーキの自動作動設定速度を大きく上回ったのに、油圧ブレーキは作動しませんでした。キャディも、あわててフットブレーキを操作することはありませんでした。カートは超過速度のままカーブを曲がり、カート道から飛び出して横転しました。4名は外に投げ出され、頭や首、腰などに3か月以上の打撲擦過傷を負いました。

事例が挙げる原因は、機械の欠陥と、確認と訓練の不足です

事例は原因を4つ挙げています。

  1. 自動走行制御のプログラムの一部に欠陥があり、ノイズなどの異常に対応できなかったこと
  2. 設置メーカーが納入時に行った走行テストが不十分だったこと
  3. 異常が起きたときのフットブレーキ操作の訓練が不十分だったこと
  4. 乗車するキャディに、操作の注意事項を事前に教育していなかったこと

機械の制御が働かなかったとき、最後に頼れるのは運転する人のブレーキ操作でした。乗用車では、アクセルとブレーキの踏み間違いによる急な発進を抑える装置が実用化されています(踏み間違い急発進抑制装置の仕組み)。ゴルフカートにこうした装置が付いているかどうかは、今回の資料からは確認できていません。

同じゴルフ場で1週間に起きた2件は、何が違ったのでしょうか

ゴルフダイジェストは、2010年8月に兵庫県のゴルフ場で1週間に2件の乗用カート事故が起きたことを報じています。乗用カートは、プレーヤーが自分で運転するタイプです。記事は事故の直後に書かれていて、警察の調査中の内容を含みます。ここでは、記事に書かれた事実と、記事が可能性として挙げたことを分けて書きます。

8月19日の事故 8月23日の事故
場所 下り坂のS字カーブ(最大勾配11度) 上りの左ヘアピンカーブ(勾配5度)
運転していた人 65歳のプレーヤー 69歳の女性
結果 カート道を飛び出して木に衝突、外傷性脳幹損傷で死亡 のり面に乗り上げ、アクセルを踏み込んで横転、ひざの擦り傷
※出典:ゴルフダイジェスト・オンライン「1週間に二度も乗用カート事故が起きたゴルフ場を実地検分」(2010年9月掲載)

死亡事故は、下りのS字カーブでブレーキ痕がありませんでした

8月19日の事故では、男性2人がティショットのあとカートでグリーンへ向かい、下り坂のS字カーブを曲がり切れずにカート道から飛び出しました。後部座席の同乗者は軽傷です。事故の前から「徐行 急なS字下り坂」の看板が出ていました。記事によると、現場にブレーキ痕はなく、同乗者も「ノーブレーキ」で坂を下ったと話しています。

原因は、記事の時点では調査中でした。現場には折れたサンドウェッジがあり、クラブを持ったまま運転して足元に挟まり、ブレーキを踏めなかった可能性が記事で指摘されています。確かめられた事実ではなく、可能性の指摘です。

5度の上りでも、アクセルを踏み込めば横転しました

8月23日の事故は、ホールアウトのあと次のティグラウンドへ向かう、勾配5度の上りヘアピンカーブで起きました。運転していた69歳の女性は、曲がり切れずにのり面に乗り上げ、そこでアクセルを踏み込んだため勢いがついて、カート道を越えてのり面まで進んで横転しました。記事は、視界を遮るものはなく単純な操作ミスが想定される、としています。

勾配が小さい上りでも、ハンドルが間に合わない速度でカーブに入れば横転します。傾きの大きさだけで危険を決められない点は、資料を読むまで私が考えていなかったことです。

乗る前に、何を確かめればよいのでしょうか

乗る前に何を確かめるか:ゴルフ場のカート道に並んだゴルフカート
Photo by Dean on Unsplash

この章に並べるのは、厚生労働省の事例とゴルフダイジェストの記事に書かれている対策です。メーカーの取扱説明書や各ゴルフ場の案内に、別の決まりがある場合はそちらが優先です。

プレーヤーが運転するとき

ゴルフダイジェストの記事は、安全のために、スピードを出さないこと、クラブを持って運転しないこと、カートが動いている間はスコアカードをつけないことを挙げています。この事故のゴルフ場は、利用約款で運転免許証の保持者に限り、スタート前にプレーヤー全員が利用誓約書にサインする決まりでした。

私は車を持っていないので、ゴルフカートを運転した経験はありません。そのため、坂の手前で速度を落とすという基本を、資料の数字でようやく納得しました。下りカーブの手前で速度を落とすのは、曲がるためだけでなく、坂で増える速度を先に抑えておくためでもあります。

ゴルフ場とカートを導入する側が確かめること

厚生労働省の事例は、同種の災害を防ぐ対策を6つ挙げています。

  1. 自動制御に異常が出たときの非常停止システムについて、安全のアセスメントを行う
  2. 一定の速度を超えたことを示す警報ランプをつける
  3. 外部からの電磁ノイズをシールドなどで防ぎ、ノイズの影響があればカートを止める仕組みにする
  4. メーカーは納入時に十分な走行試験をして、キャディへの教育にも協力する
  5. その日の使用開始前に、フットブレーキの性能を点検して確認する
  6. 安全管理体制を確立し、安全教育を徹底する

ゴルフダイジェストの記事では、弁護士が、危険なカーブには転落防止柵を設けるなど、コース側に安全対策の義務があると述べています。

キャディの事故と労災保険

中部地区の論文は、キャディの外科的事故が24か所(31.2%)のゴルフ場であったと報告しています。労災保険の適用者がいると答えたのは27か所(35.1%)、いないと答えたのは50か所(64.9%)でした。論文は、事故が多いのに6割以上で労災保険の適用がなかったことに注目し、キャディの補償を充実させる必要があると書いています。仕事中のけがの補償は、労災保険の仕組みで説明しています。

デメリットと注意点:この数字から分かることと、分からないこと

ここまでの数字には、使い方に限りがあります。

  • 中部地区のアンケートは、325か所のうち回答した77か所の集計です。論文自身が、回収率が23.7%で標本数が少ないこと、アンケートだけでは結果の信頼性や客観性に議論の余地があることを書いています
  • 調べた期間は2013年5月から2014年4月で、地域は中部地区です。全国の件数や、いまの件数ではありません
  • ゴルフダイジェストの2件は、2010年の記事で、調査中の時点の内容です。その後の調査結果は確認できていません
  • 厚生労働省の事例は1件で、自動走行式のカートが導入された直後の訓練中の事故です。乗用カートの事故の代表例とは言えません
  • ゴルフカートの事故を全国で集計した公的な統計は、確認できた範囲では見つかりませんでした

見出しにあるような、歩いている人がカートにひかれる事故については、件数も原因も、この記事の資料では分かりません。

よくある誤解

ゴルフ場のカートはゆっくりなので、事故でも軽くすむのでしょうか

軽くすむとは限りません。厚生労働省の事例では、横転でキャディ4名が外に投げ出され、3か月以上の打撲擦過傷を負いました。ゴルフダイジェストが報じた事故では、65歳のプレーヤーが死亡しています。資料に走行速度の数字はないので、何km/hで起きたかは分かりません。

自動走行式のカートなら、運転ミスは起きないのでしょうか

厚生労働省の事例は、自動制御のプログラムの欠陥とノイズ、納入時の試験不足が重なって、油圧ブレーキが作動しなかった例です。機械が速度を制御していても、異常が出たときにフットブレーキを操作する訓練が必要だと、事例は述べています。

看板と誓約書があれば、ゴルフ場に責任はないのでしょうか

ゴルフダイジェストの記事では、弁護士が、看板や誓約書があっても責任は免れないという見解を述べています。個別の事故で責任がどうなるかは、事情によって変わります。法的な判断が必要な場合は、弁護士などの専門家に相談してください。

まとめ:ゴルフカートの事故は、傾き・ブレーキ・運転する人の3点で整理できます

資料の数字から言えることを、順に整理します。

  • カートの事故は、中部地区のアンケートで外科的事故169件のうち51件で、打球や転倒と同じ規模です。ただし救急車の出動理由では、カート転倒は71件のうち1件でした
  • 重い事故の事例は、勾配10度前後の下りカーブに集まっています。11度の坂では、ブレーキを緩めると重力で毎秒6.7km/hずつ速くなる向きの力が働きます(抵抗を除いた計算)
  • 自動走行式でも、制御に異常が出て油圧ブレーキが作動しなかった例があります。フットブレーキを使用開始前に点検し、異常時の操作を訓練しておくことが、事例の挙げる対策です
  • 運転する人は、下りカーブの手前で速度を落とし、クラブを持って運転しないことが、記事の挙げる基本です

見出しになった事故の原因は、この記事では分かりません。最新の情報は、警察や報道、ゴルフ場の発表で確認してください。

この記事について

この記事は、公開されている資料をもとにした一般的な情報です。事故の原因の判断、責任や補償の判断、個別のゴルフ場やカートの安全性の評価ではありません。けがをした場合は医療機関に、責任や補償の相談は弁護士などの専門家に、カートの操作はメーカーの取扱説明書とゴルフ場の案内に従ってください。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。