2026年10月28日の朝、北海道小樽市で走行中の軽自動車の左前輪が外れ、約30メートル転がって駐車中の無人の車にぶつかりました。けが人はいませんでした。運転していた50代の男性は前日に自分で冬タイヤに交換しており、警察が調べたところ、ほかの3本のタイヤはナットが逆向きに付けられていたと報じられています。
私は、ホイールナットはどちらを向けても同じように締まる部品だと思っていました。調べると、ナットにはホイールの穴に当てる側の形があり、メーカーが「向きを守ってください」と書いていました。この記事では、報道で分かっていること、ナットの座面の種類、向きを間違えたときに資料が書いていること、タイヤ交換のあとに確かめる項目を、協永産業・国土交通省・コンチネンタルタイヤの資料で整理します。2026年10月時点の情報です。
- ホイールナットの座面には60°テーパー座・球面座・平面座があり、ナットの向きはホイールの穴の形に合わせる
- 協永産業は、テーパー部を取り付け方向に向けて付け、締め付けは手で確認しながら対角線の順に行うよう案内している
- タイヤ交換のあとは、50〜100km走行してから増し締めをするのが目安
- ナットの逆向きと脱落の関係は、警察の調べがすべて明らかになったわけではない
小樽の脱落事故で分かっていること
報道された事実
UHB(北海道文化放送)の報道では、事故が起きたのは10月28日の午前6時30分ごろ、小樽市築港の市道です。50代の男性が運転する軽自動車の左前輪が走行中に外れ、約30メートル転がって駐車中の無人の車に当たって止まりました。男性が「走行中に左前輪が外れた」と警察に通報しています。
男性は前日に自分で冬タイヤへ交換していました。当日の朝、自宅を出た後からガタガタという音がしていたと話しています。警察が車を調べると、ほかの3本のタイヤのナットが逆向きに付いていました。外れたタイヤのナットも、正しく付いていなかった可能性があると報じられています。警察は、運転前の点検と、異音がしたらすぐに運転をやめて点検するよう呼びかけています。
別の報道には、日付や場所の書き方が異なるものもありました。この記事は、UHBの報道に沿って書いています。
まだ分かっていないこと
ニュースでは「ナット逆向き」という言葉が目を引きます。ただ、外れた1本の原因が何だったのかは、私が確認できた報道では確定していません。「可能性がある」という書き方にとどまっています。この記事も、逆向きが脱落の原因だったと断定はしません。
ねじが振動でなぜ緩むのか、締めたトルクのうち締結力になる割合はどれくらいか、という一般的な仕組みは、ねじが振動で緩む仕組みを解説した記事に書きました。ここでは、ナットの向きと座面に話を絞ります。
ホイールナットの座面は3種類ある
60°テーパー座・球面座・平面座
ホイールナット・ボルトを作っている協永産業の案内には、「ホイールの取り付けナット座には60°テーパー座・球面座・平面座等がございます。必ずご使用になるホイールの取り付け面の確認をして下さい」と書かれています。ナットのほうに種類があるだけでなく、ホイールの穴の形にも種類があり、両方が合っていなければ使えないということです。
「前に使っていたナットをそのまま使えば大丈夫」とは言えません。座面は、ホイールの穴の側を見て確認します。
向きは「テーパー部を取り付け方向に」
協永産業は、装着時の注意として「ナットの取り付け方向は、必ずテーパー部を取り付け方向に向けて下さい」と書いています。テーパー部とは、先に向かってすぼまっている部分のことです。この部分をホイール側に向けて付ける、という意味です。
協永産業の案内を、装着前・装着時・装着後に分けて表にまとめます。
| 段階 | 協永産業の案内 |
|---|---|
| 装着前 | ホイールの取り付け面(座面)を確認する。ハブボルトに錆・汚れ・変形がないか、ボルトとナットの径とねじピッチが合っているかを確かめる |
| 装着時 | テーパー部を取り付け方向に向ける。ナットは手で確認しながら取り付け、対角線の順に締め、最後にトルクレンチで指定トルクに締める |
| 装着後 | 装着の初期やローテーションの後は緩みやすいため、約100km走行してから増し締めをする |
冬タイヤへの履き替えは、どうしていますか?
- 自分で交換している
- ときどき自分で交換する
- 店に頼んでいる
- 履き替えない(車がない・雪が少ない)
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ナットが逆向きだと何が起きるのか
資料に書かれていること
協永産業は、案内の冒頭で「お守り頂けないと車両・ホイール等の変形や緩みを引き起こし、事故の原因となる事があります」と書いています。向きを守らないことも、この注意の対象に含まれます。
一方で、ナットを逆向きに付けたときに、どの部分がどう当たり、どのくらいの力で緩むのかを数字で書いた資料は、私が探した範囲では見つかりませんでした。ですので、「逆向きにすると何倍緩みやすくなる」といった数字は、この記事には書けません。
私が形から考えたこと
ここからは私の推論で、協永産業の資料に書かれた説明ではありません。テーパー座のナットは、先がすぼまった円すい形の面でホイールの穴の縁に当たります。この面が穴にはまると、ナットがホイールを広い面で押さえられます。ナットを逆向きにすると、円すいの面ではなく、平らな側の縁がホイールに向きます。平らな側の縁が穴に当たると、ナットの面とホイールの穴が合わないまま締まることになり、広い面で押さえることができなくなる、と私は理解しました。
この理解が正しいかどうかを確かめる資料は、見つけられていません。確かなのは、メーカーが「向きを守る」ことを装着時の約束事にしている、という点です。
異音は、止まって点検する合図
小樽の男性は、出発したときからガタガタという音がしていたと話しています。警察は、異音がしたらすぐに運転をやめて点検するよう呼びかけています。くるまのニュースが取り上げた別の事例でも、運転中に足元から異音がして確認したらナットが緩んでいた、という利用者の声が紹介されています。
音がしても、そのまま目的地まで走るかどうか迷う場面があるかもしれません。タイヤが外れると、自分だけでなく周りの人にも被害が及びます。異音を感じたら、安全な場所に止まって確かめるのが、資料に沿った行動です。
ナットは手で回し始め、対角線に締める
ねじが掛かっている量を確かめる
協永産業は、ホイールを装着するとき、ナットとボルトのねじが掛かる量(はめあい量)を、回転数で示しています。スチール製のナットとボルトでは、ねじピッチP1.5なら7回転以上、P1.25なら8回転以上締めること、締まらない場合は取り付けないことと書かれています。アルミ軽合金ナットでは、P1.5が10回転以上、P1.25が12回転以上です。
ねじピッチは、ねじ山1つ分の間隔(1回転で進む長さ)です。回転数にピッチを掛けると、ねじが掛かる長さの目安が出ます。スチール製は7回転×1.5mm=10.5mm(P1.5)、8回転×1.25mm=10mm(P1.25)です。アルミ軽合金ナットは10回転×1.5mm=15mm、12回転×1.25mm=15mmで、どちらも15mmになります。この長さは私が資料の回転数から計算したもので、協永産業が長さで示しているわけではありません。
アルミ製ナットのほうが多く回すことを求められている理由は、資料に書かれていません。回転数は、資料の数字をそのまま守る、という使い方が安全です。
最初は手で回し、インパクトレンチは使わない
協永産業は「ナットの取付けは手で確認しながら行って下さい。インパクトレンチの使用は不可!」と書いています。手で回し始めると、ナットが円滑に回るか、途中で引っ掛かりがないかが指先で分かります。国土交通省の自動車整備の案内には、大型車の場合として、なるべく奥まで手で回して入れ、円滑に回ることを確認し、ひっかかりなどの異常があればホイール・ボルトなどを交換する、という説明があります。
締める順番は対角線
協永産業は、締め付け順序を対角線上に行うよう案内しています。国土交通省の案内でも、ホイール・ナットの締め付けは対角線順に2〜3回に分けて行い、最後にトルクレンチなどで規定トルクに締めるとされています。1本ずつ最後まで締め切るのではなく、少しずつ全体を締めていく手順です。
締付トルクと増し締めの決まり
トルクは車ごとに違う
協永産業の案内に、ネジ径ごとの参考値があります。M10は90〜100N・m(9〜10kgf・m)、M12は110〜120N・m(11〜12kgf・m)、M14は140N・m(14kgf・m)です。ただし、同じ案内に「上記締め付けトルクは参考値です。締め付けの際は、各カーメーカー指定トルクを優先下さい」とあります。
くるまのニュースは、トヨタ「プリウス」のホイールナット締付トルクを、標準タイヤ・応急用タイヤともに103N・mと紹介しています。クルマの締付トルクは取扱説明書に書かれているので、自分で交換するときは、まず取扱説明書で自分の車の値を確かめます。
締めすぎもボルトを傷める
くるまのニュースは、ナットは緩すぎても締めすぎてもよくなく、締めすぎるとボルトやナットが破損してタイヤが脱落する可能性があると説明しています。強く締めれば安心、とは言えないということです。金属が繰り返しの力で割れる仕組みは、金属疲労を解説した記事で扱っています。
増し締めは50〜100km走ってから
コンチネンタルタイヤは、タイヤ交換後50-100kmを目途に走行してから、ホイールナットの増し締めをするよう案内しています。交換時の締め付けトルクが適切でなかったり、初期走行の環境変化があったりすると、走行距離が伸びたときにまれにナットが緩むことがある、という説明です。
国土交通省の資料にも、同じ趣旨の記載があります。締め付け後は初期なじみによってホイール・ナットの締付け力が低下するため、50〜100km走行後を目安に増し締めを行う、という内容です。協永産業は、装着初期やローテーションの後は約100km走行してからの増し締めを案内しています。
冬に脱落が増えるのはなぜか
国土交通省の集計は大型車のもの
国土交通省物流・自動車局が2025年9月にまとめた資料では、令和6年度の大型車の車輪脱落事故は120件で、前年度の142件より22件減りました。うち3件は人身事故を伴っています。車輪脱落事故のほとんどは大型トラックで、大型バスは120件中2件でした。
発生した時期は冬に集中しています。同じ資料では、約56%が令和6年12月から令和7年2月に起き、約45%が車輪脱着作業から1か月以内に起きたとされています。この資料は大型車の集計で、乗用車の全国的な統計は、私が探した範囲では見つかりませんでした。
平成27年度の大型車の事故は41件で、令和6年度の120件は約2.9倍です。120件÷41件=約2.9倍で計算しました。41件は国土交通省の資料のグラフにある平成27年度の件数です。
降雪地域の錆も影響する
協永産業は、降雪地域の道路氷結防止剤や、海岸地域の塩水・潮風は錆などの腐食を早めると案内しています。冬に履き替えるタイミングで、ハブボルトに錆や汚れがないかを見ることが、装着前の確認項目になっています。タイヤそのものの構造や材料は、タイヤの仕組みを解説した記事にまとめています。
乗用車でも起きた長野の事故
くるまのニュースによると、2025年4月27日、長野市内の県道で走行中の普通乗用車から後輪2本が外れ、そのうち1本が近くのたいやき店の列に衝突し、子どもを含む4人が軽傷を負いました。後輪2本はほぼ同時に外れたとみられ、警察は整備不良の可能性も含めて原因を調べていると報じられています。冬でなくても、タイヤの脱落は起きています。
自分で交換するか、店に頼むか
自分で交換する人の確認項目
自分で履き替える人が、ここまでの資料から確かめられる項目を並べます。
- ホイールの座面と、ナットの座面が合っているか
- ナットのテーパー部をホイール側に向けて付けているか(すべてのナットで)
- ボルトの錆・汚れ・変形がないか
- ナットを手で回し始め、引っ掛かりなく回るか
- 対角線の順に締め、最後にトルクレンチで車の取扱説明書のトルクに締めたか
- 50〜100km走行したあとに増し締めの予定を入れたか
店に頼む人の確認項目
コンチネンタルタイヤの案内では、タイヤ交換を行う整備工場やタイヤ販売店では、交換後50-100kmを目途に走行した車にホイールナットの増し締めサービスを実施しているところがあるとされています。店に頼んだ場合でも、増し締めは必要です。頼んだ店に、増し締めの案内があるかを確かめておくと、走行距離の目安を忘れません。
トルクレンチを持っていない人は、自分で付けるより店に頼むほうが、規定トルクで確実に締められる点では有利です。判断の基準は、トルクレンチと取扱説明書を使って、向きとトルクを自分で確かめられるかどうかです。
自分で交換するデメリットと注意点
見落としを見つけてくれる人がいない
自分で交換すると、向き・座面・トルクのどれを間違えても、それに気づく人が自分しかいません。小樽の事例では、ほかの3本のナットの向きは、事故のあとに警察が調べて分かりました。出発前に、すべてのナットの向きを目で見て確かめる手間をかけることが、見落としを減らす方法です。
工具と時間が必要になる
協永産業の案内どおりに作業するには、トルクレンチと、ナットの二面幅に合うレンチが要ります。インパクトレンチは使わないよう案内されています。工具を用意する費用と、対角線の順に何度か締める時間がかかる点は、デメリットです。
異音や違和感があれば走らない
警察の呼びかけどおり、交換のあとで異音や違和感があれば、運転をやめて点検します。走りながら様子を見ることは、資料のどこにも勧められていません。
タイヤ脱落のよくある誤解
強く締めれば安全という誤解
くるまのニュースは、締めすぎるとボルトやナットが破損して脱落する可能性があると説明しています。強さではなく、車ごとに決められたトルクで締めることが大切です。
一度締めれば増し締めは不要という誤解
コンチネンタルタイヤと国土交通省の資料は、初期なじみで締付力が下がることを理由に、50〜100km走行後の増し締めを案内しています。店で交換した場合も、増し締めの対象です。
ナットはどれも同じという誤解
協永産業は、座面に60°テーパー座・球面座・平面座があり、ホイールの取り付け面に合わせて確認するよう案内しています。見た目が似ていても、ホイールに合わないナットがあります。
まとめ:ナットの向きを目で確かめ、増し締めまで行う
小樽の事故では、ほかの3本のナットが逆向きに付けられていたと報じられました。ナットの逆向きと脱落の因果関係は、資料からは断定できません。ただ、協永産業が「テーパー部を取り付け方向に向ける」と装着時の約束事にしている以上、すべてのナットで向きを確かめることは、作業の最初の確認項目になります。
ナットの向きのあとは、手で回し始めること、対角線の順に締めること、車ごとのトルクで締めること、50〜100km走行後に増し締めをすることの順で確認します。トルクレンチがない、向きに自信がない場合は、店に頼みます。異音がしたら、すぐ運転をやめて点検します。
私は車を持っていないので、タイヤ交換の経験がありません。調べて分かったのは、ナットは「回れば締まる部品」ではなく、ホイールの座面と合わせて使う部品だということでした。次に冬タイヤへ履き替える人は、締める前に、ナットのすぼまった側がホイールを向いているか、1つずつ見てみてください。
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📊 「冬タイヤ交換でナットが逆向きだとタイヤは外れるのか|小樽の脱落事故と座面の仕組み」はこんな人に読まれています
📚 参考文献・出典
- ・UHB 北海道文化放送「【タイヤ速報】ナット逆向きだった!冬タイヤに交換したばかりの軽自動車から左前輪が外れ…」 https://www.uhb.jp/news/single.html?id=63174
- ・協永産業「ホイールナット・ボルトについて」 https://www.kyoei-ind.co.jp/about-nut-and-bolt/
- ・国土交通省物流・自動車局「大型車の車輪脱落事故発生状況と傾向分析について」(令和7年9月) https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001912901.pdf
- ・国土交通省自動車局整備課「ホイール・ボルト折損による大型自動車等の車輪の脱落事故防止について」(平成28年11月4日) https://www.mlit.go.jp/common/001151120.pdf
- ・国土交通省「大型車のホイール・ナットの締付けについて」 https://www.tenken-seibi.com/tenken/pdf/shimetsuke.pdf
- ・コンチネンタルタイヤ「タイヤ交換後の増し締め」 https://www.continental-tires.com/jp/ja/tire-knowledge/retorquing-wheels/
- ・くるまのニュース「なぜタイヤが外れる? 全国で相次ぐ脱落事故の原因は? 重大事故を防ぐナットの正しい締め方とは」 https://kuruma-news.jp/post/905013
- ・くるまのニュース「えっ! タイヤが外れた…ナゼ?相次ぐ乗用車のタイヤ脱落事故! 重要な「正しい取り付け方法」とは」 https://kuruma-news.jp/post/719951
📖 この記事について 本記事はホイールナットの仕組みと公表資料を紹介する読み物で、個別の車の整備を指示するものではありません。実際の作業や締付トルクは、車の取扱説明書とメーカー・整備工場の案内に従ってください。数字は2026年10月時点の公表資料と報道によるものです。










































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