予備費はなぜ国会の議決なしに使えるのか|ガソリン補助10兆円超の財源と事後承諾の仕組み

ガソリンなど燃料油の価格を抑える補助について、JNNが10月に「予算の累計が10兆円を超える見通しで、近く今年度の予備費から支出を閣議決定する」と報じました。ここで出てくる予備費は、国会が使い道を一つずつ議決したお金ではありません。それなのに、閣議だけで数千億円が動きます。

私は予備費を、国会が関与しない「内閣の財布」のようなものだと思っていました。条文を読んで、その見方は半分しか合っていないと分かりました。枠そのものは国会が議決していて、使った後に国会の承諾も要るからです。この記事では、予備費の支出が決まる順番、補正予算との違い、承諾されなかった場合に何が起きるかを、憲法と財政法、財務省の資料、国会の答弁書で確かめた範囲で整理します。数字と制度は2026年10月時点の公開資料に基づきます。

  • 予備費は、予見し難い予算の不足に充てるために国会の議決で設け、内閣の責任で支出するお金
  • 使い道は閣議で決まり、国会の承諾は使った後に次の常会で求められる
  • 2026年度は当初予算の予備費に加え、補正予算で中東情勢等対応予備費2兆5,000億円が置かれた
  • 10兆円超は2021年度以降の累計の見通しで、今回の予備費から出る額とは別の数字
目次

予備費は枠だけ先に議決し、使い道は後から承諾を得るお金

憲法の予備費の条文は2つの文でできている

予備費の根拠は、憲法第八十七条にあります。条文はこうです。

「予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基いて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない。」

前の文は、予備費という枠を国会の議決で設けることを定めています。後ろの文は、支出したあとに国会の承諾を得ることを内閣に義務づけています。国会が関与しないどころか、関与が前と後ろの2回あります。使い道の個別の議決だけが、ありません。

財政法は「相当と認める金額」を予算に計上すると定める

財政法の予備費の条文は、予見し難い予算の不足に充てるため、内閣は予備費として相当と認める金額を歳入歳出予算に計上できる、という内容です。金額は内閣が相当と認める額を予算案に載せ、国会が予算を議決することで枠が決まります。予算案の審議で、予備費の額も国会に見られています。

ただし、法律には「いくらまで」という上限は書かれていません。上限があるかどうかは、私が確かめた条文の範囲では確認できませんでした。毎年の額は、そのときの予算で決まります。

予備費の支出は各省庁の要求から閣議決定まで順に決まる

各省庁が調書を出し、財務大臣が予備費使用書を作る

財政法の定めでは、予備費は財務大臣が管理します。各省庁の長は予備費の使用が必要だと認めるとき、理由、金額、積算の基礎を書いた調書を作って財務大臣に送ります。財務大臣は要求を調べて調整し、予備費使用書を作って閣議の決定を求めます。

予備費が使われるまでの順番

各省庁が理由・金額・積算を書いた調書を提出
→
財務大臣が調べて予備費使用書を作成
→
閣議で決定し、予算が各省庁に配られたものとみなす
→
次の常会で総調書を国会に出し、承諾を求める

閣議決定そのものの手順は、閣議決定とは何かの記事で書いています。予備費の閣議決定はその中の一つで、国会に法案を出す閣議とは違い、決定した時点で使えるお金になります。

あらかじめ指定された経費は、閣議を経ずに財務大臣が決められる

財政法には但し書きがあります。あらかじめ閣議の決定を経て財務大臣が指定した経費については、閣議を経ずに、財務大臣が予備費使用書を決定できます。急ぐ少額の支出まで毎回閣議にかけなくてよい、という仕組みです。どの経費が指定されているかは、私が確かめた資料には出ていませんでした。

予備費使用書が決まると、その経費は予算の配賦があったものとみなされます。つまり、補正予算のように国会で新しい予算を成立させる手順は、ここにはありません。

ニュースで「予備費から支出」と聞いたとき、国会が関わる仕組みだと知っていましたか?

  1. 承諾の手続きまで知っていた
  2. 枠は国会が決めると知っていた
  3. 国会は関わらないと思っていた
  4. 今回初めて知った

📊 これまでの読者投票の結果(当サイト調べ・12票)

枠は国会が決めると知っていた:42%
国会は関わらないと思っていた:33%
承諾の手続きまで知っていた:25%
今回初めて知った:0%

ガソリン補助に予備費が使われた経緯

ガソリン補助に予備費が使われた経緯
Photo by Dawn McDonald on Unsplash

3月から170円程度に抑える補助が続いている

日本経済新聞によると、政府は2026年3月からレギュラーガソリンの店頭価格を1リットル170円程度に抑える補助を続けています。中東情勢の悪化で燃料油の価格が高止まりしているためです。補助の計算式や出口の議論は、ガソリン補助金42.8円はどう決まるのかの記事にまとめています。この記事で見るのは、補助の財源がどこから来たかです。

9月1日の6,160億円は中東情勢等対応予備費から出た

日本経済新聞が伝えた2026年9月1日の閣議決定では、2026年度の予備費から6,160億円を支出しました。財源は、2026年度補正予算で確保した2兆5,000億円の中東情勢等対応予備費です。内訳は、燃料油補助向けの基金の積み増しに6,136億円、LPガスを使うタクシー事業者の負担軽減に24億円でした。

内訳の合計は6,136億円+24億円=6,160億円で、報道の総額と一致します。燃料油補助の基金に回った割合は6,136÷6,160≒99.6%、中東情勢等対応予備費2兆5,000億円(25,000億円)に対する6,160億円の割合は6,160÷25,000≒24.6%です。

予備費から補助金そのものを払っているわけではなく、まず補助のための基金に積み増している点に注意が要ります。補助は基金の残高から出ていて、予備費は基金を満たす役目です。

10月の報道で出た「10兆円超」と「5000億円超」

JNNは10月に、燃料油価格を抑える予算措置の累計が2021年度以降で10兆円を超える見通しだと報じました。補助の財源は11月以降に枯渇する見通しで、政府は今年度の予備費から手当てする方向です。追加額は複数の関係者の話として、5000億円を大幅に超える規模とされています。

見出しの「10兆円超」には、つい目が行きます。ただ、この数字は2021年度以降の累計です。今回の予備費から出る額は、報道では5000億円を大幅に超える規模とされています。閣議決定の日付と正確な金額は、この記事を書いた時点で確認できていません。見出しの熱さと、実際に予備費で動く額との差は、分けて読んだほうがよいと私は考えています。

予備費と補正予算はどこが違うのか

補正予算は国会が議決し、予備費は閣議で使い道が決まる

年度の途中でお金が足りなくなったとき、手段は2つあります。補正予算を組むか、予備費を使うかです。財政法は、補正予算を作れる場合を限定しています。予算作成後に生じた事由に基づいて特に緊要となった経費の支出などです。補正予算は、国会に提出して議決を受けます。

項目 補正予算 予備費
使い道を決める場所 国会が議決する 閣議で決める(財務大臣が決める場合もある)
国会の関与 支出の前に議決 枠を設けるときに議決、使った後に承諾
向いている場面 額が大きく、時間をかけて審議できる追加支出 予見し難い不足に素早く対応したいとき
※憲法・財政法の条文の内容を整理したもの。2026年10月時点。

2026年度は予備費の枠が2種類ある

財務省が公表した2026年度の補正予算(第1号)の概算によると、財務省所管の一般会計では、当初予算の予備費10,000億円に5,135億円が追加され、15,135億円になりました。さらに、中東情勢等対応予備費が25,000億円、新しく置かれています。

財務省所管の一般会計で予備費と中東情勢等対応予備費を足すと、15,135億円+25,000億円=40,135億円、約4兆円です。ただし、これは補正後の枠の合計で、すでに使った分や残りの額は含みません。

中東情勢等対応予備費は、名前のとおり使い道の範囲を絞った予備費です。「予見し難い」という予備費の本来の趣旨に、補正予算の段階で「中東情勢への対応」という方向づけを足した形になっています。これを予備費の使い方の変化と見るか、補正予算で使い道を示した上での予備費と見るかは、評価が分かれるところです。私は判断を保留します。

国会の承諾は後から求められる

国会の承諾は後から求められる
Photo by Hansjörg Keller on Unsplash

承諾を求めるのは次の常会で、先に衆議院に出す

財政法では、予備費で支払った金額について、各省庁が調書を作って財務大臣に送り、財務大臣が総調書を作ります。内閣はこの総調書と各省庁の調書を、次の常会で国会に提出して承諾を求めます。財務大臣は、会計検査院にも同じ書類を送ります。

参議院に出された政府の答弁書によると、事後承諾の案件は先例を踏まえて先に衆議院に提出し、同時に予備審査のために参議院へ同じ案を送っています。承諾を求める時期をなるべく早くするため、案件は(その1)と(その2)に分けて出してきたとも説明されています。

平成二十年には参議院が承諾せず、衆議院だけが承諾した

承諾が得られなかった例があります。二〇〇六年度の一般会計予備費などの事後承諾案件5件(総額約千五十億円)は、平成二十年五月二十三日の衆議院本会議で承諾されました。一方、参議院では承諾されませんでした。政府は答弁書で、参議院の承諾を得られなかったことを「誠に遺憾」としています。

不承諾でも、すでに使ったお金の効力は変わらないという政府の見解

同じ答弁書で、政府は次のように説明しています。国会の承諾を得るべく努力することは当然だとした上で、不承諾となった場合にも、過去における予備費の支出行為の効力に影響を及ぼすものではないと解されている、という見解です。

国会の承諾が得られなくても、すでに払ったお金が無効になるわけではないということです。承諾は支出を止める手段ではなく、内閣の責任を国会が確認する手続き、というのが政府の整理です。この整理に納得できるかどうかは別の話です。承諾案件を国会にどう提出するかは、平成九年の答弁書で、衆議院と参議院の議院運営委員会が協議中だと政府が説明していました。

予備費の注意点と批判されている点

国会の事前審議を経ないことへの批判がある

令和五年三月二十四日、政府は令和四年度予算の予備費から物価高騰対策として二兆二千二百二十六億円を支出すると閣議決定しました。これについて、参議院議員が提出した質問主意書は「国会審議を経ずに内閣の裁量で使途を決められる予備費は『財政民主主義』のあくまで例外である」と述べ、なぜ数か月先の物価対策を予算編成の時点で見込めなかったのかをただしています。

これは質問した議員の主張で、政府側の見解ではありません。ただ、予備費の額が大きくなるほど、事前に国会で審議される部分が小さくなるという指摘は、制度の仕組みから自然に出てくる論点です。

「予見し難い」かどうかは、その都度の判断になる

予備費の要件は「予見し難い予算の不足」です。170円に抑える補助は3月から続いていて、財源は11月以降に底をつく見通しだと報じられています。続いている支出を予備費で手当てすることが要件に合うかどうかは、条文だけでは決まりません。判断するのは、閣議を決める内閣と、あとから承諾を判断する国会です。

予備費のニュースを読むときの判断の目安

「どの予備費か」「いくらか」「何に使うか」の3点を見る

報道で「予備費から支出」と出たら、見る点は3つです。1つ目は、一般の予備費か、中東情勢等対応予備費のように目的を絞ったものか。2つ目は、金額が今回の支出額か、累計や枠の総額か。3つ目は、使い道が補助金そのものか、基金への積み増しかです。ガソリン補助の例では、見出しの10兆円超、今回の追加額、予備費の枠の総額が、それぞれ別の数字でした。

後から確かめるなら、次の常会の事後承諾案件を見る

閣議決定の時点では、使い道は報道で知るしかありません。国会が承諾を判断する段階になると、総調書と各省庁の調書が提出されます。使い道の一覧が出るのはこの段階です。個々の案件の中身までは、私は今回確かめていません。

予備費についてよくある誤解

予備費は国会が一切関与しないお金?

関与の仕方が違うだけです。予備費という枠は、国会の議決で設けます。使った後も、内閣は国会の承諾を求めなければなりません。使い道の個別の議決がないだけで、国会が最初から最後まで蚊帳の外にあるわけではありません。

国会が承諾しなければ、使ったお金は戻すことになる?

政府は、不承諾になっても過去の支出行為の効力には影響しないと解釈しています。平成二十年に参議院が承諾しなかったときも、この考え方が示されました。承諾が得られなければ政治的な責任が問われ得るものの、支出がなかったことになる仕組みではありません。

予備費はいくらでも使える?

予備費は、予算に計上され国会が議決した額の範囲で使うお金です。2026年度は、当初と補正を合わせて枠の額が決まっています。枠を超えて使うには、別の手段が要ります。どう手当てするかは、そのときの政府の判断と国会の議決によります。

まとめ:予備費は枠を議決し、使い道は閣議、承諾は後

予備費は、枠を国会が議決し、使い道を内閣が閣議で決め、使った後に国会が承諾する3段階でできています。事前審議が薄いと言われるのは、使い道の個別の議決がないからです。ただし、国会が関与しないわけではありません。

ガソリン補助の報道では、10兆円超は2021年度以降の累計の見通しで、予備費から出る追加額は5000億円を大幅に超える規模とされていました。9月1日の例では、中東情勢等対応予備費から6,160億円を出し、そのほとんどを補助の基金に回しました。

私が結論を出せないのは、継続している補助を予備費で賄うことの是非です。条文は要件を「予見し難い」と書いていて、その解釈は内閣と国会に任されています。次に予備費の報道を見るときは、どの予備費か、いくらか、何に使うかを、承諾の場でどう扱われるかとあわせて見てください。最新の閣議決定の内容は、財務省と報道で確認してください。

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📚 参考文献・出典

📖 この記事について 本記事は、社会の制度や法律の“仕組み”を知る面白さをお届けし、世の中のルールに興味を持っていただくための読み物です。個別の法的判断や財政政策の評価を示すものではありません。予備費の閣議決定の内容や金額は、財務省や報道の最新情報でご確認ください。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。