他人の住民票はどんな理由なら取れる?NHKも使う第三者請求と本人通知制度の仕組み

NHKが、転居した契約者の住民票(除票)の写しを本人に無断で取得し、契約住所を変更した。その通知書とみられる画像がXに投稿され、2026年10月29日には週刊女性PRIMEがこの話題を取り上げました。通知書には「NHKでは、お客様の住民票(除票)の写しを取得して、NHKにお届けの住所から別のご住所へ転居されていることを確認し、お客様のご契約住所を転居先の住所に変更する手続きをさせていただきました」と書かれています。

本人以外が住民票を取れること自体に驚いた人が多いようです。結論から言うと、住民基本台帳法には、一定の理由がある第三者が住民票の写しを請求できる条文があります。NHKだけの特権ではなく、貸金業者や生命保険会社も同じ条文で請求します。この記事では、条文、市区町村の審査、本人通知制度、罰則、DV被害者への支援措置を、法律の本文と自治体・総務省の案内から整理します。2026年10月時点の情報です。

  • 本人以外でも、「自己の権利を行使し、又は自己の義務を履行するため」などの理由があれば、住民票の写しを請求できる
  • 請求を受けた市区町村長が、申出の内容を見て「相当」と認めたときだけ交付される
  • 第三者に交付される写しは、氏名・出生年月日・男女の別・住所などの基礎証明事項だけが原則
  • 本人通知制度は事前登録が必要で、交付を止める制度ではない
目次

NHKが住民票を取得できるのは、第三者の請求を認める条文があるから

通知書に書かれていたのは「除票の写しで転居を確認した」こと

投稿された通知書の文面を読むと、NHKは住民票そのものではなく「除票」の写しを取得しています。除票とは、引っ越しなどで元の市区町村の住民基本台帳から外れた住民票の記録のことです。後の章で、除票にも住民票と同じ仕組みがあることを条文で確認します。

受信契約の仕組みや受信料の決まり方は、NHK受信料の仕組みを解説した記事に書いています。この記事では、契約の話ではなく、住民票を取れる根拠のほうを扱います。

第12条の3第1項が認める3つの場合

根拠になる条文は、住民基本台帳法第12条の3第1項です。市町村長は、次のいずれかに当たる者から申出があり、その申出を相当と認めるときは、住民票の写しを交付できると定めています。

  • 自己の権利を行使し、又は自己の義務を履行するために、住民票の記載事項を確認する必要がある者
  • 国又は地方公共団体の機関に提出する必要がある者
  • 前の二つのほか、住民票の記載事項を利用する正当な理由がある者

清須市の案内には、1つ目の例として「債権者が債権回収のために債務者本人の住民票を請求する場合」と「生命保険会社が生命保険金の支払いのために所在のわからない契約者の住民票を請求する場合」が挙がっています。NHKは、受信料を受け取る権利がある債権者の立場で、この1つ目に当たると説明しています。

NHKの説明と、弁護士の見方

弁護士ドットコムニュースが過去にNHK広報局へ確認した記事では、NHKは「住民票(除票)の写しをとることがあるのは事実です」と答えています。対象になるのは、受信料の請求書などの郵送物が届かなくなった場合と、受信料を払わずに転居した場合です。

同じ記事で、個人情報に詳しい金田万作弁護士は、この規定はNHKに限らず貸金業者など多くの債権者が使っていると話しています。債権者が住民票の写しを取ること自体は問題のある行為とは思えない、という見方です。

私は最初、NHKには放送法のような特別な法律の根拠があるのだと思っていました。調べてみると、使われているのは債権者なら誰でも使える一般的な条文でした。思い込みでした。

住民票の写しを請求できる人は、立場によって分かれる

本人と同じ世帯の人は、第三者請求の対象外

南魚沼市の案内では、本人と同一世帯員による住民票の請求は、第三者請求の対象外として整理されています。本人や同じ世帯の人は、第三者に必要な「正当な理由」を示さなくても請求できる立場です。住民票と戸籍の違いは、住民票と戸籍の違いを整理した記事で説明しています。

弁護士など資格者は、依頼者の事情を理由に請求できる

法律は、弁護士・司法書士・土地家屋調査士・税理士・社会保険労務士・弁理士・海事代理士・行政書士を「特定事務受任者」としています。この資格者は、受任している事件や事務の依頼者が前の3つの場合に当たることを理由として、住民票の写しが必要だと申し出ることができます。

国や地方公共団体の機関は、別の条文で請求する

国や地方公共団体の機関が法令で定める事務のために請求する場合は、第12条の2という別の条文があります。南魚沼市の案内でも、国・地方公共団体・裁判所・警察署などからの請求は、第三者請求とは別の扱いです。

請求する人 条件 根拠
本人・同じ世帯の人 理由の説明は不要 第12条
国・地方公共団体の機関 法令で定める事務のため 第12条の2
債権者・保険会社などの第三者 権利の行使・義務の履行などの理由があり、市町村長が相当と認める 第12条の3第1項
弁護士など資格者 依頼者が前の理由に当たる 第12条の3第2項
※e-Gov法令検索の住民基本台帳法と、南魚沼市・清須市の案内をもとに作成

引っ越したとき、契約先すべてに住所変更を連絡しましたか?

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引っ越した人の「除票」と、通知書が届くまでの流れ

引っ越した人の除票と、通知書が届くまでの流れ(並んだ郵便受け)
Photo by Mathyas Kurmann on Unsplash

除票も、住民票と同じ3つの場合で請求できる

第15条の4第3項は、市町村が保存する除票について、住民票と同じ3つの場合に当たる者が、申出と市町村長の「相当」という判断を経て写しの交付を受けられると定めています。住民票を取れる人が、引っ越した後の記録も取れるという構造です。

NHKの通知書は、除票の写しから転居を確認したと書いています。除票のどの項目から転居先が分かったのかは、今回の資料では確かめられていません。そのため、この記事では転居先がどの項目で分かるかは断定しません。

NHKが除票を使うのは、郵送物が届かない場合と、支払わずに転居した場合

NHK広報局の説明によると、住民票(除票)の写しを取るのは、請求書などの郵送物が不着になった場合や、受信料を払わずに転居した場合です。NHKの担当者は、日本放送協会放送受信規約第8条に「受信契約者が住所を変更したときは、直ちに、その旨を届け出なければならない」と規定されているため、住所変更の手続きが必要になると説明しています。

ただし、同じ弁護士は「仮に郵便物が届かないというだけで取得しているとしたら、理由としては微妙な気がします」とも話しています。引き落としで受信料がすでに支払われている場合、郵便物を届ける目的だけで「権利の行使」と言えるかが論点になる、という指摘です。法的に問題ないと整理した記事でも、この点は意見が分かれうるところです。

申出で何を書くのか:市区町村が見る項目

申出で何を書くのか:市区町村が見る項目(書類に記入する手元)
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申出で明らかにしなければならない事項

第三者が申出をするとき、法律は次の事項を明らかにするよう求めています。申出者の氏名と住所(法人なら名称と代表者の氏名、主たる事務所の所在地)、申出の対象にする人の氏名と住所、そして住民票の写しの利用の目的です。申出の任に当たる人は、個人番号カードの提示などで本人であることも示さなければなりません。

清須市は、請求時に交付の可否を審査し、審査結果によっては交付できない場合があると案内しています。「債権者」と名乗るだけで通るわけではなく、市区町村が目的を見て判断します。

交付されるのは「基礎証明事項」だけが原則

第三者に交付される住民票の写しは、基礎証明事項だけが表示されたものが原則です。基礎証明事項は、氏名・出生年月日・男女の別・住民となった年月日・住所と住所を定めた年月日・新たに住所を定めた届出の年月日と従前の住所を指します。

この範囲には、世帯主との続柄、戸籍の表示(本籍)、個人番号(マイナンバー)が入っていません。通知書のきっかけになった転居の確認のために必要なのは、住所の記録だけです。

追加の項目は、必要を申し出た場合に限られる

基礎証明事項以外の項目が必要なときは、申出の際にその旨を申し出ることができます。市町村長が相当と認めれば、その分も交付されます。ただし、個人番号は申出をしても対象に入りません。

本人通知制度で分かること、分からないこと

通知されるのは交付の事実と請求者の種別

本人通知制度は、住民票の写しなどを第三者に交付したとき、事前に登録した本人に知らせる制度です。南魚沼市の案内では、通知されるのは交付した年月日、証明書の種類、通数、請求者の種別(本人などの代理人か、代理人以外の第三者か)の4つです。

登録前の交付と、申請者の氏名・住所は通知されない

通知の対象は、登録した翌日以降に交付した証明書です。登録前に交付された分は分かりません。申請者の氏名や住所も通知されないので、誰が取ったのかは通知だけでは分かりません。詳しく知りたい場合は、個人情報の保護に関する法律に基づいて交付申請書の開示請求ができますが、開示される範囲は法律の規定の範囲内です。

交付を止める制度ではない

南魚沼市の案内には、第三者からの交付申請を拒否したり、交付の可否を本人に問い合わせたりするものではないと明記されています。登録の効果は、不正取得の早期発見と、不正請求の抑止です。自分の住民票に誰かが請求をかけたとき、あとから気づける仕組みと考えるのが正確です。

偽って取得すると、30万円以下の罰金が科される

住民基本台帳法には、偽りその他不正の手段によって住民票の写しなどの交付を受けた者を、30万円以下の罰金に処する規定があります。債権者だと偽って他人の住民票を取る、といった行為が対象です。清須市の案内にも、同じ趣旨の罰則が書かれています。

金田弁護士は、罰則はあるが、取得された情報の悪用そのものを直接防ぐことはできないと指摘しています。取得の入口は審査と罰則で守られていて、取得した後の使い方は、別の法律や契約の問題になるということです。

DV被害者の住民票は、加害者に出ないよう制限できる

住民票の写しが第三者に出る仕組みは、居場所を知られたくない人にとって危険にもなります。総務省は、配偶者からの暴力(DV)、ストーカー行為等、児童虐待およびこれらに準ずる行為の被害者が、市区町村に支援措置を申し出ることで、住民基本台帳の一部の写しの閲覧や住民票の写しの交付などに制限を設けるとしています。

申出を受けた市区町村長は、支援措置の必要性を、警察や配偶者暴力相談支援センター、児童相談所などの意見を聴いて確認します。加害者が分かっている場合は、加害者からの請求や申出を「不当な目的」のあるものとして、閲覧させない・交付しないとしています。加害者が第三者になりすまして行う申出に対しては、請求事由をより厳格に審査します。詳しい手続きは、お住まいの市区町村への問い合わせが案内されています。

引っ越しのとき、今日からできること

私はテレビを持っていないので、NHKとは受信契約を結んでいません。それでも今回の件を調べて、引っ越しのたびに、契約している会社への住所変更を済ませたかを確認する習慣は付けておこうと思いました。

  • 引っ越した直後に、受信契約・ローン・保険など、契約している会社へ住所変更を連絡する
  • 住民票が第三者に出たことを後から知りたい人は、住んでいる市区町村の本人通知制度の登録を窓口で確認する
  • DVやストーカー被害で居場所を知られたくない人は、支援措置を市区町村に相談する
  • 通知書や請求書が届いたら、どの条文を根拠にしているのかを書面で確認する

NHKの受信規約には、住所を変更したら直ちに届け出る規定があります。先に届け出ておけば、請求書などの郵送物が届かなくなる状況を避けられます。

法的に問題がなくても、違和感が残る理由

週刊女性PRIMEの記事は、住民票の取得は合法と整理しながら、「怖いし、気持ち悪い」という反応を伝えています。条文どおりでも、本人が知らないうちに自分の住所の記録が動く点が、違和感の理由です。

弁護士ドットコムニュースの記事で金田弁護士は、住民票には住所以外の情報も含まれると指摘し、事業者にはなるべく住民票を取得しないための取り組みや仕組みが望まれると話しています。この記事で見たように、第三者に出る写しは基礎証明事項が原則です。それでも、取得を後から知る手段として自治体が案内しているのは、事前に登録する本人通知制度です。

債権者にとって、相手の所在が分からなければ請求書も送れません。一方、本人にとっては、取得を事前にも事後にも知らされない場合があります。この2つの利害のバランスを、市区町村の「相当と認めるとき」という判断に任せているのが、今の制度です。

住民票の第三者請求に関するよくある誤解

「NHKだけが無断で住民票を取れる」は誤解

条文は、債権者・保険会社・資格者など幅広い第三者を対象にしています。弁護士の説明では、貸金業者など多くの債権者が使う規定です。NHKだけの特別扱いではありません。

「住民票を取られると、家族や本籍まで知られる」は誤解

第三者に出る写しは基礎証明事項だけが原則で、世帯主との続柄、本籍、マイナンバーは含まれません。基礎証明事項以外の項目は、必要を申し出て市町村長が認めた場合に限られ、マイナンバーはその場合も対象外です。

「本人通知制度に登録すれば、取得を止められる」は誤解

本人通知制度は、第三者からの交付申請を拒否する制度ではありません。交付の可否を本人に問い合わせることもしません。登録すると、交付されたあとに通知が届く仕組みです。

状況別に、何を確認するか

あなたの状況 確認すること
引っ越しを予定している 受信契約・保険・ローンなど契約先すべての住所変更
取得されたことを後から知りたい 住んでいる自治体の本人通知制度の事前登録
居場所を知られたくない事情がある 市区町村への支援措置の申出
身に覚えのない契約で通知書が届いた 契約の有無と、取得の根拠を書面で確認

まとめ:住民票の第三者請求は審査つきの制度

NHKが住民票(除票)の写しを取れるのは、住民基本台帳法第12条の3などに、権利の行使や義務の履行のために必要な第三者の請求を認める規定があるからです。債権者なら誰でも使える条文で、市区町村長が「相当」と認めたときだけ交付されます。

第三者に出る写しは基礎証明事項だけが原則で、偽って取れば30万円以下の罰金です。本人通知制度は、登録した人に交付の事実を知らせる制度で、交付を止める制度ではありません。居場所を知られたくない人には、別に支援措置があります。

法的に問題がないと整理されていても、取得を知らされない点への違和感は残ります。引っ越したら契約先に住所変更を連絡し、気になる人は住んでいる市区町村の窓口で本人通知制度を確認するのが、今日からできる対策です。

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📚 参考文献・出典

📖 この記事について 本記事は、社会の制度や法律の“仕組み”を知る面白さをお届けし、世の中のルールに興味を持っていただくための読み物です。個別の法的判断を示すものではなく、制度は改正されることもあります。具体的なケースは専門家や公的機関にご確認ください。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。