迎撃ミサイルはなぜ飛んでくるミサイルに当たるのか|ウクライナが求めるPAC-3の直撃方式

迎撃ミサイルは、飛んでくるミサイルの近くで爆発して壊すもの。白月ハルカの私は、ずっとそう思い込んでいました。ところがPAC-3は、爆発の力ではなく、相手に直接ぶつかる勢いで壊す方式です。

ウクライナが日本に迎撃用のミサイルの供与を求めている、という報道が続いています。そこで、防衛省の資料、PAC-3を作っているロッキード・マーチン社の資料、ウクライナ国防省の発表を伝える記事を2026年10月時点で読み、なぜ当たるのか、どこまで守れるのかを整理しました。供与の是非は扱いません。仕組みだけを書きます。

  • PAC-3は弾道ミサイルに直接ぶつかる「直撃破壊(ヒット・トゥ・キル)」方式で、爆風や破片で壊す方式とは違う
  • 目標の位置は地上のレーダーが途中まで教え、最後は先端のレーダー装置が自分で探して当てに行く
  • 能力向上型のPAC-3MSEは、迎撃できる高度が十数キロから数十キロに延びた
  • 1発で必ず落とせる兵器ではなく、2発を続けて撃つ運用や、守れる範囲の限りがある
目次

迎撃ミサイルは爆発させずに、ぶつけて壊す

PAC-3は弾道ミサイルに直接ぶつかる方式

日本の防衛省は、ペトリオット(PAC-3)を、弾道ミサイルを下の層で迎え撃つ手段として整備しています。弾道ミサイルとは、ロケットエンジンで発射された後、放物線状の弾道軌道を飛ぶものを指します。

製造元のロッキード・マーチン社は、PAC-3を、弾道ミサイルや巡航ミサイル、航空機を迎撃する「Hit-to-Kill(直撃破壊)」の迎撃弾と説明しています。目標に直接ぶつかることで、爆風や破片で壊す方式よりはるかに大きな運動エネルギーを目標に与える、という説明です。

爆発で壊す方式との違い

従来のPAC-2は、目標の近くまで行って近接信管が働き、弾頭を爆発させて破片で壊す方式でした。Wikipediaの記述によると、PAC-2の初期型は、急な角度で落ちてくる弾道ミサイルに対して弾頭の爆発が遅れることが試験で分かり、信管の遅れを縮める改良が必要になりました。

爆発のタイミングが少しずれると、破片は狙いの位置を外れます。ぶつける方式は、そのずれを許さない代わりに、狙いを極めて細かく合わせる必要があります。

爆発で壊す方式とぶつけて壊す方式

爆発で壊す(PAC-2)
目標の近くで信管が働き、弾頭が爆発して破片を飛ばす
⇔
ぶつけて壊す(PAC-3)
先端のレーダー装置で目標を追い、直接ぶつかって運動エネルギーで壊す

日本の弾道ミサイル防衛はイージス艦とPAC-3の二層になっている

日本の弾道ミサイル防衛はイージス艦とPAC-3の二層になっている
Photo by SpaceX on Unsplash

弾道ミサイルは放物線を描いて飛ぶ

防衛省は、弾道ミサイルを「ロケットエンジンにより発射された後、弾道軌道、すなわち放物線状に飛翔するもの」と説明しています。国内で弾道ミサイルが飛んだときの警報の流れは、弾道ミサイルが日本のEEZ外に落下とは何か|領海との違いとJアラートが鳴る・鳴らない境目で整理しています。

上の層はイージス艦、下の層はPAC-3

防衛省は、日本の弾道ミサイル防衛を「イージス艦による上層での迎撃と、ペトリオット(PAC-3)による下層での迎撃を、自動警戒管制システム(JADGE)により連携させて効果的に行う多層防衛」と説明しています。2004年度にミサイル防衛システムの整備を始め、現在は8隻のイージス艦と全国のPAC-3部隊で多層の防空体制を維持しています。

上の層で外れても下の層で迎える、という二段構えです。PAC-3は最後の守りにあたります。

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ぶつけるほうが強いのは、運動エネルギーが速度の2乗で増えるから

速度が2倍になると、エネルギーは4倍になる

運動エネルギーは、質量×速度の2乗÷2で決まります。速度が2倍になるとエネルギーは4倍です。迎撃弾と弾道ミサイルが向かい合って近づくとき、ぶつかる相対速度が大きいほど、エネルギーは急に増えます。

ためしに、ぶつかるときの相対速度を秒速2,000mと仮に置きます(実際の値は資料にありません)。質量1kgあたりの運動エネルギーは、1÷2×2,000×2,000=2,000,000J(2MJ)です。TNT火薬1kgを4.184MJとして比べると、2÷4.184=約0.48で、約半分にあたります。速度を秒速4,000mに上げると、1÷2×4,000×4,000=8,000,000J(8MJ)で、2倍近くです。

この数字は私の計算で、実機の値ではありません。ロッキード・マーチン社は、爆風や破片の方式で得られる量より、はるかに大きな運動エネルギーを目標に与えると書いており、方向はこの計算と合っています。

ずれが許されないから、最後の狙いが重要になる

ぶつける方式は、弾頭の位置を直接狙うため、わずかなずれが外れにつながります。そのため、次に説明する「最後の数秒で自分のレーダーで探す」「小さなロケットで向きを細かく直す」という二つの仕組みが組み合わされています。

PAC-3は最後に自分のレーダーで目標を探す

PAC-3は最後に自分のレーダーで目標を探す
Photo by David Stroia on Unsplash

地上のレーダーが途中まで導き、最後は先端の装置で探す

Wikipediaの解説によると、発射後のPAC-3は、地上のレーダーから迎撃用の情報を受け取って飛びます。目標に近づく最終段階で、先端にあるKa帯(ケーエー帯)のアクティブレーダー装置が目標を捉えます。このレーダーは、返ってきた電波の中から弾頭らしい反射を選び、そこに向かって進みます。

最後だけ迎撃弾の先端で見に行けば、目標までの距離が短くなるぶん、位置の誤差を小さくできます。地上から遠くを見る役と、近くで細かく見る役を分けた作りです。

180個の小さなロケットで向きを細かく直す

Wikipediaによると、PAC-3は弾体の前部に180個の小さな固体ロケット(姿勢制御モーター)を持ち、進路を目標に細かく合わせます。ミサイルの翼で曲がるのではなく、小さなロケットを噴射して向きを直すという考え方です。

当たる範囲を広げる小さな破片も積んでいる

PAC-3には「殺傷力向上装置(lethality enhancer)」という小さな弾頭もあります。Wikipediaによると、タングステン製の小さな破片を低速で横方向に飛ばし、当たる範囲を広げます。直撃を狙いつつ、わずかなずれを補う装置です。

PAC-3MSEで変わったのは、届く高さと守れる面積

迎撃できる高度が数十キロに延びた

防衛省の防衛白書(2025年版)は、能力向上型のPAC-3MSEを2019年度から部隊に配備していると書いています。従来のPAC-3に比べ、弾道ミサイルに対する迎撃高度は十数キロから数十キロに延び、防護範囲(面積)はおおむね2倍以上に広がりました。

二段で燃焼するロケットと大きな翼

ロッキード・マーチン社は、MSEが従来のPAC-3 CRIを土台に、二段で燃焼する固体ロケットモーター(デュアルパルス)、大きな制御翼、改良した作動装置を備え、高度と射程の性能を高めたと説明しています。ロケットの推進の考え方は、ロケットの仕組みを徹底解説|推進原理から多段式・再利用型までにまとめています。

大きくなった分、発射機に載る本数は減った

トラフィックニュースは、1台の発射機に載る本数を、PAC-2が4発、PAC-3が16発、PAC-3MSEが12発と紹介しています。

16÷4=4倍で、PAC-3は発射機あたりの本数がPAC-2の4倍です。12÷16=0.75で、MSEは従来のPAC-3の75%の本数です。

届く高さと守れる面積は広がりましたが、1台あたりに載る本数は4分の1減りました。性能表では見落としやすい点です。私は、守れる面積の2倍という数字と、載る本数の減り方を、並べて読む必要があると思いました。

迎撃ミサイルがニュースで話題になる理由

ウクライナ国防省はPAC-3を最も効果的な手段と評価した

トラフィックニュースによると、ウクライナ国防省は2026年3月13日に、PAC-3が弾道ミサイルや極超音速ミサイルに対して最も効果的な迎撃手段だと発表しました。記事には、ロシアの極超音速ミサイル「ツィルコン」を迎撃したとされる映像も紹介されています。

見出しだけ読むと「万能の盾」に見えます。私はまず、この評価が何と比べたものか、迎撃の成功率が示されているのかを確かめました。記事には、成功率の数字は載っていません。

日本への供与を期待する発言が報じられている

共同通信は2026年8月、ウクライナの首相が、迎撃ミサイルを含む防空兵器の日本からの供与に期待すると述べたインタビューを伝えました。記事は、日本が4月に防衛装備移転の原則を改めた一方で、殺傷能力のある武器の輸出には移転協定が必要で、紛争当事国への移転は原則認められないとも書いています。

制度や外交の判断は、この記事の対象外です。最新の情勢は、政府の発表や報道で確認してください。

迎撃ミサイルの限界と注意点

必ず当たるわけではない

Wikipediaによると、PAC-3は標準で2発を4.2秒の間隔で撃ちます。1発目が外れた場合に備えて、2発目が残骸の中から弾頭らしいものを探し、同じように当たりに行きます。2発を使う運用は、1発では確実でないことを前提にした設計です。

守れる範囲には限りがある

防衛省は、PAC-3を拠点防護のために全国各地に分散して配備し、状況に応じて移動・展開して対応すると説明しています。守る場所を選ぶということは、守れない場所が出ることでもあります。

新しい種類の脅威には別の準備が進められている

防衛省は、極超音速滑空兵器(HGV)など多様化する脅威に対し、ペトリオットに新型レーダーLTAMDSを導入してPAC-3MSEの対処能力を向上させる方針を示しています。日米で滑空段階迎撃用誘導弾(GPI)の共同開発も、2024年5月に始めています。現在の装備で十分とは書かれていません。国内で警報が鳴る仕組みは、Jアラートの仕組みをわかりやすく解説でも扱っています。

迎撃関連の報道を読むときの判断表

見かけた言葉 確かめること 資料で確かめられること
迎撃成功 何に対して、何発で、誰が発表したか PAC-3は標準で2発を撃つ運用
最も効果的 何と比べた評価か ウクライナ国防省の発表。成功率の数字は記事にない
迎撃高度・防護範囲 型式(PAC-3かMSEか)と出典 防衛省は十数キロから数十キロ、面積は2倍以上と記載
供与・配備 発射機と迎撃弾のどちらの話か 発射機に載る本数は型式で違う
※防衛省の資料、ロッキード・マーチン社の資料、トラフィックニュースの記事から整理。最新は公式発表で確認してください。

迎撃ミサイルの記事を読むときは、「発射機の数」と「ミサイルの本数」を分けて確かめてください。同じ1台でも、載っている本数は型式で違います。

迎撃ミサイルについてのよくある誤解

近くで爆発させて壊す兵器なのか

PAC-3は、目標に直接ぶつかる直撃破壊方式です。小さな破片を飛ばす部分はありますが、主役は運動エネルギーです。旧型のPAC-2は、爆発と破片の方式でした。

1発で必ず落とせるのか

資料は、2発を続けて撃つ運用を説明しています。1発で必ず落とせるという前提ではありません。

地上のレーダーだけで最後まで導いているのか

最終段階では、迎撃弾の先端のKa帯レーダー装置が自分で目標を探します。地上のレーダーは途中までの導き役です。

まとめ:迎撃ミサイルは「どこで当てるか」を決める道具

PAC-3は、爆発させずに直接ぶつかる方式で、地上のレーダーと先端の装置、180個の小さなロケットを組み合わせて当てに行きます。MSEは、迎撃高度を十数キロから数十キロへ延ばし、守れる面積を2倍以上に広げました。

発射機に載る本数は減り、2発を続けて撃つ運用が前提で、守れる範囲にも限りがあります。報道で「供与」「迎撃成功」といった言葉を見たときは、型式、本数、出典を確かめてください。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。