2026年9月26日に放送された「芸能人格付けチェック 秋の3時間半スペシャル」では、個人連勝記録を87まで伸ばしたGACKTさんが不在でした(デイリースポーツ)。格付けチェックの季節になると、一流と言われるものを私たちは本当に見分けられるのか、という話が出ます。楽器でいちばん有名な高額品といえば、ストラディバリウスです。
プロのバイオリニストが目隠しをして、古い名器と新作を弾き比べたらどうなるか。実際にそれを確かめた研究が、2012年、2014年、2017年と3回あります。結果から言うと、奏者も観客も、古いか新しいかを当てられませんでした。この記事では、その実験の作り方と数字、そして研究が「言っていないこと」までを、原典のページで確かめた範囲で整理します。2026年10月時点の情報です。
- 2012年の実験では、21人のバイオリニストのうち、古い楽器を持ち帰りたいと選んだのは8人(4割弱)だった
- 2014年の追試では、10人のソリストが新旧6本ずつを弾き、新旧を当てる回答の正解と不正解はほぼ同数だった
- 2017年は観客がパリとニューヨークで聴き、新作のほうがホールで遠くまで届くという結果だった
- ただし数本の楽器を限られた条件で比べた研究で、「ストラディバリウスは名器ではない」とまでは言えない
実験は目隠しと香水まで使って行われた
最初に研究のやり方を見ておきます。ここを知らないと、「結局はたまたまでは」と感じてしまうからです。
6本のバイオリンと21人の奏者
2012年の実験の中心は、フランスの音響研究者クローディア・フリッツさんと、バイオリン製作者のジョセフ・カーティンさんです。使われたのは6本のバイオリンで、3本が新作、3本が古い名器でした。古い3本は評価額の合計が、新作3本の百倍ほどでした(ナショナルジオグラフィック)。参加した奏者は21人です。
見た目もにおいも消した
見た目で当てられないように、奏者は改造した溶接用ゴーグルをかけました。においで気づかれないように、各バイオリンのあご当ての下に香水も少量つけられています(The Strad)。バイオリンの構造や音の出る仕組みは、バイオリンの仕組みの記事にまとめています。実験の場所は、乾いた音響を理由に選ばれた、薄暗いホテルの一室でした(ナショナルジオグラフィック)。
1分ずつの比較と、20分の選び直し
第1部は、1本目を1分、2本目を1分と、2本を弾いてどちらが好みかを答える方式です(古い楽器と新作が必ず1本ずつ組まれていました)。第2部は、20分の持ち時間のなかで、どの楽器とどの楽器を比べてもよく、最後に持ち帰りたい1本を選びました(ナショナルジオグラフィック)。
2012年の結果は、新作が選ばれた
私は読む前、「違いが分からない人もいたが、多数は古い名器を選んだのだろう」と思っていました。実際の数字は逆でした。
古い楽器を選んだのは21人中8人
持ち帰りたい1本に古い楽器を選んだのは、21人中8人、割合にして4割弱です(ナショナルジオグラフィック、The Strad)。新作のうち1本が音色の幅・投射・弾きやすさ・反応の4つの観点すべてで首位でした(ナショナルジオグラフィック)。
最下位に近かったのは、1700年ごろのストラディバリウス
古い3本のうち「O1」は、1700年ごろに作られたストラディバリウスです。最も厳しい拒絶を受けた楽器でした(ナショナルジオグラフィック)。作られてから2026−1700=およそ326年がたつ楽器が、新作に評価で負けたことになります。
当てた人は、わずかだった
持ち帰った楽器が古いか新しいかを答えてもらうと、答えた人のうち、見当がつかない人と間違えた人がそれぞれ7人、当てたのは3人でした(The Strad)。数字を並べて、私は最初、読み間違いかと思いました。名器と新作の違いは、少なくともこの条件では、奏者本人にも手がかりになっていなかったということです。
高価な名器と新作の楽器、目隠しで聞き分けられると思いますか?
- 聞き分けられる
- 自信がない
- ほぼ当てずっぽうになる
- 考えたことがない
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2014年の追試では、奏者を10人のソリストに絞った
フリッツさんたちは2014年に、奏者を絞った追試を発表しました。パリのホールで、10人のプロのソリストに、新旧あわせた楽器を評価してもらっています。6本が18世紀イタリアの楽器(うち5本がストラディバリウス)、6本が現代の製作者の楽器でした(The Strad)。
新旧を当てる回答は、ほぼ五分五分だった
奏者は楽器の新旧を何度も推測し、不正解が正解をわずかに上回りました(The Strad)。報告された正解と不正解の数から、判断不能を除いて計算すると、31÷(31+33)≒48.4%の正解率になります。当てずっぽうなら期待される50%と、ほとんど変わりません。
点数の最下位は、古い名器のほうだった
評価の点数では、新作の1本が最高点を取りました。いちばん低かったストラディバリウスは-9点で、新作の下から2番目が-7点です(The Strad)。研究者たちは、奏者は「好きな楽器と嫌いな楽器」は読み分けるのに、新旧は偶然以上には当てられないと結論づけました。
「好き嫌いが分かれる」ことと「古い新しい」は別の軸
ここは、読み飛ばしやすいのですが大事なところです。奏者は楽器の良し悪しを聞き分けています。ただ、その良し悪しが、作られた年代や国と結びついていなかった、というのが研究の言っていることです。
2017年は観客席で聴いた。遠くまで届くのはどちらか
奏者が「弾きやすい」と感じることと、客席に「よく聞こえる」ことは別かもしれません。そこで2017年の研究は、聴く側を調べました。
パリとニューヨークの観客
ニューヨークのホールには82人が集まりました(GIGAZINE)。パリの観客を足すと、55+82=137人です。比べたのは新作3本とストラディバリウス3本で、客席の前に衝立が置かれ、観客はどの楽器が鳴っているのか見えませんでした(GIGAZINE、Deric Bownds)。
プロジェクション=後ろの席まで届く力
この研究が測ったのは、「音の投射」と呼ばれる性質です。古いイタリアの楽器は、奏者の耳元では比較的静かに聞こえても、コンサートホールでは音がよく届くと信じられてきました。結果は、新作のほうがオーケストラの伴奏あり・なしのどちらでも、ストラディバリウスよりよく届くというものでした。観客は新作を好む傾向があり、新旧を確実には当てられていません(Deric Bownds)。
ホールの形や反響が音の届き方を大きく変えることは、コンサートホールの音響設計の記事で説明しています。楽器の音の届き方は、ホールの条件にも左右されます。
それでも、ストラディバリウスが特別視される理由
ここまでの結果を見て、「では、なぜ300年たっても神格化されているのか」と思った方もいるでしょう。理由は1つに決められません。1つの有名な仮説を紹介します。
小氷期の木が、密で均一だったという仮説
テネシー大学のヘンリー・グリッシノ=メイヤーさんとコロンビア大学のロイド・バークルさんは、ヨーロッパを覆った「小氷期」が、アルプスのトウヒの成長を遅くしたと考えました。小氷期は15世紀半ばから19世紀半ばまで続き、最も冷えた時期が1645年から1715年のマウンダー極小期です。ストラディバリの黄金期とされる1700年から1720年は、その終わりごろに当たります。1625年から1720年は成長が遅く、年輪の幅が狭くて密な木材ができたというのが仮説です。2003年7月に「Dendrochronologia」誌に発表されました(NBCニュース)。
研究者自身が「それだけでは足りない」と言っている
ただ、この記事を紹介したNBCニュースは、アメリカ・バイオリン協会(Violin Society of America)の会長ヘレン・ヘイズさんの言葉も載せています。世界一の木材を平凡な職人に渡しても、良い楽器にはならない。木材は要因の1つで、職人の腕やニスなども効いてくる、という趣旨です。木材の説明は仮説で、今回の盲検テストの結果とも、ぶつかるものではありません。
この研究が言っていないことと、注意したい点
結果だけを切り取ると、「ストラディバリウスは偽りの名器だった」と読めてしまいます。それは言いすぎです。
数本の楽器しか比べていない
2012年の実験は6本、2014年は新旧6本ずつ、2017年のストラディバリウスは3本です。現存する名器のごく一部で、新作にも当たり外れがあります。2012年は、新作のうち特に好まれた1本(N2)が結果を引っ張っています。
ホテルの一室と20分で決めてよいのか
2012年の実験には、薄暗いホテルの一室で行われたこと、各自20分間の比較だったことへの批判がありました(ナショナルジオグラフィック)。もっと長く弾き込めば違いが出るかもしれない、という指摘です。2014年の追試は、奏者を10人のソリストに絞り、条件を変えて同じ問いを確かめたものです。
「聞き分けられない」と「違いがない」は別
目隠しで当てられなかったことは、楽器の違いがないこととは同じではありません。奏者は、好きな楽器と嫌いな楽器をきちんと分けていました。違いはあるのに、その違いが「古さ」に結びついていなかった、というのが正確な読み方です。
名器の話を聞いたときの判断のしかた
最後に、この研究から日常に持ち帰れることを整理します。バイオリンを習っている人も、ただ演奏会を聴く人も使える視点です。
| 調べた年 | 対象 | わかったこと |
|---|---|---|
| 2012年 | 21人×6本 | 古い楽器を選んだのは8人(4割弱) |
| 2014年 | 10人のソリスト×新旧6本ずつ | 新旧の推測は正解と不正解がほぼ同数 |
| 2017年 | パリとニューヨークの観客×新作3本・ストラディバリウス3本 | 新作のほうが遠くまで届くと評価された |
| ※出典は参考文献を参照。楽器の本数・人数は各研究の条件です。 | ||
値段や由来を知ったうえでの評価は、割り引いて聞く
目隠しなしの評価には、値段や来歴という情報が混ざります。人は情報があると、それに引っ張られて判断します。この仕組みは、認知バイアスの仕組みの記事で整理しています。
楽器を選ぶなら、目隠しと弾き比べを取り入れる
楽器店で選ぶとき、もし店が許してくれるなら、友人に頼んで値段の分からない状態で弾き比べるのは、試す価値があります。もちろん、この方法を研究者が勧めているわけではありません。研究から言えるのは、新旧という「ラベル」ではなく、自分の耳と手に合うかどうかで選ぶ余地がある、ということだけです。
ラベルを外して聴く、という発想
「格付けチェック」のような企画を見ているとき、私は「高いほうが当然よい」と思って見てしまいます。研究の数字を見たあとは、その前提のほうを疑う癖がつきました。ただ、名器の値段が音だけで説明できるのかどうかは、この研究だけでは分かりません。
ストラディバリウスと盲検テストについてのよくある誤解
誤解1:ストラディバリウスは新作より音が悪いと証明された
証明されていません。数本の楽器を限られた条件で比べた結果、奏者も観客も新旧を当てられず、新作を好む傾向があった、というところまでです。
誤解2:奏者はどの楽器も同じ音に聞こえている
違います。2014年の研究でも、奏者は好きな楽器と嫌いな楽器を読み分けていました。分けられなかったのは、新旧という区別です。
誤解3:値段が高い楽器ほど、聞いて分かるほど音がよい
値段が音だけで決まっているかどうかは、この研究では分かりません。2012年の実験の古い3本は、評価額が新作の百倍ほどあったにもかかわらず、聞いて分かる差には結びつきませんでした。
まとめ:ストラディバリウスと新作は、目隠しで聞き分けられるのか
プロの奏者が目隠しをすると、古い名器と新作を聞き分けられなかった。これが2012年、2014年、2017年の3つの研究に共通した結果でした。2012年は古い楽器を選んだのが21人中8人、2014年は新旧の推測の正解と不正解がほぼ同数、2017年は新作のほうが遠くまで届くという結果でした。
一方で、比べた楽器は数本で、条件にも批判があります。小氷期の木材のように、名器の価値を支える仮説も残っています。値段や由来を知らされた状態で「やっぱり名器は違う」と感じるときの自分の耳も、割り引いて聞くのが、この研究から持ち帰れる判断だと私は思っています。
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📊 「ストラディバリウスは新作バイオリンと聞き分けられるのか|格付けチェックの前に知る盲検テストの結果」はこんな人に読まれています
📚 参考文献・出典
- ・The Strad「Blind-tested soloists unable to tell Stradivarius violins from modern instruments」(2014年パリ実験) https://www.thestrad.com/blind-tested-soloists-unable-to-tell-stradivarius-violins-from-modern-instruments/994.article
- ・The Strad「Stradivari loses out in blind testing study of player preferences」(2012年実験) https://www.thestrad.com/stradivari-loses-out-in-blind-testing-study-of-player-preferences-for-old-and-new-violins/5124.article
- ・ナショナルジオグラフィック「Violinists can’t tell the difference between Stradivarius violins and new ones」 https://www.nationalgeographic.com/science/article/violinists-cant-tell-the-difference-between-stradivarius-violins-and-new-ones
- ・Deric Bownds「Listener evaluations of new and old Italian violins」(2017年PNAS論文の要旨) https://mindblog.dericbownds.net/2017/05/listener-evaluations-of-new-and-old.html
- ・GIGAZINE「Evaluating new and old Italian violins」(2017年実験の人数) https://gigazine.net/gsc_news/en/20170509-evaluate-new-old-italianiviolin
- ・AFPBB News「年代物のバイオリン、ソリストは新品と区別できず 研究」(2014年) https://www.afpbb.com/articles/-/3012045
- ・ITmedia オルタナティブ・ブログ「大人の成長研究所」2012年1月の記事(日本経済新聞の報道を引用) https://blogs.itmedia.co.jp/nagaichika/2012/01/post-844b.html
- ・NBC News「Does climate explain prized violins’ tone?」 https://www.nbcnews.com/id/wbna3660456
- ・デイリースポーツ「芸能人格付けチェック 87連勝GACKT不在に落胆」(2026年9月26日) https://www.daily.co.jp/gossip/2026/09/26/0020863686.shtml








































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