平均律と純正律の違いはどこから来るのか|和音が濁る理由を周波数の数字で読む

ピアノでドとミとソを同時に弾いたとき、きれいに響くはずの和音が、なんとなくざらついて聞こえたことはないでしょうか。私は統計表を眺めるのが好きなので、この「ざらつき」が周波数比の数字でどこまで説明できるのかを調べました。

結論を先に書くと、平均律と純正律の違いは「和音のうなりを消すこと」と「の音を等しい比で並べること」のどちらを優先するかです。この記事では、長3度のドとミを例に、周波数・比・うなりの回数を原典の数字で追います。2026年10月時点の内容です。

この記事のポイント

  • 純正律は長3度を5:4の整数比にして、和音のうなりを消した音律
  • 平均律は半音ごとの比を2の12乗根にして、12音を等間隔に並べた音律
  • 平均律の長3度は純正の長3度より、計算上セント高い
  • ピアノの調律は、このずれが生むうなりの回数を手がかりに行う
目次

平均律と純正律の違いを一言でいうと

和音を澄ませる音律と、全部の調を使える音律

純正律は、ドとミ、ドとソのような音の組み合わせを、できるだけ簡単な整数比にした音律です。比が簡単だと、2つの音の波が規則正しく重なり、うなり(音の大きさが周期的に揺れる現象)が出ません。

平均律は、1オクターブを12等分する音律です。隣り合う音の周波数の比をすべて同じにするので、どの音から始めても同じ音階が作れます。その代わり、整数比にはぴったり合いません。

ドとミで比べると、差はこうなります

授業資料の数字で、ドを基準にしたミの比を並べます。純正律のミは5/4=1.25、平均律のミは1.259921です。ピタゴラス音律のミは81/64=1.265625で、3つの中で最も高くなります。

音律 ミの比(ド=1) ソの比(ド=1) 考え方
ピタゴラス音律 1.265625 1.5 3倍振動を重ねて作る
純正律 1.25(5/4) 1.5(3/2) 3倍と5倍の振動も使う
平均律 1.259921 1.498307 12音を等しい比で並べる
※岡崎高校「音階の物理」の数値表より作成

ソの比は、純正律が1.5、平均律が1.498307で、差はごくわずかです。目立って離れるのはミのほうで、この差が和音のざらつきの主な原因になります。ピアノの仕組みそのものはピアノの音が出る仕組みの記事で、ハンマー・弦・倍音の面から整理しています。

ドレミは弦の振動から作られた(ピタゴラス音律)

ドレミは弦の振動から作られた(ピアノの鍵盤)
Photo by Ebuen Clemente Jr on Unsplash

3倍の振動を2で割りながら音を増やす

授業資料によると、ピタゴラスは弦の基本振動と3倍振動が調和することを見つけました。ある振動数を3倍して、1オクターブの範囲に収まるように2で割る。この操作を繰り返して音を増やしていくのが、ピタゴラス音律です。

ドを1とすると、1回目で3/2=1.5(ソ)、次に9/8=1.125(レ)、27/16=1.6875(ラ)、81/64=1.265625(ミ)と順に並びます。ミは4回目に出てくる音です。

重ねても、元の音に戻らない

同じ操作を続けて1オクターブ上のドに戻るはずなのに、授業資料の表では最後の値が2ではなく2.02728653になっています。ぴったり閉じない、というのがこの方法の弱点です。

2.02728653÷2=約。これが「重ねてもずれが残る」ことを示す比で、セントに直すと約セントです。計算は×log2()で行いました。

1セントは半音のの1です。半音の4分の1ほどのずれが最後に残るわけで、音階を一周させるには、どこかで帳尻を合わせる必要が出てきます。この帳尻の合わせ方の違いが、純正律と平均律に分かれていく入口です。

ピアノやキーボードで和音を弾いて、「なんとなく濁っている」と感じたことはありますか?

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純正律は「5倍振動」まで使って和音を澄ませた

ミを5/4にすると、うなりが消える

ピタゴラス音律のミ(1.265625)は、純正な長3度の5/4=1.25より高めです。授業資料は「1.25=5/4の方がいいはず」という形で、基本振動と5倍振動も調和することを使って、ミを5/4に改める方法を示しています。これが純正律です。

ピタゴラス音律のミと純正律のミの差は、×log2(1.265625÷1.25)で計算すると約セントです。

純正律の音階は、整数比の並びになる

純正律のドレミファソラシドは、ドを1として、1、9/8、5/4、4/3、3/2、5/3、15/8、2と並びます。ド=264Hzにすると、ミは330Hz、ソは396Hz、ラは440Hzです(授業資料の純正律の表)。数字が割り切れて並ぶのが、純正律の見た目の特徴です。

私は表を作るのが好きなのですが、この並びを見たときは素直に美しいと思いました。264Hzのドの5倍音は264×5=1320Hz、330Hzのミの4倍音は330×4=1320Hzで、ぴったり重なります。

平均律は12音を同じ比で並べた

2の12乗根を、かける

平均律の計算式は、主音の振動数×2のn/12乗です。半音ごとの比は2の12乗根で、約1.059463になります。これをかけるとちょうど2倍、つまり1オクターブ上に戻ります。

A(ラ)を440Hzにした平均律では、ドは261.6256Hz、ミは329.6276Hz、ソは391.9954Hzです。授業資料は、純正律の表(ド=264Hz)とは別に、この表を載せています。

私が最初に思い違いをしていたこと

私は長いこと、平均律のほうが「割り算で精密に作った正しい音階」で、純正律は古い時代の素朴な音階だと思っていました。数字を並べてみると、和音が澄むのは純正律のほうです。平均律の強みは精密さではなく、どの調でも同じように使える汎用性にあります。

同じ長3度が、どれだけ濁るのか(うなりの計算)

ピアノの調律解説にある、1秒14回のうなり

平均律のピアノでは、長3度にうなりが出ます。調律の解説ページは、FとAを例に挙げています。Fは349.2Hz、Aは440.0Hzで、振動数の比は4:5です。

Fの5倍の振動数は1746、Aの4倍の振動数は1760で、微妙な差があります。この差の1760−1746=14が、うなりの回数(1秒間に14回)だと説明されています。Fを352Hzで計算すれば352×5=1760で一致し、うなりが消えます。

ドとミで同じ計算をしてみる

同じ計算を、授業資料の平均律の数値(ド261.6256Hz、ミ329.6276Hz)で行ってみます。

ミの4倍音は329.6276×4=Hz、ドの5倍音は261.6256×5=Hz。差は−=約Hzなので、うなりは1秒にです。

この数字は、倍音が理想的に鳴ったと仮定した理論値です。調律の解説ページは、ピアノは1音ずつを計算上の値に合わせても、うなりが計算どおりにならないことがあると書いています。ここは「目安の数字」として読むのが安全です。

セントというずれの正体

純正の長3度は×log2(5/4)=約セント、平均律の長3度は400セントです。差の400−=約セントが、平均律の長3度が純正より高い量です。

半音がセントなので、ずれは半音の7分の1ほどです。小さな差ですが、和音を長く伸ばすと、うなりとして耳に届きます。クラシック音楽とポップスの違いを扱った記事でも、同じ12音を使って響きが変わる話を整理しています。

平均律の弱点と、純正律の弱点(デメリット・注意点)

平均律は、長3度が少しだけ濁る

平均律の長3度は、純正よりセント高いという話をしました。一方、完全5度は×log2(1.5)=約セントに対して平均律はセントで、差は約セントしかありません。5度はほぼ純正、3度だけが目立ってずれる、というのが平均律の特徴です。

完全5度の差は、701.955−=約セントで計算しました。

純正律は、調が変わると使えなくなる

純正律の弱点は、基準にする音(主音)が変わると、整数比がそろわなくなることです。授業資料の純正律の表(ド=264Hz)では、嬰ハ(C#)が1.0416667で、変二(D♭)が1.0666667と、別の値になっています。

平均律の鍵盤ではC#とD♭は同じ黒鍵ですが、純正律では別の音の高さになります。鍵盤がの楽器で純正律を使うと、転調した先で音が足りなくなるのです。

ピアノの調律は、うなりを「消す」のではなく「揃える」

調律の解説ページによると、調律では2つの音を同時に鳴らし、高いほうの音を上げ下げしてうなりの回数を調節します。平均律の長3度からスタートして上の音を下げていくと、うなりは減っていき、やがて消えて純正の3度になり、さらに下げるとまた増える、とも説明されています。

ピアノの調律師が目指すのは、うなりをゼロにすることではなく、平均律で決まった回数のうなりに揃えることです。ここを見落とすと、「うなりがあるのは調律が悪いから」と誤解してしまいます。

場面別:どちらの音律が向いているか(選び方・判断基準)

場面別に見る音律の選び方(合唱の様子)
Photo by John Onaeko on Unsplash

音の高さを動かせるかどうかで決まる

ピアノのように、鍵盤を押すと音の高さが決まっている楽器は、弾き手が音程を動かせません。調ごとに別々に調律し直すわけにもいかないので、どの調でも使える平均律が向いています。

一方、声や、ヴァイオリンのように指で音の高さを決める楽器は、演奏中に音の高さを細かく調整できます。理屈の上では、和音ごとにうなりが消える位置に合わせることも可能です。ただし、実際の演奏で何を基準に合わせているかは、奏者や曲によって違います。この記事の原典では確かめていないので、ここでは「調整できる」という条件の違いだけを書いておきます。

判断の目安を表にすると

状況 向く音律の考え方
1台で全部の調を弾く鍵盤楽器 平均律(12音が等間隔で、転調しても同じ響き)
1つの和音を長く澄ませたい 純正律の考え方(整数比でうなりが消える)
音の高さを演奏中に動かせる 奏者が和音に合わせて調整する余地がある
※上の表は、原典の数字から筆者が整理した考え方の目安です

あなたが試せること

ピアノかキーボードをお持ちなら、ドとミを同時に弾いて、音が消えるまで耳を澄ませてみてください。理論値では1秒にのうなりがありますが、揺れとして聞こえるか、ざらつきとして聞こえるかは、楽器と部屋で変わります。聞こえなくても不思議ではありません。

秋は、文化祭や合唱の練習を始める人もいる時期でしょう。合唱や合奏で「和音が合わない」と感じたときは、「音程が悪い」だけでなく、「長3度の数字がもともとセントずれる」という事実を頭の片隅に置いておくと、練習の見え方が変わるかもしれません。

平均律と純正律についてのよくある誤解

誤解1:平均律は純正律より正確な音律である

平均律は12音の比を2の12乗根で揃えた音律で、精密さではなく汎用性を優先しています。和音の澄み方だけで見れば、長3度は純正律のほうが整数比に合っています。

誤解2:純正律のほうが常に美しい

純正律で澄むのは、基準にした調の和音です。別の調では整数比がそろわず、C#とD♭が別の音になるなど、鍵盤では足りなくなります。

誤解3:調律ではうなりを全部消すのが正解

平均律で調律するピアノは、うなりがある状態が前提です。調律師は、特定の2音の間に出るうなりの回数を目安に音を揃えていきます。うなりが残っていることは、故障や調律ミスを意味しません。

まとめ:平均律と純正律の違いを判断するポイント

平均律と純正律の違いは、長3度のミで見ると分かりやすくなります。純正律は5/4=1.25、平均律は1.259921です。この差が約セントで、平均律のピアノでは、FとAのように1秒に約14回のうなりとして現れます。

純正律は和音を澄ませる代わりに、調が変わると音が足りなくなります。平均律は長3度が少し濁る代わりに、12音を等間隔にして、どの調でも同じ響きで使えるようにしました。どちらが上かではなく、何を優先するかの違いです。

楽器の音がざらついて聞こえたときは、まず「その楽器はどちらの考え方で音が決まっているのか」を確かめてみてください。ほとんどの場合、答えは数字の中にあります。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。