「ひもとく」の本来の意味を選んだのは13.1%|国語世論調査で割れた言葉5つを読む

「ひもとく」の本来の意味は「関係する書物を読む」です。文化庁の令和7年度「国語に関する世論調査」でこの意味を選んだ人は13.1%で、「真相を明らかにする」を選んだ人は69.9%でした。ニュースの見出しになった13.1%は、辞書等で主に本来の意味とされてきた側の数字です。

私はこの記事を書くまで、「歴史をひもとく」を「歴史を調べて明らかにする」くらいの気持ちで使ってきた気がします。ところが調査の原典を開くと、数字は「間違いが多い」では片づけられない形をしていました。この記事では、国語世論調査の数字と質問の作り方を、文化庁の資料で確かめた範囲で整理します。2026年10月時点で公表されている資料に基づきます。

  • 「ひもとく」の本来の意味を選んだ人は13.1%、「真相を明らかにする」は69.9%
  • 調査は全国16歳以上の6,000人に郵送し、有効回答は3,777人
  • 全年齢で「真相を明らかにする」が本来の意味を20ポイント以上上回った
  • 5語のうち、本来の意味とされてきたものが最多だった語は「気が置けない」だけ
目次

「ひもとく」の本来の意味を選んだのは13.1%だった

結論から書きます。文化庁が令和7(2025)年度に実施した調査で、「ひもとく」を(ア)関係する書物を読む、(イ)真相を明らかにする、のどちらの意味だと思うかを尋ねたところ、回答は次のとおりでした。

回答の内訳は「真相を明らかにする」が約7割

選択肢 割合
(ア)関係する書物を読む(辞書等で主に本来の意味とされてきたもの) 13.1%
(イ)真相を明らかにする 69.9%
(ア)と(イ)の両方 15.0%
(ア)や(イ)とは、全く別の意味 1.2%
無回答 0.9%
※出典:文化庁「令和7年度『国語に関する世論調査』の結果の概要」問20

差を計算してみました。69.9÷13.1で約5.3倍、69.9−13.1で56.8ポイントです。逆転どころではない開きです。ただ、ここで終わらせると見出しの温度に引きずられます。「両方」を選んだ15.0%を足すと、本来の意味を含めて選んだ人は13.1+15.0で28.1%になります。

「13.1%しか知らない」と読むのか、「3割近くは本来の意味を含めて選んだ」と読むのか。同じ数字でも、受け取る温度が変わります。私は、見出しのまま「間違いだらけ」と言う前に、この表を見てほしいと思っています。

質問に添えられていた例文は「古代史をひもとく」

調査票では、言葉だけでなく例文も添えて意味を尋ねています。「ひもとく」の例は「古代史をひもとく」でした。この例文は、どちらの意味にも読めてしまいます。古代史の書物を読むとも、古代史の真相を明らかにするとも取れるからです。これは私の読み方ですが、例文が両方に取れることが、「両方」を選ぶ人が15.0%いた背景の一つかもしれません。調査からは理由までは分かりません。

令和7年度の国語世論調査はどのように行われたのか

数字を使うときは、誰に、どう聞いた数字かを先に確かめます。数字だけが一人歩きすると、「日本人の7割」のような言い方になりやすいからです。

全国16歳以上の6,000人に郵送し、3,777人が回答した

文化庁国語課が実施し、業務は一般社団法人中央調査社に委託されています。調査時期は令和8(2026)年1月13日から3月3日、対象は全国の16歳以上の日本国籍を有する人で、調査対象総数は6,000人でした。有効回答数は3,777人で、有効回答率は63.0%です。調査方法は郵送法で、令和2(2020)年度から郵送法で実施されています。令和元年度以前は面接聴取法でした。

13.1%を人数に直すと、3,777×0.131で約495人です。「真相を明らかにする」の69.9%は、3,777×0.699で約2,640人になります。人数にすると、数字の手触りが少し変わります。

13.1%には前後1.1ポイントほどの幅がある

世論調査の数字は、全員に聞いたものではなく一部に聞いた結果です。そのため、同じ調査をやり直すと数字は少しずれます。この幅の考え方は、世論調査で内閣支持率の数字がどうやって作られるのかを扱った記事で、標本誤差として整理しています。

ここでの幅は私が試算したもので、文化庁が示した数字ではありません。単純無作為抽出と仮定し、標準誤差を√(0.131×0.869÷3,777)として約0.55ポイント、その1.96倍で約1.1ポイントです。実際の調査設計とは前提が違うため、目安にとどまります。

この目安で見ても、13.1%と69.9%の差は誤差で説明できる大きさではありません。

「ひもとく」を文章で使うとき、どちらの意味を思い浮かべますか?

  1. 書物を読む
  2. 真相を明らかにする
  3. 両方の意味で使う
  4. ふだんは使わない

📊 これまでの読者投票の結果(当サイト調べ・9票)

書物を読む:33%
ふだんは使わない:33%
真相を明らかにする:22%
両方の意味で使う:11%

年齢別に見ると「ひもとく」の差はどこまで開くのか

年齢別に見ると「ひもとく」の差はどこまで開くのか(開いた本)
Photo by James Bold on Unsplash

文化庁の資料には、年齢別の結果もグラフで載っています。文章で書かれている説明が、原典で確かめられる範囲です。

全年齢で「真相を明らかにする」が20ポイント以上上回る

「ひもとく」については、全ての年齢層で(イ)「真相を明らかにする」が、本来の意味とされてきた(ア)「関係する書物を読む」を20ポイント以上上回っています。おおむね年齢が低くなるほどその傾向は強く、50代以下では両者の差が60ポイント以上です。

若い世代ほどずれが大きい、というだけの話に見えます。ただ、最年長の層でも20ポイント以上の差があります。年配の人は本来の意味を守っている、という図ではありません。

「気が置けない」は30代以下で本来の意味が少数派になる

5語のうち、年齢で向きが変わる語もあります。「気が置けない」は、40代以上では本来の意味とされてきた(ア)「相手に対して気配りや遠慮をしなくてよい」が(イ)「気配りや遠慮をしなくてはならない」を上回りました。一方で30代以下では、(イ)のほうが(ア)を上回っています。

日本語の移り変わりは、方言の消え方でも似た構図が見られます。方言がなぜ生まれ、なぜ消えるのかを整理した記事も、世代で使い方が分かれる話として読み比べられます。

ほかの4語は本来の意味を選ぶ人がどれだけいたのか

調査では、「ひもとく」を含む5語を尋ねています。辞書等で主に本来の意味とされてきた側の割合を、表にまとめます。

言葉 本来の意味とされてきたもの その選択率 本来でない側の最多
ひもとく 関係する書物を読む 13.1% 真相を明らかにする 69.9%
佳境に入る 物語などが特に興味深い場面になる 34.3% 仕事などが最盛期や大詰めを迎える 37.8%
流れに棹さす 傾向に乗って、ある事柄の勢いを増すような行為をする 22.7% 傾向に逆らって勢いを失わせる 68.9%
気が置けない 相手に対して気配りや遠慮をしなくてよい 47.4% 気配りや遠慮をしなくてはならない 44.3%
噴飯もの おかしくてたまらないこと 34.1% 腹立たしくて仕方ないこと 55.1%
※出典:文化庁「令和7年度『国語に関する世論調査』の結果の概要」問20。「両方」「全く別の意味」「無回答」は表から省いています

「流れに棹さす」は2002年度から本来でない側が6割台

「流れに棹さす」は過去の調査も参考値として載っています。本来でない側の「傾向に逆らって」を選んだ割合は、平成14(2002)年度が63.6%、平成18(2006)年度が62.2%、平成24(2012)年度が59.4%、令和7年度が68.9%です。ただし令和元年度以前は調査方法が違うため、文化庁は「比較には注意が必要」としています。増えた減ったを断言できる並びではありません。

「噴飯もの」と「佳境に入る」は割れ方が違う

「噴飯もの」は、本来の意味(おかしくてたまらないこと)が34.1%、本来でない側が55.1%でした。「佳境に入る」は本来でない側が37.8%、本来の意味が34.3%で、ほぼ拮抗しています。「佳境に入る」は70歳以上で本来の意味が40.2%と最も高く、年齢が上がるほど本来の意味を選ぶ傾向があります。

5語のうち、本来の意味とされてきた側が最も多く選ばれたのは「気が置けない」だけでした。それでも47.4%で、過半数ではありません。

本来の意味と使われ方のずれは、調査から何が分かるのか

ここは線引きが大切なところです。調査が示せるのは「いま、どの意味を選ぶ人がどれだけいるか」で、「なぜずれたのか」までは示していません。

本来の意味は「書物を読む」で、語源は書物の紐を解くこと

マイナビニュースの解説によれば、「ひもとく」は書物や巻物の紐を開いて読むことから生まれた言葉です。漢字では、帙(ちつ)の紐を開いて書物を読む意味の「繙く」にあたります。同じ解説では、現代は「真実を明らかにする」「疑問を解明する」という意味でも使われている、と説明されています。この解説には辞書名の明記がないため、辞書の記述としてではなく、一般向けの解説として扱います。

調査が示すのは「ずれの大きさ」までで、理由は別に調べる必要がある

書物を読んで、その中から真相を知る。この流れの結果のほうが、ひもとくという動作から連想されやすかったのかもしれません。ただし、これは仮説です。問20は意味を選ばせる設問で、理由は尋ねていません。私も原因を裏づける資料までは確かめられていません。言葉の意味が変わる原因を調べるなら、辞書の改訂履歴や、国立国語研究所の資料などを別に当たる必要があります。

数字を見て驚いたのは、「ひもとく」より「流れに棹さす」のほうでした。本来の意味とは逆の方向に取る人が、全年齢で30ポイント以上上回っています。意味が逆向きに取られても、文として成り立ってしまうのが怖いところです。

辞書の意味を基準にするときの注意点

辞書の意味を基準にするときの注意点(辞書のページ)
Photo by Romain Vignes on Unsplash

調査で「本来の意味」とされているのは、「辞書等で主に本来の意味とされてきたもの」です。文化庁は表の中で、これを太字で示しています。基準としては分かりやすい一方で、見落としやすい点が3つあります。

「両方」を選んだ15.0%をどう数えるか

「ひもとく」では「両方」を選んだ人が15.0%いました。この人たちを「間違い」に数えるか「本来の意味を知っている人」に数えるかで、結果の印象は変わります。本来の意味だけを選んだ13.1%で語る記事と、両方を足した28.1%で語る記事は、どちらも数字としては正しいものです。

過去の調査との比較は参考値にとどまる

令和2年度から郵送法に変わったため、令和元年度以前の結果は参考値です。「昔は本来の意味を知っている人が多かった」と言いたくなりますが、方法が違う数字の並べ方には注意が必要です。

調査対象は16歳以上で、日常の使用率ではない

調査は「どちらの意味だと思うか」を一つずつ選ぶ形式です。ふだんの会話や文章でどちらの意味で使っているか、という実際の使用頻度を測った数字ではありません。選択肢を見せられて選ぶ形式なので、自分では使わない言葉でも答えが出ます。

意味が割れている言葉を書くときの判断基準

書き手の立場で考えると、この調査は「どちらが正しいか」より「読み手にどう伝わるか」の資料になります。文章の目的に合わせて、次のように決めると迷いません。

場面 考え方
公的な文書・論文 辞書等で本来とされる意味に合わせる。迷う語は別の言葉に置き換える
ブログ・記事・メール 読み手が取り違えても困らない言い方に替える(「ひもとく」なら「読み解く」「調べる」など)
会話 相手の反応で言い直す。意味を指摘するときは調査の割合を持ち出さない

言葉の決まりを誰がどう決めているのかは、外来語の表記は誰が決めるのかを扱った記事でも整理しています。表記は国や審議会の指針に沿って整えられるのに対し、意味の使われ方は書き手と読み手の多数派で動いていきます。

同じ調査で見えた、上司の呼び方の傾向

同じ令和7年度の調査には、「会社の課長に部下が呼び掛けるとき、どの呼び方が一番望ましいか」という質問(問12)もあります。「課長」を選んだ人が62.9%で最も多く、続いて「名字に『さん』を付ける」が25.5%、「課長さん」が6.4%でした。

過去の調査(平成15年度と25年度)では、「課長さん」が減り、「名字にさんを付ける」が増えていたと文化庁は説明しています。これも調査方法が変わったため、参考値としての比較です。

ニュースでは「上司を『さん』呼びが増加」という見出しになりました。ただ、今回の調査で最も多かったのは、役職で呼ぶ「課長」の62.9%です。見出しの温度と、数字の中心は少しずれています。

国語世論調査についてのよくある誤解

誤解1:「ひもとく」を真相解明の意味で使う人が約7割いる

69.9%は、選択肢から「真相を明らかにする」を選んだ人の割合です。調査対象は16歳以上の6,000人から選ばれ、有効回答は3,777人です。日常の使用率を測った数字ではなく、日本人全体の7割と言い切ることもできません。

誤解2:本来の意味を選んだ13.1%以外は全員間違っている

「両方」を選んだ人が15.0%いて、本来の意味を含めて選んだ人は合わせて28.1%です。また、文化庁が示すのは「辞書等で主に本来の意味とされてきたもの」との比較で、日常の使い方の良し悪しを決める調査ではありません。

誤解3:過去の調査と比べれば、意味が変わった時期が分かる

令和2年度に郵送法へ変わったため、令和元年度以前の結果は参考値です。文化庁も、比較には注意が必要と書いています。数字が増えた、減ったという言い方は、慎重に使う必要があります。

まとめ:「ひもとく」の13.1%から読み取れること

令和7年度の国語世論調査では、「ひもとく」の本来の意味「関係する書物を読む」を選んだ人は13.1%で、「真相を明らかにする」は69.9%、「両方」は15.0%でした。全年齢で本来でない側が20ポイント以上上回り、50代以下では60ポイント以上の差があります。

一方で、5語のうち本来の意味の割合が最も高かった「気が置けない」は47.4%と過半数に届かず、「佳境に入る」は37.8%と34.3%でほぼ拮抗しました。調査は6,000人に郵送し3,777人が答えたもので、令和元年度以前との比較は参考値にとどまります。

この数字を使って、読み手に伝わる言葉を選ぶのが現実的です。意味が割れている語を使うときは、辞書の意味に合わせるか、取り違えられない言葉に替えるかを、文章の目的で決めます。「誰が間違っているか」を判定する数字としては、この調査は使えません。

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  2. なんとなく知っていた
  3. 初めて知った
  4. 誤解していた

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なんとなく知っていた:33%
初めて知った:33%
誤解していた:0%

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。