神奈川県大和市の駐車場で、バックをしていた乗用車が歩いていた家族3人にぶつかったと報じられました。報道では事故の原因までは書かれておらず、警察が詳しい状況を調べています。この記事は、その事故の原因を考えるものではありません。ニュースを見て「いまの車には、踏み間違いを止める装置は付いていないのだろうか」と気になった方に、国の基準と装置の中身を、公式の資料から順に整理します。
先に結論を書くと、装置は「障害物の手前で加速を抑え、ぶつかっても弱める」もので、ぶつからないことを約束するものではありません。それでも駐車場のような短い距離の事故には、効く場面があります。
- 踏み間違いの事故は、店舗の駐車場やサービスエリアなど、道路以外で目立つ
- 国の試験は、障害物の1.0m手前と1.5m手前から、アクセルを床まで踏み込んで確かめる
- 合格ラインは、ぶつからないか、衝突時の速度が8km/h以下で30%以上遅いこと
- 新型の乗用車は令和10年(2028年)9月1日から義務になり、2026年の改正でクリープ走行と歩行者も対象に加わった
踏み間違いの事故は、駐車場でなぜ目立つのか
JAFのページは、交通事故総合分析センターの情報として、2018年から2020年の3年間でペダルの踏み間違いに起因する事故が1万件に迫る勢いで発生していると紹介しています。年齢では65歳以上が突出して多く、75歳以上が最も高い割合です。状況では「発進時」、場所では「サービスエリア」や「店舗の駐車場」といった道路以外が高いとあります。
アクセルとブレーキは、同じ「踏む」動作で並んでいる
JAFは、アクセルとブレーキが同じ「踏み込む」動作で操作するペダルとして並んでいるため、踏み間違いは年齢を問わず誰にでも起こりうると説明しています。私は車を持たず、普段はクロスバイクで動いています。だから、この説明を読むまで、踏み間違いは運転に不慣れな人だけの話だと思っていました。毎日運転している人にも起こりうると知って、認識を改めました。
慌てるほど強く踏み込んでしまう
同じJAFのページによると、運転操作の誤りの要因は「慌て、パニック」が主です。想定と正反対に車が動いて気が動転すると、正しい操作ができなくなる、という説明です。踏み間違えたまま、さらに強く踏み込んでしまうわけです。人の反応に頼るだけでは間に合わない場面がある。そこを機械で補おうというのが、この装置です。
急発進抑制装置は、何を見て何を止めているのか
JAFのページは、この装置を、センサーで障害物を検知してエンジンの出力を抑えたりブレーキをかけたりするものと説明しています。センサーの中身はメーカーの資料でわかります。
超音波センサーが、車の近くの障害物を探す
トヨタのカローラ(HEV)の取扱書では、クリアランスソナーは超音波センサーで車と壁などとの距離を検知し、ブザーなどで知らせると書かれています。作動するのは車速が約10km/h以下のときです。検知できる範囲はフロントセンターで約100cm〜60cm、リヤセンターで約150cm〜60cmです。駐車場で徐行している速さと、車のすぐ近くの距離だけを見ていることになります。
走りながら周りを広く見る仕組みについては、自動運転のセンサーとAIの判断の記事で書いています。踏み間違いの装置は、それよりずっと近い範囲に絞って働く装置です。
出力を絞り、必要ならブレーキをかける
障害物が近いのにアクセルが強く踏まれていると、装置は加速を抑えます。ここで大事なのは、国の基準が「止まること」だけを求めていない点です。次の章で数字を見ます。
ご自身や家族の車に、踏み間違いを抑える装置は付いていますか?
- 付いている
- 付いていないと思う
- 付いているか分からない
- 車を運転しない
国の基準は、1.0mと1.5mでどう試しているのか
国土交通省の資料では、日本の提案で国連の基準づくりが始まり、令和6年11月に国際基準が成立しました。国内の保安基準は令和7年6月に改正され、令和8年1月にさらに強化されています。試験の中身は、別紙の図に具体的に書かれています。
障害物の1.0m手前と1.5m手前から、アクセルを床まで
停止している状態で、障害物の手前1.0mと1.5mから、アクセルをフルストローク、つまり床まで踏み込みます。このとき次のどちらかになることが条件です。
- 障害物に衝突しない
- 衝突時の速度が8km/hを超えず、障害物がない状態に比べて30%以上遅い
意外だったのは、衝突してもよいと基準が認めている点でした。私は「装置が付いていれば止まる」と思い込んでいましたが、基準は「止まるか、ぶつかっても弱める」です。
1秒ほどしかない、という数字
1.0mという距離がどれほど短いかを、私が計算してみました。国の資料に加速度の指定はないので、仮に一定の加速度2m/s²で踏み込み続けたとします。1.0mを進む時間は√(2×1.0÷2)=1.0秒、そのときの速さは2×1.0=2.0m/s(時速7.2km)です。1.5mなら√(2×1.5÷2)≒1.2秒、速さは約2.4m/s(時速8.8km)になります。8km/hは8÷3.6≒2.2m/sです。
これは仮定を置いた私の計算で、実際の車の加速は車種や踏み方で変わります。それでも、1.0mから1.5mという間合いでは、ブレーキに踏み替える時間がほとんどないことがわかります。
2026年の強化で、クリープ走行と歩行者が加わった
国土交通省は令和8年1月に基準を改正しました。変わった点は3つです。
| 項目 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 対象の車 | 乗用車 | 乗用車と貨物車(車両総重量3.5t以下のオートマチック車) |
| 検知する障害物 | 車両・壁 | 車両・壁・歩行者 |
| 急加速を抑える状態 | 停止状態から | 停止状態とクリープ走行状態から |
| 出典:国土交通省 報道発表資料(令和8年1月)の別紙。乗用車は乗車定員10人未満のオートマチック車に限ります。 | ||
クリープ走行とは、アクセルを踏まずに車が進む状態
クリープ走行は、オートマチック車でブレーキを離すと、アクセルを踏まなくてもゆっくり前に進む状態です。駐車場で車を動かし始める場面そのものです。改正前は停止状態からの試験だけでしたが、動き出している最中の踏み間違いも対象になりました。
歩行者が検知の対象に入った
改正後は、検知する障害物に歩行者が入りました。クリープ走行の試験では、障害物に衝突しないか、衝突の時点またはそれより前に加速を抑制することが求められます。
義務化はいつから、今の車はどうなるのか
2026年10月時点で、国土交通省の発表では、電気自動車を含むオートマチックの乗用車に装置を義務付けます。時期は新型車が令和10年(2028年)9月1日、輸入車が令和11年(2029年)9月1日です。2026年の改正分は、新型車が令和12年(2030年)9月、継続生産車が令和14年(2032年)9月から適用されます。
令和の年は、令和元年を2019年として足し算で西暦に直しています(令和10年=2019+9=2028年、令和11年=2029年、令和14年=2032年)。
すでに普及している装置と、義務化の差
内閣府の令和3年交通安全白書では、国内で生産された車に占めるペダル踏み間違い急発進抑制装置の割合が、令和元年に83.8%でした。生産台数は3,952,602台で、そのうち装置付きが3,310,822台です。衝突被害軽減ブレーキは93.7%でした。装置そのものはすでに多くの新車に付いています。今回の義務化は、数字で測れる試験の合格を、全部の新型車に求めるものです。
後付けは、国の認定を受けた装置から選べる
国土交通省は2020年4月に、後付けの急発進等抑制装置の性能認定制度を設けました。すでに乗っている車に付けたい場合は、認定を受けた装置が目安になります。取り付けられるかどうかは車種で変わるので、販売店に確認してください。
装置が止められないこと、デメリット
ここまでは装置のよい面でした。次は限界です。
センサーが見つけにくいものがある
先ほどのトヨタの取扱書には、検知しないことがあるものが書かれています。針金・フェンス・ロープなどの細いもの、綿や雪など音波を吸収しやすいもの、背の低いものなどです。特に人は、衣類の種類によって検知できない場合があるので、常に目視で確認してください、とあります。センサーに水滴・氷・雪・泥がついたときも、正常に作動しないことがあります。
装置があると思って、確認をゆるめてしまう
JAFのページも、装置は補助で、運転者がきちんと操作することが大切だと書いています。装置を信じて確認をゆるめるのが、いちばん怖い使い方です。
前方と後方で、作動の条件が違う場合がある
トヨタの取扱書では、フロントセンターのセンサーはシフトがPとR以外のとき、リヤのセンサーはRのときに作動します。国土交通省の資料は「障害物の手前」と書いていて、前進か後退かは、私が確認した範囲では書かれていません。バックでの作動はご自分の車の取扱書で確かめてください。
自分の車と運転にどう活かすか、判断のしかた
いまの車に装置が付いているか、まず確かめるところから始まります。
確かめることは3つ
- 取扱書の「クリアランスソナー」「踏み間違い」などの項目に、前方と後方のどちらが対応か書いてあるか
- 作動する速度の目安(トヨタの例では約10km/h以下)と、検知できない場合の注意書き
- 装置をオフにするスイッチがあるか、オフにしたままになっていないか
付いていない車を使っているなら
後付けの認定装置か、装置が付いた車への買い替えが選択肢です。ただ、費用や取り付けの可否は車種で違います。いずれにしても、JAFが書くとおり、前進や後退の前にペダルの位置を確かめて、十分に注意して操作することが基本です。
駐車場の事故では、事故のあとに映像が手がかりになることもあります。ドライブレコーダーの仕組みはドライブレコーダーの常時録画と衝撃検知の記事にまとめました。
よくある誤解
誤解1:装置が付いていれば絶対に止まる
基準は「衝突しない」か「8km/h以下で、装置がない場合より30%以上遅く衝突する」です。ぶつかる前提の合格ラインが含まれています。
誤解2:高齢の人だけの問題だ
JAFは、踏み間違いは年齢を問わず起こりうるとしています。統計では65歳以上、特に75歳以上の割合が高いのは事実ですが、全員が当事者になりえます。
誤解3:義務化されたので、今の車も対応済みだ
義務付けは新型車が令和10年9月1日からで、走っている車に取り付けを求めるものではありません。サポカーSワイドの事故抑止効果は、平成29年5月から30年12月の分析で、10万台当たりの第1当事者人身事故件数が全体509.20件に対して297.19件、41.6%少なくなっていました。ただしこれは、衝突被害軽減ブレーキや車線逸脱警報なども含む組み合わせの数字で、踏み間違い装置だけの効果ではありません。
まとめ:踏み間違い急発進抑制装置を知って、駐車場で何を変えるか
踏み間違い急発進抑制装置は、障害物の1.0m手前と1.5m手前という短い間合いで、加速を抑えて被害を弱める装置です。国の基準は8km/hと30%という数字で合格ラインを決めており、2026年の改正でクリープ走行と歩行者も対象になりました。新型の乗用車は令和10年9月1日(2028年)から義務になります。
装置があっても、細いものや衣類を着た人を見落とすことがあります。駐車場では、ペダルの位置を確かめてから動き出すこと、取扱書で自分の車の装置の範囲を知っておくことが、いまできる備えです。
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参考文献・出典
- ・国土交通省「ペダル踏み間違い時加速抑制装置」国際基準の概要(1.0m・1.5mの試験、8km/h、30%、適用日) https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001894628.pdf
- ・国土交通省「ペダル踏み間違い時加速抑制装置の基準強化について」別紙(クリープ走行・歩行者・貨物車・適用日) https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001974848.pdf
- ・国土交通省 報道発表「ペダル踏み間違い時加速抑制装置の基準強化について」(令和8年1月) https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha10_hh_000336.html
- ・国土交通省 報道発表「ペダル踏み間違い時加速抑制装置の義務化について」(令和10年9月1日・輸入車令和11年9月1日) https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha10_hh_000330.html
- ・内閣府「令和3年交通安全白書」特集 第3節 車両の観点(装備率、サポカーSワイドの事故抑止効果) https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/r03kou_haku/zenbun/genkyo/feature/feature_03_3.html
- ・JAF「ペダルの踏み間違いを防止するには?」(交通事故総合分析センターの情報の紹介、発生場所と状況) https://jaf.or.jp/common/kuruma-qa/category-trouble/subcategory-prevention/faq119
- ・トヨタ自動車 取扱書 カローラ(HEV)「クリアランスソナー」(超音波センサー、作動条件、検知距離、検知できないもの) https://manual.toyota.jp/corolla/2505/hev/ja_JP/contents/vhch04se050414.php
- ・国土交通省「後付けのペダル踏み間違い急発進等抑制装置の認定結果を公表します」(性能認定制度) https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha07_hh_000344.html
- ・Yahoo!ニュース(ANN)「駐車場で車が10歳と2歳を含む親子3人に衝突 父親は重傷 神奈川・大和市」 https://news.yahoo.co.jp/articles/d4bda2ac7e2b7b99cbf28105db94da5b95550fe3
この記事について 本記事は、車の安全装置の“仕組み”を知っていただくための読み物です。装置は運転をたすける補助で、事故を防ぐことを保証するものではありません。車の取り扱いや装置の作動条件は車種ごとに違うため、お乗りの車の取扱書とメーカー・販売店の案内をご確認ください。特定の事故の原因や責任を述べるものではありません(2026年10月5日時点の情報です)。










































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