2026年10月5日、読売新聞オンラインが大阪市の中学2年生の女子3人を取り上げました。1日の平均が5〜6時間、1人は日曜日に11時間もスマホを使い、自分たちを「ドパガキ」と呼ぶ、という記事です。インスタグラムやティックトックの動画を見続けてしまう背景として、SNSの無限スクロールやアルゴリズムが挙げられています。
この話を、私は最初「本人の意志の問題」だと思って読み始めました。ところが調べてみると、やめられない理由の大きな部分は、画面の作りのほうにありました。この記事では、無限スクロールがなぜやめにくいのかを、総務省の調査、ドーパミン研究の原典、2026年に出た7日間のフィールド試験で確かめた範囲で整理します。2026年10月時点の情報です。
- 無限スクロールは、ページ送りをなくして閲覧を楽にするために作られた仕組みで、発明者本人が「後悔している」と語っている
- やめにくい理由は「止まる合図が消えたこと」と「次に何が出るか分からないこと」の2つに整理できる
- ドーパミンの神経細胞は、報酬そのものより「予想外の報酬」に強く反応することが、サルの実験で確かめられている
- 15分連続でスクロールした人に割り込みを出す試験では、約8割が10分以内にスクロールへ戻らなかった
中2の3人が語った「ドパガキ」と、総務省の数字
まず、ニュースの中身と、日本全体の数字を並べておきます。見出しの熱と、統計の温度は少し違います。
読売新聞が伝えた3人のスマホ時間
記事によると、3人はスマホを「命」「人生」「お金の次に大事」と表現しています。勉強中も気になって触ってしまい、夜更かしして授業中に寝てしまう生徒もいます。3人のうち1人は「スマホを触っている間は楽しいけど、宿題が終わっていない現実に戻ると後悔する」と話しています。
1日5時間を1年続けると、5時間×365日=1,825時間になります。1日の平均が5〜6時間という数字を、私は最初、少し盛った話だと思いました。ところが総務省の数字を見ると、盛った話とは言い切れません。
総務省の調査で見る10代のSNSと動画の時間
総務省情報通信政策研究所の令和6年度調査では、平日にインターネットで「ソーシャルメディアを見る・書く」時間の平均は、全年代で34.7分でした。10代は67.0分で、67.0÷34.7≒1.9倍です。20代も67.0分でした。
10代は「動画投稿・共有サービスを見る」が116.0分でさらに長く、SNSと合わせると67.0+116.0=183.0分(3時間3分)になります。全年代の動画投稿・共有サービスは50.8分です。なお、これはSNSを使わない人も含めた平均で、使う人だけを取り出せばもっと長くなります。
「ドパガキ」という言葉は、ネットのスラングです。ただ、10代の画面時間が長いこと自体は、スラングではなく統計に出ている事実です。
無限スクロールとは何か
無限スクロールは、画面を下へ送ると新しい投稿が自動で読み込まれ続ける仕組みです。「次のページ」ボタンがありません。
ページ送りをなくすために作られた
これを発明したのは、アザ・ラスキンさんです。本人は、TED系ポッドキャスト「Rethinking with Adam Grant」で、「私が無限スクロールを発明した」と認めています。作ったのは、ソーシャルメディアが広まる前、地図サイトのMapQuestが使われていたころで、狙いはページを送る手間を減らすことでした。
発明者は後悔を語っている
ラスキンさんは同じ対談で、自分の発明に「a hundred thousand human lifetimes per day」、つまり毎日、人の一生を何万人分も無駄にしていると、本人の見積もりとして語っています。この数字は本人の概算で、統計調査の結果ではありません。それでも、作った人が「意図は関係なく、仕組みが何を促すかが問題だ」と話している点は、読む価値があります。
SNSの表示順そのものを決めるアルゴリズムは、別の記事で整理しています。SNSアルゴリズムの仕組みと合わせて読むと、「何が出るか」と「いつまで出続けるか」の2つが分けて見えてきます。無限スクロールは後者を担当しています。
SNSや動画を、思っていたより長く見てしまうことはありますか?
- よくある
- たまにある
- ほとんどない
- SNSはあまり見ない
やめられない理由その1:止まる合図が消えた
ラスキンさんは対談で、「止まる合図(stopping cue)」という言葉を使っています。ここが、私の見方がいちばん変わったところです。
コップの底がないワイン
ラスキンさんは、こう説明しています。人は、ワインのコップの底に着くまで、「もう飲むのをやめようか」とは考えない。脳は、何か合図が来ない限り、「続けたいか」と自分に問いかけない、という話です。
本のページ、番組のエンディング、ページ送りのボタン。私なりに言い換えると、かつてのメディアには、必ずどこかに底がありました。底に着くたびに「続けるか、やめるか」を一瞬だけ選ぶことになります。無限スクロールは、その一瞬を消した設計です。
意志が弱いのではなく、問いが来ない
私は、やめられないのは意志の問題だと思っていました。コップの話を読んで、考えが変わりました。意志が負けているのではなく、意志を使う場面そのものが画面から消えている、という見方のほうが、起きていることに近いのです。
私も、調べものの途中でSNSを開いて、気づくと別の話題を読んでいる、ということがあります。「やめよう」と思った記憶がないのです。思う場面が来なかった、と考えると腑に落ちます。
やめられない理由その2:次に何が出るか分からない
もう1つの理由は、報酬が予測できないことです。ここでドーパミンが出てきます。
ドーパミンは「予想外」に反応する
ドーパミン研究の古典として、1997年に雑誌『Science』に載ったウォルフラム・シュルツさんらの論文があります。サルを使った実験で、ドーパミンの神経細胞は、予告なしにフルーツジュースが口に入ったときに活動しました。学習が進んで、合図のあとに必ずジュースが出ると予測できるようになると、ジュースそのものには反応しなくなりました。予測どおりのご褒美では、活動が上がらないのです。
さらに、予測していたジュースが出なかったときは、その本来のタイミングで活動が下がりました。論文は、この神経細胞の出力を「報酬の予測の誤差」を表す信号だと整理しています。ご褒美の大きさというより、予想とのズレを伝えているわけです。
SNSのフィードに当てはめると
ここからは、論文の結果をSNSに当てはめた、私の解釈です。フィードは、次の1枚が当たりか外れか、スクロールするまで分かりません。面白い投稿が不意に出るたびに「予想外の報酬」が起きて、外れが続くと「出なかった」というズレが生まれます。どちらも、もう一度スクロールする理由になります。
やめにくくなるループ
結果が運で決まる仕組みは、ゲーム課金のガチャにも通じます。こちらはゲーム課金の仕組みで、収益モデルの側から書いています。
7日間の試験でわかった「止める工夫」の効き方
では、画面のほうに止める工夫を入れたら、どうなるのでしょうか。2026年に公表された、ウルム大学などのMeinhardtさんらの論文が、実際のスマホで確かめています。
15分で割り込みを出す7日間の試験
参加者は104人で、7日間、自分のAndroidスマホにアプリを入れて普段どおり使いました。アプリは、TikTok、Instagram、Facebook、YouTube Shortsの無限スクロールを監視します。連続して15分スクロールすると、3種類の割り込みのうち1つが同じ確率でランダムに出ます。
1つ目は「休憩しませんか」というポップアップです。残る2つは、見た目の変化または振動を少しずつ強めて、最大で約3分半かけて「摩擦」を増やす方式でした。
10分以内に戻った人は2割に届かなかった
割り込みが出た1,190回のスクロールのうち、1分以内にスクロールへ戻ったのは4.87%、3分以内で11.5%、5分以内で13.70%、10分以内でも17.5%でした。つまり、100%−17.5%=82.5%、およそ8割は10分以内に戻りませんでした。
3種類の間で、5分以内に戻る割合は、ポップアップが12.5%、視覚が14.2%、振動が14.4%と、大きな差はありませんでした。客観的な効果が最も高かったのは、「休憩しませんか」のポップアップです。
止まる合図を人工的に足すだけでも、効く人には効きます。ラスキンさんの「合図が消えた」という説明と、向きが合っています。
この話の限界と注意点
ここまでの話には、はっきりした限界があります。まとめて言い切るのは危険なので、分けて書きます。
サルの実験を、そのままSNSに持ち込めない
シュルツさんらの結果は、サルとジュースの実験です。ドーパミンが報酬の予測の誤差を伝えているという点は確かめられていますが、「SNSの無限スクロールで同じことが起きている」と直接測った研究ではありません。前の節の当てはめは、私の解釈だと理解してください。
試験の対象は、短尺動画の4アプリ
ウルム大学の試験は、短尺動画系の4アプリを7日間観察したものです。SNS全般や、他の年代にそのまま当てはまるとは限りません。「休憩しませんか」の表示を出した直後の行動を見た研究で、長期的に使い方が変わったかどうかまでは、この記事では確認していません。
ラスキンさんの数字は本人の概算
「毎日、人の一生を何万人分も無駄にしている」という数字は、本人の見積もりです。調査で測った数字ではないので、事実として引用するときは「本人が語っている」と添えるのが正確です。
やめられない人に関するよくある誤解
「ドーパミンは快楽物質だから、出るとやめられなくなる」?
半分だけ正しく、半分は違います。シュルツさんらの論文が示したのは、ドーパミンの神経細胞が、報酬そのものの快感ではなく、予測とのズレを伝える信号として働くことです。完全に予測できる報酬では活動が上がらず、予測が外れたときに上下しました。
「意志が弱い人だけがやめられない」?
ウルム大学の試験では、衝動性が低い人では、割り込みの種類による主観的な効果の違いは小さく、衝動性が高い人では種類による差が大きく出ました。個人差はありますが、その人だけの問題ではなく、画面の設計と個人の特性が組み合わさって決まる、という結果です。
「ドパガキは中学生だけの問題」?
総務省の調査では、平日のソーシャルメディアの利用時間は、10代と20代がどちらも67.0分で、30代は48.0分、40代は35.7分でした。年代ごとの差はあっても、無限スクロールは大人も同じ画面を使っています。
自分のやめどきを決める判断基準
ここからは、研究を踏まえた、私の提案です。効果が確かめられた方法を、そのまま薦めているわけではありません。
止まる合図を自分で作る
ウルム大学の試験で最も効いたのが、15分で休憩を促す表示でした。そこで、タイマーを15分にして、鳴ったら「続けるか、やめるか」を一度だけ自分に聞く方法が考えられます。画面が出してくれない合図を、画面の外に置くわけです。
| 状況 | 考えられる工夫 |
|---|---|
| 気づくと長時間になっている | 15分のタイマーを置き、鳴ったら続けるかを一度決め直す |
| 夜、寝る前に開いてしまう | スマホを手の届かない場所で充電し、開くまでの手間を増やす |
| 子どもの使い方が心配 | 禁止より先に、本人と「何分で一度やめるか」を決めて合図を共有する |
ドパガキの当事者も、「後悔する」と話していました。後悔が来るのは、現実に戻ったあとです。その手前に合図を置けるかどうかが、分かれ目になりそうです。
見出しの熱と、仕組みの温度
「ドパガキ」は強い言葉で、見出しは熱くなります。私は、この言葉を貼って責めるより、「底のないコップを渡されたら誰でも飲み続ける」という構造を、先に知っておくほうが大事だと考えています。
まとめ:無限スクロールがやめにくい理由を整理する
無限スクロールは、ページ送りの手間をなくすために生まれた仕組みでした。その結果、本のページや番組のエンディングにあった「止まる合図」が消えました。そこに、次に何が出るか分からない、という性質が重なります。
ドーパミンの神経細胞が予想とのズレに反応することは、サルの実験で確かめられています。ただし、SNSで同じことが起きていると直接測った研究ではないので、そこは解釈として読んでください。一方、15分連続のスクロールのあとに割り込みを出す試験では、約8割が10分以内に戻りませんでした。合図を足す工夫は、効く可能性があります。
やめられないのは意志だけの問題ではなく、画面の設計と、使う人の特性の組み合わせで決まります。まずは、15分で一度だけ自分に聞く合図を作ってみる。判断材料として、持ち帰っていただければ十分です。
この記事の内容、読む前から知っていましたか?
- 知っていた
- なんとなく知っていた
- 初めて知った
- 誤解していた
📚 参考文献・出典
- ・読売新聞オンライン「SNS見続け無限スクロール、気付けば1日11時間使う「ドパガキ」中学2年…」(2026年10月5日配信、Yahoo!ニュース) https://news.yahoo.co.jp/articles/7425b1c954bb84be7942ae33b9e6b04cf40f4aca
- ・総務省情報通信政策研究所「令和6年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」 https://www.soumu.go.jp/main_content/001017160.pdf
- ・Meinhardt ほか「Gradual Interventions」(ウルム大学ほか、2026年9月、7日間のフィールド試験 N=104) https://www.uni-ulm.de/fileadmin/website_uni_ulm/iui.inst.100/1-hci/hci-paper/2026/Gradual_Interventions.pdf
- ・Schultz, Dayan, Montague「A Neural Substrate of Prediction and Reward」Science 275, 1997 https://www.its.caltech.edu/~jkenny/nb250c/papers/Schultz-1997.pdf
- ・TED「Aza Raskin on why technology – and democracy – are in an imagination crisis」(Rethinking with Adam Grant 書き起こし) https://www.ted.com/podcasts/rethinking-with-adam-grant/aza-raskin-on-why-technology-and-democracy-are-in-an-imagination-crisis-transcript
📖 この記事について 本記事は、心や行動の“仕組み”を知る面白さをお届けする読み物です。心の不調の診断・治療を目的としたものではないため、つらい状態が続く場合は専門の窓口にご相談ください。








































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