ペロブスカイト太陽電池はなぜ軽くて曲がるのか|シリコンとの違いと屋根の重さの話

ペロブスカイト太陽電池は、シリコンより発電効率が高い次世代の太陽電池だと、私はしばらく思い込んでいました。経済産業省の資料を読むと、位置づけはそこではありません。売りは効率の数字ではなく、軽くて薄く、曲げられること。これまでの太陽電池を載せられなかった屋根や壁に置けることです。

軽い、曲がる、と言われる理由は、発電層の作り方にあります。高温で焼かずに、溶液を塗って作るので、プラスチックのフィルムの上に作れます。この記事では、その軽さと曲がりやすさがどこから来るのか、なぜ屋根の耐荷重が話題の中心になるのか、2026年9月時点で何が課題として残っているのかを、原典の数字で整理します。

  • ペロブスカイトは材料名ではなく、ABX3という結晶構造の呼び名
  • 140℃以下で塗って作れるため、プラスチックのフィルムの上に作れる
  • 重さはシリコン系の約1/10で、フィルム型は1m2あたり1.5kg
  • 耐久性とコストが課題で、積水化学の2026年度の生産は限定的
目次

ペロブスカイト太陽電池が狙うのは、シリコンを置けなかった場所

経済産業省の次世代型太陽電池戦略(案)によると、いまの太陽電池市場はシリコン太陽電池が95%を占めています。ペロブスカイト太陽電池はその外側にいる新顔ですが、資料での位置づけは、シリコンの代わりではありません。「軽量で柔軟という特徴を有し、建物壁面など、これまで設置が困難であった場所にも導入が可能」と書かれています。

勝負するのは、発電効率の数字より、置ける場所の数です。見出しでは「次世代の切り札」のように書かれがちですが、私は数字を見てからのほうが納得できました。

フィルム型・ガラス型・タンデム型で役割が違う

資料はペロブスカイト太陽電池を、フィルム型、ガラス型、タンデム型に分けて整理しています。フィルム型は軽さと柔軟さで新しい設置場所へ、ガラス型は窓ガラスなど建材の一部として使う方向です。シリコンの置き換えが期待されているのはタンデム型で、こちらは引き続き研究開発の段階とされています。この記事の主役はフィルム型です。

シリコン太陽電池との違いは、材料の並び方と作り方にある

シリコン太陽電池との違いは、材料の並び方と作り方にある
Photo by Soren H on Unsplash

シリコン系が光を電気に変える基本の仕組みは、太陽光発電の仕組みで整理しています。ペロブスカイトはその発電層を、別の材料に替えたものと考えると分かりやすくなります。

ペロブスカイトは材料名ではなく、結晶の並び方の名前

経済産業省の資料は、ペロブスカイト太陽電池を、3種類のイオンがABX3というペロブスカイト結晶構造で並んだ材料を発電層に使う太陽電池の総称と説明しています。代表的にはAが有機アンモニウム、Bが鉛、Xがヨウ素です。国内の研究者が開発した日本発の技術で、2009年に初めて作られたときの発電効率は3〜4%でした。

ABX3の結晶を作る3種類のイオン

A
有機アンモニウム
B
鉛
X
ヨウ素

代表的な組み合わせ(経済産業省の資料より)

発電層は、溶液を塗って作る500nmの膜

科学技術振興機構(JST)の事業成果の紹介によると、ペロブスカイト太陽電池は、原料を含む溶液を金属酸化物の膜の上に塗って結晶の薄膜を作ります。塗布(スピンコート)で作れるので、既存の太陽電池より低価格になるとされています。EE Times Japanの記事は、ペロブスカイトが500nmの厚みでほぼ100%の光を吸収できると紹介しています。

500nmは0.5マイクロメートルで、0.0005mmです。これだけ薄い層で光をほぼ吸収できる、という数字です。

自宅や勤め先、実家などの屋根に太陽光パネルはありますか?

  1. 自宅に設置している
  2. 勤務先・実家などにある
  3. 身近にはない
  4. 設置を検討したことがある

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勤務先・実家などにある:17%
自宅に設置している:8%
設置を検討したことがある:0%

軽さと曲がりやすさは、焼かずに作れることから来る

フィルムのように曲がる理由は、材料が特別に柔らかいからではありません。プラスチックのフィルムの上に作れるからです。そのためには、作るときの温度が低くなければなりません。

最高140℃、実用上は120℃未満で作れる

EE Times Japanが伝えた低温・溶液プロセスの研究では、高温の熱処理が必要な金属酸化物の膜が要らず、処理温度は最高でも140℃、実用上は120℃未満とされています。ペットボトルに使われるようなプラスチックを土台にした、軽量でフレキシブルな太陽電池が作れる、とも書かれています。

リコーの解説では、フィルム型はプラスチックフィルムなどを基板に使う薄くて軽い型で、曲面や耐荷重の低い屋根にも設置できるとされています。同じ資料は、曇天や日陰のような弱い光でも発電効率が比較的高い、とも説明しています。

重さはシリコンの約1/10、フィルム型で1m2あたり1.5kg

経済産業省の資料は、ペロブスカイト太陽電池の重量を、一般的なシリコン太陽電池の約1/10、容積は約1/20と書いています。フィルム型では1m2あたり1.5kgとして試算しています。

1.5kgがシリコン系の1/10なら、シリコン系は1m2あたり約15kgの計算です(1.5×10)。屋根100m2に敷くと、フィルム型は約150kg、シリコン系は約1,500kgで、差は約1,350kgになります。100m2は分かりやすくするために私が置いた面積で、資料の数字ではありません。

屋根の耐荷重が、太陽電池を置けるかどうかを分けていた

曲面の屋根一面に並ぶ太陽電池パネル。重さが設置の条件になる
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経済産業省の資料は、政府の実行計画に、ペロブスカイト太陽電池を使って、従来の太陽電池では設置が難しかった耐荷重の小さい屋根などへ率先して導入することを位置づける、と書いています。屋根の強度が足りなければ、どれだけ発電効率の高いパネルでも載せられません。軽さが価値になるのは、この条件があるからです。

日本は、平地あたりの太陽光がすでに多い国

同じ資料に、平地面積あたりの太陽光設備容量の比較があります。日本は514kW/km2で、ドイツの243kW/km2を大きく上回っています。平地面積は、国土面積から森林面積を引いて計算したものと注記されています。

514÷243=約2.1倍で、日本の平地あたりの設備容量はドイツの2倍強です。

資料はこの状況を、適地の制約や地域との共生上の課題が生じている状況と整理し、ペロブスカイト太陽電池を、これまで設置が困難だった場所にも置くことで、再生可能エネルギーの拡大と地域との共生を両立させるものと位置づけています。空いている広い土地が少ない国で、次に探す場所が壁と屋根、という流れです。

2026年3月、金属屋根への設置から事業が始まった

積水化学工業と積水ソーラーフィルムは、2026年3月27日に、フィルム型ペロブスカイト太陽電池「SOLAFIL」の事業開始を発表しました。金属屋根に設置する製品と設置仕様の事業化の準備が整った、という内容です。提供先は、環境省の2025年度公募事業で採択された、さいたま市、滋賀県、西日本高速道路、福岡県、福岡市と、東京都の「都有施設へのAirソーラー先行導入事業」です。

ここで私が意外に思ったのは、生産規模です。同じ発表は、2026年度は現有設備による限定的な生産量になると書いています。2027年度に立ち上げる予定の生産ラインで、やっと100MW規模です。

100MWは0.1GWです。経済産業省の戦略が2040年に掲げる約20GWに対しては、0.1÷20=0.5%にあたります。20GWは複数の事業者の合計を含む目標なので、積水化学1社の100MWと単純に比べるものではなく、規模感をつかむための計算です。

原料のヨウ素と鉛には、日本の強みと処理の宿題がある

ヨウ素は日本が世界第2位、シェアは約30%

発電層の主要な原材料であるヨウ素について、経済産業省の資料は、日本が世界第2位の産出量でシェアは約30%と書いています。原材料を含めた強いサプライチェーンを築ければ、エネルギーの安定供給にも役立つと期待されています。資料は同時に、コスト低減と大量生産に向けたサプライチェーンの構築を課題として挙げています。

鉛は1m2あたり0.5g程度、回収の仕組みは開発段階

資料は、ペロブスカイト太陽電池には鉛が微量、0.5g/m2程度含まれるため、適切な処理と回収が必要としています。リサイクル技術は現在、開発段階で、経済性を加味して実装を検討する必要があるとも書かれています。資料は、軽量で容積が小さい特徴を活かせば、より低コストなリサイクルの仕組みを作れる可能性もあるとしています。回収の仕組みは、これから作る段階です。

まだ残る課題は、耐久性・効率・発電コスト

フィルム型は、湿気・熱・紫外線に弱いのが課題

リコーの解説は、フィルム型は湿気や熱、紫外線の影響を受けやすく、耐久性の向上が課題と書いています。ガラス型は湿気の影響を受けにくく耐久性に優れるとされていて、軽さと耐久性は同時には手に入りにくい関係にあります。NEDOの事業資料では、2029年度の最終目標として、オールペロブスカイトの二接合太陽電池ミニモジュールで、変換効率30%、耐久性20年以上を掲げています。

変換効率27%超は、0.18cm2の小さなセルでの話

NEDOの資料は、単接合セルで変換効率27%超の報告があり、その中で最大のセル面積が0.18cm2だったと記しています。

0.18cm2は、一辺にすると約0.42cm(√0.18)です。4mm角ほどの大きさです。

小さい。とても小さいです。屋根に敷く面積とは、桁がいくつも違います。最初の数値の華やかさと、大きな面積で同じ効率を出せるかどうかは別の問題で、ここが量産の難所だと私は受け取りました。

発電コストは2025年20円、2030年14円が目標

経済産業省の資料には、GI基金の目標コストとして、2025年に20円/kWh、2030年に14円/kWhが示されています。

20円から14円への引き下げ幅は6円で、6÷20=30%です。

2040年に約20GWを導入する目標も、大幅なコスト低減が進んだ場合は約40GW以上を見込むと注記されています。コストが動けば目標も動くという書き方です。電気料金に乗る再エネ賦課金の仕組みは、電気料金の仕組みで説明しています。経済産業省の資料には、2024年度の再エネ賦課金単価が3.49円/kWhと載っており、コストが下がれば国民負担の抑制にもつながる、と整理されています。

設置を考える立場ごとに、いま見ておきたいこと

使う側と、導入を検討する側では、見るべきところが違います。

屋根の耐荷重に悩む自治体・事業者

いま動いている事例は、自治体や高速道路会社など、公共性の高い施設が中心です。屋根の耐荷重、屋根の材質(積水化学の最初の対象は金属屋根)、耐久性の保証や耐用年数の情報、導入コストの4点を、事業者に個別に確認する段階と言えます。

自宅の屋根を考える個人

個人の住宅向けの販売時期について、この記事で参照した資料には記載がありません。家庭の屋根に載せる場合の基本は、いま普及しているシリコン系です。仕組みと費用の見方は、家庭用太陽光発電の仕組みで整理しています。私は賃貸暮らしで屋根そのものを持っていないので、当事者ではありません。それでも、屋根が丈夫でなくても載せられる、という条件が加わるだけで、選べる建物の種類が広がる話だと受け止めています。

ペロブスカイト太陽電池についてよくある誤解

「シリコンより発電効率が高いから注目されている」は誤解

経済産業省の資料で強調されているのは、軽量・柔軟で、これまで設置できなかった場所に置けることです。効率でシリコンを上回るのは、主に研究段階のタンデム型で、フィルム型の価値は場所にあります。

「もう家庭用として買える」は誤解

積水化学の事業開始は2026年3月で、提供先は自治体や事業者、設置対象は金属屋根です。2026年度は限定的な生産で、供給量の拡大は2027年度の100MW規模の生産ラインからとされています。

「鉛が入っているから使えない」と決めるのは早い

鉛は0.5g/m2程度と微量で、資料は適切な処理と回収が必要としています。論点は、含まれているかどうかより、回収の仕組みが整うかどうかです。リサイクル技術は開発段階なので、最新の状況は経済産業省や環境省の情報で確認してください。

ペロブスカイト太陽電池はなぜ軽くて曲がるのか:まとめ

ペロブスカイト太陽電池は、ABX3という結晶構造の材料を発電層に使い、溶液を塗って作ります。最高140℃、実用上は120℃未満で作れるので、プラスチックのフィルムを土台にでき、軽くて曲がる太陽電池になります。重さはシリコン系の約1/10、フィルム型で1m2あたり1.5kgです。

この軽さが価値になるのは、耐荷重の小さい屋根や壁のように、これまで置けなかった場所があるからです。一方で、フィルム型の耐久性、大きな面積での効率、2030年に14円/kWhという発電コスト、鉛の回収は、まだ宿題として残っています。2026年度の積水化学の生産は限定的なので、いま判断に使えるのは、自治体や事業者の導入事例と、各社の公式発表です。本記事は2026年9月時点の情報をもとにしています。最新の内容は各社の公式発表や経済産業省の資料で確認してください。

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2026年10月1日 〜 2026年10月31日
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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。