漫画の原稿用紙に枠が何重もある理由|内枠・塗り足し・トンボの役割と600dpiの数字

漫画の原稿用紙を広げると、青い線で四角が何重にも引かれています。全部が「ここに描いてください」という範囲だと思うと、どの線までコマを伸ばしてよいのか迷います。答えを先に書くと、線ごとに役目が違い、描いた絵が本の中でどこまで見えるかを決めているのは主に3本です。

私は原稿用紙の枠を、いちばん外の線までが描く範囲だと思っていました。確かめてみると、いちばん外側は印刷所が紙を裁つ位置の目印で、読者が本を開いて実際に読む範囲はもっと内側でした。この記事では、2026年11月時点で確かめられた資料をもとに、枠の役目と、デジタル原稿で600dpiが求められる理由を数字で整理します。

  • 内枠は、セリフや大事なコマを収める範囲で、本を開いたときにきちんと読める位置を示す
  • 仕上がり枠は完成した本の大きさで、そこから外側のトンボまでの3〜5mmが塗り足しになる
  • 小学館の新人コミック大賞の要項では、紙の大きさと、実際に漫画を収める版面(横180ミリ・縦270ミリ)が別々に示されている
  • デジタル原稿は600dpi以上・B4原寸のモノクロ2階調が推奨され、画素数は約5,220万になる
目次

漫画の原稿用紙にある線は、描く範囲ではなく役目で分かれています

漫画の原稿用紙に線画を描き込む作業の様子
Photo by Yohann LIBOT on Unsplash

3つの線は「読む・完成する・裁つ」を担当している

セルシスのお絵かき情報サイトは、アナログでもデジタルでも共通する原稿用紙の基本として、内枠(基本枠)、仕上がり枠、塗り足し・外枠・トンボを挙げています。内枠は文字や絵を収めておく範囲、仕上がり枠はできあがる本のサイズ、トンボは仕上がりサイズに裁断するための目印です。

読む位置、完成した本の端、紙を裁つ位置の3つが、同じ原稿用紙の上に重ねて印刷されています。線が多く見えるのは、描く人と、印刷や製本をする人が同じ紙を使うからです。

内枠を「描く範囲」と思い込むと、絵が切れたりセリフが読めなくなったりする

漫画がどう連載として形になるかは漫画の連載の仕組みを解説した記事で書いています。この記事は、その手前にある原稿用紙の約束事です。連載の流れの中でも、原稿は最終的に印刷所で裁たれて本になります。裁つ位置を決めているのが、ここで説明するトンボと外枠です。

セルシスの解説は、同人誌の原稿を前提にしています。商業誌でも考え方は同じですが、数字は雑誌や賞ごとに違います。この点は後の章で小学館の要項を使って確かめます。

内枠・仕上がり枠・外枠は、それぞれ何のためにあるのか

紙をはさみで切る手元。原稿を仕上がりの大きさに裁つ作業のイメージ
Photo by Megan Watson on Unsplash

内枠は、本を開いたときに読める範囲

セルシスの解説によると、内枠の中に文字や絵を収めておくと、本を開いたときに絵や文字をきちんと読むことができます。セリフや重要なコマはすべて内枠に納めるよう意識して描く、というのが基本です。

内枠の外にセリフを置くと、製本の際に切れたり、綴じ位置に近すぎて読みにくくなったりします。内枠は「ここまでなら安全に読める」という線です。

仕上がり枠は、完成した本の大きさ

仕上がり枠は、できあがる本のサイズです。A5の本ならこの枠の内側がA5、B5の本ならB5になります。セルシスの解説は、詳しいサイズは印刷会社のWebサイトで確認するよう案内しています。

読者が手に取る本は、この線で裁たれた状態です。仕上がり枠は印刷所が裁つ位置の基準で、描く側からは「これより外は本に残らない」線として見ます。

塗り足しと外枠とトンボは、裁断のずれを吸収する

トンボは、仕上がりサイズに裁断するための目印です。印刷の予約をするとき、印刷会社から何mm取るかが指定され、一般的には3mm〜5mmとセルシスの解説は書いています。仕上がり枠からトンボの幅までの間が塗り足しで、トンボで裁断される枠がある場合は、これを外枠といいます。

塗り足しは、裁断が少しずれても白い部分が出ないようにするための余白です。紙の端までコマを切る「断ち切り」をするときは、絵を仕上がり枠ぎりぎりで止めず、塗り足しの端まで描いておきます。

父の本棚にあった『ドラゴンボール』の単行本を思い出して、ページの端まで絵が届いているコマを探してみました。断ち切りのコマは、解説の通りなら本には残らない塗り足しの部分まで絵が描かれているはずです。見えない部分まで描く作業が、きれいな断ち切りの前提になっています。

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ノドとノンブルは、綴じ側と本の順番を守るための線です

ノドは、綴じ位置に近い側の読みにくさを避ける目安

ノドとは綴じ位置のことです。セルシスの解説は、絵や文字が綴じ位置に近いと、製本したときに読みにくくなると注意しています。内枠をノド側にも守る理由はここにあります。

日本の漫画の多くは右綴じです。解説では、綴じ位置が右の場合、右側を断ち切りにしても大部分がノドに隠れてしまうと説明しています。効果的なコマ割りとして、外側(左側)の部分を断ち切るとよい、という例も挙げられています。見開きの中で、どの端を使うかまで考える必要があるということです。

ノンブルは4か所から選べ、隠しノンブルは事故のもと

ノンブルはページ数を書いたもので、すべてのページについています。印刷会社にデータを入稿するとき、ノンブルが付いていることが必須条件になると解説されています。表示する場所は内側・外側・中央・隠しノンブルの4種類です。

隠しノンブルは、綴じ位置の近くにノンブルを入れて、できあがった本では見えなくする方法です。ただし、印刷会社に製本を頼むときのミスの原因になり得るため、避けたほうが賢明とされています。どうしても使うなら、トンボの位置に気をつけて調整するよう書かれています。

小学館の募集要項に見る、商業誌向け原稿の大きさ

用紙の大きさと、漫画を収める版面は別の数字になる

公募情報サイトのKouboに掲載された小学館「第97回新人コミック大賞」の要項では、原稿の大きさが用紙幅として横230〜260ミリ、縦330〜370ミリ、まんが版面として横180ミリ、縦270ミリと示されています。用紙より一回り小さい範囲が、漫画を収める版面です。

版面を用紙の中央に置いたとすると、左右の余白は片側で(230−180)÷2=25ミリから(260−180)÷2=40ミリ、上下の余白は片側で(330−270)÷2=30ミリから(370−270)÷2=50ミリです。実際の位置は原稿用紙の印刷によるため、中央に置く前提での目安にすぎません。

先ほどの内枠は、この版面にあたる考え方です。用紙全体ではなく、版面の内側に漫画を収める、と読み替えると要項の数字が理解しやすくなります。

ページ数の目安は、ジャンルで大きく違う

同じ要項では、ストーリーまんがは32ページ前後、ギャグまんがは16ページ前後、4コマまんがは10本以上を原則としています。原稿用紙は1ページにつき1枚が基本なので、ストーリーまんがなら32ページ前後ぶん、同じ大きさの枠の原稿用紙を用意することになります。

2026年11月時点では、小学館の第100回新人コミック大賞の募集が出ており、公募情報サイトの掲載では締切は2027年3月15日(消印有効)です。大きさの数字は、第97回と第100回の掲載で同じでした。

デジタル原稿で600dpiが求められる理由

投稿の指定は、B4原寸・600dpi以上・モノクロ2階調

同じ小学館の要項は、デジタルデータでの応募について、解像度は600dpi以上のB4原稿原寸サイズのモノクロ2階調で、tiffまたはpsd形式で保存することを推奨しています。ほかの形式で応募する場合も、B4原稿サイズ・600dpi以上を求めています。

トンボは不要とも書かれています。同人誌の入稿では印刷所がトンボを裁断の目印に使うので、同じ漫画でも提出先によってトンボの要否が変わります。理由まで要項に書かれてはいないため、ここでは違いがあることだけを押さえてください。

画素数を計算すると、解像度の意味が見える

B4をJIS規格の横257ミリ×縦364ミリとして計算します。1インチは25.4ミリなので、600dpiでは横が257÷25.4×600≒6,071画素、縦が364÷25.4×600≒8,598画素です。掛け合わせると約5,220万画素になります。

モノクロ2階調は1画素を1ビットで持てるので、5,220万画素÷8≒650万バイト、約6.5MBが1ページぶんの無圧縮の目安です。ストーリーまんがの32ページなら6.5MB×32=約209MBになります。

解像度を1200dpiにすると、縦横とも2倍になるので画素数は4倍の約2億900万です。600dpiは1画素が約0.042ミリ(25.4÷600)の大きさにあたります。

2階調には灰色がなく、白か黒かだけで線を表します。CLIP STUDIOの解説は、モノクロにはアンチエイリアス(輪郭をなめらかに見せる処理)の効果がないため、そのぶん画素数が必要になると説明しています。画面で見て十分に細かく見える線でも、印刷では階段状の縁が目立つことがあるからです。

画素数やスキャンした原稿の読み取りに興味があれば、プリンターの仕組みと解像度の関係を書いた記事が参考になります。電子書籍として読む側の仕組みは電子書籍の仕組みの記事に書きました。

表紙は本文と別の計算になります

背幅は、ページ数が増えると太くなる

セルシスの解説では、表紙と裏表紙は基本的に1枚の紙に描きます。単行本や書籍で作品名や著者名が書かれる背の部分が背幅で、20ページの作品なら2mm、40ページなら4mmのように、10ページにつき1mmが目安です。紙の厚さで変わるため、あくまで目安と書かれています。

表紙用原稿の横幅は、本文に使う原稿用紙の2倍に、塗り足しの2か所ぶんと背幅を足したサイズになります。

A5(横148ミリ×縦210ミリ)の32ページの本で、塗り足しを3ミリとすると、背幅は32÷10=3.2ミリ、表紙原稿の横幅は148×2+3×2+3.2=305.2ミリです。縦は210+3×2=216ミリになります。

表紙は本文より大きな紙になります。背幅はページ数と紙の厚さで変わるので、ページ数が決まらないうちは表紙原稿の横幅も決まりません。

描き始める前に確認したい5つの手順

  1. 提出先の規定を読みます。小学館の例のように、用紙の大きさと版面が別の数字で書かれています。
  2. 仕上がりのサイズ(A5・B5など)を決めます。印刷会社に頼む場合は、そのWebサイトの案内に従います。
  3. トンボの幅を確認します。一般的には3mm〜5mmで、印刷会社が指定します。
  4. 綴じ位置が右か左かを確認します。右綴じなら、ノド側に大事なコマを寄せすぎないようにします。
  5. ノンブルの位置を決め、全ページに付けます。入稿の必須条件になる場合があります。

デジタルで描く場合、同人誌印刷所がCLIP STUDIO PAINTやPhotoshopで使えるテンプレートを配布しているとセルシスの解説は紹介しています。サイズや色に合ったものを選んで設定すると、枠の位置を自分で計算する手間が減ります。

規格が一つではないことが、いちばんの注意点です

賞や印刷所ごとに、数字も必要なものも違う

今回確かめられたのは、小学館の要項(版面・用紙幅・解像度)と、セルシスの同人誌向けの解説です。ほかの出版社や印刷所の数字は確かめていません。同じ「B4原稿」と呼ばれていても、枠の位置が違う原稿用紙がありえます。

私が調べた範囲では、小学館の要項の図そのものは文字として取得できず、数字は文章で書かれた部分だけを使っています。図に書かれた細かい寸法は、応募する人が公式の要項で直接確かめてください。

内枠に収めても、ノドに寄せすぎれば読みにくい

内枠の中にセリフを置いておけば絶対に安全、というわけではありません。解説にあるとおり、綴じ位置の近くでは文字が読みにくくなります。右綴じの右側に重要なセリフを置く場合は、内枠の中でも少し余裕を取る必要があります。

隠しノンブルは見た目が整うが、入稿のミスが増える

ノンブルが見えない本は見た目がすっきりします。しかし、解説でも避けたほうが賢明とされているとおり、製本を頼むときのミスの原因になり得ます。印刷所の指示がない限り、普通の位置にノンブルを入れるほうが安全です。

どの規格に合わせて描くかを決める判断基準

目的によって、最初に確認する書類が変わります。自分の状況に近い行を見てください。

目的 最初に確認すること トンボ
新人賞に投稿する 募集要項の用紙幅・版面・ページ数 小学館の要項では不要
同人誌を印刷所に頼む 印刷会社が指定する仕上がりサイズ・トンボの幅 一般的に3〜5mm
表紙を作る 本文のページ数から背幅を出す 本文と同じ塗り足し
※出典:セルシス「同人誌のキホン⑤」、Kouboに掲載された小学館「第97回新人コミック大賞」要項

どの行でも共通するのは、先に提出先か印刷所の指示を読み、自分のソフトの設定をそれに合わせる順番です。設定を先に決めて描き進めると、後から枠を直す作業が1ページずつ発生します。

漫画の原稿用紙に関するよくある誤解

いちばん外側の線まで描けば、絵が全部本に載るのですか

いいえ。外枠やトンボは裁つ位置の目印で、仕上がり枠の外側は製本のときに裁たれます。本に残るのは仕上がり枠の内側で、そのうちセリフなどを安全に読ませる範囲が内枠です。

デジタルなら、解像度は低くても印刷できるのですか

小学館の要項は、B4原寸で600dpi以上のモノクロ2階調を推奨しています。モノクロ2階調では輪郭をなめらかにする処理が働かないため、解像度が低いと線の縁が目立ちます。提出先の指定より低い解像度で描き始めると、後から上げても線は細かくなりません。

トンボは常に必要なのですか

必要かどうかは提出先で変わります。同人誌の印刷所はトンボを裁断の目印に使います。一方、小学館のデジタル応募の要項には「トンボは不要です」と書かれています。入稿前に、規定の文章を一度読んでください。

まとめ:漫画の原稿用紙の枠は、描く人と印刷所の共通言語です

原稿用紙の枠は、内枠が読める範囲、仕上がり枠が完成した本の端、外枠とトンボが裁つ位置、と役目が分かれています。裁断のずれを吸収する塗り足しは、一般的に3〜5mmです。

小学館の要項では、用紙幅と版面が別々に示され、デジタル原稿はB4原寸・600dpi以上・モノクロ2階調が推奨されています。600dpiのB4は約5,220万画素になり、1ページの無圧縮の目安は約6.5MBです。

これから描く人は、描き始める前に提出先か印刷所の規定を読み、仕上がりサイズ・トンボの幅・綴じ位置・ノンブルを決めてください。いちばん内側の内枠にセリフを収めておけば、裁断のずれや製本の都合で読めなくなる事故をかなり減らせます。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。