国際刑事裁判所(ICC)はなぜオランダのハーグにあるのか|ニュルンベルクからの歴史と赤根智子所長のニュース

国際刑事裁判所(ICC)がオランダのハーグにあるのは、ICCを作った条約「ローマ規程」の第3条に、裁判所の所在地は「オランダのハーグ」と書いてあるからです。ただし、条文は「ここに置く」と決めているだけで、「なぜハーグなのか」までは書いていません。そこで、ハーグが100年以上前から国際法の裁判所が集まる街だったことを、各機関の公式資料で順にたどります。

私は恥ずかしながら、ICCと、同じハーグにある国際司法裁判所(ICJ)を、長いあいだ同じものだと思っていました。調べてみると、裁く相手も生まれた時代もまったく違い、同じ街にある別々の機関でした。日本人の赤根智子氏がICCの所長を務めていることが報じられ、ニュースでICCの名前を見かける機会も増えています。この記事は2026年10月時点の公表資料にもとづいて、場所の理由、裁く内容、ニュルンベルク裁判から続く歴史を整理します。

  • ICCの所在地がハーグであることは、ローマ規程の第3条で決まっている
  • ハーグは、1899年の平和会議から国際的な紛争解決の拠点になってきた街
  • ニュルンベルクと東京の裁判は、その場限りで作られた臨時の法廷だった
  • ICCは、個人を裁く歴史上初の常設の国際刑事裁判機関で、2002年に動き出した
目次

ICCがハーグにある根拠はローマ規程の条文

第3条は「ハーグを所在地にする」と決めている

ローマ規程第3条の見出しは「裁判所の所在地」です。英語の原文は「The seat of the Court shall be established at The Hague in the Netherlands」で、続けて、裁判所は受け入れ国であるオランダと本部協定を結ぶ、と書かれています。つまり、ICCがハーグにある理由は、慣習でも偶然でもなく、条約の文面にあります。

「ほかの場所で開いてもよい」という例外もある

同じ第3条には、「The Court may sit elsewhere, whenever it considers it desirable」、つまり必要だと考えるときはほかの場所で開廷できるという趣旨の文もあります。所在地はハーグですが、法廷をハーグの外で開く道が条文のうえでは残されています。

条文が書いていないこと

ここで一つ、はっきり書いておきます。私が確認できた範囲では、ローマ規程の条文も外務省の資料も、「ハーグが選ばれた理由」までは説明していません。以降の話は、ハーグにあるほかの国際機関の歴史という事実を並べたもので、「だからハーグに決まった」と断定するものではありません。

ICCは国家ではなく個人を裁く裁判所

ICCは国家ではなく個人を裁く裁判所|木製の裁判官用ガベルと台
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裁く対象は4つの重大な犯罪

外務省の資料によると、ICCは「国際社会全体の関心事である最も重大な犯罪(集団殺害犯罪、人道に対する犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪)を犯した個人」を、国際法にもとづいて訴追・処罰するための、歴史上初の常設の国際刑事裁判機関です。国と国の争いを裁くのではなく、個人の責任を問う点が大きな特徴です。

各国の裁判所を補う「補完性の原則」

ICCは、すぐに何でも裁く裁判所ではありません。外務省は、ICCが各国の国内刑事司法制度を補完するものであり、関係国に捜査・訴追を真に行う能力や意思がない場合にのみ管轄権が認められる、と説明しています。まず各国が裁き、それができないときの最後の備えという位置づけです。

事件が持ち込まれる3つの入口

管轄権を使う入り口は、外務省の資料で3つ示されています。締約国が事態をICC検察官に付託する場合、国連の安全保障理事会が国連憲章第7章にもとづいて付託する場合、検察官が予審裁判部の許可を得て捜査を始める場合です。安保理がからむ仕組みについては、国連の6つの主要機関と安保理の構造を解説した記事も参考になります。

ICC(国際刑事裁判所)と国際司法裁判所(ICJ)の違いを説明できますか?

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ハーグは100年以上前から国際法の街だった

ハーグは100年以上前から国際法の街だった|赤レンガの平和宮
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1899年のハーグ平和会議

国際司法裁判所(ICJ)の公式サイトの歴史ページによると、1899年のハーグ平和会議は、ロシア皇帝ニコライ2世の発案で開かれました。この会議で、国どうしの争いを仲裁で解決するための常設の仕組み、常設仲裁裁判所(PCA)が作られることになります。ハーグの名前が、国際的な紛争解決の場所として最初に出てくる場面です。

1913年の平和宮と、受け継がれた建物

常設仲裁裁判所は1913年に、アンドリュー・カーネギーの寄付で建てられた平和宮に入りました。平和宮図書館の解説も、この建物が1899年の会議で設けられた常設仲裁裁判所の本拠として建てられたと書いています。会議から数えて14年後の入居です。

計算:1913−1899=14年(会議から平和宮の入居までの年数)

1922年の常設国際司法裁判所、1946年のICJ

国際連盟のもとで作られた常設国際司法裁判所(PCIJ)も、平和宮で準備会期を1922年1月30日に始め、同年2月15日に最初の開廷をしました。1922年から1940年までに、国どうしの争いを扱い、勧告的意見も出しています。1946年にPCIJは解散し、国際連合のもとでICJが引き継ぎました。ICJも、前身と同じく平和宮に所在地を置くとされています。

私が混同していたICJは、この流れの先にあります。国と国の争いを扱ってきた裁判所が平和宮に集まる街に、1998年になって個人を裁くICCの所在地が条約で定められた、という順番です。

ニュルンベルクと東京は臨時の法廷だった

ニュルンベルク国際軍事裁判

米国ホロコースト記念博物館の解説によると、1945年8月にイギリス、フランス、ソ連、アメリカの4か国がロンドン協定と国際軍事裁判所憲章に調印しました。ドイツのニュルンベルクで、22人の指導的な立場にあったドイツ高官の裁判が1945年11月20日に始まり、1946年10月1日に19人が有罪、3人が無罪の判決を受けました。有罪のうち12人は死刑を宣告されています。

計算:1945年11月20日から1946年10月1日まで=315日(日付の差を数えた日数)

極東国際軍事裁判(東京裁判)

外務省の資料では、極東国際軍事裁判は1946年5月3日に開廷し、1948年11月12日に刑が宣告されました。起訴された被告は合計28名で、裁判官は11か国から1名ずつの合計11名でした。裁判所の条例は、ニュルンベルク裁判のための条例をモデルにしたとされています。管轄は「平和に対する罪」「通例の戦争犯罪」「人道に対する罪」でした。

第二次世界大戦後の国際秩序には、この裁判のほかに、国連憲章に残る旧敵国条項のような条文もあります。関心のある方は旧敵国条項の仕組みを解説した記事も読んでみてください。

どちらも「その事件のために作った」法廷

この2つの裁判には共通点があります。どちらも、特定の戦争の戦犯を裁くために戦勝国が作った法廷で、役目を終えれば閉じるものでした。外務省がICCを「歴史上初の常設の国際刑事裁判機関」と呼ぶのは、この「臨時」との対比があるからです。

臨時の法廷が続き、常設を求める声が高まった

1993年と1994年、安保理が作った2つの特別法廷

京都大学法学部の講義資料によると、旧ユーゴスラビアの国際刑事裁判所(ICTY)は1993年の安保理決議827で、ルワンダ国際刑事裁判所(ICTR)は1994年の決議955で、それぞれ設立されました。冷戦が終わってから、特定の国や地域で起きた国際犯罪を裁くための特別な法廷が、国連安保理の決議で作られたことになります。

ICTYの仕事を受け継いだのもハーグ

後継の組織である国際残余メカニズム(IRMCT)は、公式サイトによると、2012年7月1日にタンザニアのアルーシャで、2013年7月1日にオランダのハーグで活動を始めました。アルーシャの拠点がICTRの、ハーグの拠点がICTYの機能を引き継いでいます。ここでもハーグが、国際刑事裁判の拠点として使われています。

1998年に採択、2002年に発効した常設の裁判所

外務省の資料では、ICCの設立条約であるローマ規程は1998年に採択され、2002年7月1日に発効しました。日本については2007年10月1日に発効しています。ICCが扱えるのは、規程が発効した2002年7月1日以降に行われた犯罪に限られます。

計算:2002−1946=56年(ニュルンベルク判決の年から、ICC発効の年までの年数)、2002−1899=103年(ハーグ平和会議の年から、ICC発効の年まで)

ニュルンベルクの判決から、常設の裁判所が動き出すまで、56年かかったことになります。私はこの数字を計算して、国際社会が「いつか常設の裁判所を」と思い続けた時間の長さに少し驚きました。

ニュースで見る赤根智子所長とICC

日本とICCの関わり

日本は2007年にICCの締約国になっています。日本経済新聞の報道によると、ICCの赤根智子所長は日本記者クラブを通じたオンライン会見で、トランプ米政権に制裁対象に指定されたことについて「正義は常にその対極にあるものに優越する。信念を貫く」と語り、制裁後も訴追の手続きを進める考えを示しました。制裁の是非はここでは論じません。確認しておきたいのは、ICCの所長を日本人が務めているという事実です。

「ハーグ」という地名がニュースに出る理由

ニュースで「ハーグ」と聞いたとき、それがICCの話なのか、ICJの話なのか、迷う人は多いはずです。ICCは個人の刑事責任を問う裁判所、ICJは国どうしの争いを扱う裁判所で、同じ街に別々にあります。見出しにある機関の名前を確かめるだけで、「誰を裁く話か」がわかります。

ICCの限界と注意点

締約国の数と管轄の条件

外務省の2022年8月時点の資料では、締約国は123か国・地域です。世界の全部の国が入っているわけではありません。管轄権を使うには、犯罪の実行地国が締約国であること、被疑者が締約国の国籍を持つこと、あるいは非締約国が管轄権を受け入れていることのどれかが前提になります。例外が、安保理が付託する場合です。数字は変わる可能性があるため、最新は外務省やICCの公式サイトで確認してください。

逮捕や証拠の提出は各国の協力が前提

外務省の資料の図では、締約国には捜査・訴追への協力義務があり、逮捕・引渡しや証拠の提出などで協力する形になっています。裁判所そのものが強制的に動くのではなく、各国の協力が前提の仕組みです。

ニュースを読むときの判断のしかた

3つの質問で整理する

ICCやハーグの話題に出会ったら、次の3つを確かめると、情報が整理しやすくなります。

  • どの機関の話か:ICC(個人を裁く)か、ICJ(国どうしの争い)か
  • 何の罪の話か:集団殺害、人道に対する罪、戦争犯罪、侵略犯罪のどれか
  • 管轄の入口はどれか:締約国の付託、安保理の付託、検察官の捜査のどれか

政治や軍事に関わる話題では、どの国や人に正当性があるかは、この記事では扱いません。最新の情勢は、外務省などの公的機関や報道で確認してください。

よくある誤解

ICCとICJは同じ裁判所?

同じではありません。外務省の資料によると、ICCは重大な犯罪を犯した個人を裁く機関です。一方、ICJの前身である常設国際司法裁判所は、1922年から1940年にかけて国どうしの争いを扱いました。どちらもハーグにありますが、役目は別です。

ICCは東京裁判やニュルンベルク裁判の続き?

続きではありません。東京裁判は日本、ニュルンベルク裁判はドイツの戦争犯罪を裁くために作られた法廷で、ICCは外務省が「歴史上初の常設の国際刑事裁判機関」と説明する別の存在です。ただし、東京の裁判所条例はニュルンベルクの条例をモデルにしており、国際刑事裁判の考え方のつながりはあります。

ICCは世界のどこで起きた犯罪でも裁ける?

裁けません。裁けるのは2002年7月1日以降の犯罪で、しかも各国が裁かないときに限られ、締約国との関係などの条件があります。

まとめ:ICCとハーグの関係を判断材料に整理する

国際刑事裁判所(ICC)がハーグにあるのは、ローマ規程第3条が所在地を「オランダのハーグ」と定めているからです。そのうえで、ハーグには1899年の平和会議、1913年の平和宮、1922年のPCIJ、1946年のICJという、国際的な裁判を担う機関が重なってきた歴史があります。ただし、ハーグが選ばれた理由を明言した資料は、私は確認できていません。

ニュースでICCの名前を見たときは、個人を裁く機関であること、まず各国が裁いてICCは補うこと、締約国の協力が前提であることの3つを思い出すと、話の位置が見えてきます。この記事の内容は2026年10月時点のものです。最新の状況は、外務省やICCの公式サイトで確認してください。

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📚 参考文献・出典

📖 この記事について 本記事は、国際法や裁判の制度の“仕組み”と歴史を知る面白さをお届けするための読み物です。個別の法的判断を示すものではなく、制度や締約国の数は変わることがあります。最新の情報は外務省やICCの公式サイトでご確認ください。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。