コーヒーの2050年問題とは|栽培適地半減の仕組みと代替コーヒー飲料が増えるわけ

「コーヒーの2050年問題」という言葉を、2026年9月にコーヒー豆を使わない新しい飲料のニュースで見かけた方も多いのではないでしょうか。ジョージア カフェウォーター ブラック、ダイドー グッドラテ2050——コーヒー豆や香料をほとんど使わずにコーヒーの味わいを再現した飲料が、同じ時期に複数のメーカーから発売されました。私はコーヒー派で、自宅では毎朝ハンドドリップで豆を挽いてから淹れています。だからこそ、コーヒー豆を使わない「コーヒー」という発想には、最初は戸惑いました。ですが背景を調べていくと、これは目新しさをねらった一過性の商品ラッシュではなく、気候変動によるコーヒー豆の供給リスクに、複数の大手企業が同時に備え始めたことの表れだとわかりました。

  • 「コーヒー2050年問題」は、2050年ごろまでにコーヒー栽培に適した土地が今より減ると予測されていること
  • 2025年のコーヒー豆価格はすでに過去35年間で最も高い水準まで上がっていること
  • コカ・コーラとダイドードリンコが、コーヒー豆を使わない飲料を2026年9月から10月にかけて発売したこと
  • 代替コーヒー飲料は「安易な代用品」ではなく、供給リスクに備えた新しい商品カテゴリーであること
目次

「コーヒーの2050年問題」とは何か

まず言葉の意味を整理します。「コーヒー2050年問題」とは、気候変動の影響で、2050年ごろまでにコーヒー栽培に適した土地が現在より減っていくという、気候科学の分析にもとづく懸念のことです。2050年という数字を最初に示したのは、2015年に学術誌PLOS ONEに発表された、気候変動とアラビカ種コーヒーの栽培適地の関係を分析した論文です(参考文献1)。分析の対象は世界のコーヒー流通量の大部分を占めるアラビカ種で、気温が上がるほど栽培に適した土地が減っていくと報告されています。

2050年に何が半分になると言われているのか

「コーヒーが飲めなくなる」という強い言い方で紹介されることもありますが、正確には「今と同じ場所で、今と同じようには育てにくくなる」という予測です。アラビカ種は本来、涼しい高地でなければ育ちにくい、栽培条件の幅が狭い作物です。焙煎前の生豆がどのように育ち、どんな化学変化を経て私たちの知るコーヒーの香りになるかはコーヒー焙煎の仕組みでも触れていますが、その前段階である栽培そのものが、気温の変化にとても敏感なのです。

世界のコーヒー消費量はむしろ増え続けている

栽培に適した土地が減る一方で、世界のコーヒー消費は増加傾向が続いています。国内では、全日本コーヒー協会が2025年5月に公表した「コーヒー需要動向調査2024年度」によると、日本人の1週間当たりの平均飲用杯数は2024年時点で10.05杯でした(参考文献2)。2022年の10.60杯からはやや減少していますが、それでも1日1杯を超えるペースです。

供給が減る方向、需要が増える方向という、逆向きの2つの力が同時に働いているのが「2050年問題」の本質です。ただし同じ調査で私が意外だったのは、生活者の受け止め方です。「2050年にコーヒーの生産量は減っていると思う」と答えた人は45.9%でしたが、「増えていると思う」と答えた人も7.0%おり、「わからない」も30.6%ありました(参考文献2)。多くの人が漠然とした不安を持ちながらも、具体的な数字までは知らないというのが実態のようです。

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なぜ栽培に適した土地が減るのか|アラビカ種と気温の関係

アラビカ種は高温や乾燥に弱く、涼しい高地でしか安定して育たないという栽培条件の狭さを持つ作物です。気温が上がると、これまで栽培に適していた標高でも暑くなりすぎてしまい、より涼しい高地へと産地そのものが「引っ越す」必要が出てきます。ただし高地には限りがあり、すべての産地が同じように引っ越せるわけではありません。もともと平地に近い場所で栽培していた産地ほど、逃げ場が少なくなります。

「コーヒー2050年問題」が価格と商品開発につながる流れ

気温上昇
→
アラビカ種の適地縮小
→
干ばつ・霜・大雨による不作
→
国際価格の高騰
→
代替コーヒー飲料の開発

気温が上がると、なぜ「高地への引っ越し」が必要になるのか

コーヒーの木は、暑すぎると花や実の付き方が乱れ、病害虫の被害も受けやすくなります。産地が高地へ移動できればある程度は適応できますが、山の面積には限りがあるため、無限に「上」へ逃げ続けることはできません。低地に広がっていた産地ほど、選べる高地が近くに残っていないという問題に直面します。

被害には地域ごとの偏りがある

コーヒーの産地で起きる異常な高温や干ばつには、エルニーニョ現象のような大規模な海洋・大気の変動も関係しています。海水温の変化がどのように陸上の天候へ影響するかはエルニーニョ現象はどうやって日本の気候に影響するのかでも取り上げていますが、同じような大規模な気候の変動が、世界のコーヒー産地の天候にも影響を及ぼしています。実際に何が起きているかは、次の章で具体的な数字とともに見ていきます。

すでに始まっている異変|2025年のコーヒー価格は過去35年で最高値

すでに始まっている異変|2025年のコーヒー価格は過去35年で最高値
Photo by Clint McKoy on Unsplash

気候変動の影響は、すでに国際価格に表れています。気象データ会社のウェザーニューズによると、2025年上半期(1月〜5月)のコーヒー豆の平均価格は過去35年間で最も高い水準に達し、アラビカ種は1キログラムあたり8.64ドル、ロブスタ種は5.52ドルでした(参考文献3)。2025年2月には、アラビカ種の国際価格が1ポンドあたり400セントを超え、史上最高値を更新しています。

この2つの数字を割ってみると、アラビカ種はロブスタ種のおよそ1.57倍の価格でした(8.64÷5.52≒1.57)。同じコーヒー豆でも、種類によって価格の上がり方に差があることがわかります。

ブラジル・ベトナム・インドネシアで何が起きたか

国連食糧農業機関(FAO)の報告によると、世界最大のコーヒー生産国であるブラジルは、2021年の干ばつと霜害でアラビカ種の生産が大きく落ち込み、2023〜24年も前年比1.6%の減産でした(参考文献3)。ロブスタ種の最大生産国であるベトナムは、2023〜24年の生産量が前年比20%減少し、輸出も2年連続で減っています。インドネシアも過剰な降雨でコーヒーチェリーが傷み、生産量は前年比16.5%減、輸出は23%減でした。干ばつ、霜、高温、大雨という異なるタイプの異常気象が、同じ時期に複数の主要産地で重なったことが、国際価格を押し上げた直接の原因です。

なぜ価格は生産量の落ち込み以上に跳ね上がるのか

ここで私が調べていて意外だったことがあります。ベトナムの生産量が20%減ったからといって、価格が20%だけ上がるとは限らないという点です。コーヒー豆は先物市場でも取引される商品で、実際の収穫量だけでなく「この先どれくらい不足しそうか」という見通しまで価格に織り込まれます。在庫が薄い状態で複数の産地の不作が重なると、買い手側が先回りして確保しようとする動きが強まり、需給の実際のギャップ以上に価格が動きやすくなるのです。

なぜ大手飲料メーカーが同時に「コーヒー豆を使わない飲料」を出すのか

なぜ大手飲料メーカーが同時に「コーヒー豆を使わない飲料」を出すのか
Photo by Ji Seongkwang on Unsplash

2026年9月時点で、コーヒー豆を使わない飲料の発売が相次いでいます。日本コカ・コーラは2026年9月21日、コーヒー豆を使わずにコーヒーの味わいを再現した「ジョージア カフェウォーター ブラック」を発売しました(参考文献4)。500mlペットボトルで価格は149円(税別)、カフェインは100mlあたり20mg含まれています。開発期間は約2年でした。

ジョージア カフェウォーター ブラック|豆でも代替農産物でもない発想

この商品の原材料は、食物繊維(難消化性デキストリン)、香料、カラメル色素、クエン酸カリウム、酸味料、カフェインです。大麦やひよこ豆といった代替農産物すら使わず、香りの組み合わせでコーヒーらしさを再現している点が特徴です。エネルギーは0kcalで、炭水化物は0.5g、食塩相当量は0.04gとなっています。

ダイドー グッドラテ2050|ひよこ豆とチコリで香ばしさを再現

ダイドードリンコも2026年10月5日、「コーヒー2050年問題」を見据えて開発した「ダイドー グッドラテ2050」を、自動販売機向けに数量限定で発売します(参考文献5)。260gのボトル缶で価格は200円(税抜)、100gあたり26kcalです。原材料はひよこ豆とチコリで、国産牛乳と北海道産生クリームを合わせてなめらかな味わいに仕上げているとのことです。

量あたりの価格を計算すると、ジョージア カフェウォーター ブラックは100mlあたり約29.8円(149÷500×100≒29.8)、ダイドー グッドラテ2050は100gあたり約76.9円(200÷260×100≒76.9)になります。計算してみて、少し驚きました。同じ「コーヒー2050年問題」への対応でも、価格の設計はまったく違います。乳原料を使うグッドラテ2050の方が、量あたりの単価は高くなっています。

なぜ複数の企業が同じタイミングで動いたのか

これは飲料メーカー側の事情を考えると分かりやすくなります。コーヒー豆の調達リスクが高まっている今、豆を使わない新しい商品カテゴリーを先に確立できれば、将来さらに豆の価格が上がったときの調達リスクを避けながら、新しい売り場と顧客を確保できます。逆に様子見をしている間に他社が「コーヒー豆を使わない定番飲料」という立ち位置を確立してしまうと、後から参入するのは難しくなります。飲料メーカーやその棚を管理する小売にとって、複数の大手が同じ時期に動いたのは偶然の流行ではなく、供給リスクという共通の課題に対する先回りの投資だと見るのが自然です。

代替コーヒーは「コーヒーの偽物」なのか|天然素材という考え方

「コーヒー豆を使っていないなら、それはもうコーヒーではないのでは」と感じる方もいると思います。ただ実際の原材料を見ると、香料や着色料だけで無理やり味を似せているわけではありません。ダイドー グッドラテ2050が使うひよこ豆とチコリは、ヨーロッパで昔からコーヒーの代替原料として使われてきた植物です。「無添加なら安全」「香料が入っていたら不自然」という単純な線引きが必ずしも成り立たないことは、食品添加物と天然素材の違いでも取り上げた通りです。原材料の由来と、体への影響や味の再現方法は、それぞれ別に確認する必要があります。

カフェインの量は商品によって違う

「コーヒーの代わり」と聞くとカフェインもゼロだと思われがちですが、そうとは限りません。ジョージア カフェウォーター ブラックには100mlあたり20mgのカフェインが含まれています。カフェインを避けたい人がこうした飲料を選ぶ場合は、原材料表示でカフェインの量まで確認する必要があります。

代替コーヒーを試すなら確認しておきたい2点

代替コーヒーを試すなら確認しておきたい2点
Photo by Karl Fredrickson on Unsplash

普段からコーヒーを飲む方にとっては、味の好みや価格が代替コーヒーを試すかどうかの分かれ目になります。逆に、カフェインを控えたい方や、コーヒー豆の調達動向そのものに関心がある方にとっては、味以外の理由でこうした商品を選ぶ価値があります。

値段はどう考えればよいか

ジョージア カフェウォーター ブラックの149円という価格は、既存のペットボトル飲料と近い価格帯で設定されています。一方でダイドー グッドラテ2050は自動販売機向けの数量限定商品で、乳原料を使う分、量あたりの単価は前の章で計算した通りやや高めです。値段だけで比べるのではなく、何を求めて選ぶ商品なのかを先に決めておくと選びやすくなります。

味の再現度はどう確認すればよいか

味の感じ方は人によって差があるため、実際にどう感じるかは飲んだ人それぞれの判断になります。各社は原材料や開発の狙いを公式に説明していますので、購入前にパッケージや公式サイトの説明を確認しておくと、期待とのずれが少なくなります。

よくある誤解

「コーヒー2050年問題」と代替コーヒー飲料について、誤解されやすい点を整理します。

「コーヒー2050年問題」は、コーヒーが飲めなくなるという意味ですか?

いいえ。研究が示しているのは、2050年ごろまでにアラビカ種の栽培に適した土地が現在より減っていくという予測であり、コーヒーがゼロになるという意味ではありません。地域によっては高地への移動によって適地が保たれる場所もあります。

代替コーヒー飲料は、カフェインが入っていないのですか?

商品によります。ジョージア カフェウォーター ブラックには100mlあたり20mgのカフェインが含まれており、ゼロではありません。カフェインの有無や量は、商品ごとに原材料表示で確認する必要があります。

コーヒー豆の値段が上がっているのは、天候不順だけが原因ですか?

天候による生産量の減少に加えて、国際商品市場での取引の動きも価格を押し上げています。ベトナムの生産量減少が20%であっても、価格の上がり方がそれ以上になることがあるのはこのためです。

代替コーヒーが広がることの注意点

代替コーヒー飲料には期待できる面がある一方で、注意しておきたい点もあります。

開発体力のある大手企業しか参入しにくい

ジョージア カフェウォーター ブラックの開発には約2年かかっています。新しい香りの組み合わせや原材料の配合を一から作る開発投資は、体力のある大手企業でなければ負担しきれません。価格競争が働きにくく、当面は限られた企業の商品が中心になりそうです。

「コーヒーじゃない」への心理的な抵抗がある

コーヒー豆を使わない飲料に対して、名前だけ借りた代用品のような印象を持つ人も少なくないはずです。各社にとっては、味の再現度だけでなく、こうした心理的な抵抗をどう乗り越えるかもブランドづくりの課題になります。

産地の高地シフトから取り残される生産者もいる

栽培地が高地へ移っていくとしても、そこに土地や設備を持たない小規模な農家は簡単には移動できません。産地全体としては適地が残っても、個々の生産者の生活が守られるとは限らない点は、供給側の課題として残ります。

選び方の判断基準|どんな人に代替コーヒーが向いているか

ここまでの内容を、選ぶときの判断材料として整理しておきます。

タイプ コーヒー豆の使用 カフェイン 向いている人
通常のレギュラーコーヒー 使用する 含む 豆の香りや味を重視する人
カフェインレスコーヒー 使用する(処理済み) ほぼ含まない 豆の味は欲しいがカフェインは控えたい人
代替コーヒー飲料 使用しない 商品により異なる(例:20mg/100ml) 供給リスクや新しい味に関心がある人
※カフェイン量は商品例(ジョージア カフェウォーター ブラック)の数値。商品ごとに原材料表示で確認してください。

普段のコーヒーの味を大事にしたい方は、無理に切り替える必要はありません。一方で、カフェインを控えたい方や、コーヒー豆の供給リスクという話題そのものに関心がある方にとっては、代替コーヒー飲料は試してみる価値のある選択肢です。

まとめ:コーヒーの2050年問題とどう付き合うか

「コーヒー2050年問題」は、2050年ごろまでにアラビカ種の栽培に適した土地が今より減っていくという予測であり、コーヒーが完全になくなるという話ではありません。ただし2025年のコーヒー豆価格がすでに過去35年間で最も高い水準まで上がっていることからも分かるように、供給リスクは遠い未来の話ではなく、すでに現在進行形の問題です。

ジョージア カフェウォーター ブラックやダイドー グッドラテ2050といった代替コーヒー飲料は、こうしたリスクに対する飲料メーカー側の先回りの対応です。読者にとっては、味や価格の好みで選ぶだけでなく、こうした背景を知ったうえで棚に並ぶ新商品を見ると、見え方が変わってくるのではないでしょうか。

私自身は、当面は自宅のハンドドリップを続けるつもりです。ただ、コーヒー豆の値段がこの先どう動くかは、次に豆を買うときに少し気にして見ていこうと思っています。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。