北海道斜里町のサケ漁で、今年はサケよりもシイラのほうが多く網に入る日がありました。2026年10月15日にテレビ朝日系(ANN)で放送されたニュースによると、斜里町のサケの漁獲量は去年の半分で、日によっては10分の1ほどに落ち込んでいます。14日の漁では、フグも大量に揚がりました。シイラはハワイで「マヒマヒ」と呼ばれる高級魚ですが、日本では安く取引されているそうです。
この記事では、サケ不漁とシイラ・フグの大漁が同じ海水温の話なのかを、北海道立総合研究機構(道総研)や富山県の研究機関の資料で確かめます。水温が関わっている点は共通です。ただ、サケが減る理由とシイラ・フグが増える理由は、資料を読むかぎり別の仕組みでした。
- サケの来遊数は2025年に686万尾まで減り、平成以降で最も少ない水準になった
- サケ稚魚の適水温は8〜13℃で、2025年6月の噴火湾の表層水温は13〜14℃だった
- シイラは暖水性の魚で、富山県では7月の水温と漁獲量に正の相関がある
- 北海道のフグ類はマフグが中心で、2019年から2022年まで漁獲量が全国1位だった
シイラがサケの代わりに揚がるのは入れ替わりではない
斜里町の網で起きていること
ニュースで話をしていた漁業者の伊藤正吉代表は、12日の様子を「サケの量よりもシイラのほうが多い」と話しています。サケを獲るための網に、サケより多くシイラが入る。それだけで、海の中の顔ぶれが変わったことが伝わります。
見出しにあった「代わって」という言葉を読んで、私は最初、サケがいなくなった席にシイラが座ったのだと理解していました。この見方が半分ほど間違っていたことは、記事の後半で整理します。
サケの定置網は来た魚を揚げる漁具
道総研の資料では、サケの定置網漁業が、ふ化放流事業とともに「存続の危機」にあると書かれています。定置網は大型の網を固定して仕掛ける漁で、魚を追いかけるのではなく、泳いできた魚が入るのを待ちます。報道からは斜里町の網の種類までは分かりませんが、網が固定されているなら、サケが来なければ別の魚が揚がります。揚がる魚は、その時期にその場所を泳いでいた魚の写し絵です。
サケの来遊数は2025年に平成以降の最低になった
686万尾は前年の39%
道総研が2026年6月24日に公表した資料では、2025年の北海道全体の秋サケ来遊数(沿岸での漁獲数と河川での捕獲数の合計)は686万尾で、前年比39%でした。平成以降で最も低い水準です。予測に対する実績は60%にとどまりました。
年齢別に見ると、主力の4年魚が432万尾で前年比34%、3年魚は49万尾で過去最低でした。予測の6割しか届かず、しかも若い年齢の魚ほど少ない。サケの減り方は、一時の不調というより、世代ごとに続いているように見えます。
2026年の予測は365万尾
同じ資料で、令和8年(2026年)の全道への来遊数は365万尾と予測されています。
計算:365万尾 ÷ 686万尾 ≒ 0.53。2025年の約53%で、差は 686万 − 365万 = 321万尾です。
2025年の時点でも前年の39%だったサケが、さらに半分近くまで減る見込みです。斜里町の「去年の半分」という実感は、この予測と大きくずれていません。
予測が当たりにくくなった理由
道総研の資料は、近年サケの成熟年齢が急速に下がる「若齢化」が進み、そのせいで予測の精度が低下していると説明しています。何年で川に戻るかが変わると、前の年の数から次の年を計算する従来の方法がずれます。数字だけでなく、サケの育ち方そのものが変わっていることを示す記述です。
ニュースで魚の漁獲が変わったと知ったとき、原因をどう考えますか?
- 海水温の変化だと考える
- 漁のやり方の問題だと考える
- 自然の周期だと考える
- 考えたことがなかった
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サケ不漁の手がかりは稚魚が海に出た直後にある
川から海に出た直後が一番多く死ぬ
道総研の別の資料によると、サケは川から海に向かった直後の沿岸域で、水温の変化・餌の不足・ほかの生物による捕食などによって、一生のなかで最も多く死ぬと考えられています。成魚になって戻ってくる数は、この数か月でかなり決まるということです。
私は新潟の長岡育ちで、サケといえば川に戻ってくる魚という印象でした。減っているのは戻ってくる親ではなく、数年前に海へ出た稚魚の世代だと気づいたのは、この資料を読んでからです。
適水温8〜13℃に対して噴火湾は13〜14℃
道総研は2025年6月上旬、北海道大学の練習船の協力を得て、噴火湾から胆振沿岸でサケ稚魚を調べました。噴火湾内7地点のトロール網ではサケ稚魚が1匹も採れず、夜間に集魚ライトで船の周りへ寄せてたも網ですくい、最終的に約60匹を採集しています。
測った表層水温は、噴火湾内で13〜14℃でした。サケ稚魚の適水温は8〜13℃とされているので、範囲を超えています。一方、東側の胆振の白老沿岸は11〜12℃で、適水温に収まっていました。餌になる動物プランクトンも、白老沿岸のほうがずっと多く、稚魚が好む大型の冷水性の種類が中心でした。
13〜14℃。上限の13℃を超えたのは、わずかに見えます。それでも資料は、6月上旬の噴火湾内は稚魚にとって「厳しい環境」で、より東の胆振沿岸にいるほうが生き残りやすい可能性があると書いています。1か所の調査で原因が確定したわけではなく、「可能性」にとどまる点も、資料に書かれたとおりです。
道南の調査と斜里町は別の海
この調査が見たのは、渡島・胆振管内から放流された稚魚です。太平洋側の道南の海で、2025年6月の1回きりの結果にあたります。斜里町は北海道の北東側、オホーツク海に面しています。道南の稚魚調査の結果を、斜里町の不漁の説明にそのまま使うことはできません。確かめられたのは、サケ稚魚の生き残りが水温と餌に左右される可能性がある、という一般的な構図までです。
シイラは暖かい海を好み水温と漁獲量が連動する
富山県では2023年に2,452トンと過去最多
富山県農林水産総合技術センター水産研究所の資料では、富山県のシイラの漁獲量は増加傾向にあり、2023年は過去最多の2,452トンでした。漁期は主に8月から12月で、最も多く獲れるのは10月です。資料はシイラを暖水性の魚と位置づけ、日本近海の水温上昇でシイラの回遊経路や資源状況が変わっている可能性を挙げています。斜里町で10月に揚がったシイラも、この時期の暖かい海を回遊してきた魚と考えるのが自然です。
7月の水温と漁獲量の相関はR=0.69
同じ資料で、2003年から2023年の日本海北部の7月(水深10m)の水温と、富山県の8月から12月のシイラ漁獲量の関係が調べられています。結果は有意な正の相関(R=0.69)で、豊漁だった2021年は7月の海面水温が非常に高くなっていました。
計算:相関係数0.69を二乗すると 0.69 × 0.69 ≒ 0.48。年ごとの漁獲量のばらつきのうち、約半分が7月の水温の高低と連動している計算です。
残りの半分は水温以外の要因です。資料自身も、水温と漁獲量の関係のメカニズムはこれから考察する段階で、対馬暖流の勢力など他の要素との関係も検討が必要だと書いています。相関があることと、水温が原因であることは同じではありません。
北海道の増加は富山の研究では測られていない
もう一つ注意が要ります。この研究が調べたのは富山湾です。斜里町で今年シイラが増えた理由を、富山のR=0.69で説明することはできません。参考にできるのは、暖かい年ほどシイラが多く獲れる地域が実際にあり、その関係が統計で確かめられている、という点までです。
北海道のフグは2019年から2022年まで全国1位だった
増えているのはマフグ
道総研中央水産試験場の資料によると、北海道のフグ類の漁獲量は2016年ごろから増え、2019年から2022年は全国1位でした。2021年は全国6,172トンのうち、北海道だけで1,990トンで、全国の約30%です。日本海とオホーツク海の主な5漁協で調べると、トラフグの割合はどこも1%以下でした。購入して種を調べた1,173個体は、すべてマフグでした。
40年前の報告にも「圧倒的にマフグ」
資料には、1983年に山口県の水産試験場が北海道で行った調査の記述も引かれています。そこでも「圧倒的にマフグが多い」とされていました。マフグは新顔ではなく、もともと北海道の海にいた魚です。変わったのは種類ではなく量ということになります。
広い海を動くため増減の原因は絞れない
山口県沖で標識をつけて放流されたマフグが、北海道や岩手県で見つかった例が報告されています。オホーツク海では11月下旬にフグの漁獲が急に減り、冬は別の海域へ移動している可能性もあります。資料は、成長や回遊などの基礎的な知見がまだ足りないと書いています。
NHKは10月13日、日本海側の小平町で、マフグによるとみられる養殖ホタテの被害が出ており、海水温の上昇が影響しているとみられると伝えました。養殖は網やかごの中で魚介類を育てるため、広く泳ぎ回る魚が入り込むと影響が出ます。斜里町で今回揚がったフグがマフグかどうかは、報道だけでは確認できませんでした。
同じ海水温でも魚によって効く季節と場所が違う
サケは春の稚魚期、シイラは夏の水温
ここまでの資料を並べると、水温が効く時期が魚ごとに違うことが見えてきます。サケで問題になっていたのは、稚魚が海に出る春から6月の水温です。シイラは、富山の研究では7月の水温と、その年の8〜12月の漁獲量が結びついていました。マフグは、日本海で6〜7月、オホーツク海で10〜11月に多く獲れます。
水温が上がると、冷たい水を好むサケの稚魚は適水温を外れ、暖かい水を好むシイラやフグは北へ来やすくなる。方向が逆の反応が、同じ海で同時に起きている可能性があります。ただし、斜里町の今年の水温の数字はニュースでは示されていません。「一因とみられる」という報道の言い方のままにしておくのが、確かめられた範囲です。
代わりに入ったのではなく別々に動いた
最初の疑問に戻ります。サケが減った穴にシイラが入ったという見方は、私の思い込みでした。サケが減ったことと、シイラが来たことは、別々の理由で並んで起きた出来事です。シイラはサケの不在を埋めに来たわけではなく、暖かい海を北上してきて、固定された網にたまたま入っているだけです。見出しの「代わって」は印象的ですが、仕組みとしては、代わりではありません。
浜のニュースを読むときに見ておきたい3点
魚種・場所・時期をそろえて読む
漁業のニュースは、「海水温上昇で不漁」と一言でまとめられがちです。ただ、サケの不漁は稚魚が育つ春の海、シイラの大漁は夏から秋の海と、見ている季節も場所も違います。記事を読むときは、魚種・場所・時期の3点がそろった数字なのかを確かめると、違う海の話を一つに混ぜずに済みます。
シイラが獲れても収入は埋まらない可能性
報道では、シイラは日本では安く取引されていると伝えられています。サケの漁獲が去年の半分になった分を、シイラの水揚げで補えるのかは、今回確認できた資料には価格の数字がなく、判断できません。漁業者にとっては、獲れる魚が変わることと、収入が変わることは別の問題です。
来年の数字を見る目安
道総研は2026年の来遊数を365万尾と予測しています。年末に出る実績がこの予測に近いのか、2025年のように予測を大きく下回るのかが、サケの減少が一時的なのか続くのかを読む材料になります。私は、毎年の予測と実績を並べて見ることが、いちばん確実な点検だと考えています。
よくある誤解
サケがいなくなったからシイラが来たのですか
いいえ。サケの減少は稚魚の生き残りと来遊数の問題で、シイラの増加は暖かい海を好む魚の回遊の問題です。二つは水温という共通の背景を持ちますが、直接の入れ替わりを示す資料は確認できませんでした。
海水温が上がると魚は全体に増えるのですか
いいえ。道総研の資料が示すとおり、サケ稚魚の適水温は8〜13℃で、これを超える環境は厳しいと評価されています。暖かさで増える魚もいれば、減る魚もいます。
シイラやフグが獲れればサケの不漁は補えるのですか
確かめられていません。シイラは日本では安く取引されていると報じられ、フグも種類により単価が大きく違います。道総研の資料では、トラフグは単価が高いため市場で別に出荷されていました。増えたマフグがそれと同じ値段になるとは限らず、収入の穴を埋められるかは、価格のデータを見ないと分かりません。
サケ不漁とシイラ・フグ大漁をつなぐ水温の話をまとめる
サケは2025年に686万尾まで減り、2026年は365万尾と予測されています。稚魚が海に出る時期の水温が適水温の8〜13℃を超えると生き残りが厳しくなる可能性が、道南の調査で示されています。一方、シイラは暖水性で、富山県では7月の水温と漁獲量にR=0.69の関係があります。北海道のフグはマフグが中心で、2019年から2022年に全国1位でした。
水温が共通の背景にあることは確かですが、サケの減少とシイラ・フグの増加は、効く季節も場所も別です。報道の「代わって」を、入れ替わりと読まないことが、この記事の持ち帰りです。2026年10月時点の資料の範囲では、斜里町の水温や魚種までは確認できていません。最新の来遊数や漁況は、道総研や自治体の公表で確かめてください。
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📊 「サケ不漁の北海道でシイラとフグが大漁なのはなぜか|海水温と魚の分布が変わる仕組み」はこんな人に読まれています
📚 参考文献・出典
- ・ANN(テレビ朝日系)「サケ不漁の北海道 代わって“ハワイの魚”シイラ、フグ大漁 海水温上昇が一因か」(2026年10月15日) https://www.home-tv.co.jp/news/content/?news_id=000540314
- ・北海道立総合研究機構さけます・内水面水産試験場「令和8年(2026年)の秋サケの資源状況について」(2026年6月24日) https://www.hro.or.jp/upload/57642/R8%E6%9D%A5%E9%81%8A%E4%BA%88%E6%B8%AC.pdf
- ・北海道立総合研究機構「試験研究は今No.1045 道南太平洋海域におけるサケ稚魚の採集調査」(2026年3月13日) https://www.hro.or.jp/upload/56481/ima1045.pdf
- ・北海道立総合研究機構中央水産試験場「試験研究は今No.1022 水揚げ日本一の未詳資源フグ類の基礎情報の解明」(2025年3月21日) https://www.hro.or.jp/upload/53024/ima1022.pdf
- ・富山県農林水産総合技術センター水産研究所「富山湾におけるシイラの生態と漁獲量変動要因を探る」 https://taffrc.pref.toyama.jp/nsgc/suisan/wp-content/uploads/sites/14/2024/09/%E4%BB%A4%E5%92%8C5%E5%B9%B4%E5%BA%A6%EF%BC%9A%E5%AF%8C%E5%B1%B1%E6%B9%BE%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E3%82%B7%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%81%AE%E7%94%9F%E6%85%8B%E3%81%A8%E6%BC%81%E7%8D%B2%E9%87%8F%E5%A4%89%E5%8B%95%E8%A6%81%E5%9B%A0%E3%82%92%E6%8E%A2%E3%82%8B%EF%BC%88%E6%83%85%E5%A0%B1%E6%8F%90%E4%BE%9B%EF%BC%89.pdf
- ・NHK「北海道でマフグの漁獲量増加 一方で養殖ホタテに被害か」(2026年10月13日) https://news.web.nhk/newsweb/na/nd-20261013de58896










































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