🚘ISAは自由を奪うか、それとも命を守るかアメリカが動いた“スピード違反撲滅”の切り札とは

年間1万人を超える命が、アメリカだけでスピード違反によって失われている。被害者には、通勤中の親、学校帰りの子ども、信号待ちをしていた歩行者まで含まれる。こうした悲劇に終止符を打つ可能性がある技術が、「ISA(インテリジェント・スピード・アシスト)」だ。

ISAは、もはや未来のSFではない。すでにヨーロッパでは新車への搭載が義務化され、アメリカではスピード違反を繰り返すドライバーの車に“強制的に”装着させる法案が複数の州で可決されている。

一体、ISAとはどんな技術で、なぜ今、世界がその導入に踏み切ろうとしているのか? 本稿ではその仕組みと背景、そして社会への影響を掘り下げていく。


アクセルを踏んでも加速しない?ISAの基本機能と2つのモード

アクセルを踏んでも加速しない?ISAの基本機能と2つのモード
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ISA(Intelligent Speed Assist)は、車両の走行速度と道路の制限速度をリアルタイムで照合し、速度超過を検知するとドライバーに働きかける車載支援システムだ。

使用される技術は主に以下の3つ:

  • GPSによる位置情報
  • デジタルマップによる制限速度の取得
  • カメラによる道路標識の読み取り(標識認識)

ISAには「パッシブ」と「アクティブ」の2つのタイプがある。

タイプ特徴制御内容
パッシブISA速度超過を検知するとアラートや警告音を発するドライバーの判断に任せる
アクティブISAアクセル入力を制限して物理的に加速を抑制ドライバーの意図を超えて制御する

後者の「アクティブISA」は、スピード違反の常習者にとっては“電子的な足かせ”ともいえる仕組みで、アクセルを強く踏んでも、それ以上の加速ができなくなる。

なお、EUでは2024年から新車にパッシブISAの装着が義務化されており、今後はアクティブISAへの拡張も議論されている。


年間1.2万人が死亡:ISA導入の背景にある、アメリカの交通安全危機

年間1.2万人が死亡:ISA導入の背景にある、アメリカの交通安全危機
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アメリカでは2022年、スピード違反関連の交通事故で約12,000人が死亡している(NHTSA調べ)。とくに注目されているのが、制限速度を20マイル(約32km/h)以上超過する「スーパースピーダー(Super-speeders)」による事故の深刻さだ。

重大事故の原因の多くはこの「少数の常習者」に集中しているにもかかわらず、現行の法制度では十分な抑止ができていない。

  • 取り締まりの限界:違反者全員を摘発するのは非現実的
  • 抑止力の低さ:事故を起こしていない限り、罰金や一時的な免停で終わる
  • 無免許運転の横行:免停中でも75%が運転を続けていたという衝撃データも(出典:NHTSA)

つまり、法律による“後からの対処”だけでは命を守れないという現実がある。ここに登場したのが「そもそも速度超過させない」テクノロジー、ISAだ。


法整備はどこまで進んでいる?アメリカ各州でのISA法案動向

技術的にはすでに完成しているISAだが、法制度の整備も加速している。特に注目されるのが、以下の州での法案可決の動きだ。

✅ ワシントンD.C.:全米初、2024年にアクティブISA義務化法案を可決

 ワシントンD.C.:全米初、2024年にアクティブISA義務化法案を可決
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スピード違反の再犯者に限定し、裁判所の判断でアクティブISAの装着を義務付けるという内容。

✅ バージニア州:2025年春に法案成立

バージニア州:2025年春に法案成立
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時速100マイル(約160km/h)以上の違反者を対象に、裁判所がISAの設置を命じることが可能に。

✅ カリフォルニア州:議会可決も知事が拒否権行使

カリフォルニア州:議会可決も知事が拒否権行使
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新車にパッシブISAの装着を義務付ける法案が両院を通過したが、ニューサム知事は「経済的影響が大きすぎる」として拒否権を行使。

しかし議会の動きは止まっておらず、次なる提案として「スピード違反歴のあるドライバーへの限定導入」が検討されている。これは広範な義務化に比べて社会的コンセンサスが得られやすく、再浮上の可能性もある。


技術 vs 自由?ISA導入に対する賛否と市民社会の声

技術 vs 自由?ISA導入に対する賛否と市民社会の声
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「車の自由が制限される」「プライバシーが侵される」といった批判の声もある。しかし、そうした反対に対して、ISA支持者の言葉は極めて明確だ。

Families for Safe Streetsの代表・エイミー・コーエン氏(息子をスピード違反の事故で亡くした)は次のように語る:

「私たちは、あなたの車を没収しろとは言っていません。
ただ、無謀な運転をやめてほしいだけです。あなたは安全に目的地へ着くべきです。
そして、その道中で誰も殺してはいけないのです。」

この発言には、テクノロジーの本来の使命──人間の過ちを補い、命を守る──という原点が込められている。


未来の運転体験に向けた“中間ステップ”としてのISA

未来の運転体験に向けた“中間ステップ”としてのISA
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完全自動運転の実現までにはまだ課題が山積しているが、ISAはその過渡期における「即戦力テクノロジー」だ。

  • 人間の判断ミス(うっかり・過信)による事故を防げる
  • システム的に速度を制限することで重大事故の発生率を低下させる
  • 後付けも可能なため、即効性がある

今後は保険会社によるISA搭載車への割引制度、スマートシティとの連携、ドライバー教育への組み込みなど、ISAを活用した社会システム全体の変革も視野に入っている。


結論:ISAは「未来を先取りする技術」ではなく、「今を救う技術」だ

結論:ISAは「未来を先取りする技術」ではなく、「今を救う技術」だ
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スピード違反という行為は、一瞬の判断ミスが命を奪う。
その「一瞬」を、確実に防ぐためのISAは、もはやオプションではなく“必要な選択肢”となってきた。

社会の安全と個人の自由。そのバランスを保ちながら、私たちはテクノロジーの力で未来を守っていく必要がある。ISAは、その第一歩だ。

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