レジェンド級ブラウン管、まさかの場所に眠っていた

今や誰もが液晶や有機ELの薄型ディスプレイを使う時代。そんな中、かつて“映像の神”とまで呼ばれたブラウン管テレビが、43インチという規格外サイズで発見されたというニュースが、海を越えて世界中のマニアたちの間で話題となっています。
その名は、ソニー製トリニトロン「KX-45ED1」。発売は1988年、家庭用としてはもちろん業務用としても極めて稀な43インチ・直視型ブラウン管というスペックを誇り、販売時のキャッチコピーは「世界最大、クリアビジョン対応の高画質」。
価格は税別273万円。重量はおよそ200kg。サイズは幅105cm×高さ92.5cm×奥行き76.7cm。まさにモンスター級のハードウェアでした。
その実物が、なんと大阪市内の飲食店(そば屋)の2階で眠っていたというのだから驚きです。
“ブラウン管のビッグフット”を探して
KX-45ED1は、その存在感とレア度から、海外では「CRTのビッグフット(未確認巨大生物)」と揶揄されることもあったモデル。
なにせ、販売された台数が極端に少なく、その多くがすでに廃棄済み。完動品の存在は都市伝説扱いされていたのです。

ところが2022年、日本を観光で訪れたレトロゲームファンが「大阪のそば屋の2階に巨大なトリニトロンが置いてある」という目撃情報をネットフォーラムに投稿。
それが海外のブラウン管コミュニティで拡散され、「もしかして“あのKX-45ED1”では?」と、ざわめきが起こります。
数ヶ月後、日本人ブロガーが偶然公開していた店内写真により、機種の型番と外観が一致。これにより、世界で最後のKX-45ED1が本当に存在していることが確定したのです。
地球半周の救出作戦、発動

その情報をキャッチしたのが、アメリカ在住のエンジニアでありレトロゲーム機改造で知られる人物。彼は現地調査を始め、店が近々解体予定であることを知ります。
このままでは伝説のブラウン管が破壊されてしまう——
そう考えた彼は、自ら日本へ渡航し、搬出のための重機と人員を手配。ついに大阪で“テレビ救出作戦”を実行することになります。
このKX-45ED1、前述の通り200kgオーバー。
とてもじゃないが階段で下ろせる代物ではなく、現場では建物外からテレビを吊り上げて搬出するという工事レベルの作業が必要に。
現地の業者と調整を重ねた末、数時間にわたる作業の末、ついにKX-45ED1は救出されました。
海を越えた保存活動の意味

テレビはその後、アメリカへと輸送され、現在は整備とレストアの真っ最中。
いずれは展示・映像作品の上映・レトロゲームイベントでの活用など、活躍の場が用意される予定とのこと。
単なる家電の一台ではなく、1980年代のソニーが築いた技術遺産として、KX-45ED1の存在には非常に大きな意味があります。
当時の映像信号処理技術、トリニトロン管の精度、業務用モニターに匹敵する入力系統の充実。
これらの価値を“動く実物”で後世に伝えることは、映像文化を保存するうえで非常に重要な行為といえるでしょう。
まとめ:ガラクタの山に、歴史が眠っているかもしれない

今回の一件は、たまたまネットでの目撃情報が拾われ、それを信じた一人のマニアが行動したことから始まりました。
そこに、現地の人々の協力と偶然が積み重なり、テレビ史における“最後の巨像”が現代に蘇ったのです。
これまで「無駄にデカい」「もう使い道がない」とされていた古いテレビが、令和の時代にこれほど注目を集めるとは、誰が想像したでしょうか。
あなたの近くにも、忘れ去られた名機や、誰かの宝物だった技術遺産が眠っているかもしれません。
そう思うと、街のリサイクルショップや古びたビルの片隅に、少しワクワクしながら目を向けたくなってきます。
引用元情報
- Obsolete Sony / Substack:The Journey to Save the Last Known 43-Inch Sony CRT
- Tom’s Hardware:Console modder hunts down world’s largest CRT TV