インド民主主義の危機「Kutumb」という名の無法地帯と、SNSの闇が選挙を飲み込む憎悪の津波🗳️

SNSの登場によって、世界中で「情報が民主主義を守る力」になると信じられた時代は、遠い過去のものになりつつある。
今やインターネットは、情報操作と憎悪の拡散に最適化された巨大な装置へと変貌した──。

そして、その象徴とも言える現象が、13億人超の人口を抱える超大国・インドで進行している。
草の根レベルで選挙を左右する「見えない戦争」。
その中心にあるのが、ほとんど規制を受けないローカルSNSアプリ「Kutumb」だ。

The Reporters’ Collectiveの最新調査をもとに、この「新たな憎悪の巣窟」の実態を徹底的に掘り下げる。


なぜ「Kutumb」は危険なのか監視を逃れたデジタル戦場

なぜ「Kutumb」は危険なのか監視を逃れたデジタル戦場
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Kutumbとは何か?
公式には「ローカルなコミュニティをつなぐソーシャルネットワーク」として売り出されている。
だが実態は、政治的プロパガンダとヘイトスピーチの温床に他ならない。

Meta(旧Facebook)やGoogleといった大手プラットフォームは、政治広告の開示や投稿規制を厳格に進めている。
しかしKutumbは、それらの制約を完全に回避できる“抜け道”となっている。

ファクトチェックは皆無。
反対意見は遮断。
モデレーションはほぼ存在せず、憎悪と嘘が拡散し続ける。

しかも、Kutumbはインド国内の超保守層を中心に急速に広がりつつあり、インド人民党(BJP)を支持する巨大なデジタル基盤となっている。


「チーム・モディ支持者協会」──70万人が築くカルト的コミュニティ

「チーム・モディ支持者協会」──70万人が築くカルト的コミュニティ
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インド首相ナレンドラ・モディは、ヒンドゥー至上主義的な色彩の強い政治家だ。
彼の言葉は、時に数百万の支持者を鼓舞し、時に少数派への敵意を煽る。

2024年の選挙運動中、モディ首相は「議会はイスラム教徒に特権を与えようとしている」と発言。
これが火種となり、Kutumb上の「チーム・モディ支持者協会」──70万人以上のユーザーを抱えるグループで、イスラム教徒に対する憎悪投稿が一気に爆発した。

例えば、こんな投稿が拡散された。

  • 「イスラム教徒はヒンドゥー教徒よりも多く子を産み、財産を奪う」
  • 「反モディ票はヒンドゥー文化への裏切りだ」

しかも、これらは匿名かつ検閲のない環境下で飛び交い、訂正されることも、責任を問われることもない。


政治に利用される「怪しいアプリ群」Kutumbだけではない

政治に利用される「怪しいアプリ群」Kutumbだけではない
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The Reporters’ Collectiveの調査によれば、選挙活動に利用されているのはKutumbだけではない。

例えば:

  • Share Post
  • Post Karo
  • Political Poster Maker
  • Posters for B

といった、ポスター作成アプリ群も存在している。
これらは、わずか月額99ルピー(約168円)で、誰でも簡単にプロパガンダポスターを生成できる仕組みを提供している。

背後には、インド人民党(BJP)と関係が深い企業群が存在し、
それらがMeta広告プラットフォーム上でも巨額の宣伝活動を行っている実態も暴かれた。


なぜ規制できないのか?自由と監視のジレンマ

なぜ規制できないのか?自由と監視のジレンマ
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技術政策研究者プラティーク・ワグレ氏は、こう指摘する。

「アプリに対する過剰な規制は、逆に政府による検閲の道具になるリスクがある」

つまり、「Kutumbのような危険な存在を放置すべきではない」とする声と、
「だからといって国家に過剰な検閲権を与えてはいけない」という声が、激しくせめぎ合っているのだ。

これはインドだけでなく、世界中の民主主義国家が直面している難題でもある。


国際比較 世界の「見えない選挙戦争」

国際比較 世界の「見えない選挙戦争」
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実は、類似の現象は他国でも起きている。

  • アメリカ:2020年大統領選では、FacebookグループやParlerが陰謀論の拡散拠点に
  • ブラジル:Telegramが極右政治運動の情報戦ツールに
  • フィリピン:Facebookでフェイクニュースと感情煽動が大統領選に影響

インドのKutumb問題は、決して孤立したものではない。
むしろ、グローバルな「見えない選挙戦争」の最前線といえる。


民主主義は耐えられるか──未来への問い

民主主義は耐えられるか──未来への問い
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13億人が暮らすインドは、世界最大の民主主義国家と呼ばれてきた。
だが今、その足元では、規制の緩いアプリ群が憎悪と偽情報を撒き散らし、選挙を変質させつつある。

この状況を放置すれば、インドの未来だけでなく、
世界中の「開かれた社会」という理念そのものが、大きく揺らぎかねない。

「自由な言論」と「責任ある情報流通」──この2つのバランスを、私たちはどこまで真剣に考えられるのか。

今、問われているのは、テクノロジーでも法律でもない。
民主主義社会としての覚悟だ。

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