わずか4年で評価額65億ドル。
イスラエル発のAIネイティブ・セキュリティ企業Cyera(サイエラ)が、2025年6月の資金調達で業界を揺るがせた。
AIがあらゆるビジネスに入り込む中、最も“見落とされがち”なのが「データそのものの安全性」だ。
この本質的な課題に真正面から挑み、わずか数年で巨額調達を実現したCyeraの軌跡は、AI時代の「防衛インフラ」としての進化を物語っている。
今回は、彼らがいかにして巨額の投資家評価を獲得したのか?その裏にある戦略と構造的な強さを、全資金調達履歴とAI技術の進化軸から徹底解剖する。
Cyeraとは何者か:AIネイティブなセキュリティ思想

2019年にイスラエルで設立されたCyeraは、「あらゆるデータを可視化し、文脈ごとに守る」ことをミッションとするAI駆動型セキュリティ企業だ。
特徴は、従来のルールベースなDLP(データ漏洩防止)を超え、“AIがリアルタイムにデータのリスクと使用文脈を判断”できる点にある。
これにより、クラウド環境でもオンプレでも、データそのものを一元的に管理・制御できる。
Cyeraのアプローチは次のような技術的優位性に裏打ちされている:
- ✅ スキャン不要のAIベース分類(自動で文脈理解)
- ✅ 95%以上の識別精度を誇る「意味単位のデータモデル」
- ✅ AWSやAzureなど主要クラウドとのネイティブ連携
- ✅ 顧客主導のアクセス制御やデータマスキング機能
これらが、「AI時代にふさわしいデータ保護」という文脈で、Fortune500企業を含む世界各国のIT部門から支持を集めている。
調達ラウンドの裏にある「次の一手」
🧩 シリーズA〜B(2019〜2023):プロダクト確立と実証の時代

CyeraはシリーズAでおよそ6000万ドルを調達し、エンジニアリングとアルゴリズム開発に全力を注いだ。この時期に確立された「意味的AIモデル」が、現在の基盤となっている。
続くシリーズB(2023年)では、Accel主導で1億ドルを確保。ここではPoC(概念実証)から実運用へと舵を切り、製品が商用化フェーズへ進んだ。
🔥 シリーズC〜D(2024年):企業導入拡大と戦略的買収

2024年4月のシリーズCでは3億ドルを調達。
注目すべきは、ここで導入が急速に進んだ業種──金融・医療・法務分野である。これらは高度なコンプライアンスが求められる業界で、Cyeraのリスクベースな自動分類機能が非常にマッチした。
同年末のシリーズDでは、同額の3億ドル調達と同時にTrail Securityを買収。この買収により、データ分類だけでなく“動的なデータ制御”の技術を獲得し、AIセキュリティ基盤が完成に近づいた。
🚀 シリーズE(2025年):$540Mと6.5B評価の意味

最新のシリーズE(2025年6月)では、GeorgianやGreenoaks、Lightspeed Venture Partnersが主導するかたちで5億4000万ドルを調達。評価額は65億ドルに跳ね上がった。
これは単なる大型調達ではない。
Cyeraがこのラウンドで明確に表明したのは以下3点:
- グローバル10カ国での事業拡大
- アジア市場(特に日本・韓国)への重点投資
- 政府・軍事レベルでの導入提案
AI活用において、国家単位での「情報ガバナンス」が問われる今、Cyeraのプラットフォームは“セキュリティの国際標準”を目指す布石と読み解ける。
競合との違い:なぜCyeraは突出したのか?

他のセキュリティ系スタートアップ、たとえばVaronisやBigIDも大規模データ分類や可視化を扱っている。
だがCyeraの最大の差別化要因は「分類だけで終わらない、即時の自動対応」にある。
- BigID:可視化と分類に強いが、制御機能は外部依存
- Varonis:オンプレ環境に特化
- Cyera:分類→制御→継続的改善までAIで完結
そのうえ、Trail Security買収により、動的DLPも自社で内包。
これがFortune500を惹きつけた最大の要因だ。
まとめ:Cyeraが創る“AI時代の盾”

Cyeraは、ただのスタートアップではない。
AIがあらゆる産業構造を塗り替える今、「データを守る」という領域で、その中核インフラになろうとしている。
5億ドルを超える資金調達は、その将来を見据えた投資家たちの“答え”だ。
そしてこの成長は、今後のAI導入加速と比例して、ますます大きな意味を持つことになるだろう。