「育休に入ったら、毎月の収入がゼロになってしまう」。そう思って、本当は取りたくても育児休業をためらっている人が少なくない。特に夫婦共働きの家庭で、どちらかが収入を一時ゼロにすることへの不安は現実的だ。
でも実際には、雇用保険の仕組みによって、育休中でも一定の給付金が支払われる。しかも2025年4月からは、条件を満たせば「手取り10割相当」まで引き上げられる新制度が動き出している。
この記事を読むと、次のことが分かる。
- 育児休業給付金がなぜ支払われるのか(制度の根拠)
- いくら受け取れるのか(計算方法と上限額)
- 2025年の新制度「出生後休業支援給付金」の条件と金額
- 申請のタイミングと手続きの注意点
育児休業中に収入がゼロにならない理由
「育休=無給」だと思っている人は多い。確かに会社からの給与は原則として支払われない。しかしここが重要なのだが、育児休業給付金は会社から出るのではなく、雇用保険から出る。
雇用保険とは、働いている人が給与の0.6%(2026年時点・一般労働者)を毎月支払っている公的保険だ。失業したときの「失業手当」と並んで、育休中の収入を補填する「育児休業給付金」もこの雇用保険から支払われる。言いかえれば、毎月の給与から少しずつ積み立ててきたお金が、育休中に返ってくる仕組みだ。
育児休業給付金の支払いフロー
毎月の給与から
雇用保険料を支払う
保険料を積み立て
管理・運用
育休中に
給付金として受け取る
この点を理解すると、育休中の収入補填を「会社に甘える」ことだと感じる必要はまったくないと分かる。自分が長年払い続けた保険の仕組みが、ちゃんと動いているだけだ。
いくら受け取れるか|支給額の計算方法
「で、実際いくらもらえるの?」。これが一番気になるところだろう。支給額の計算式はシンプルだ。
| 期間 | 支給率 | 月収30万円の場合 | 上限額(2026年7月まで) |
|---|---|---|---|
| 育休開始〜180日目 | 67% | 201,000円/月 | 483,300円/月 |
| 181日目以降 | 50% | 150,000円/月 | 361,600円/月 |
| ※ 支給額=休業開始時賃金日額×支給日数×支給率。賃金日額=育休前6ヵ月の賃金合計÷180。2026年7月31日時点の上限額。 | |||
たとえば月収30万円の人が育休前6ヵ月(計180万円)を稼いでいたとする。賃金日額は180万円÷180=1万円/日。28日間分なら28万円×67%≒18万7,600円が1支給期間の給付額だ。
ここで注意したいのが「育休中は社会保険料が免除される」という点だ。通常、月30万円の収入では健康保険料と厚生年金保険料として合計5〜6万円が天引きされる。育休中はこれが免除されるため、手取りベースで見ると67%という数字より実質的な受取額は大きい。
あなたは育児休業給付金の制度を事前に知っていましたか?
- よく知っていた
- なんとなく知っていた
- 知らなかった
- 育休を取ったことがない
2025年4月スタート|手取り10割相当の「出生後休業支援給付金」とは
「育休中の収入が手取り10割になる」というニュースを聞いたことがある人もいるだろう。これは2025年4月に創設された出生後休業支援給付金だ。育児休業給付金に上乗せして支給される新しい制度である。
仕組みをシンプルに言うと、こういうことだ。
- 育児休業給付金: 休業前賃金の67%(既存制度)
- 出生後休業支援給付金: 休業前賃金の+13%(新制度・上乗せ)
- 合計: 休業前賃金の80%支給
- 社会保険料免除(育休中): 手取りベースで実質10割相当
「80%の給付+社会保険料免除」で、手取りとしてはほぼ100%に近くなる計算だ。これが「手取り10割」の正体である。
ただし、この上乗せ給付には条件がある。
出生後休業支援給付金の支給条件(2026年7月時点)
- 【父親】子が生まれてから8週以内に通算14日以上の育児休業を取得
- 【母親】子が生まれてから16週以内に通算14日以上の育児休業を取得
- 支給期間は最大28日間
- 2025年4月1日以降の育休開始が対象
注目すべきは、これが「夫婦両方が育休を取る」ことを前提とした制度設計になっている点だ。父親側にも育休取得の要件が課されているため、共育てを促す明確な政策意図が見える。「男性育休をあと押しするための制度」でもある。
申請のタイミングと手続きの流れ
育児休業給付金は、自動的に振り込まれるわけではない。会社と労働者が協力して手続きを進める必要がある。流れを理解しておかないと、受け取れるはずの給付金を取りこぼすことになりかねない。
申請の流れ
会社に育休の申出・
確認資料を提出
会社がハローワークに
初回申請(2ヵ月後)
ハローワークが審査
→ 口座に振込
支給のタイミングを確認しておこう。育休開始から最初の給付金が振り込まれるまでには、通常2〜3ヵ月かかる。育休開始後すぐには入金されないため、育休に入る前に数ヵ月分の生活費を手元に準備しておくことが現実的だ。
「申請が遅れた」「書類を会社に出し忘れた」というケースも多い。雇用保険の仕組みを理解した上で、育休開始2〜3ヵ月前から準備を始めるのが安全だ。
デメリットと注意点|知らないと損する落とし穴
制度のメリットばかりを聞いていると、「育休さえ取れば安心」と思いがちだ。しかし実際には、いくつかの注意点がある。
① 育休中に働くと給付金が減額または停止される
育休中に就業した場合、就業した日数によって給付金が減額される。1支給単位期間中に10日(または就業時間が80時間)を超えて働いた場合は支給されない。在宅副業なども含め、育休中の就業ルールは事前に把握しておくことが重要だ。
② 給付金は所得税非課税だが、翌年の住民税計算に影響する
育児休業給付金自体は非課税だが、育休中に所得が減ったことが翌年の社会保険料の計算に影響することがある。育休明けにいきなり社会保険料が増えるケースもあるため注意が必要だ。
③ 雇用保険に加入していないと受け取れない
パートタイマーでも週20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがあれば雇用保険に加入できる。しかし、フリーランスや個人事業主は雇用保険に加入できないため、育児休業給付金の対象外となる。
④ 延長には医療的理由や保育所不足の証明が必要
原則として子が1歳になった時点で育休は終了し、給付金の支給も止まる。1歳から1歳6ヵ月、1歳6ヵ月から2歳への延長には、保育所に入れないことの証明書など一定の要件がある。
いつ・どのくらい育休を取るか|判断のポイント
「育休をいつから取るべきか」「夫婦でどう分担するか」は、家庭によって正解が違う。以下の観点で検討すると整理しやすい。
| 状況 | おすすめの育休スタイル |
|---|---|
| 夫婦ともに正社員 | 父親が生後8週以内に14日以上取得 → 出生後休業支援給付金(+13%)を両方が受給 |
| 妻の収入が高い | 妻が短め・夫が長めにすると、世帯全体の手取りが最大化しやすい |
| 保育園の入園を急ぐ | 育休期間が短い=入園申し込みが早まる。地域の待機児童状況と合わせて検討 |
| 夫婦のどちらかがフリーランス | 雇用保険非加入の側は給付金対象外。会社員側が長めに取るのが合理的 |
📅 2025〜2026年の制度改正まとめ|育休は今が最大のチャンス
育児休業をとりまく制度は、この数年で大きく変わっている。2025年4月の出生後休業支援給付金の創設だけでなく、「産後パパ育休(出生時育児休業)」の整備や、産休と育休の違いの認知が広まったことで、男性育休の取得率は急上昇している。
厚生労働省の調査によれば、2023年度の男性育休取得率は30.1%と初めて30%を超えた。2020年度(12.65%)から3年で倍以上になった計算だ。政府は2025年度に50%、2030年度に85%という目標を掲げており、制度の充実はまだ続く見込みだ。
今後も改正が予定されているため、育休を検討しているなら「いつか取ろう」ではなく「今の制度で最大限活用する」発想が重要だ。2026年7月時点の最新情報は厚生労働省の公式発表で確認してほしい。
🎣 手取りシミュレーション|月収別・実際いくら受け取れるか
「制度の説明は分かったが、自分の場合はいくらか」。それを知るには具体的な計算が必要だ。育休前6ヵ月の賃金総額を180で割った「賃金日額」が基準になる。
月収別・育休28日あたりの給付金(概算)
| 育休前の月収(手取り) | 28日の給付金(67%) | 出産後28日加算込(80%) |
|---|---|---|
| 20万円 | 約12.5万円 | 約14.9万円 |
| 30万円 | 約18.8万円 | 約22.4万円 |
| 40万円 | 約25.0万円 | 約29.8万円 |
| 50万円〜(上限あり) | 最大48.3万円/月 | 上限適用 |
| ※ 概算。月収は額面換算。社会保険料免除分は含まない。2026年7月31日時点の上限額。 | ||
社会保険料の免除分を含めると、手取り実質は表の金額よりも2〜3万円多くなる。「育休に入ったらゼロになる」という思い込みを、数字で見直してほしい。
💡 意外な事実|「育休中は年金も積み立てられる」
育休中は「働いていない期間」なので、年金の積み立てが止まると思っている人も多い。しかしこれは誤解だ。
育休中に厚生年金保険料が免除されているにもかかわらず、年金の計算上は「保険料を払い続けたもの」として扱われる。育休を取った期間も、将来受け取る老齢厚生年金の計算に加算される。「育休中は年金が空白になる」という心配は、現行制度では当てはまらない。
これは知っている人が少ない事実だ。育休中の「給付金+社会保険料免除+年金保護」の三重の保護は、実はかなり手厚い仕組みになっている。「育休を取るとキャリアが止まる」という感覚的な不安とは裏腹に、少なくとも経済的・年金的には守られている制度設計だ。
よくある誤解3選
育児休業給付金にまつわる誤解は多い。
誤解①「パートタイマーは育休を取れない」
→ 正しくは: 週20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがあれば、雇用保険に加入でき、育児休業給付金の対象になる。ただし雇用期間が1年未満の場合などは一定の条件がある。
誤解②「育休中に職場から電話が来たら応じてはいけない」
→ 正しくは: 電話での連絡に応じること自体は就業に当たらない。ただし実際に業務を行った場合は就業日数としてカウントされる可能性がある。上司とのルールを明確にしておくことが重要だ。
誤解③「2人目の育休は1人目より給付が少ない」
→ 正しくは: 1人目と2人目で給付率の計算方法は変わらない。ただし、1人目の育休後に職場復帰して6ヵ月以上たっていない場合、賃金日額の計算の基礎となる期間が変わる場合がある。ハローワークに確認するのが確実だ。
まとめ|育児休業給付金のポイント
- 育児休業給付金は雇用保険から支給される(会社から出るのではない)
- 育休開始180日まで67%、181日以降は50%の給付率
- 2025年4月から「出生後休業支援給付金」が創設。条件を満たすと最大28日間は実質手取り10割相当
- 育休中は社会保険料が免除され、年金の積み立ても継続される
- 最初の給付金振込まで2〜3ヵ月かかるため、事前の生活費準備が必要
- フリーランスや個人事業主は雇用保険の対象外のため、別途準備が必要
育児休業給付金の制度は、毎月の保険料というかたちで、働く人全員が少しずつ支え合っている互助の仕組みだ。「自分には関係ない」と思っていた人の保険料が、今この瞬間、誰かの育休を支えている。そのシンプルな事実が、社会的連帯のひとつのかたちといえるかもしれない。
2026年7月時点の情報に基づく。制度は変わる可能性があるため、最新情報は厚生労働省の育児休業給付金のページで確認してほしい。
この記事の内容、読む前から知っていましたか?
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📚 参考文献・出典
- ・厚生労働省「育児休業給付金について(2025年8月改訂版)」 https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001461102.pdf
- ・厚生労働省「出生後休業支援給付金・育児時短就業給付金について」 https://mhlw-communication-gov.note.jp/n/n9c998733c92e
- ・厚生労働省「令和5年度雇用均等基本調査」(男性育休取得率30.1%)
- ・ハローワークインターネットサービス「育児休業給付について」 https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_child.html
📖 この記事について 本記事は、社会の制度や法律の”仕組み”を知る面白さをお届けし、世の中のルールに興味を持っていただくための読み物です。個別の法的判断を示すものではなく、制度は改正されることもあります。具体的なケースは専門家や公的機関にご確認ください。








































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