猫がマタタビで酔ったようになる理由とは|体に塗る成分が蚊を遠ざける仕組み

猫がマタタビの枝や葉に顔をこすりつけ、床に転がって動かなくなる。あの様子は「酔っている」と説明されることが多いのですが、2021年1月に発表された日本の研究では、まったく別の見方が示されました。猫が体に塗りつけているのは、マタタビに含まれるネペタラクトールという成分で、これが蚊を遠ざけるというのです。

私はこの話を調べるまで、マタタビは猫にとっての「嗜好品」だと思っていました。ペットを飼っていないので実際に与えた経験はなく、動画で見た印象だけで決めていたことになります。この記事では、原典の論文と大学の発表、そして過去の蚊よけ研究を読み比べて、マタタビ反応の仕組みと、わかっていないことを整理します。2026年10月時点の情報で、最新の研究は各大学・学術誌の発表で確認してください。

  • マタタビ反応は、猫が顔や体をこすりつけて転がる行動
  • 活性の強い成分は、マタタビの葉に含まれるネペタラクトール
  • 成分を塗った猫の頭には、蚊が降りた数が平均で半分になった
  • 実験した研究室の猫は全部で25、そのうち反応したのは18で、28%は反応しなかった
  • 犬とマウスは、この成分に興味を示さなかった

マタタビ反応とは何か、猫はどう動くのか

マタタビ反応とは何か、猫はどう動くのか
Photo by Markus McKay on Unsplash

京都大学の研究発表は、マタタビ反応を「ネコがマタタビを嗅ぐと葉に体を擦り付けごろごろ転がる反応」と説明しています。別名は「マタタビ踊り」です。この反応を示すのは家猫だけではありません。大阪の天王寺動物園と神戸市立王子動物園の協力で、ジャガーやアムールヒョウ、オオヤマネコなどの大型のネコ科動物にも同じ反応が確かめられています。

反応は5〜15分で終わり、そのあと1時間以上は効かない

論文には、反応の長さについて「通常5〜15分続き、そのあと1時間以上は反応しない時間が来る」という趣旨の記述があります。続けて与えても、すぐには同じ反応が出ないということです。

たくさん与えれば長く楽しめるわけではなく、猫の側に「反応できる時間」と「できない時間」が交互に来ます。

マタタビとキャットニップは別の植物

論文はsilver vine(日本ではマタタビ)とcatnip(西洋のハーブ)を並べて扱っています。どちらでも猫は顔をこすりつけて転がりますが、効いている成分の名前が違います。マタタビの葉で主役になるのはネペタラクトール、キャットニップで知られるのはネペタラクトンです。

名前が似ているので同じものと思われがちですが、論文は、この2つがよく似た構造で、ラクトールとラクトンという部分だけが違うと説明しています。

猫は酔っているのではなく、成分を体に塗っている

猫は酔っているのではなく、成分を体に塗っている蚊よけの仕組み
Photo by National Institute of Allergy and Infectious Diseases on Unsplash

2021年1月、岩手大学・名古屋大学・京都大学などの研究グループは、学術誌Science Advancesに論文を発表しました。結論は、マタタビ反応は猫がネペタラクトールを体に擦りつけるための行動で、その成分に蚊の忌避効果がある、というものです。

マタタビ反応から蚊よけまでの流れ

葉のネペタラクトールを嗅ぐ
→
顔と頭をこすりつけ、転がる
→
成分が頭と体に付着する
→
蚊が降りる数が減る

蚊が降りる数は、成分を塗った頭で半分になった

実験は、猫を2匹1組にして行われました。片方の頭にはネペタラクトールを塗り、もう片方には溶かしただけの液体を塗ります。塗った量は500マイクログラム、つまり0.5ミリグラム(500÷1000で計算)です。1組あたり10分間、ヒトスジシマカが頭に降りた数を2人の観察者が数えました。

ケージには蚊が14〜22いて、成分を塗った猫の頭に降りた蚊の数は、塗っていない頭の平均でおよそ半分でした。6組での結果なので、数としては小さな実験です。それでも、蚊を数えるという形で効果を確かめたことが、この研究の肝でした。

葉にこすりつけた猫でも、蚊は降りにくくなった

成分を人が塗った実験だけでは、猫が自分でこすりつけた場合にも効くのかわかりません。研究グループは、マタタビの葉にこすりつけた猫と、刺激を受けていない猫で、蚊が降りる数も比べました。論文によると、葉にこすりつけた猫のほうが蚊の降りる数は少なくなっていました。

猫が自分で転がった結果として、蚊を避けられる状態になっていたことになります。人の手で塗った場合の結果と同じ方向でした。

葉に含まれる成分の量にも差がある

論文は、マタタビの葉に含まれる量も測っています。ネペタラクトールは葉1グラムあたり20.71マイクログラム、同じ仲間のイソイリドミルメシンは1.42マイクログラムでした。20.71÷1.42=約14.6で、ネペタラクトールのほうが約15倍多い計算です。葉の中で主役になる成分が、猫が最も強く反応する成分でもあったわけです。

猫にマタタビやキャットニップを与えたことはありますか?

  1. 与えたことがあり、反応した
  2. 与えたが、反応しなかった
  3. 与えたことはない
  4. 猫を飼っていない

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与えたが、反応しなかった:33%
与えたことはない:33%
猫を飼っていない:25%
与えたことがあり、反応した:8%

犬やマウスは興味を示さず、大型のネコ科は反応した

この成分への反応は、猫の仲間に特有のようです。論文では、飼い犬8と実験用マウス10にネペタラクトールを与えましたが、すべての動物が興味を示しませんでした。犬は嗅覚が鋭い動物として知られ、犬の嗅覚の仕組みの記事でも触れましたが、鼻がよいことと、この成分に反応することは別の話です。

大型のネコ科動物では、ジャガー2頭、ユーラシアオオヤマネコ2頭、アムールヒョウ1頭の計5頭で試されました。研究グループは、これらの動物でも同じように顔をこすりつける行動を確認したと報告しています。ネコ科の動物が共通して持つ反応だとすれば、家猫にだけ偶然備わった性質ではなさそうです。

自由に暮らす猫は30のうち17が反応

研究室で飼育された猫だけでなく、自由に暮らしている猫も調べられました。対象は30、ネペタラクトールを嗅がせたところ、そのうち17、つまり57%が顔をこすりつけました。研究室の猫の72%(25のうち18)より少なめです。

この差が、飼育環境の違いなのか、個体差なのかは、この数字だけでは決められません。ただ、どちらの調査でも「すべての猫が反応するわけではない」という点は一致していました。

猫の感覚は、人間と大きく違う

猫の感覚には、人間と違う部分がほかにもあります。暗闇で目が光る現象は、猫の目のタペタムという構造で説明されています。マタタビへの反応も、匂いの成分に対して脳が独特の反応をする、猫の感覚の一部です。

脳では何が起きているのか

匂いを嗅いだ猫の脳で起きることも、論文で調べられています。ここは化学の話になりますが、数字で見るとわかりやすい部分です。

β-エンドルフィンが増える

ネペタラクトールを嗅いだ猫の血液では、快感や鎮痛に関わるβ-エンドルフィンの量が、対照の刺激を嗅いだ場合に比べて有意に増えました。猫が恍惚としたような顔をするのは、この物質が関係していると考えられます。

「酔っている」と言われてきた理由の一つが、ここにあるのでしょう。アルコールの酔いと同じ仕組みだと言っているわけではなく、快感に関わる物質が動いていることまでが、確かめられた範囲です。

阻害薬を使うと、こすりつけが減った

研究グループは、μオピオイド受容体を邪魔する薬のナロキソンを猫6匹に投与しました。生理食塩水を投与したときに比べて、典型的な顔のこすりつけと転がりが減りました。生理食塩水を2回続けたときには反応は減りませんでした。

脳内のオピオイドの系が、マタタビ反応に関わっていることを示す結果です。

反応しない猫が3割近くいるのはなぜか

研究室で飼育された猫は25(1〜16歳、未去勢の雄7、未去勢の雌15、去勢済みの雌3)で、マタタビの反応を示したのは18、反応しなかったのは7でした。18÷25=72%、7÷25=28%という割合です。

反応するかどうかは遺伝で決まる

論文は、キャットニップへの反応が常染色体の優性形質として遺伝することを紹介しています。生まれつきの体質が関わっているということです。

反応しない猫がいても、病気や好き嫌いとは限りません。この点は、マタタビを与える人が最初に知っておきたいところです。

反応の長さと与える間隔

反応の長さは5〜15分、そのあとは1時間以上反応しない時間が来ます。反応が出なかったからといって、続けて何度も与える必要はありません。製品の量や頻度は、パッケージの表示に従い、体調に不安があるときは獣医師に相談してください。

私が調べた範囲では、与える量と猫の体への影響を、論文は扱っていません。この記事でも、安全な量を示すことはできません。

マタタビの蚊よけは、人間にも使えるのか

猫に効くなら人にも、と考えたくなります。キャットニップの成分と蚊の関係は、実は2001年から調べられていました。

2001年の発表と、2005年の確認実験

アイオワ州立大学の研究グループは、2001年8月にアメリカ化学会の全国大会で発表しました。キャットニップの精油成分であるネペタラクトンは、蚊を寄せつけない効果が、広く使われる忌避剤のディートの約10倍だというものです。実験では、20の蚊を入れたガラス管の半分に成分を塗り、10分後の様子を見ています。濃度1.0%では、塗った側に残った蚊は約4匹で、ディートでは8〜9匹でした。

ところが2005年に、Journal of Medical Entomologyに載った別の研究では結果が違いました。ネッタイシマカを使い、ネペタラクトンの異性体と、ディートなどを同じ24ナノモル/平方センチで比較したところ、人のボランティアを使った試験では、ネペタラクトンはディートほど蚊が刺すのを防げませんでした。論文は「キャットニップ油とネペタラクトン異性体は、ネッタイシマカが刺すのを防ぐ効果がディートなどより有意に低い」と結論しています。

2026年10月時点の位置づけ

2021年の研究は、「猫が蚊を避けるために使っている」ことを示したもので、人間用の虫よけとして使えると証明したものではありません。京都大学の発表も、応用の可能性を示唆するにとどめています。私が確認できた範囲では、この研究を根拠にした人用の虫よけが実用化されたという発表は見つかりませんでした。

2001年の「10倍」という話は目を引きますが、2005年の人での試験では逆の結果が出ています。見出しの熱と、数字の冷静さには差があります。実験条件が違えば結論も変わるので、市販の虫よけは、使い方に従って選ぶのが現実的です。

マタタビ反応でわかっていないこと

ここまでの内容には、限界もあります。実験に使われた蚊はヒトスジシマカ1種類で、蚊が降りる数を測ったのは6組の猫です。雌雄・年齢の偏りもあり、野外の猫すべてに当てはまるとは言えません。

進化の理由は、蚊だけとは限らない

実験が示したのは、成分を塗ると蚊が降りにくくなることです。進化の過程で、猫が蚊を避けるためにこの行動を身につけたのかどうかは、直接確かめられたわけではありません。ほかの理由も重なっている可能性はあります。

マタタビの与えすぎが安全かどうか

安全な量や、毎日与えた場合の影響は、今回読んだ資料からはわかりませんでした。「自然の成分だから安全」とは言い切れないので、気になる場合は獣医師に確認するのが確実です。

マタタビ反応のよくある誤解

猫はマタタビで酔っ払っているのですか

酔っ払っているとは言えません。研究では、成分を嗅ぐと快感に関わるβ-エンドルフィンが増え、その成分を体に塗りつける行動が起きていました。アルコールの酔いと同じ仕組みだとは言っていません。

すべての猫がマタタビに反応しますか

反応しない猫もいます。研究室の猫25では28%(7)が反応しませんでした。反応しない体質は遺伝の影響を受けるため、反応しなくても異常ではありません。

犬もマタタビで同じ反応をしますか

論文で調べた犬8匹は、すべてネペタラクトールに興味を示しませんでした。マウスも同様です。この反応は、猫やジャガーなどネコ科の動物で確かめられています。

まとめ:猫のマタタビ反応は蚊よけの行動だった

猫がマタタビに顔をこすりつけて転がるのは、ネペタラクトールを体に付けるための行動でした。付けた頭には、蚊が降りる数が平均で半分になるという結果が出ています。

反応する猫は研究室の猫25で72%、自由に暮らす猫30で57%で、反応しない猫がいるのは遺伝を含む体質の違いです。反応は5〜15分で終わり、そのあと1時間以上は効きません。人間の虫よけとしては、2001年の発表と2005年の確認実験で結果が分かれていて、この研究から実用化されたものは、私は確認できていません。

マタタビを与えるときは、反応しなくても心配せず、量や頻度は製品の表示と獣医師の助言に従うのが無難です。

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2026年10月7日 〜 2026年11月6日
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📚 参考文献・出典

📖 この記事について 本記事は、動物の行動の“仕組み”を知る面白さをお届けする読み物です。ペットの健康や与えるものの判断は、必要に応じて獣医師などの専門家にご相談ください。

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。