「なぜスイスだけが攻められない?『永世中立』の真実


「スイスはどこの国とも戦争しない平和な国」というイメージがよくあります。しかし実際は、周りの大国に囲まれながらも侵略されないために、想像以上に徹底した仕組みがあるのです。ここでは、山岳地帯を活かした防御や“ドラゴンの歯”などの対戦車障害物、さらには「橋やトンネルを爆破する」など、スイスならではの工夫を紹介します。


2. アルプスの地形を徹底利用

スイスの国土は約6割が山という地形で、侵入できるルートがもともと限られています。そこで彼らは、そのわずかな侵入経路(橋・トンネル・道路など)に爆破装置を仕掛け、「敵が来たら自分たちで壊してしまう」という対策をとっています。これなら補給路を絶たれて前に進めなくなるので、「最初から攻めないほうが得策だな…」と思わせるのです。


3. “ドラゴンの歯”と地雷のトラップ

スイスの山道や平地には、“ドラゴンの歯”と呼ばれる四角錐(しかくすい)や三角柱のコンクリート障害物が並んでいます。これは戦車の通り道をふさぐための仕掛けで、その間には地雷を埋めてあることもあります。一見、ただの石や飾りに見えるものが、実は攻撃を食い止める“防壁”になっているわけです。


4. 国民みんなが“備えあり”の国

スイスでは「国民皆兵制度」があり、20~30歳代の男性は兵役の義務があります。自宅に銃や装備品を保管し、非常時には即座に軍として動ける体制が整っているのです。また、女性も志願すれば兵役につくことができ、「国を守るのは自分たちの責任だ」という意識が広く根づいています。


5. 全国民が入れるシェルター

家を建てる際には防空壕(シェルター)を設けることが義務づけられていた時期があるなど、スイスには核シェルターが大量に存在します。全人口を収容できるほどの避難場所が整備されており、地下で水や食料を確保できるようになっています。さらに、政府が配布した「民間防衛(Civil Defense)」という冊子を手元に置き、有事にどう動けばいいかを日頃から学んでいるのです。


6. ライン川の水源がもたらすアドバンテージ

ヨーロッパ有数の大河であるライン川の水源はスイスにあります。もし周辺国がスイスを攻めれば、「ライン川に毒を流す」などの最悪の手段がとられる可能性があり、下流の国々は大混乱に陥るでしょう。1986年には工場事故で化学物質が流出してしまい、ドイツなど下流の国々が大きな被害を受けたこともありました。「本気を出せば、相手国にも甚大なダメージを与えられる」という強力な抑止力にもなっています。


7. スイス銀行の秘密主義

スイスには長年、預金者のプライバシーを最優先する銀行の伝統があり、世界中の富豪や企業が資産を預けてきました。侵攻してスイス国内が混乱すると、自国の“偉い人”たちの口座も巻き添えになる恐れがあるため、スイスを攻めるのは得策ではない……という考え方もあるようです。ただし第2次世界大戦中には、ナチス・ドイツの資金を保管していたことが後に問題視されるなど、負の側面も指摘されています。


8. 傭兵の歴史と国民意識

今でこそ「中立」と言われるスイスですが、かつては「スイス傭兵」として海外の戦いに参加し、収入を得ていた時代があります。ヨーロッパでは「スイス兵は強い」というイメージが広がり、結局「強い相手とは戦いたくない」という心理が働いたのも、侵略されにくい要因のひとつになりました。
さらに、今でもバチカン市国の警護隊はスイス兵が担うなど、中立国でありながら“武力を持つ伝統”を受け継いでいるのです。


9. まとめ

スイスが「攻められない国」でいられるのは、単に「平和を望む」からではありません。山岳地帯やライン川などの地の利をフル活用し、橋やトンネルを壊す覚悟、ドラゴンの歯で戦車を止める戦術、国民皆兵の制度、シェルターや備蓄の徹底――そうした「本気の防衛対策」があるからこそ、周辺国も安易には手を出せないのです。
周りを大国に囲まれながらも生き延びてきたスイスの秘密には、「まずは自分たちで自分の国を守る」という強い覚悟が詰まっています。


参考リンク・文献

  1. 政府・団体サイト

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