中国・半導体帝国の夢を背負った男、趙偉国とは何者だったのか?

中国が「半導体自給自足」を掲げて国家総動員で突き進んだ2010年代。その旗印となったのが、清華大学傘下のテック企業グループ「清華紫光集団(Tsinghua Unigroup)」でした。そして、その頂点に君臨していた男が趙偉国(Zhao Weiguo)。彼の栄光と転落は、中国の「チップ独立戦争」の光と影そのものです。
そして2025年5月、中国の裁判所は趙氏に“死刑判決(ただし執行猶予付き)”という衝撃的な判決を下しました。彼はなぜ、国家の寵児から一転して裁かれることになったのでしょうか?
国家プロジェクトのヒーロー誕生

趙偉国氏は清華大学の理工系出身。早くからITビジネスに関心を持ち、2009年に清華紫光の会長に就任して以降、猛烈な勢いで企業買収と資本拡張を推し進めてきました。
彼の戦略は明快でした。
「米国や台湾のチップ技術を買え。金は政府が出す。」
国家戦略という後ろ盾のもと、彼はMicron(米国)やWestern Digitalなどに買収提案を出し、サーバー用半導体やフラッシュメモリ分野で世界進出を狙いました。
実態は“バブル”だった? 巨額資金の不透明な流れ

しかし、この拡大路線の裏で何が起きていたのか?
吉林省長春市の裁判所が明らかにしたのは、以下のような衝撃的な実態です:
- 国有資産4億7000万元(約95億円)を不正取得
- 国家に与えた損失は約8億9000万元(約180億円)
- 家族や友人への便宜供与
- 清華紫光の企業資産を「ほぼ私物化」
一言でいえば、国のカネを私物化して帝国を築いたのが趙氏のやり方だったわけです。
ついに破綻、そして失脚へ

2020年、清華紫光は債務不履行(デフォルト)を起こします。資金ショートにより、多くの子会社が事業停止に追い込まれました。
2021年には破産手続きに入り、事実上の国家管理下に置かれることになります。
趙氏は2022年に退任し、その後まもなく拘束されますが、長らく音沙汰がなく、「行方不明扱い」となっていました。
「死刑判決(執行猶予付き)」という政治的メッセージ

そして2025年5月。
彼に下されたのは「死刑判決(執行猶予2年)」。
これは形式上は死刑ですが、2年間問題を起こさなければ通常は終身刑に減刑されるため、「国家の面子を保ちつつ、重罰をアピールする」いわば見せしめ的な判決です。
Wall Street Journalはこの裁判を「チップ産業における国家腐敗の象徴」とし、中国が国家主導で推進するテック戦略の“負の側面”が表出したと評しました。
国家が描いた半導体の夢は、いま…

趙氏の失脚後、清華紫光は国営ファンド主導の再建に舵を切り、再び半導体分野の国産化を目指しています。中でも、YMTC(長江メモリ)のQLC NANDフラッシュは注目され、米国の制裁対象にもなりました。
しかし、構造的な問題は残っています。国家主導、補助金頼み、透明性欠如。
果たしてこのモデルは持続可能なのでしょうか?
終わりに:半導体は“権力の象徴”から“透明性の試金石”へ

趙偉国氏の転落は、単なる経済事件ではありません。
それは、中国という国家がいかにテクノロジーを政治の道具として使い、失敗したときにどう責任を取るのか?という問題の縮図です。
中国の半導体産業は今、技術だけでなく「組織の健全性」が問われています。
そして、それは他の国々にとっても無関係な話ではありません。
引用元
The Wall Street Journal
https://www.wsj.com/world/china/former-chinese-chip-boss-gets-suspended-death-sentence-in-corruption-case-2e0ba95e