“ホテルチェーンを作って株で儲ける”──
そんな簡単な話に聞こえるかもしれない。しかし「アクワイア(Acquire)」を侮ってはいけない。
このゲーム、ただの経済シミュレーションではない。
資本主義の裏側でうごめく“投資と合併”の本質を、たった90分のプレイ時間で丸裸にする。
ルールはシンプル。それゆえに、プレイヤーの思考と心理がむき出しになる。
本記事では、アークライトゲームズの日本語版『アクワイア』を実際にプレイした体験をもとに、その戦略性・緊張感・ゲームとしての完成度を徹底的にレビューする。
プレイヤーは“経営者”ではない。“投資家”である

「アクワイア」に登場するホテルチェーンは、プレイヤーが直接経営するわけではない。
プレイヤーはその株を“購入”し、“合併”によって利益を得る投資家にすぎない。
このゲームに勝つために重要なのは、自分のホテルを拡大させることではなく
「他人のホテルの未来を読んで、先に仕込んでおくこと」なのである。
そこには、単なる勝敗を超えた「投資判断」の妙味がある。
- このホテルは伸びそうか?
- いつ合併されるか?
- 誰がどの株を持っているか?
この情報をもとに、資産の“見えない流れ”を読む力が問われる。
それはまるで、本物の金融市場で“有望株”を探すような、リアルな緊張感に満ちている。
ゲーム盤に現れる“資本の地図”

ゲームは建物コマを1つずつ置いていくことで進行する。
コマが2つ以上隣接すればホテルチェーンが設立され、株が発行される。
そして、そのチェーンが他のホテルチェーンに隣接する形で拡大すれば──
合併が発生し、資本再編が始まる。
この瞬間がアクワイア最大の見せ場。
吸収する側、吸収される側、そしてそれを見ていたプレイヤーたち──
全員の心の中で、電卓がカタカタと動き出すのが見えるようだ。
合併後には、株主に対して配当金が支払われる。
特に筆頭株主・第2株主(モードによっては第3株主)には高額報酬が与えられ、
まさに「勝者が総取りする」構造が生まれる。
ここで重要なのは──
儲かるのは、拡大した方ではなく、吸収された側の株主だということ。
だからこそ、「あえて弱いホテルに投資する」という逆張りの戦略が成立する。
これは経済ゲームでありながら、心理戦でもあるのだ。
モード選択でプレイ体験は激変する

『アクワイア』日本語版には、2種類のモードが存在する。
- クラシックモード:筆頭&第2株主のみに配当。ギラついたマネー戦が繰り広げられる。
- タイクーンモード:第3株主にも配当あり。多少の安全策でも稼げるバランス型。
また、株券の公開/非公開の設定も重要だ。
- 公開プレイ:情報戦が開かれ、戦略の読み合いが加速。
- 非公開プレイ:読み合いがブラックボックス化し、ミスリードも武器になる。
実際にタイクーンモードで株公開ルールでプレイしてみると、
「誰がどのホテルに何枚投資しているか」が明確になり、ゲームがスピーディに展開された。
しかしその分、情報量も多く、処理が煩雑になる。特に銀行役の負担はなかなかのものだ。
戦略か? 運か?──そのバランスが絶妙

「アクワイア」が長年支持されている理由の一つは、“運と戦略の黄金比”にある。
たとえば
- 建物コマの引きは完全にランダム=運
- しかし、そのコマを“どこにどう置くか”=完全に戦略
つまり、「ツキ」がなくても勝てるが、「ツキ」を活かさないと勝てない。
この絶妙なバランスが、プレイヤーを夢中にさせるのだ。
終盤の“経済爆発”がアツすぎる

ゲームが進むにつれて、盤上のホテルは合併を繰り返し、2~3社に集約されていく。
その過程で株価は跳ね上がり、盤上には紙幣が舞う。
「これが経済の暴力か……」と実感せずにはいられない。
特に終盤、あるプレイヤーが「新設ホテル」のタイミングを虎視眈々と狙っていたのは印象的だった。
残り数ターンというところで突然ホテルを設立し、瞬時に株券を買い、即座に吸収合併──
まさに神業レベルの仕込みだった。
ここまで戦略がハマると、「株ゲーム」であることを忘れて、盤上のドラマに酔ってしまう。
まとめ:「投資」×「合併」×「心理戦」が融合した脳トレ系
ボードゲームの傑作

「アクワイア」は、ボードゲームという枠を超えた“資産ゲーム”だ。
数字を追い、心理を読み、未来を計算する。
- 自分のホテルを作る喜び
- 他人の株を読むスリル
- 合併で儲ける快感
そして、最終的に笑うのは、「最も冷静に金の動きを見ていた者」──。
このゲームは、資本主義の“美しさと残酷さ”を見事に抽象化しており、
遊ぶたびに、資本や経済について新たな視点を得られる不思議な魅力がある。
🎲 「アクワイア」はアークライトゲームズより発売中(7,150円 税込)
公式サイト:https://arclightgames.jp/product/399pdh/
引用元情報:
- アークライトゲームズ公式サイト
- プレイ体験(筆者による)