「今年のボーナスは〇〇万円だった」と喜んだのに、実際に振り込まれた金額を見て首をかしげた経験はないだろうか。「あれ、こんなに少ないはずじゃ…」と感じるのは、決して気のせいではない。賞与からは毎月の給与とは別の計算方式で社会保険料と所得税が引かれるからだ。
そもそも、賞与(ボーナス)の金額がどうやって決まるのか、会社はどんな計算をしているのか——案外、正確に答えられる人は少ない。この記事では、賞与の「決まり方」から「手取り計算」まで、一気に解説する。
- 賞与は給与の何が違う?法的根拠と定義
- 会社はどうやって支給額を決めているのか
- 社会保険料と所得税が賞与から引かれる計算式
- 手取り額を自分でシミュレーションする方法
賞与(ボーナス)とは?月給と根本的に何が違うのか
まず整理しておきたいのが、賞与の法的立ち位置だ。労働基準法では賞与を「通常の労働の対価とは別に支払われる金品で、その支払いが一定でないもの」と定義しており、支払い義務は原則としてない。月給(基本給)とは異なり、就業規則や労働契約に「賞与を支払う」と明記されて初めて、会社に支払い義務が生じる。
言いかえれば、賞与がある会社は「会社が自分たちで約束している」から払っているのであり、業績が悪化したときに減額・不支給にできる余地がある(規定の範囲内で)。日本の大企業では年2回(夏:6〜7月、冬:12月)が主流で、春闘で妥結した「◯ヶ月分」がニュースになる。
賞与は「制度上の恩恵」ではなく「契約上の報酬」
ただし注意点がある。就業規則に「業績連動で支払う場合がある」と書いてある場合、業績が一定水準を満たせば会社は支払い義務を負う(東京地裁・平成22年判決など)。「気前よく払っているだけ」とは言い切れず、約束した条件を満たせば法的に請求できる場合もある。
民間企業の賞与統計:平均はいくらか
厚生労働省の「毎月勤労統計調査」(2024年度)によると、従業員5人以上の事業所での夏季賞与(特別給与)の平均は約39万円。ただしこれは規模・業種混在の値だ。経団連が集計した大企業(製造業・労使交渉妥結ベース)では2025年夏季賞与が平均93万5,388円(前年比4.3%増)に達した。大企業と中小企業の格差は2倍以上になることもある。
賞与の金額はどうやって決まるのか
支給額の計算方法は会社によって異なる。代表的な方式を3つ紹介しよう。
賞与算定の3方式
例: 25万円×2.5ヶ月=62.5万円
応じてポイントで算定
一律の金額を支給
査定(人事評価)で個人差がつく
月数方式でも、「全員が同じ月数」ではなく査定(A〜Eなど5段階評価)で個人差がつくケースが多い。たとえば平均支給月数が2.5ヶ月でも、S評価なら3.5ヶ月、C評価なら1.8ヶ月というように上下する。新入社員は初年度の夏賞与が「月数割り」(6月入社なら2ヶ月分の3分の1=1ヶ月弱)になることも多い。
公務員の賞与はどう決まるか
国家公務員の場合は人事院勧告が根拠になる。年間支給月数は人事院が民間企業の実態調査をもとに勧告し、国会の承認を経て決定する。2024年度は年間4.5ヶ月分(夏2.1ヶ月+冬2.4ヶ月)。地方公務員はこれに準じつつ、各自治体の条例で定める。
賞与(ボーナス)の手取りが思ったより少ないと感じたことはありますか?
- よくある
- たまにある
- ほぼ期待通り
- 賞与がない
賞与から引かれるお金:社会保険料の計算
ここが手取りの謎を解くカギだ。賞与からは月給と同じ種類の社会保険料と所得税が引かれるが、計算方式がまったく異なる。
| 保険の種類 | 従業員の負担率 | 計算の基準 | 上限 |
|---|---|---|---|
| 健康保険 | 約5〜6%(地域・組合で異なる) | 標準賞与額 | 年度累計573万円 |
| 厚生年金 | 9.15% | 標準賞与額 | 150万円/回 |
| 雇用保険 | 0.6% | 賞与総額 | なし |
| ※2026年度の主要な目安。健康保険料率は協会けんぽ・都道府県により異なる。厚生年金は労使折半のため、会社も同率を負担。 | |||
「標準賞与額」とは賞与の総額から1,000円未満を切り捨てたもの。つまり賞与50万円なら標準賞与額も50万円、そこに上記の料率をかける。健保9.15%(協会けんぽ・全国平均)+厚年9.15%+雇保0.6%を合算すると、従業員の控除は賞与総額の約15〜16%前後になる。
月給との大きな違い:「標準報酬月額」ではなく「標準賞与額」
月給の社会保険料は「標準報酬月額」(1〜32等級に区分された固定額)で計算するが、賞与は区分なしに「賞与の実額×料率」で計算する。言いかえれば、賞与が多いほど社会保険料も比例して増えるという仕組みだ(厚生年金には150万円/回の上限あり)。
賞与の所得税が月給と違う理由
ここが意外と知られていないポイントだ。月給の所得税は「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」で算出するが、賞与は「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」という別の表を使う。
前月の給与から算出率を決める仕組み
手順はシンプルだ。まず「前月の社会保険料控除後の給与額」と「扶養人数」で国税庁の「算出率の表」を引き、パーセンテージを決める。そのパーセンテージを(賞与から社会保険料を引いた金額)に掛けるだけ。
例えば前月給与の手取り(社保控除後)が28万円で扶養なし → 算出率は4.084%。賞与100万円から社保16万円を引いた84万円に4.084%をかけると→所得税は約3万4,306円。月給と異なり、累進税率の「ズレ」が起きにくい計算方式になっている。
賞与が月給の10倍以上になると…別計算になる
賞与が「前月給与の社保控除後の金額の10倍超」になる場合は、月額表の計算方式に切り替わる(「月割り額」で計算)。一時的に高額のボーナスを受け取る役員や超高額賞与がある場合に適用される。大多数の会員はこの特別計算には該当しない。
手取り賞与を自分でシミュレーションしよう
知識がわかれば、実際に計算してみよう。ここでは「賞与100万円・前月給与(社保控除後)30万円・扶養なし・協会けんぽ東京都」の場合を例にとる。
📊 賞与100万円の手取りシミュレーション(2026年度目安)
※健康保険料率は協会けんぽ東京都2026年度。実際の金額は年齢・加入健保・自治体で異なる。
100万円のボーナスで手取りは約82万円。約18万円が引かれる計算だ。「こんなに引かれるの?」と驚く人もいるが、月給から毎月引かれている社会保険料の合計も同程度の割合なので、決して特別に多いわけではない。
ちなみに自分で計算する場合は、国税庁「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を参照すれば正確な算出率がわかる。
2026年の賞与動向:春闘の結果と今後の見通し
賞与額は景気・労働市場・物価に連動して変化する。2026年春闘(連合調査・第7回回答集計)では、大企業を中心に賃上げが続いており、夏季賞与も前年比プラスの傾向が続いた。特に製造業・IT・金融では賞与増加が目立つ一方、中小企業では業績格差が大きく、賞与なし・支給月数削減のケースも一定数ある。
2024年以降、物価上昇(CPI前年比2〜3%台)を背景に「実質賃上げ」が春闘の主テーマとなり、賞与にも影響が及んでいる。実質賃金と名目賃金の違いについては別記事で詳しく解説している。
賞与がない・少ない会社の実態
中小企業(従業員30人未満)では賞与なしの事業所も珍しくない。厚生労働省「就労条件総合調査」(2023年)によると、賞与を支給する企業の割合は全体で約85%だが、従業員30〜99人の中小では約77%にとどまる。正社員でも賞与なしという職場は一定数あり、求人票の「賞与年2回」の表記は「実績支給回数」ではなく「制度上の支給機会」を指す場合もあるため注意が必要だ。
よくある誤解:賞与について多くの人が勘違いしていること
誤解①「賞与は税金が月給より高い」
賞与の所得税は「算出率の表」を使うため、月給より高くなる印象を持つ人がいるが、実際は月給と同じか、やや低いケースが多い。月給の所得税は複数月の合算で年末調整されるため、一見「賞与に高率がかかっている」ように見えるだけだ。年末調整で精算されるため、年間の税額合計は変わらない。
誤解②「賞与は残業代の計算に含まれない」
これは正しい。労働基準法施行規則第21条により、賞与・一時金は時間外・深夜・休日割増賃金の「基礎となる賃金」から除外されている。ただし毎月支払われる皆勤手当・役職手当・家族手当(定額)は算入対象になるので、混同しないよう注意しよう。
誤解③「産休・育休中も賞与は満額もらえる」
産休・育休中の賞与は就業規則の定め次第だ。「出勤率×支給額」方式では在籍実績が少ない分、減額や不支給になることがある。一方で育児休業中の社会保険料は免除されるため、仮に賞与が支給されても保険料負担が軽減される。
誤解④「賞与の源泉徴収は確定申告で返ってくる」
通常の会社員は年末調整で精算されるため、確定申告は不要だ。ただし医療費控除や副業所得がある場合は確定申告が必要で、その際に源泉徴収票(賞与を含む年間総支給額が記載)を使って精算する。
まとめ:賞与の仕組みを知れば「引かれすぎ」の謎が解ける
賞与の仕組みを振り返ろう。
- 賞与は法律上「支払い義務なし」だが、就業規則に書いてあれば請求できる
- 支給額は「基本給×支給月数」が多く、査定で個人差がつく
- 社会保険料は賞与×料率で直接計算(月給と計算基準が異なる)
- 所得税は「賞与算出率の表」で前月給与から率を決め、課税対象額に乗じる
- 100万円の賞与で手取りは約82万円(健保・厚年・雇保・所得税を合算した場合)
- 賞与に対する社会保険料は産休・育休期間中は免除(月額同様)
- 年末調整で最終的に精算されるので「多く引かれた」まま損をすることはない
「賞与の手取りが少ない」と感じるのは仕組みへの誤解が原因だった。賞与が増えるほど引かれる額も増えるのは当然だが、年間の税負担は月給と合算して年末調整で正確に計算される。いくら引かれるか事前に把握しておけば、賞与の使い道も計画が立てやすくなる。
給与・年収に関連する仕組みとして、退職金の税の仕組みや財形貯蓄の仕組みも合わせて読んでおくと、生涯賃金の全体像が見えてくる。
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📚 参考文献・出典
- ・厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和6年結果確報」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/index.html
- ・国税庁「令和6年分 賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/zeigakuhyo2024/data/05_06.pdf
- ・日本年金機構「賞与に係る保険料について」 https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo-kankei/hoshu/hoshu.html
- ・厚生労働省「就労条件総合調査(令和5年)」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/23/index.html
- ・人事院「令和6年度国家公務員給与等実態調査」 https://www.jinji.go.jp/kyuuyo/kou/kouritu.html
📖 この記事について 本記事は、お金の”仕組み”を知る面白さをお届けし、お金や経済への興味を広げていただくための読み物です。特定の金融商品をすすめるものではありません。実際の投資・契約はご自身の判断で、必要に応じて専門家にご相談ください。









































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