テーマパークが開業初年度に赤字を出しやすい理由|ジャングリア173億円と収益回収の仕組み

2026年9月、沖縄県北部のテーマパーク「ジャングリア沖縄」の親会社が開業後初の決算を発表しました。最終赤字は約173億円。見出しを見た瞬間、かなりのインパクトがあります。

ただ、私が気になったのはその173億円という数字そのものよりも、来場者の実績でした。開業から1年間で約100万人。想定の150万人を大きく下回り、1日に換算すると2,700人台という水準です(詳細は後述)。

東京ドームが1試合で4〜5万人収容できることを考えると、世界水準の大型テーマパークとして開業した施設に1日2,700人台というのは、かなり低い水準です。では、テーマパークというビジネスはどういう構造で成り立っていて、初年度の赤字はどう読めばいいのか。今回はこの問いを中心に整理します。

  • テーマパークの収益は入場料だけではなく、物販・飲食が全体の約半分を占める
  • 開業初年度はなぜ赤字になりやすいのか、その構造的な理由
  • ジャングリアの173億円赤字の中身(評価損と運営赤字の違い)
  • 東京ディズニーランドも黒字化まで3年かかった事例から学ぶこと

ジャングリア沖縄とは|700億円・60ヘクタールの大型自然体験型リゾート

ジャングリア沖縄とは|700億円・60ヘクタールの大型自然体験型リゾート
Photo by Ethan Hoover on Unsplash

ジャングリア沖縄は2025年7月25日に開業した、沖縄県名護市と今帰仁村にまたがる大型テーマパークです。総面積は約60ヘクタール(東京ドーム約13個分)で、恐竜・絶景・野外体験をテーマにしたアトラクションや温泉施設を備える「大自然没入型」をコンセプトにしています。

運営するのはジャパンエンターテイメント(JE)、その親会社はジャパンエンターテイメントホールディングス(JEHD)です。プロジェクトを主導したのはマーケター・森岡毅氏が率いる株式会社刀(かたな)で、総事業費は約700億円に上ります。融資は商工中金と琉球銀行が主幹事を務め、官民ファンドのクールジャパン機構も出資しています。

森岡氏はかつてUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)のマーケティング責任者として、2010年6月の入社時に730万人台だった年間来場者数を2015年度には1,390万人にまで引き上げた実績を持ちます(Wikipedia「森岡毅」)。2017年1月に独立して刀を設立し、その集大成ともいえるプロジェクトがジャングリアでした。

エンタメ施設の収益構造という観点では、映画の配給の仕組みと似た点があります。映画も劇場チケット収入だけでなく、配信・グッズ・二次展開が重要な収益源です。テーマパークも同様で、入場料だけが稼ぎの全てではありません。

2026年4月29日時点でアトラクション・ショーは23のラインナップを提供しています。入場料金は国内在住者向け(大人料金)が6,930円、訪日外国人向けが8,800円という二重価格制を日本の主要テーマパークとして初めて採用しています。

テーマパークの収益は入場料だけではない|物販・飲食が全体の約半分を占める構造

私はテーマパークの収益の大半は入場料だと思っていたのですが、統計データを見るとそうでもありませんでした。

経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」によると、2023年の遊園地・テーマパーク業界全体の年間売上高は8,400億円(過去最高)、年間来場者数は7,200万人でした。

1人あたりの平均売上高は
8,400億円 ÷ 7,200万人 = 約11,667円(2023年・筆者計算)

この金額の中身は、入場料等(入場券・アトラクション追加料金)が53.2%、食堂・売店(直営)売上が46.8%という構成です(経済産業省 特定サービス産業動態統計・2024年12月集計)。入場料とほぼ同等の金額を、園内の飲食やグッズで追加で使ってもらえているわけです。

テーマパーク売上の構成(業界平均)

53.2%
入場料・施設利用料

46.8%
飲食・物販・その他

出典:経済産業省 特定サービス産業動態統計(2024年12月集計)

入場料だけで赤字を判断すると読み誤る

ジャングリアの入場料(国内向け)は6,930円です。

仮に年間来場者100万人の全員が国内料金(6,930円)で入場した場合の入場料収入の上限試算:
100万人 × 6,930円 = 約69億円(実際は割引・グループ料金等で単価は下がる・筆者計算)

年間売上の上限試算(来場者100万人・業界平均1人あたり売上11,667円で計算):
100万人 × 11,667円 ≒ 117億円(最大値。実際は来場者の偏り等で変わる・筆者計算)

運営会社の赤字が89億円だったことを踏まえると、売上とほぼ同等の損失が出ている計算です。これは固定費の重さによるものです。

テーマパークで、入場料以外(飲食・グッズ等)にどのくらい使いますか?

  1. 入場料と同じくらい使う
  2. 入場料の半分以下
  3. ほとんど使わない
  4. 最近テーマパークに行っていない

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開業初年度に赤字が出やすい3つの構造的理由

1. 初期投資の減価償却が重い

700億円の設備投資を行った場合、その費用は一括では計上されず、毎年少しずつ「減価償却費」として費用に計上されていきます。

設備の耐用年数を仮に20年とした場合の年間減価償却費概算:
700億円 ÷ 20年 = 35億円/年(実際は設備ごとに耐用年数が異なる・単純計算)

実際の減価償却費は非公開ですが、開業当初からこの規模のコストが毎年計上されることは確かです。

2. 固定費が売上を大きく超える開業期

テーマパークの人件費・光熱費・施設維持費は、来場者が多くても少なくてもほぼ同額かかります。1日2,700人のために施設全体を動かし、スタッフを配置し続けることは、経営としてきわめて効率が悪い状態です。1,000人を切る日もあったという報道もあり、その日の売上は数百万円に届かないこともあります。一方、施設を開けているだけで発生するコストは1日数千万円規模と推測されます。

3. 開業後2〜3年は認知度向上のコスト期間

新しいテーマパークが口コミや旅行プランに組み込まれるには時間がかかります。「また行きたい」と思えるリピーターが生まれるまでの期間、来場者数は想定を下回ることが多い。これはジャングリアに限らず、多くのテーマパークが経験してきた過程です。

今後の来場者増加を牽引するのは、県外からのパッケージツアー組み込みや、開業後に追加されるアトラクションによる話題づくりです。来場者が増えれば、固定費は変わらなくても1人あたりのコストは下がっていきます。

173億円赤字の内訳を読む|「評価損」と「営業赤字」は別物

ジャングリアの親会社JEHD(ジャパンエンターテイメントホールディングス)が発表した173億円の最終赤字は、二つの異なる要因が重なっています。

会社 赤字額 主な要因
JEHD(親会社) 約173億円 子会社JEの株式評価損の計上(会計上の損失)
JE(運営会社) 約89億円 実際の事業運営上の損失(固定費・減価償却等)
出典:沖縄タイムス(2026年9月24日報道)

「株式評価損」とは何か

親会社のJEHDが173億円の赤字を計上した主因は、保有する運営会社JEの「株式評価損」です。これは、JEの事業価値が投資時点の評価を下回ったと判断されたため、帳簿上の資産価値を引き下げたことによる損失です。実際にお金が外部に出て行ったわけではなく、会計上の処理という面が強いものです。

一方、運営会社JEの89億円赤字は「実際に施設を動かして生じた損失」です。来場者が想定より少なく、入場料収入が計画を下回ったことに加え、減価償却費や人件費などの固定費が重くのしかかっています。

1日2,700人台という数字の重さ

来場者100万人 ÷ 365日 = 1日平均2,739人(筆者計算)

この数字を出してみて、少し止まりました。1,000人を切る日もあったという報道と合わせると、平日と休日の差がかなり大きい状況であることが想像できます。

想定の150万人が達成できていた場合の1日平均来場者:
150万人 ÷ 365日 ≒ 4,110人(比較用・筆者計算)
実績100万人は想定の約67%(3分の2程度)

想定との差:150万人 − 100万人 = 50万人(達成率67%・筆者計算)

ただし、これはあくまで「開業1年目」の数字です。USJも開業初年度は1,100万人超と好調でしたが、その後しばらく来場者数は落ち込みました。ジャングリアはむしろ、最初から苦戦のスタートを切ったという点で、改善の余地がある段階でもあります。

東京ディズニーランドも黒字化まで3年かかった

東京ディズニーランドも黒字化まで3年かかった
Photo by Somruthai Keawjan on Unsplash

大型テーマパークの開業直後が赤字になることは、過去の事例が教えてくれます。

東京ディズニーランドは1983年4月15日に開業しました。総工費は約1,500億円で、黒字化したのは開業3年後の1986年です(The社史)。開業当初から入場者数は好調でしたが、それでも大規模な初期投資を回収するまでには数年が必要でした。

ジャングリアの場合、来場者数の回復が黒字化の条件になります。

投資規模の比較(概算):
ジャングリア700億円 ÷ TDL約1,500億円 ≒ 47%(筆者計算)

リゾート施設としての規模や立地は大きく異なりますが、収益回収の構造は本質的に同じです。

テーマパークの損益分岐を試算する

仮定:年間の固定費(人件費・光熱費・減価償却等)を200億円とした場合
1人あたり売上を業界平均の12,000円程度とすると
損益分岐の来場者数 = 200億円 ÷ 12,000円 ≒ 166万人/年
(あくまで概算。実際のコスト構造は非公開)

この試算が示すのは、想定来場者数の150万人という目標も、固定費をカバーするギリギリの水準に近い可能性があるということです。来場者が150万人に届いても、初期投資の減価償却を含めると当分の間は損失が続く構造は変わりません。

二重価格制度|6,930円と8,800円の差は何を意味するか

ジャングリアは日本の主要テーマパークとして初めて「二重価格制」を導入しました。国内在住者の大人料金は6,930円(1日券)、訪日外国人向けは8,800円です。

差額の計算:8,800円 − 6,930円 = 1,870円
外国人料金の割増率:1,870円 ÷ 6,930円 ≒ 27%(筆者計算)

国内在住者向けを「感謝価格」と位置づけることで、値上げではなく「外国人向けが国際標準価格」という説明をしています。シンガポールの「ユニバーサル・スタジオ・シンガポール」など、海外の主要テーマパークでは入場料の二重価格は一般的な制度です。

観光業の価格設定に変化の兆し

日本の観光地では急速に「オーバーツーリズム」対策として外国人向けに高い料金を設定する動きが広がっています。京都の寺社仏閣の外国人向け拝観料引き上げや、富士山登山料の値上げと入山制限なども同じ文脈です。

ただ、外国人観光客を増やしたい施設にとっては、高すぎる料金設定は逆効果になるリスクもあります。ジャングリアの来場者100万人のうち、訪日外国人がどの程度占めるかは公表されていませんが、8,800円という設定が訪日需要の取り込みにどう影響したかは今後の数字に表れてきます。

大型リゾートにおける宿泊と観光の組み合わせという点では、ホテルと旅館の違いや法律的な位置づけも関連しています。リゾート型テーマパークではホテルとの一体運営が収益に大きく影響するからです。

よくある誤解|「赤字=失敗」ではない理由と「赤字=想定内」の違い

誤解1:初年度赤字はプロジェクトの失敗を意味する

テーマパークに限らず、大型施設への投資は「開業から何年で損益分岐を超えるか」という視点で計画されます。初年度赤字は計画に織り込まれているのが普通です。問題になるのは、「赤字の規模と長さが計画の想定から外れているかどうか」です。

ジャングリアの場合、来場者が想定の150万人に対して100万人と大きく下回ったことは計画外の可能性が高い。ただし、その差が「致命的か」を判断するには、投資家との契約条件や追加融資の可否など、外部から確認できない情報が必要です。

誤解2:入場料収入だけでテーマパークは運営されている

先に見た通り、テーマパークの売上の約半分は物販・飲食・宿泊などの「二次消費」です。1人の来場者を園内で何時間滞在させ、食事やグッズにいくら使ってもらうかが、入場料と同じかそれ以上に重要な収益指標です。

ジャングリアが温泉施設を組み込んでいるのも、「一日だけ来て帰る」のではなく「泊まって翌日も来る」滞在型の消費を引き出す設計です。この滞在時間と消費額が増えれば、来場者数が同じでも収益は改善します。

誤解3:1日2,700人は「壊滅的な失敗」のレベルである

ディズニーランド(東京)やUSJは1日数万人規模(コロナ前の推計)です。これと比べると1日2,700人台は桁が違う水準に見えます。ただし、面積や施設規模が根本的に異なります。60ヘクタールの自然を活かした施設を都市型大規模パークと直接比較することには無理があります。

類似した規模感で比較するなら、地方の体験型リゾートや自然公園型テーマパークが参考になります。来場者数より「1人あたりの滞在時間と消費額」で語るべき施設のジャンルに近い可能性があります。

まとめ|ジャングリア173億円赤字から見えるテーマパーク収益の仕組み

今回整理したポイントを振り返ります。

テーマパークの収益は入場料と物販・飲食がほぼ半々です。2023年の業界全体の売上高は8,400億円、来場者7,200万人(nippon.com・経産省統計)を合わせると、1人あたり1万円を超える売上水準になります。この水準をジャングリアが確保できているかどうかが今後の鍵になります。

開業初年度の赤字は構造的に起きやすいものです。700億円の初期投資に対する年間減価償却費、固定費のかさみ、認知度向上に要する期間——これら全てがコストとして立ちはだかります。TDLも3年かけて黒字化しました。

173億円という数字の内訳を見ると、親会社の会計上の評価損が主要因で、運営会社の実際の事業損失は89億円です。この89億円が縮小に向かうかどうかが、プロジェクトの持続性を測る現実的な指標になります。

私が最後まで気になったのは、1日2,700人台という来場者の少なさと、施設全体を開け続けているコストの重さのギャップです。赤字が「想定内」か「想定外」かは現時点では不明ですが、来場者数の回復が最初の関門であることは間違いありません。

なお、2026年9月時点の情報に基づいています。最新の来場者数・財務情報は各社の公式発表でご確認ください。

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参考文献・出典

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EDITOR
白月ハルカ
ディスカバリーメディア 編集長
1995年生まれ、新潟・長岡育ち。いまは東京の中央線沿線でひとり暮らしをしながら、ディスカバリーメディアの編集長をしています。前職はIT企業の広報(5年)。統計表を眺めるのと、ラジオの野球中継と、ジョジョ(第4部派)が好きです。ニュースの見出しを見ると「本当に?」と数字を確かめにいく癖があって、その確かめた結果を記事にしています。間違いを見つけたら教えてください、すぐ直します。